第五十三話 復活✴︎ブリーズ☆シスターズ
「ユーリーン、腕をあげたね。」
長剣で巨大イノシシの口から頭を串刺しにしたユーリーンにキンバリーは感嘆の声をあげた。
ここまで敵に接近しての攻撃は、やはり魔法使いにはできるものではない。
"ドラマの最後に現れ、とどめの一撃を喰らわす。"
まるで有名な歌劇の歌の一節のようだ。
やはりパーティーの"センター"はユーリーンだ、と三人は改めて思う。
「キンバリーの火炎魔法やエミの射撃がこいつの動きを上手く封じてくれたからよ。
ユミの防御魔法のタイミングも絶妙だったわ。」
ユーリーンもにっこり笑い、右手を上げる。
あとの三人もそれに応えてハイタッチをした。
先日の定例作戦会議で、メンバーの雰囲気が少しだけ険悪になったけもの族四人組のパーティー『ブリーズ☆シスターズ』だが、ユーリーンが仲直りのランチ会を開催したり、キンバリーもリカルドから指摘された自身の無神経さを謝ったりして、また元どおりの仲良しグループに戻ったようだ。
キンバリー以外のメンバーも心を入れ替え、里に下りて人家を襲う巨大イノシシの撃退や、水晶の採掘場に巣食う吸血コウモリの駆除といった地道な仕事も、再びコツコツとこなすようになった。
友人を護るため、つい先回りをして防御魔法を使いがちなキンバリーだったが、そういう行為がかえって戦士のプライドを傷つけることになると、おっさん(リカルド)の長すぎる説教で諭されたこともあり、これまで以上にユーリーンを信頼し攻撃に徹することで、ユーリーンの剣の腕も日々の鍛練の成果が現れることとなり、かつ、互いの絆もさらに深まった。
エミリア、ユミアナ姉妹も、いじめられっ子だった二人をいつも庇ってくれていたユーリーンについ肩入れしてしまう時もあるが、同じくらいキンバリーのことも好きなので、二人が仲直りしてくれてホッとしている。
仕留めた巨大イノシシの腹の中に巨大な胆石が見つかり、イーラーが薬に使うからと高い値をつけてくれ、思わぬ臨時収入を得た四人は、いつものように話題のお店でスイーツを前に祝勝会をしていた。
「あたしもキンバリーを見習って研修を受けようと思ってるんだ。」
射撃手のエミリアが口にスプーンを咥えながら、クロスボウのカタログを眺めて言った。
「銛を飛ばせる大型のクロスボウを使えるようになりたいの。食用にする獲物をやる時は銃と比べて損傷も少ないし。
今日みたいな厚い毛皮と硬い皮膚に覆われた奴を相手にする時は、何の役にも立てないからさ。」
「そんなことないわ。」
三人は同時に叫ぶ。
「イノシシやクマは銃声を本能的に恐れているから、エミの射撃は本当に役に立ってるわ。」
と、キンバリーが励まし、
「私こそ、吸血コウモリみたいな複数の敵を相手にする時は足手まといよ。」
ユーリーンもそれに続く。
黄金のコンビネーションを発揮するのは、何も戦闘時だけではない。
「銃弾で吸血コウモリのあたまが吹っ飛ぶところを見るのはたまらないけどね。」
エミリアはにやっと笑った。
「けど、それとは別に、銛を使えたらカッコイイかなって思ってさ。うわ!この銛いい!けど、すごい値段。初期投資がかなり必要だなあ。」
エミリアはカタログを見ながら溜め息をついた。
「あっ、それなら!」
と、キンバリーは叫んだが、慌てて口を押さえた。
「どうしたの?」
ユミアナが尋ねる。
「ううん、何でもない。」
薬草園のおっさん(リカルド)が巨大ナマズを獲るのに銛とクロスボウを使っていたのを見たことがあったので、借りられないかと思ったのだが、以前、エミリアからイーラーとの交友関係についていろいろ言われたのを思い出したのだ。
「気になるじゃない、話してよ。」
ユミアナが促す。
「う、うん……。」
キンバリーはリカルドの銛のことを話した。
「へえ、イーラーのところに、そのおじさんがいるの?」
「強い戦士なのに野良仕事や洗濯をしてるんだ。」
「残念ね。」
三人は口々に言った。
「でも、口うるさいおじさんだから、色々文句を言われるかも。お礼についてもうるさく言われたし。」
キンバリーは口を尖らせる。
「お菓子じゃだめなの?」
「気難しいなあ。」
「でも、エミのためだし、何とかならないかな?」
ユーリーン達は頭を捻る。
「あっ、そうだ。」
ユミアナが膝を叩いた。
「リリアンって子に話してみない?お願いしたら、かわりに頼んでくれるかも。」
「ああ、なるほど。」
キンバリーとエミリアも賛成する。
(えっ、リリアン!?)
ユーリーンの顔色が変わった。
しかし、他の三人はこれを名案と思ったようで、いつお願いに行くか相談を始めた。
ユーリーンは一人険しい顔をしている。
みんな知らないのね。
あのかわいい猫のぬいぐるみは、本当の姿を欺くカモフラージュなのよ。
リリアンは大人しそうに見えて、じつは私達なんかよりずっと、いろんな意味での冒険家なんだから。
巨大イノシシもびっくりの大男と森の中で二人きり、何をしてたと思ってるの?
あれはどう見ても人間じゃなかったわ。
少なくともオークの血が何分の一か入っているに違いないわ。
リリアンの"お相手"が人外だと思いこんでいるユーリーンは、キンバリーの言うおっさんがその人だとは気がついていないようだ。
それにしても、どんな感じなのかしら。
あんな大きな人のあれを……その……自分の限界に挑戦しているのかしら……。
「ユーリーンったら、どうしたの?尻尾が三倍になってるわよ。」
キンバリーに声をかけられ、ユーリーンはハッとした。
「怖い顔してるけど、えっちなこと考えてたんでしょ。」
ユミアナがからかう。
「ちょ、ち、違うわよ!!」
「そお?ユーリーンが変なこと考えてるときは、いっつも尻尾がボサボサになるからすぐにわかるわよ。」
エミリアもニヤニヤしながら言った。
「なっ!ち、ち、違うってば!」
ユーリーンは尻尾を直しながら必死に否定する。
「おじさんって言っても、小説の『悪役令嬢と七人の貴公子』にでてくるイケオジの騎士ボナパルトとはえらい違いよ。
期待しない方がいいわよ。」
キンバリーが笑った。
「だ、だから違うってば!!」
なんで私がそんな目で見られなきゃいけないの。
それもこれもみんなあの薬草園の不良娘のせいよ!
真っ赤になりながらユーリーンは考えた。
みんなでリリアンに会いに行くつもりみたいだけど、純粋なみんなが不良の道に引きこまれないように私が注意しておかなくちゃ。
大丈夫、こっちは森の中で不純異性交友を目撃していたという弱味を握っているのよ。
いざとなればあのことをイーラーにバラすと言ってやれば、変なことはしてこないわね。
ユーリーンはカップに残っていた紅茶をぐっと飲み干した。




