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第五十話 リリアンとリカルドの冒険 後編


 山葡萄を食べて酔っ払ってしまったリリアンを抱きかかえ、リカルドは人生最大の難関に挑んでいた。


「リカルドさまぁー、抱っこー。ふふふ。」


 ほとんど意識のないリリアンが子供のようにしがみついてきて、さっきからしきりにリカルドに身体をくっつけてくるのだ。


 甲冑をつけているので辛うじてリリアンの身体を感じることはないが、時々、


「んーあついー。」


と言って、胸をはだけようとする。


 何度か引き離してみたものの、


「やだっ、抱っこ!」


と、余計に強く抱きついてくる。


「か、かわいい……!!」


 リカルドはもう何回も、認知症のオウムのように同じセリフばかり繰り返してしる。


 しかし、やはり意識のない無防備なリリアンに触れるのは躊躇われる。


 長きにわたる戦士人生において、これ程までに強靭な精神力を要する場面などあったであろうか。


 リカルドは自身の未熟さを悟っている。


 それなのに、テキはリカルドの敗北を確信しているかのように、


「ぎゅってして。ねえ、早くう。」


 と、身体を密着させ新手の攻撃を仕掛けてくる。


 こんな山深い、周りに人一人としていないところで二人きり。


 リカルドはついに衝動を抑えることを諦めた。


「もうどうにでもなれ!」


 リリアンの細くて華奢な身体を太い腕で包むように抱きしめると、リリアンも満足そうにぬいぐるみをつけた頭をリカルドの脇にすりつけた。


 リリアン、ああ……。


 いつぞやの不思議な夢がふと頭に蘇る。


 そうだ、これは夢だ。


 夢の続きがこれから始まるのだ。


 リカルドは無理やりそう解釈した。


「と、とりあえず……」


 リリアンも暑いと言ってることだし、と自分に言い訳をして、猫のぬいぐるみに手をかけた。




ぺちっ


 ふと、首筋に羽虫の気配を感じたので、リカルドは手で払ったが、同時に


「きゃあーっ!!」


 後ろから女の悲鳴と、何かが吹っ飛ぶ音がした。


「まずい、人がいた!」


 リリアンに気を取られて人の気配に気がつかなかった。


 リカルドが飛びあがって振り返ると、戦士ユーリーンが痺れる腕を押さえて身体を横たえ、苦痛と恐怖に顔を歪めていた。


 リカルドの手刀で長剣は弾かれ、どこかへ飛ばされてしまったようだ。


「わ、悪い、虫かと思って。」


 状況がよく飲み込めていないリカルドはつい謝ってしまった。


 ユーリーンはふらふらと立ち上がり、


「その子を離せ!!」


と叫ぶが、その声はかすれている。


「待て、怪しい者ではない、俺がそんな男に……見えるかなあ……」


 事実、今まさにリリアンに怪しいことをしようとしていたのだ。


 ユーリーンは短剣を抜く。


「まて、話せばわかる。」


「しゃべるな変態野郎!」


 これは以前にも言われたことがあるが、結構傷つく。


 しかし、ユーリーンの目を見て、彼女が差し違える覚悟なのを悟ったリカルドはそっとリリアンを傍に横たえた。


 こちらがかわいそうになるくらい尻尾を逆立てている。


 人を救うため、ここまで実力の違う相手に挑んでくるとは、何とも無鉄砲な奴。


 ふ、とリカルドのいかつい顔から笑みがこぼれる。


 向こう見ずな戦士を嗤っているのではない。


 未熟ながらも勇敢な若者に好感を持ったのだ。


「俺の剣を貸そうか?」


「ふざけるな!」


 ユーリーンが悲鳴に近い叫び声をあげた。


 その声にぴくっと反応し、


「むにゃあ……はっ、リカルド様?」


 と、リリアンが身体を起こし、周りをキョロキョロ見回した。


「あ……」


 思わず、リカルドがリリアンを見る。


(隙ありっ!!)


 ユーリーンが逆手に持った短剣を振り上げ飛び出した。


ぴんっ。


 リカルドはリリアンに視線を向けたまま、短剣を指で弾き


「きゃあっ!」


 またもやユーリーンは短剣ごと吹っ飛んだ。


「もお〜抱っこって言ってるのに〜」


そして、リリアンはまたもやリカルドに抱きつく。


 やっとのことで身体を起こしたユーリーンは、リカルドにリリアンが飛びついているのを見た。


「抱っこー。うふふ。」


「だ、抱っこしてるでしょ!」


 人目があるのでリカルドもさすがに先ほどのような抱擁はできない。


「もっとぉー。もっと抱っこぉー。」



(あれ?あれ?)


 ユーリーンは自分には目もくれず、仔犬のようにリカルドにじゃれつくリリアンをオロオロと見ている。


 リリアンはさらわれたんじゃないの?


 こんなひと気のない森の奥で二人きりで……


 やだ、うそでしょ!?


 ぼふっ、と、ユーリーンの尻尾が三倍になった。


 リリアンって子は大人しそうに見えて、こんな、こんな、積極的に……!!


 えっ?


 もしかして、もしかして、私ってば、ちょーーお邪魔!?



「し、し、失礼しました!」


 ユーリーンは直立したまま腰を九十度曲げた。


「い、いや待て、誤解だ!」


 いや、そこはむしろ誤解が解けたと言うべきだが、それでも何か誤解されているような気がしてリカルドは慌てる。


「いえ、お邪魔しました!ごゆっくり!」


 ユーリーンはくるりと向きを変え、全力で走った、と思ったら、自分の剣に躓いてすっ転んでしまい、慌てて身体を起こすと剣を持って再び走り去ってしまった。


「待て!ちょっと!」


 ごゆっくりって、何!?


 やっぱり何か勘違いしている。


 何で若いもんはあんなにせっかちなんだ、そのうち死に急ぐぞ!


 いや、そんなことはどうでも良い。


 リリアンを酔っぱらわせた上に、あらぬことを企んでいたなど、誤解といえ、イーラーの耳に入ったら八つ裂きにされてしまう。


 リカルドはとっさに叫んだ。


「イ、イ、イーラーには黙っててくれ!!」

 

「何も見てませーーん!!」


 森の奥から声が響いた。


 いつも読んでいただきありがとうございます。

 とても励みになっています。


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