第四十九話 リリアンとリカルドの冒険 中編 【閲覧注意】
冒頭部分に少しだけ残酷な描写が出てきます。
特に昆虫が苦手な方はご注意下さい。
けもの族の戦士ユーリーンは単身、森に在り、体長三十センチはあろうかと思われる超巨大オオスズメバチに挑んでいた。
四人で行動する時はバッチリメイクをキメてお揃いのユニフォームで臨むのだが、単独行動の今日は父親のお下がりの戦闘服に、髪も適当にひとくくりにしただけのラフな格好だ。
唸るような羽音でホバリングを繰り返し、猛スピードで突進してくるオオスズメバチを長剣で幾度も弾き返す。
腹を曲げて毒針を突き出した一瞬だけ動きが鈍る、その僅かな瞬間、
「はっ!」
刺突を繰り出し急所である巨大な複眼から脳へと貫通させた。
「ふー。」
ユーリーンはオオスズメバチの頭を足で抑えて剣を抜く。
絶命してもなお、黄色と黒の縞模様の腹がピクピクと蠢いている。
「ゔぅ…ぎもぢわるぅ……」
ユーリーンは顔を歪めながら、長剣を鞘に収め、左腿に刺してあった短剣でもってオオスズメバチの尻の毒針と毒のうを引き抜いた。
毒針と毒のうは、ギルドに持っていけば金に変えてくれる。
「ふう。あと二匹。」
獰猛な巨大オオスズメバチだが、単独で行動しているし、大きな羽音のせいで不意を突かれることもあまりないから、ユーリーンくらいの戦士が瞬発力を養うために挑むのにはもってこいだ。
とはいえ、鉄鎧をも噛みちぎる牙と、ひと突きで致死量に達する毒針を持つ奴らは、決して油断できる相手ではないのだ。
夏の間はオオスズメバチを、冬の間は吸血コウモリを狩る。
ここ数年来の日課なので、これをやらないと一日を終えた気がしない。
しかし、秋もだいぶん深まって来たので、オオスズメバチもあまり見かけなくなった。
これ以上奥へ進むと巨大イノシシに出くわすかも知れない。
小さいのなら良いが、冬に備えて巨大化したイノシシは刀も通さず、とても一人では敵うまい。
ユーリーンは引き返そうとしたが、ふいにキンバリーの顔が浮かび、思い直した。
いや、もう少し行ってみよう、あと二匹仕留めたら、四人分のランチ代くらいにはなる。
キンバリー達をランチに誘うんだ。
「よしっ。」
ユーリーンは水筒の回復薬を少し口に含み、先の戦いで少し乱れた尻尾を整えると、さらに奥へと歩き始めようとした。
その時。
木々の隙間から大きな黒い影を見た。
背中にゾクゾクとした嫌なものが走り、きれいにしたばかりの尻尾が再び逆だった。
身を小さくして、薮の間からそいつを伺う。
熊ほどもあるそれは、漆黒の鎧に漆黒のマントをまとっている。
(魔王か?魔王が復活したのか!?)
いやいや、と自分の考えを打ち消した。
何をばかなことを、ただの物盗りに決まっている。
しかし、一瞬にして自分よりも数段格上の相手だとわかった。
幸い、その黒いのはこちらには気がついていない。
うずくまって何やらごそごそとやっている。
刺激してもつまらない。
息を潜め、早々にこの場を離れようとした時、ユーリーンは、その者が小さな女の子を抱きかかえているのに気がついた。
その女の子は、身体をぐったりとさせ、頭には猫のぬいぐるみをつけている。
ユーリーンは息を飲んだ。
薬草園の子だ!
リリアンをさらって来たんだ!
まさか、イーラーがやられたのか?
イーラーは攻撃魔法が得手ではないと巷では言われているが、あの強力な魔力のわりに、という意味で、本気を出せばそんじょそこらの魔導士など裸足で逃げ出すレベルだと言われているのに。
そのイーラーでさえ、あの子を守れなかったなら、三流戦士の自分に敵う相手ではない。
しかし。
三流だろうが、何だろうが、戦士として生きて行く道を選んだ私が、みすみすあの子を見殺しにする事はできない。
幸い、奴は後ろを向いている。
あの子に気を取られているうちに、後ろから首筋をひと突きすれば……そうだ、背後からの不意打ちは卑怯だなどと言っている場合じゃない。
ユーリーンは薮から飛び出し、長剣を男の首めがけて突き出した。
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