第四話
イーラーとリリアンがケンカをはじめます。
後半は、この物語の魔法の概念の説明です。
それぞれの想いを秘めたリリアンとリカルドが店に戻ると、
「ぎやー!」
という悲鳴とともに、ドサドサと物が落ちた音がした。
「リリ!リリ!
ちょっと来て!」
地下室からイーラーが金切り声をあげている。
「はあい。」
しまった、またヘマをやってしまった。
リリアンは慌てて地下室階段を駆け降りたが、干してあった薬草だの薬瓶だのなんだのが散らかっていてイーラーの姿は見えない。
「あれ?
イーラーさんどこですかあ?」
散らかって山になっているところから薬草の葉っぱだらけになったイーラーがぬっと現れ、キンキンと大声をだす。
「んもう!
この棚、ガタガタしてるから治しておいてって言ったのに!」
「やりましたよ。
ちゃんと修復魔法かけときました。」
リリアンは仕事をサボっていた訳じゃない事をわかってもらおうと、つい言い訳してしまったが、イーラーを余計にイライラさせただけだった。
「崩れて来ちゃったじゃないの!」
「でも、おまじないをかけた時は直ったと思ったんです。」
「リリのへっぽこ魔法が長持ちするわけないでしょ!」
「へっぽこ!?」
「ちゃんと釘使って直してよ!
欠けたお皿も元に戻せないくせに。」
イーラーは、魔法使いでない者の使う魔法をこんな風に馬鹿にする事がある。
大抵の失敗は素直に謝るリリアンだが、こういう時はつい一言言い返したくなってしまう。
「イーラーさんこそ魔法が得意なんだから、自分で直せばいいじゃないですか。」
「あたしの魔法は薬の調剤専門なの!
人の命がかかってるのよ。
ガラクタ修理に大事なMP使えるわけないでしょっ!」
痛いところをつかれ、思わず口をついた言葉が思いの外高慢に聞こえてしまったので、イーラーは一瞬後悔したが、すっかり応戦態勢のリリアンはひるまない。
「イーラーさんのいじわる!」
「なにお!」
「ガラクタなのはこのおうちがボロだからです!」
「言ったな!待てこのー!」
「ひにゃーっ!!」
イーラーがリリアンめがけて飛びかかってきて、かぶりものの両耳をぎゅーっと引っ張った。
「やめてやめて!ちぎれるうっ。」
リリアンが悲鳴を上げる。
「おいおい。」
階段の上から二人を見守っていたリカルドが呆れた声を出した。
「すごいリッキー天才!見て見て!私が乗ってもびくともしないよ!」
イーラーがはしゃいで棚の上に座って足をぶらぶらさせている。
二人の小競り合いを見かねたリカルドが、壊れた棚を釘を使ってあっという間に直してくれた。
なぜこの程度のことで大げんかになるのか、リカルドは理解に苦しむが、それだけ仲が良いということなのだろうか。
「素敵です、戦士様!
これなら象が乗っても壊れませんね。」
散らかった薬草や薬瓶を片付けながらリリアンも感嘆の声をあげる。
「誰が象よ!」
イーラーが棚の上から叫ぶ。
物を作ったり直したりする時は、魔法を使ってまじないをかけるか、自分の手を使うかの二通りの方法を用いる。
どちらの方法が優れているという事はなく、まじないをかけながら手仕事をするのもよくある事だ。
魔法の能力は、生まれながらに身についた能力、生活環境により自然と身につく能力、そして、習得して身につく能力があり、基本的に誰でも身につけることができるが、一般的に、前途二つを合わせもつ者がより有利ではあるとされている。
とは言え、その者達全てが優秀な魔導士になるかと言えば、必ずしもそうとは限らない。
幼い頃は神童と呼ばれた者が、大人になったらただの下位魔法使いという例は、履いて捨てるほどあるのだ。
そして、魔法の能力が一定の水準に達すれば、誰でも職業として魔法使いを名乗ることができる。
魔法使いが魔法に特化した学院を卒業すると、魔導士の称号が得られるが、それはかなりの難関で、狭き門だと言われている。
また、高い魔力と経験値を持つ者にも、得手、不得手な魔法がある。
イーラーは薬草魔女として、熟練した薬を調合する技術を持っているが、戦いに使う攻撃魔法や、回復魔法はそこまで得意ではない。
まして、炊事や掃除のような日常生活に使う魔法にはまったく興味が持てないようで、練習しようともしない。
むしろ、魔法を使わなくてもできる仕事にわざわざ魔法を使うことを良い事だとは思っていないフシがある。
見た目は小さな女の子だが、その辺りは昔気質のおばあちゃん気質が現れてしまうのだ。
そういうところも含めて、リリアンはイーラーのことが大好きなのだが、たまにこんな風にケンカになったりする。
それなりに女の意地をかけた真剣勝負なのだろうが、リカルドには子どものケンカにしか見えないのだった。
第五話は、リカルドの発した何気ない言葉に、リリアンが反応してしまいます。




