第四十七話 おっさんの話は長くて憂鬱
「キンバリーさんと、冒険に行くの?」
聞いたらまた惨めな気持ちになるに決まっているが、それでも知らずにはいられなくて、リリアンは尋ねた。
「いや、なぜ?」
かぶりものを少しだけずらし、カップのお茶にふーふーと息を吹きかけているリリアンをちらちらと盗み見るぬのに忙しいリカルドは、何の関心も無さそうに答えた。
「さっき、ちょっと話をして。」
「ああ。」
リリアンが顔をこちらに向けたので、リカルドはさっと目を逸らした。
ジロジロ見るな、キモいんだよ、おじさん、などと、まさかリリアンが言うはずもないが、用心に越したことはない。
「まあ、何ていうか、商談不成立ってやつかな。
俺は知り合い相手にイーラーほどガメツイことは言わないが、一応は仕事でやってる訳だし、相応の取り分は主張させてもらわなきゃな。」
リリアンの知り合いということもあり、若者に対する将来への投資という意味でもニ足三文で引き受けてやるつもりだったのだが、報奨金の分け前が等分なのはさておき、同行のお礼がスイーツ一個と言われた時は、さすがにふざけるなと一喝した。
リリアンの寝顔をちらつかせ、リーチュアン観光に連れて行かせたヤンセンの方が、こちらのニーズをリサーチできているだけまだ常識がある。
それに、良い歳をして女同士の揉め事に巻き込まれるのはゴメンだ。
昔だったら、こんなチャンス(チャンスでもなんでもないと、今ならば判る。)があれば、色んなことを期待して二つ返事で引き受けただろうが、当然ながら(と、今ならば判る。)期待していたことは何も起こらないどころか、自分達から呼んでおいて、ウザいとかキモいとか言われて最終的に邪魔者扱いされることになるのだ。
無理やり四人のパーティーに加わっても針のムシロなのは間違いないだろう。
まして、今の状況でキンバリーと二人だけで冒険してしまったら余計にパーティーの関係がこじれるだけだ。
いや、こじれているうちは良い。
面倒なのは、四人の関係が修復した時だ。
何だかんだで、グループの輪を乱した余計者として、こっちのせいにされるのだ。
長い年月、伊達にぼんやりと独り身を重ねてきた訳ではない。
美形には知り得ない女の一面を、俺は散々見てきたのだ。
まあ、そんな訳で、
「あの姐さんには悪いけど、今回は見合わせてもらったよ。」
リカルドは言った。
「それに、最近の若いのは」
と、言いかけて、しまった、と言葉を切った。
リリアンの前でこんなオヤジ発言をしてしまった。
「いや、最近は考え方も多様化しているので、これはあくまでも俺の主観であるのだが、剣術をやっている奴は、だいたい、ちゃんとした師匠についてるんだ。その人をすっとばして指南役みたいなことをするのは、普通は、いや、俺は嫌なんだよ。
苦労して何年もかけて学んだ型を不用意な一言でめちゃくちゃにしたくはないし、伸び悩んでいる時は特に、このまま俺は落ちぶれていくのか、とか、変な考えに囚われてしまうものなんだ。
そんな時は、他人が余計なくちばしをいれて気持ちを揺さぶるのが一番良くないんだよ。
鋼の如き強さの下に、繊細なガラス細工の如き心を秘めているのだよ、俺達は。
むろん、後々の師弟関係に影響するというのも、もちろんある。
魔法使いにはそういうのわからないんだろうなあ。」
しまった、ついオヤジみたいな(オヤジだが)長話をしてしまった。
話、なげーんだよ、おっさん、などとリリアンが思うはずもないが、おっさんに限らず話が長いのは良くない。
しかし、リリアンが何も言わないので、間を持たせるためにまた口を開く。
「それに、四人の不仲の原因ってのが、あの姐さんが、リリアンさんやイーラーや俺と冒険するのを事前に他のメンバーに断らなかったからだと言うじゃないか。そりゃ、怒られるさ。
自由と言えば自由だけど、なんか履き違えてるような気がするんだよなあ。」
しまった、"自由を履き違える"発言は、自分で言ってて恥ずかしいくらいにオヤジ発言ワーストだ。
これはアレだ、おっさんが陥りやすい、話せば話すほど空回りして居心地が悪くなるアレだ。
もう何も言うまい。
リカルドはお茶をすする。
お茶を飲むのに集中しよう。
「えっ、そうなんですか?
じゃあ、キンバリーさんがお友達とケンカしたのは、私のせい?」
しかし、リリアンはその言葉に反応して、びっくりして聞き返した。
「い、いや違うよ。
あの姐さんが考えなしだったってだけだよ。」
リカルドは慌てて言った。
「メンバーに対する最低限の礼儀だよ。
リリアンさんは関係ないよ。」
キンバリーは、そんな事はさっきは一言も言っていなかった。
リリアンの遊び半分の冒険に付き合うために、他のメンバーとの関係がこじれてしまったと知ったら、リリアンが気にすると思ったのだろう。
リカルドを盗られたような気がしてつい僻みっぽくなってしまったが、リリアンは急にキンバリーが気の毒になって来た。
別にキンバリーは気まぐれでリカルドを誘ったわけではない。
チームと自分のレベルアップを本当に望んでいるのだ。
「キンバリーさん、お友達と仲直りできるといいな。」
ぽつりとリリアンが言った。
「大丈夫だよ。」
リカルドも励ますように言う。
キンバリーさんがお友達と仲直りできるように、仲良しのお守りの編み人形を作ってあげよう。
耳としっぽをつけて、この前リーチュアンで買ったリボンをつけてあげよう。
リリアンはそう思った。
「冒険と言えば。」
リカルドはえへんと咳払いをした。
いよいよ本題に入ろうと言うのだ。
前置きが長いのもおっさん特有だが、こればかりは歳だけが原因とは言えない。
「イーラーに頼まれて森の奥にざくろを採りに行くんだが、リリアンさんも行くかい?」
そしてまたしても、ぶっきらぼうな早口になってしまう。
「ざくろ?」
リリアンはリカルドの言葉を繰り返す。
森の奥に自生しているざくろはイーラーの回復薬には欠かせない材料だ。
そう言えば、毎年この時期から仕込みをするのに、人手が足りなくてなかなか集まらないと嘆いていたっけ。
「ほら、前の冒険の話がそのままになってたろ?ちゃんとギルドを通して依頼してるから、報酬も出るよ。
ざくろ採りと言っても、道は険しいし、物盗りや山犬や、今の時期は超巨大化したオオスズメバチもいるから油断はできないんだが。
イーラーは忙しいみたいだから、その、ふ、二人で。」
そこまで早口で一気に言うと、お茶をぐっと飲み干した。
冒険!
リカルド様と二人きりで!
リリアンは身を乗り出したが、すぐに思い直して肩を落とした。
「でも、私、リカルド様にお礼なんて払えないわ。」
「いや、いいよ。リリアンさんは、そのう」
リカルドは口ごもる。
ええい、ままよ、言ってしまえ。
「リリアンさんは、特別、だから。」
「特別?私が?」
「そう、スレッジ・ハマー号や名犬サーブがいつも世話になってるから、特別サービスキャンペーン期間中につき、えーと……。」
やはり勇気が挫けてしまったリカルドは、おどけて言葉を濁した。
「……嬉しい。」
リリアンはリカルドの淹れてくれたお茶み、
「おいしい。しあわせ。」
うっとりと呟いた。
私にとっては、リカルド様はもうずっとずっと前から特別な人よ。
ちっとも気がついてくれないけれど。
「お茶のおかわりをどうぞ。」
リカルドがリリアンのカップにお茶を注ぎながら、いつものリリアンの口ぶりを真似た。
「ふふっ。」
「へへ。」
二人は顔を見合わせて笑った。
「あっ、二人ばっかりズルい!」
イーラーが台所へ入って来て叫んだ。
後ろにはキンバリーもいる。
「ごめんなさい、リリちゃん、急にいなくなっちゃって。
イーラーに捕まっちゃって、薬草の選別をさせられてたの。」
キンバリーは申し訳なさそうに手を合わせた。
「あっ……。う、ううん、いいの。良いのよ。」
キンバリーが自分をほったらかしてどこかへ行ってしまったと思い込み、勝手にひねくれていたなんて。
リリアンはばつの悪い思いで二人のお茶を用意した。
「リリの仕事の邪魔しちゃダメじゃない。あんたみたいなプーたろうの暇人と違って忙しいのよ。」
見た目は可憐な少女だが、年齢不詳のイーラーは、友人の孫であるキンバリーに対してはいささか言葉が厳しくなる。
「今編んでるその腹巻きだって、みんなが順番待ちしてるんだから。
あっ!誰?このお茶使ったの!?」
お茶を一口すすったイーラーの声色が変わった。
「リカルド様ですっ。」
間髪を入れずリリアンが答え、
「そうそう、お芋と玉ねぎを取ってこなくちゃ。ああ、忙しい。」
地下室へ逃げて行った。
(リリアンさん、酷い……。)
残されたリカルドは絶句した。
いつも読んでいただきありがとうございます。
自分の楽しみのために書いているので、自分が読むのをいちばん楽しんでいます。今後もかなり独りよがりで稚拙な内容が続くと思いますが、一緒に楽しんでいただける方が一人でもいらっしゃいましたら、本当に嬉しく思います。




