第四十六話 リリアンの憂鬱
「私、イーラーと仲が良いことをひけらかしたりしてないわよね?」
「してないと思うわ。でも、実際に仲が良いのは本当だもの。」
キンバリーの問いかけにリリアンは優しく答える。
リリアンは人の話を遮って、ああするのが良いとか、こうするのが悪いとか、説教じみたことも言わないし、自分の場合はどうだったなどと、途中で話題を盗ることもしないから、話を聞いてくれるのにこんなに良い相手はいない。
キンバリーは、最近はイーラーの薬店へ行くたびに、中庭で編み物をするリリアンと話し込んでいる。
みんなもリリアンの半分でも物分かりが良かったらどんなに良いかと思いながら。
「私達は小さい頃からほんとに仲良しで、よくみんなで冒険ごっこをしたわ。
大きくなったら四人でパーティーを作って本物の冒険に行くんだって。
せっかくその夢が叶ったのに、どうしてこんなことになっちゃったんだろ。」
キンバリーはしょんぼりと溜め息をつく。
「ちょっと誤解があっただけよ、少ししたら、何にもなかったみたいに元の仲良しに戻れるわ。」
「そんなことわからないわ。」
「わかるわよ。」
ふと、リカルドの犬がトコトコと中庭を横切って行く姿がキンバリーの目に映った。
「あら?あのリカルドって人が来てるの?」
「ええ、イーラーさんの頼まれ物があって寄ってくださったの。ついでに家のあちこちを直してくれていて。
あっ、そうだわ。」
リリアンは編み物の手を止めて、毛糸のパンツと一緒にコーデリアお婆さんがリカルドに託してくれたカリントウを振る舞おうと立ち上がった。
しかし、キンバリーは、
「リカルドさんと二人で組みたければご自由にって、ユーリーンに言われたのよね。
こうなったら意地でもレベルアップして、みんなをあっと言わせてやるわ!
ちょっとごめんね、すぐに戻るから!」
と、立ち上がると走ってどこかへ行ってしまった。
ひとり残されたリリアンは、溜め息をつくと、再び椅子に腰掛けて編み物を続けた。
しばらく待ってみたが、キンバリーはそれきり戻ってこなかった。
リカルドを探しに行ったきり、リリアンに挨拶もしないで帰ってしまったようだ。
キンバリーに悪気はないのはわかっているし、こんなことは小さい頃から慣れっこなはずだから気にしちゃいけないと自分に言い聞かせて、リリアンは夕仕事をするために立ち上がった。
リリアンには冒険ごっこをする友達どころか、ケンカをして友情が壊れてしまった友達すらいたことがない。
たまに遊んでくれる子が見つかっても、その子が本当に遊びたい子が現れると、今日のキンバリーのようにリリアンをほったらかして走ってどこかへ行ってしまった。
仲良しグループが上手くいかなくなり、居場所がなくなった子がリリアンとお昼を食べることもあった。
そういう子達は、もう修復不可能だろうというくらいに関係がこじれていても、いつの間にか仲直りして、また元のグループのところへ行ってしまう。
その頃には、リリアンに相談をしていたことさえ忘れている。
だから、キンバリー達もそのうち仲直りするだろう。いつもそうだから、わかるのだ。
そうして、仲良しグループ四人でリカルドに引率されて冒険をする。
気にしちゃいけないと何度も何度も言い聞かせても、羨ましさと妬ましさで胸が締めつけられるようだ。
猫のかぶりものの下の今の自分の顔は、きっと酷く醜いことだろう。
編み物の籠を抱えて台所へ行くと、リカルドが井戸のポンプの前にいた。
「やあ、使うかい?」
と、ポンプのハンドルを上げ下げして、水を出してくれた。
今朝まではギーギーと変な音がしていたし、ハンドルも重かったのだが、リカルドが修理してくれたのだろう、音も静かになっているし、ハンドルも軽やかだ。
「な?どうかな?ギーギー言わなくなったろ?」
「本当だ。すごい。」
井戸が直ったことよりも、リカルドの得意顔が何だか可愛くて、リリアンは思わず微笑んだ。
「夕仕事の前にお茶淹れましょうか。」
「俺がやろう。いや、遠慮しないで、俺はここの使用人なんだから。」
リカルドはリリアンの返事を待たずにいそいそと急須と茶葉を棚から出す。
茶葉はちゃっかり一番良いのを出してきた。
「そ、そのお茶は春節の時にしか飲まない、とっておきなんですよ。」
「え?そうなの?しまったな、もう急須に入れちゃった。」
リカルドがけろりと言うのでリリアンも笑ってしまった。
「春節なんて、ろくに働きもしないで飲み食いしてるだけじゃないか。
労働をしている時こそ、俺は良い物やうまい物を食べたいのだ。」
そう言って、やはり棚からお客様用にとっておいた上等なお菓子を出してきて、リリアンが使ったこともない、上等な真っ白なカップにお茶を注いでくれて、リリアンの前に置いてくれた。
「お待たせしました、さあ、お嬢様。」
リリアンは嬉しさと恥ずかしさでまた笑ってしまう。
リカルド様はどうしてこんなに面白くて優しいのだろう。
どうしてこんなに私を特別な気分にさせてくれるのだろう。
しかし、いつもの癖でつい予防線を張ってしまう。
本当に大切な人が現れたら、きっとみんなと同じようにいなくなってしまうのだろうから。
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