第三話
リカルドの胸のうち。
少し短めです。
戦士リカルドは、ごく自然に土産のチョコレートを渡せた事と、リリアンの手で刺されたレースを手に入れる事ができた事を喜んでいた。
先日この街を訪れた時は、南国の珍しい果物を袋に入れていたのに、うまく言い出せずにぐずぐず持っているうちに、痛んで食べられなくなってしまった。
もちろん、イーラーに渡せば済むことだ。
どちらにしたって、二人で分け合うに決まっているのだから。
しかし、それは物をあげる事が目的の場合に限る。
本当の目的は別のところにあるのだ。
それに、リリアンの手製のレースを手に入れる事ができたのも、予想外に喜ばしい事だった。
軍事作戦部隊で従軍していた時、仲間の一人が恋人の作ったレースを栞にしているのを見た事がある。
むろんこれは贈られたものではいが、もとより女に縁のないリカルドには、大した違いがあるとは思えない。
それに、リリアンのレースはたっぷり二メートルはある。
口の悪い仲間から、人間よりは魔物に近いなどと言われる外見のためか、女達は、俺の隣に立つことさえひどく嫌がる。
騾馬や大きな犬と野外で夜を過ごす事も多いから、獣のような臭いだろうし、当然と言えば当然だ。
しかし、リリアンという子は、風変わりなぬいぐるみをかぶって、ずいぶんと内気なようだが、この俺に、まるで貴族の騎士を相手にするかのように礼儀正しく接してくれる。
今日も、騾馬のスレッジ・ハマー号よりも汚いであろう俺の足を洗ってくれようとした。
イーラーなんかは鼻で笑うような冒険話も、楽しそうに聞いてくれるし、騾馬達にも親切だ。
むろん、なじみの客であり、イーラーの友人に失礼の無いようにもてなしているだけだ。
特別な気持ちたどあるはずもない。
もしかして、などと考えるのも馬鹿らしい。
それでも、ひとつひとつの些細な好意や親切がリカルドの胸を打ち、想いがつのりはじめているのを悟られまいと、いつも以上に早口でぶっきらぼうな物言いになってしまうのだ。
顔に子どもの頃に受けた傷痕があると聞いた時も、それが彼女の魅力を損なう理由にはならなかった。
自分自身が見た目の事をあれこれ言える立場ではないし、そもそも、彼女がイーラーと暮らしているのもその傷が関係しているに違いないのだから、むしろ彼女と自分を引き合わせてくれたものとして、愛しくさえ思えた。
しかし、リリアンに対してそんな気持ちを抱いている事がイーラーに知られたらひどく軽蔑されるだろうし、当のリリアンは俺を怖がって姿を見せなくなるばかりか、この薬草園から居なくなってしまうかもしれない。
万が一にもこの想いが成就するとは思えないのだから、知られない方が良い。
そもそも、イーラーとリリアンは、女の魔法使いがよくするような契りを結んでいるのかもしれない。
魔女同士の契りというものが実際どんなものか知る由もないが、巷で言われているようなものならば、リカルドどころか、どんな男も割って入れるものではない。
いっそ、そうなら良いのに、とも思う。
俺よりずっとマシな見た目と身分の若い男にリリアンを盗られるくらいなら、この薬草園にいつまでも二人で暮らしていて欲しい。
そんな風に考えるのは勝手だろうか。
第四話は、リリアンとイーラーがケンカをはじめます。




