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第三十四話 リリアンのぼうけん 都会見物 2

 リーチュアン101(イチマルイチ)は、市の中心地にある寺院の敷地内にある高い塔である。


 お寺のお詣りがてら、この塔を見物し、周辺の高級店で買い物をするのが近年のリーチュアン市の典型的な観光ルートだ。


 リリアン、リカルド、ヤンセンの三人は、塔のてっぺんの展望台にいた。


「ヤンセンお嬢さん、運命の人は見つかりましたか?私も探すの手伝いますから、ちょっと変わって下さいな。」


 先程から望遠鏡を独り占めしているヤンセンに、リリアンがせっつく。


「ちょっと待って、ぬいぐるみに慣れてないから上手く覗けないの。

それとリリアン、運命の人を望遠鏡で探せるわけないでしょ。」


 リリアンは慌ててヤンセンの口を塞いだ。


「そんな、はっきりと言っちゃダメですっ!リカルド様がせっかく考えてくれたのに!」


「えっ、俺のアイディアって事になってるの?」


「気にしないで下さい。誰にだって間違いはありますわ。」


 熊のぬいぐるみの下で、リリアンは慈愛に満ちた笑顔でリカルドに言った。


 「………。」


 ようやくヤンセンが望遠鏡に飽きたので、リリアンに順番が回ってきた。


 しかし、つま先立ちになって一生懸命に背を伸ばすが、小さいリリアンは望遠鏡に届かず、やっとの事で覗いても空しか見えない。


 ヤンセンが反対側の望遠鏡を指して言う。


「あっちの踏み台がついてる望遠鏡を覗けば良いじゃない。子供に混じって。」


「ううーっ。」


 リリアンは望遠鏡の順番を子供と争うような姿をリカルドに見せる訳にもいかず、悔しそうにしている。


「そうだ、おじ、リカルド様がリリアンを抱っこして持ち上げてあげたら?」


「ひにゃっ!?」

「何っ!?」


 ヤンセンの提案に二人は互いに顔を見合わせたまま動きを止めた。


「ほら、早くしないと、後ろの人が待ってるわよ。」


 ヤンセンは自分がさっきまで望遠鏡を独占していたくせに、しゃあしゃあと言う。


 し、


 し、


 仕方がない。


 リリアンと後ろで待っている人の為だ。


 リカルドは自分に言い聞かせた。


 いいか、この人はリリアンさんじゃない。


 田舎から出てきたお婆さんを都会見物に連れてきたのだ。


 俺はお婆さん孝行の孫なのだ。


 イメージトレーニングで心を無にして、リリアンの腰に手をかけた。


(きゃっ。)


 リカルドのごつごつした太い指がリリアンの下腹部に触れる。


「では、行きますよ。」


 なぜか敬語になってしまう。


「は、はい、よ、よりょしゅくおにぇがいしま、しま、しゅ」


 リリアンは何を言っているのかわからない。


 ふわっとリリアンの身体が宙に浮いた。


「見える?」


 ヤンセンに聞かれても、リリアンは望遠鏡に映る景色を見るどころではない。


「あ、あ、ありがとう、ごじゃ、ごじゃいま、しゅ…。」


 下に下ろしてもらい、腰が砕けてふらふらになっているリリアンにヤンセンが近づき


「どうだった?」


 耳元で囁いた。


「………はい。


とっても、素敵でした。」


 リリアンは隣にいるヤンセンにも聞きとれないくらい小さな声で囁いた。


「良かったね。」


 ヤンセンはリリアンの手をきゅっと握り、うさぎの頭をコツン、と熊にくっつけた。



 リカルドは、HPを大量に消費して戦闘不能状態に陥っていた。


 華奢なリリアンは羽根のように軽く、まさに天使のようだった。


 緊張して身体を堅くする姿も愛らしく、ヤンセンのように男に慣れていない事を知るのも嬉しかった。


 ああ、生きていて良かった。


 地元の人はバカにしている、お登りさんしかいないこんなベタな観光地に来てよかった、とリカルドは考えた。


「もし、戦士様」


 ふと、後ろから中年の女に声をかけられた。


 女の傍には、腰の曲がった老婆が立っている。


「すみませんが、うちの母にも見せてあげてくれませんか?田舎からリーチュアン見物に出て来ているんです。」


「ああ、お安い御用だよ。」


 リカルドが調子に乗ってつい快諾してしまったが最後、


「ありがとうございます、戦士様」


「戦士様、ぜひ、うちのおじいちゃんもお願いいたします。」


「戦士様、次はこちらを」


 次から次へと頼まれ、リフト係になってしまった。


 ああ、手に残っていたリリアンの感触がどんどん上書きされていく…。


 後悔すでに遅しである。


「リカルド様は本当にお優しい方ですね。」


 リリアンが喜んでいるのだけが救いだった。


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