第三十三話 リリアンのぼうけん 都会見物 1
翌朝、リリアンはリカルドの家の裏口の炊事場を借りて、皆の朝食の支度をした。
例の、さくらんぼ模様のレースがエプロンにあしらってあるのを見て、リリアンはとても喜んでくれた。
リカルドのエプロンを着、リカルドの家のかまどの前に立つリリアンはまるで新妻のようで、リカルドはこの家を買って本当に良かったと思った。
薬草園で食事は何度も振る舞ってもらった事があるものの、自分の家の炊事場を使って料理をしてくれるとなると、リカルドは何だか目頭が熱くなって来てしまう。
朝食は、薬草茶のお粥と、アヒルの卵の塩漬けに漬物という、何の変哲もないものだった。
「勝手がわからないから、こんなもので。」
恥じらいながらそう言う姿がまた、可愛らしい。
「美味い、こんな美味い粥は初めてだ。」
感激にむせびながらお粥を口に運ぶリカルドをヤンセンは冷ややかな目で見ている。
「白菜があれば、もう少し何かできたのに。」
リリアンの言葉に、リカルドは出掛けに白菜の買い物を頼んだまま戻って来ないカルロス隊長を思い出した。
おそらく、タバコ屋のお婆さんと名犬サーブが上手くやってくれたのだろう。
「い、いや、白菜は、俺あまり好きじゃないから。」
有機物ならほぼ何でも食べるリカルドがそう言うのは、自分を気遣ってのことだろう、そう思ったリリアンはふふっと微笑み、
「急須にお湯を足してきます」
と、裏口へ出て行った。
リリアンが居間を出て行くと、それまで黙ってお粥を食べていたヤンセンが口を開いた。
「私、今日はリーチュアン101(イチマルイチ)に行きたい。
高い塔に登って景色観て、周りの高級なお店で買い物がしたい。
おじさん連れてってよ。」
「やだね。」
お茶をすすりながらリカルドはバッサリと言う。
リカルドのヤンセンへの態度は、いつものぶっきらぼうにさらに磨きがかかり、リリアンに対するそれとは全然違う。
リリアン以外の女の子なんかガキにしか見えないし、こいつがいなきゃリリアンと水入らずで朝食を摂ることができるのに、とまで思っている。
「…わたしね。」
ヤンセンは声を落とした。
「リリアンの寝顔みちゃった。」
「ぶーーっ。」
ヤンセンの言葉にリカルドはお茶を噴き出した。
「私ほどじゃないけど、可愛いいのね。
顔の怪我なんか気にしなくても良いのに。ねえ、おじさん?」
ヤンセンはリカルドの顔を覗きこむようにして首を傾げている。
落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け…。
心を無にするために一心に唱える。
「あと、リリアンって、ちっちゃくて発育が悪そうに見えるけど、育つべきところは適度に育ってるのね。」
「ごふっ!」
「あら?どうしたの?おじさん。」
リカルドは鼻を抑え上を向いてるいる。
良かった、鼻血は出ていない。
しかし、さっき食べたお粥が耳から出てきそうだ。
リリアンが急須を持って戻って来た。
「それで、ヤンセンお嬢さん、今日はどうしましょう?運命の人がいそうな場所に心当たりはありますか?」
「リーチュアン101へ行こうって、話していたの。塔に登ってみようって。ねえ、リカルド様?」
ヤンセンはリカルドを見るとにっこりと笑った。
「なるほど!」
リリアンは膝を叩いた。
「塔の上から探すんですね!街を一望できますものね!さすがはリカルド様!目のつけ所が全然違いますね!」
「いや、あの…。」




