第二十七話 リリアンのぼうけん 街を歩く 2
竜人族の二人組の男の子が近寄って来て、リリアンとヤンセンに声をかけた。
「良かったらソーダ水のおかわりをご馳走するよ。」
「けっこうです。」
「いただくわ。」
二人が同時に答えた。
リリアンはびっくりしてヤンセンを見た。
「あの二人は運命の人じゃないでしょ?」
ソーダ水を買いに並びに行った竜人族を見やりながら、リリアンは咎めるようにヤンセンに言った。
「もちろんよ。」
ヤンセンもすまして言う。
「でも、一生、運命の人としか話しちゃいけないとでも言うの?」
そして、ソーダ水を持って来てくれた片方の竜人族と顔を近づけて楽しそうに話をはじめた。
時折り、くすくすと笑う声が漏れる。
残された方の男の子は、リリアンを当てがわれた形になる。
ぬいぐるみをかぶっていても、男の子達には、誰がかわいくて、誰がかわいくないのかちゃんとわかるようだ。
二人の身につけているものにも歴然とした違いがある。
自分にはリカルドがいるのだから、知らない男の子にどう思われようが構わないはずなのに、小さい頃に、友達と組みを作る時、いつも一人だけ残ってしまっていたことをふと思い出し、リリアンはリーチュアンなんかに来たことを後悔しかけた。
「竜人族は珍しい?
さっき、僕らを見てただろ?」
残された男の子がリリアンに話しかけた。
「ごめんなさい、ジロジロ見たりして。」
無遠慮に見られるのが嫌なことは自分が一番わかっているのに、つい自分のしてしまった無作法を恥じた。
「肌の色を見てたの。
新緑の日の光の色みたいだなって。」
竜人族の男の子はにっこり笑った。
「それは光栄だなあ、ありがとう。
僕も君の事、さっきからかわいいなって、思ってたんだ。
ご飯、まだだろ?一緒に夜市で何か食べようよ。君、他所から来たんだろ?リーチュアンを案内するよ。」
「兄さん達、その辺にしときなよ。」
リリアンの後ろからリカルドの太い声がした。
「あら、迎えに来てくれたのね。」
ヤンセンが朗らかに言う。
「そう言うことだから、またね。」
竜人族の男の子も、巨漢のリカルドに一瞬ぎょっとしたものの、それ以外は得に慌てた様子もない。
またね、とその場を離れて行った。
きっと、別の二人組を探すのだろう。
「あんた、何しに来たんだ?」
リカルドがヤンセンに言う。
「不可抗力よ。しつこくされて困ってたの。来てくれて助かったわ。
それに、口説かれていたのはリリアンよ。
男の子が、リリアンにかわいいって言うのをちゃんと聞いたんだから。ね、リリアン。」
「た、ただの社交辞令よ。
ぬいぐるみをかぶっているのに、そんなことわかるわけないじゃない。」
リリアンは慌てて言った。
「竜人族の審美眼は人間とは違う。
人間みたいに、骨の形やその上を覆ってる皮膚だけで美醜を判断しないんだ。
そいつはきっと本心からそう言ったんだよ。」
リカルドが言った。
「ですって。リリアンったら、隅に置けないわね。」
と、ヤンセン。
ぱしっ。
と、またもやリリアンはヤンセンを叩いたが、今回はそれほど力がこもっていなかった。
リカルドが竜人族の審美眼を信頼してくれていたら、自分のことを少しは見直してくれるかも知れない。
そうだったら良いな。
リリアンはそんなことを思っていた。
「飯でも食うか。」
リカルドは、二人に前を歩かせ、後ろを歩いた。
たくさんの露店が並ぶ夜市を、リリアンとヤンセンは手を繋ぎ、周りの店を指差して何か話したり、笑ったりして、見物を楽しんでいるようだ。
リリアンとヤンセンを迎えに行ったリカルドは、ソーダスタンドにいる二人を見つけ、邪魔しないように少し離れたところで様子を伺っていた。
竜人族の二人が近づき、しばらくの間、四人が談笑するのを見ていた。
思えば、リリアンが同じ世代の者と一緒にいるところをこれまで見たことはなかった。
リカルドやイーラーに見せるのとはまた違う、若者らしいしぐさを苦々しく思い返す。
そんなつもりは無かったのに、俺はリリアンを見くびっていたのだろうか。
友達のいない、ひとりぼっちのリリアンなら、俺にもチャンスが巡ってくるとでも思っていたのだろうか?
リカルドが連れて行った食堂のおかみさんは、ぬいぐるみをかぶった二人を見ると、かぶりものを外さなくても食べられるように、具材を細かくした炒め物やスープを出してくれた。
「娘さんが遊びに来てるの?」
給仕のおばさんがリカルドに聞いた。
「まあな」
こんなことを聞かれるであろうとはある程度予想していたので、リカルドは曖昧に答えたが、
「おじさ (どすっ、とリリアンが肘を突く)リカルド、、様はリリアンのお父さんだったの!?」
ヤンセンはびっくりしたように言った。
「あのなあ…」
リカルドには最早否定する気もおきない。
「ちょっと、お酢をもらって来ます。」
気まずそうにリリアンは席を立ち、忙しく動き回っているおばさんのところへ行ってしまったので、テーブルには二人が残された。
「私はてっきり、おじさんはリリアンの恋人なのかと思っていたわ。」
「ぶっ!!」
リカルドは口に入れていた炒め物を吹き出した。
「ちょっと」
ヤンセンが抗議をする。
「リリアンが、おじさんのことを、とっても強くて優しくてかっこいい戦士だって言ってだけど、全然話と違うわね。」
「お、お、俺が、リ、リリアンさんの、こ、こ、恋人に、見えるって言うのか?あんたには。」
リカルドは鼻を抑えながらあえぐように聞いた。
「別に、ちらっと思っただけよ。リリアンはちょっと変わってるから、竜人族もびっくりの審美眼でもおかしくはないでしょ。お父さんでも恋人でもないなら一体何なの?親戚のおじさんか何か?」
「ま、まあ、そんなところだ。」
ヤンセンはリカルドの答えに納得したらしく、すました顔で食事に戻った。
無論、ぬいぐるみをかぶっているので顔は見えないのだが。
ヤンセンは隣の席を指差した。
「あっちの席の人が食べてる、モチモチしたやつ美味しそう。あと、あの人が食べてる、蜜がかかってる揚げパンも。」
「何でも好きなものを頼みなさい。この店のカステラも美味いから、土産に頼んでやるよ。この赤身の肉も食べなさい。」
「ありがとう、おじさん。」
「………。」
こんな小娘の何げない言葉で簡単に有頂天になってしまうとは情け無い。
俺はまだまだ、リリアンの言うような、強くて優しくてかっこいい戦士にはほど遠いようだ。
席に戻ったリリアンは不思議そうに二人を見比べた。




