第二十五話 リリアンのぼうけん お宅訪問 2
リカルドは何が起こっているのかよくわからず、しばらく言葉もなく立ち尽くしていた。
空の方から鳥のさえずりが聞こえる。
どこかの家の裏で飼っている山羊がメエと鳴く。
背の高い方はうさぎのぬいぐるみ、背の低いもう片方は、猫、かと思ったが、耳が丸いのでこれは熊だろうか?
とりあえず、熊の方へ声をかける。
「リリアンさん、どうしたの?」
「ひにゃっ」
熊のぬいぐるみをかぶった女の子が、驚きの声をあげた。
「さすが、リカルド様。なぜ私だとわかったのですか!?」
「何でって、そりゃあ。」
ぬいぐるみの顔が猫から熊に変わっただけ、と言うよりも、耳が三角から丸に変わっただけで、背格好や着ている服はいつものリリアンと変わらない。
そんな事より、何故リリアンがここにいるのだろう?
もちろん、最後に別れた時、いつでも遊びにおいで、と言うには言ったが、まさか、本当に来てくれるとは夢にも思わなかったし、来るにしても、何の前置きもなく急にやってくるとは、一体何があったのだろうか。
イーラーやキンバリーが同行している様子もない。
それに、もう一方のうさぎが気になる。
「あの、こちらは?」
「いいから、早く中に入れてちょうだい。こっちは疲れてるし、お腹もぺこぺこなのよ。
薬草園から歩きどおしだったんだから。」
リカルドの問いに答えずに、うさぎが言った。
ばしっ
「痛っ!」
熊がうさぎの頭をひっぱたいた。
「態度が大きい!」
⁂
「あら、イーラーさんの発酵茶ですね。」
居間に通されたリリアンがお茶の香りに気がついた。
「ああ、ちょうど一服しようとしていたんだ。
君たちもどうぞ、こんな湯呑みしかないが。」
リカルドは飾り気のないブリキのカップを二人の前に置いた。
「まあ、ありがとうございます。」
リリアンは、初めて訪れたリカルドの部屋に興味津々だったが、キョロキョロするのははしたないと、部屋を見回すのを一生懸命に我慢している。
何しろ、私は大切な使命を帯びてこの街へ来たのだ。
決して、リカルド様にお茶に呼ばれるために来た訳ではない。
横に座っている、この人の大切な…。
「この月餅まずい」
かぶりものをずらして月餅をかじりながら、横のうさぎが言った。
べしっ
熊のリリアンがうさぎの頭をはたく。
「痛っ!」
「文句があるなら食べなくてよろしい!」
「ちょっ、リリアン、何かいつもと態度が全然違う」
うさぎの言う通り、熊のリリアンは何だかいつもと違うぞ、とリカルドも思った。
猫は今洗濯中なのだろうか?
それとも、熊はよそ行きか?
熊リリアンはなおも厳しくうさぎに言う。
「あなたこそ態度を改めて下さい!
月餅の文句を言う為に遥々リーチュアンへやって来たのですか!
リカルド様にはこれからしばらくお世話になるんですよっ!
失礼な言葉は控えて下さい!」
「は!?」
リカルドは思わず聞き返す。
これから?
しばらく?
どう言うことだ?
「まずは、きちんと自己紹介をしてください!」
有無を言わさぬ口調でリリアンが言う。
うさぎの少女がかぶりものをとると、たっぷりとした濃い金髪に、碧い瞳が現れた。
「私はヤンセン。グイユェン市長の娘よ」
これだけ言えば充分とばかりの尊大な口調で言う。
「おじさんは誰?」
ばきっ
「いったー!リリアン!ちょっともー、ぬいぐるみなしでダイレクトに叩かないでよ!」
「リカルド様とお呼び!」
「はあっ!?」
「いや、もう良いから。」
リカルドが二人に割って入った。
「何があったんだ?何で二人はここへ?」
その先は、ヤンセンとリリアンが先を争って話す。
事の起こりは中秋の日の夜会だという。
婚礼を控えたヤンセンの前に一人の男が現れた。
男とワルツを踊り、見つめ合ううち、この男こそ、運命の相手と悟る。
一夜が明けてもその男を忘れることができない。
そこで、ヤンセンは真の愛を探すべく、ここリーチュアンへ赴いたのだった。
なぜかリリアンを伴って。
うさぎと熊のぬいぐるみは、追手から逃れる為の変装だったのだ。
「つまり、夜会であんたを誘惑した男を追っかけてここまで来たって訳か?
フィアンセをほっぽり出して?」
何を考えているんだ。
リカルドは頭を抱えた。
「でも、リカルド様、その方はヤンセンお嬢さんの運命の人なんです。
危うく間違えて別の人と結婚してしまうところだったんですよ。」
リリアンが加勢する。
どうも、当のヤンセンよりも熱くなっているようだ。
「そんなの、一目見ただけでわかるもんかね?」
「わかります!」
そう叫んだのも、ヤンセンではなく、リリアンだ。
「もしかしたら、男の方にはわからないかも知れません。
一目だけじゃなくて、何回も何回も会っても気付いてもらえないって事もあるかも知れません。」
リリアンは何回も、のところを特別力を込めて言う。
「でも、女にはわかるんです。
一目みて、この人こそが、運命の相手だって。わかるんです。私、じゃない、ヤンセンお嬢さんには!」
何を考えてるんだ!
もう一度リカルドは思う。
「だいたい、名前も居場所もわからない男なんか、どうやって捜すんだよ。」
「あら、名前ならわかりますわ。」
やはり、リリアンが答える。
「チャーリー・アレックスさんっておっしゃるの。
赤毛で目は蒼くて、とってもハンサムなの。
軍事作戦部隊の中尉さんなんですって。
貴族出身で剣士であると同時に魔導士でもあると本人はおっしゃっていたのよね。ね、そうよね。
ヤンセンお嬢さん。」
「うさんくさい。
あんた、絶対に騙されてるよ。
ハンサムな貴族?
剣と魔導のハイブリッド?
そんな奴、そうそういるわけ、、、、、。」
ふと、リカルドの頭にどこかの連隊長殿の顔が浮かんでしまった。
カルロス・アレクサンドロ中尉が、確かにチャーリーとか、アレックスと呼ばれている所を見た事がある。
うわあー。
リカルドは頭を抱えた。




