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第二十三話 リリアンのぼうけん プロローグ 2


 すっかり拗ねてしまったリリアンは、薬草園で名犬サーブとスレッジ・ハマー号にせっせとクローバーの花輪を編んでいた。


 騾馬も犬も、頭も首も花輪だらけになっている。


 キンバリーは気まずくなったのか、用事があるからと早々に立ち去ったようだ。


 リカルドも、次の仕事の為にそろそろ家路につかなければならないが、リリアンが騾馬を離してくれなければ帰れない。


 以前のように脅かしたりしないように、わざと、ちゃ、ちゃ、と鎧の音をさせてリリアンに近づき、側に腰を下ろした。


 まずい、近すぎたか?


 と、一瞬不安になったが、リリアンはリカルドが隣に座っても顔を上げるわけでもなく、黙々と花輪ん編んでいる。



「どうして急に、冒険なんかしたくなったの?」


 リカルドの問いにもリリアンはしばらく黙って花輪を編むだけだったが、しばらくして、ぽつりと話しだした。


「急にって訳じゃ、じゃないの。

リカルド様やキンバリーさんがいろんな冒険のお話をしてくれるのをいつも聞いてて、私もそんな風に旅をしながら冒険をしたいなあって、ずっと思ってたの。」


「薬草園の生活が嫌ってこと?

そりゃ、イーラーは人使いが荒いけど、二人は上手くやってるように見えるけど。」


 リリアンは首を振った。


「そうじゃないの!それは絶対に違うの!そんな風にイーラーさんが思ってないと良いけど。


 でも、うまく言えないけど。


 リカルド様は、リーチュアン市にお家があって、本当の生活はそっちにあって、お友達はみんなそっちにいるんでしょう?


 時々、イーラーさんみたいに、遠いところに住んでるお友達に会いに行って、そう言う場所はたくさんあって、いろんな人と、ここでしてるようにおしゃべりして、また今度ねって、次に会う約束なんかしなくても、会いたい時に会いに行けて。


 そんなのが羨ましくて。


 私の世界はここにしかないから。


 会いに行くような友達もいないし。


 それに。」


 リリアンはそれ以上は言えなかった。


 "みんながここへ来るのだって、イーラーさんに会いたいからで、私に会いたいからじゃないんだもの。"


 リリアンが言葉にしなくても、リカルドにはリリアンの声が聞こえたような気がした。


 いつも小さなリリアンがいっそう小さく見え、抱きしめたいと言う衝動をやっとのことで抑える。


 小さな身体を抱きしめて彼女の頭に顔を埋めたらどんな気分だろう。


 かわいいリリアン、俺が君に会うために、毎回、どれほど回りくどい手段を使っているのか、君は想像もできないだろうな。


 リカルドは慎重に言葉を探す。


 こちらの想いを悟られず、どう言えば彼女が喜んでくれるのだろう。


「えーとその、

今度、あ、あ、遊びに来たら良いよ。

俺が、ここへ来るみたいに。

り、リリアンさんが、リーチュアンに。

俺、、あ、いや、そう、スレッジ・ハマー号や、名犬サーブに会いに来たら。」


「いいの?遊びに行ってもいいの?」


 リリアンは俯いていた顔を勢いよく上げた。


 あまりにも距離が近くて、かぶりものもがなければ触れてしまいそうだ。


 思わず、今度はリカルドが顔を逸らしてしまった。


「何の用事もないのに?

ただ、リカ、、いえ、お馬さんやわんちゃんに会いたいって言う理由だけで?」


 リリアンは声を弾ませる。


 見えない顔が輝いているであろう事がリカルドにもわかるほどだ。


「ああ。来てよ。こいつら、喜ぶよ。」


 横でクローバーを食べているハマー号の首をぽんぽんと叩いた。


「本当?」


「ああ。」


「素敵。」


 リリアンはリーチュアン市のリカルドを訪れたところを想い描いてみた。


 イーラーさんや私がするように、『いらっしゃい』とリカルド様が、お馬さんとわんちゃんと出迎えてくれて、都会の街を見物に連れて行ってくれたり、馴染みの友達をリリアンに紹介してくるかも知れない。


「嬉しいな。お土産がいるね。

いつもリカルド様がくれるみたいな。


そうだ!」


 リリアンはサーブに抱きついた。


「わんちゃんのお洋服を作ってあげる!楽しみにしててね!」


「へっ、いやっ、それは…」


「そろそろお夕飯の支度をしなくちゃ。」


 慌てるリカルドをよそに、元気を取り戻したリリアンは立ち上がってエプロンをパンパンと叩き


「リカルド様。」


 クローバーの花輪をリカルドの傷だらけの禿頭に乗せた。


「ありがとうございます。」


 そうして、走って家の中へ入って行った。


 リカルドは手で鼻を覆う。


 よかった、鼻血は出ていない。


 しかし、有り余る幸せに血管が爆発しそうだ。


 とうとう、リリアン手ずから編んだ花輪を俺の頭に乗せてくれた。


 金を一文も払わずに、贈り物をもらえたのだ。


 この日をどんなに待ち焦がれたことか。


 やっと、やっと、俺はやっと、騾馬と犬並みになった。


次章からの舞台はリカルドの住む街に移ります。

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