第二十話 蛙を巡るおっさんの残念な冒険 4
二十一話も同時に更新されていますので、そちらもお読みいただけたら嬉しいです。
「ところで、闇の戦士様は、どう言った御用でここへお出ましになったのですか?」
「近ごろ、遍堀の沼に恐ろしい魔物が出てな、道行く人を沼に引きずりこんでは金品を奪っているという話を聞いてな。」
レンリーと名乗る魔物は、
「まあ、何とも恐ろしい話。」
などと、しゃあしゃあと言う。
「いや、お前のことだろう。」
「へ、私?ですか?」
レンリーは本当にびっくりしたと言う顔をしている。
自分のした事が全くわかってなかったらしい。
しかし、リカルドから、自分の首に賞金がかかっているのを知ると、しょんぼりとうなだれ、人を襲った訳を話し始めた。
「魔導士のペテンにかけられて家宝の香炉を盗られてしまいました。
追いかけようにも地縛りの呪いをかけられてしまい、ここを離れる事ができません。
けれども、犯罪者は犯行現場へ戻る、などと申しますから、私は奴が戻って来るのをひたすら待っているのです。
どうか命ばかりは…」
と泣き崩れていたが
「そうだ!」
急に顔を上げ髪につけていた髪飾りをリカルドに差し出した。
「これ、この宝をあなた様に。どうか、どうか、命ばかりは。」
なるほど、地縛りの呪いをかけられていたから、柳の木より先へは離れられずにいたのだな。
薄幸そうに見えたのは、人間をおびき寄せる芝居ではなかったようだ。
けれども、リカルドは物を言わず暗黒の剣を抜いた。
スラリ、などと言うスマートな音などしない。
ドロドロと、低い地響きのような音を立てて、黒く光った剣先が現れた。
「!!!」
レンリーは声にならない叫びをあげる。
暗黒の剣で撃たれた者は、成仏できずにいつまでもこの世を彷徨うという。
死ぬよりむごい事だと聞いている。
しかし、リカルドは剣をレンリーには向けず、宙に何かを描くような素振りを見せると、そのまま鞘にもどした。
「ほら。」
リカルドは手を差し伸べ、うずくまって震えているレンリーを起こしてやった。
「呪いは解けてるはずだよ。
この髪飾りは駄賃にもらっておくよ。二度と人間を引きずりこむなよ。」
「誓って!」
せっかくリカルドに起こされたのに、レンリーは再び平伏した。
暗黒の剣は攻撃魔法を無効化する力を持っている。
呪いの効果も無効になっているだろう。
「じゃあな。」
リカルドが沼を離れようとすると、
「お待ち下さい。」
レンリーが呼び止めた。
「御尊名を、ひらに!」
⁂
「またまた、盛っちゃって。蛙がいちいち名前なんか聞くわけないでしょ。」
酒の肴にリカルドの話を聞いていたイーラーが茶々を入れた。
「嘘じゃない。本当に名を聞かれたんだ。」
リカルドは憮然と言う。
しかし、
「命を助けてあげるばかりか、呪いまで解いてあげるなんて、リカルド様は本当に慈悲深いお優しい方ですね!」
と、リリアンは手を叩いて感激してくれた。
その愛らしい姿を見て、リカルドはこのタダ働きが報われたと思った。
もちろん、話をするにあたり、大幅な改ざんがなされており、リリアンに話して聞かせるのにそぐわない不適切な箇所は割愛されている。
レンリーの性別はあえて明かさず、岩ほどもあるブヨブヨのやつと言う事になっており、さらに、別れ際に義兄弟の盃を交わした事にしておいた。
「それじゃ、その魔物さんとは、もうお友達なんですね?」
リリアンがなおも言う。
「友達だなんて。」
リカルドは、よせよ、と言う風に手を振った。
「なかなかどうして、大した奴なんだ。俺なんかから友達呼ばわりされたら向こうも迷惑だよ。」
「リカルド様は強くて優しいばかりではなく、控えめな方なのね。」
リリアンはますます憧れが募るのだった。
次章はこのお話のエピローグです。




