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第十五話 おっさんの残念な冒険 5

久しぶりに金も入ったことだし、宿をとる。


 リカルドに加え、名犬サーブの変な格好のせいで女将さんは彼らを見るなり奥に引っ込んだが、宿の主人が相手をしてくれた。


「あんた、もしかして魔物の毒にやられてるのかい?」


恐る恐る、亭主が言う。


「幸い、うちの街にはいい薬草魔女がいるんだ、早々に治してもらうことだ。」


「べ、別段おかしなところはないが。」


 と、言いつつも、もしや例の夢の事を言われているのかと、ぎくりとする。


「まあ、毒にやられた本人にはわからんものなのかもな。」


「そうか、なら、明日、明日行くよ。その魔女のところへは。

今日はこれから大切な用事があるんだ。うん。」


 宿に荷物を置いた後はまっすぐに共同浴場へ行った。


 これからのリリアンとの逢瀬のために、普段なら必要のない場所まで身体を隅々まで磨き上げ、匂い消しのお香もむせるほど浴びる。


 もはや何が現実で何が夢なのかわからないが、そんな事はリカルドにはどうでも良くなってきている。


 俺はやはりおかしいのだろうか?


 おかしさの度合いで言えば、顔を知らない若い娘に恋慕している時点でもう充分おかしな奴なのだ。


 これ以上おかしくなろうが、もうそんなことはどうでも良い。


 現実のリリアンを自分のものにできないのなら、せめて夢の中のあの人とだけでも、心をひとつにしたい。


 夢の中のあの人は俺を好きだと言ってくれた。


リカルド様、

お慕い申し上げますと、

言ってくれたのだ。


「リリアン、待っていてくれ」


リカルドはベッドの中でそう叫び、横たわった。


「かわいそうにねえ。」


宿の亭主が階下で呟いた。





 亭主の心配をよそに期待に胸を膨らませ床についたリカルドだが、その夜は夢にリリアンは現れることはなかった。


 夢を見ることもなく、数日ぶりにすっきりとした気分で朝を迎えることができた。


 よく晩もそのよく晩も何も起こらなかった。


 そう言えば、今までは野宿だった。ベッドで寝るのが悪いのかもしれない。


 そう思い、怯える女将と亭主の静止を振り切って宿屋の庭先で寝てみたが、やはり何事も起きなかった。


 翌朝、亭主が部屋にやってきて、遍堀の魔物を退治してくれた男だから我慢していたが、商売にさわるから、といって、宿をむりやり引き払われてしまった。


 そして、宿代をまけてくれるかわりに、薬草魔女のところへ行くと固く約束をさせられた。


 別段用事はないのだか、リリアンの事が心配でもあるし、薬草園に寄ることにする。


 リカルドが薬店に入ると、イーラーは馴染みらしい魔女と話し込んでいた。


 オレンジ色の尖った耳に、長い尻尾、この暑いのに毛皮を羽織っているのかと思えば、自身の毛皮らしい。


 後ろ姿から察するに、けもの族の女のようだ。


 見たとこ、経験、能力とも中級下位クラスと言ったところか。


 話に夢中になってこちらの気配にも気づかないとは、そこらの魔物より劣る未熟者め。


 リカルドのような人間と違い、魔法使いどもは理屈っぽい話が大好きだ。


 大した話でもないのに、クドクドねちねち話を膨らませるので、何を言ってるのかさっぱりわからないことが多い。


 その魔女は興奮気味に尻尾を振りながら、早口で何かしきりに話している。


「魔力を持つ何かの動物を相手に託すとね、それを媒介して、遠く離れていてもその相手に会うことができるのよ。

実際に触れることができるの。

ただ、誰にでもできるってわけじゃないみたい。

なんていうか、想いの力とか、波長がシンクロしてないとダメなんだって。

動物だかの、そのものの意思の力ってのも、作用するみたいよ。どういった種類の魔力なのかまだよく分かっていないの。」


「転送魔法とは違うの?」


と、イーラー。


「んー、あくまでも肉体はここに留まったままなのよね。けれども精神的なものかと言うと、また違うの。」


 やってる、やってる。


 おたくどもが意味不明の会話を。


 リカルドが馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべて見守っていると


「不思議な話ね。でも、いかにも奥さん達が喜びそうな話題だから、今度お屋敷に招かれたら話してみよう……」


 先にイーラーがリカルドに気づいてこちらを見たので、リカルドに背中を向けていた魔女が振り返ったが、見るなり嫌悪感をあらわにした。


 何しろ、レースをつけたマントを着た男が、ニヤニヤしながらこちらを見ているのだ。


 一緒にいる黒い犬は何だかちょっとかわいいけれど、この男の趣味だと思うと背筋が凍る。


「ひい!!な、な、なにあんた!」


 魔女は杖を振り上げた。


 リカルドもとっさに剣の鞘に手をかける。


 が、実力が違いすぎる。


 暗黒の剣どころか、もう一つ帯同している鉄剣をふるうほどの相手でもない。


「姐さん、よしなよ。」


「寄るな変態野郎!」


「よう、ずいぶん威勢がいいな。」


 魔女も実力の差がわかるのだろう、ギラついた瞳に怯えが読み取れ、緊張から唇を強くかむ。


 それでもリカルドとイーラーの間に入り、友人を守ろうとしている。


「大丈夫よキンバリー、知り合いだから。」


イーラーが声をかけたので


「えっ、あ、そうなのか?」


キンバリーと呼ばれた魔女は、明らかにほっとした顔で杖を下ろしたが、イーラーの耳元で囁いた。


「イーラー、あんたおかしいよ?女の下着につけるようなレースをマントにつけてる男なんかと付き合いがあるなんて。」


 それは、ごくごく小さな声だったが、地獄耳のリカルドイヤーがはっきりとその言葉を捉えてしまった。




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