新・リリアンの冒険 ドラゴンの元へ
不死鳥の火山に足を踏み入れたリカルドとリリアンにアリア、そしてアグニスの一行は、熱と炎が渦巻く中、ドラゴン・アグニスが眠る場所を目指していた。
ひび割れた地表から巻き起こる魔力を宿したその炎は、常に色を変えながら螺旋を描いて燃え上がり、波打ちながら触れるものすべてをゆっくりと飲み込んでゆく。
「感じる。」
一行の一番後方でアリアに守られるようにしていたアグニスは興奮気味に呟き、ルビーのような瞳をらんらんとさせながらリカルドの前へ進み出た。
「婆ちゃん、危ないぞ。」
「この炎の先に、わらわの身体が眠っている……。」
アグニスはリカルドの手を振り切り、吸い寄せられるように炎の中に足を踏み出そうとした。
「お待ち下さい、アグニス様。」
アリアが駆け寄りアグニスを両手で抱きしめた。
「私の魔法ではこれが精一杯です。このまま進んでは、オフィリア様のお身体が燃えてしまいます。」
(この程度の炎で灰になってしまうとは、人間の身体の何と頼りない事か!)
苛立ちの隠せないアグニスは、アリアに引きずられるようにしてリカルドの後ろへ下がった。
「リカルド、頼みます。」
「へいへい。」
リカルドは老婆二人を庇うようにして再び前へ出た。
「あら? わんちゃん。いつの間に?」
骨をもらって遊び回っているうちにどこかへ行ってしまったブラックウルフ種のサーブが、いつの間にか現れ、リカルドの傍らに立った。
リカルドは腰にある暗黒の剣に手をかけた。
ドロドロと不気味な音を立て、真っ黒に光る剣が鞘から抜かれる。
ぶるぶるぶるっ、と、サーブの黒くツヤツヤの毛が全身逆だった。
暗黒の剣は漆黒の刃から闇が漂い、触れる魔力を吸収して封じ込める。
リカルドが剣を掲げると、冷ややかな影が炎を包み込み、青白い蒸気が細い筋となって消えていった。
「見事です!」
先程まで全身にまとわりついていたうだるような熱気が軽くなるのがわかり、アリアは感嘆の声をあげた。
「わあ、すごいっ!」
朝霧のように消える炎を見て、リリアンも手を叩いた。
「いやあ、ははは。」
リリアンに褒められてリカルドの頬がついつい緩んでしまう。
「それにしても、わんちゃんたらどうしたの? ポンポンみたいにまんまるだわ。」
毛の逆立った名犬サーブは、ボサボサのまんまるの体に、尖った耳と、細い足がにょっきり生えており、狐のようにボサボサの尻尾がふにふに揺れている。
「暗黒の剣に反応してるんだよ。名犬サーブはブラックウルフ種だからね。」
「??? そうなんですね。」
犬種で全てを納得しろと言うのだろうか?
しかし、名犬サーブは翼を持っていたり、魔法が使えたり、ただの犬ではないようだ。
剣に反応してポンポンみたいな姿になったとしても不思議ではない。
不思議だが、不思議ではないのだろう。
とりあえず、
「きゃわゆいーっ!」
まんまるなサーブにきゅんきゅんしておくことにする。
アグニスはごくりと唾を飲んだ。
(力も知力も遥かに劣る頼りない下等な人間の姿で過ごした四十年、あっと言う間なわけがあるものか。何と長く感じたことだろう……。今こそ、わらわは本来のわらわに戻るのじゃ……!)
「どうした、アグニス婆ちゃん、行くぞ。」
リカルドに肩を叩かれ、アグニスははっとした。
「何だよ、ぼんやりして。いよいよとなると流石のドラゴン様も足がすくんだと見えるな。」
「ふん、リッキー坊やのクセに、同伴出勤のクセに生意気じゃ。」
慌てて笑顔を取り繕い、リカルドの軽口に軽口で返した。
(こんな下等な人間の力を借りねばここへ来ることすらできぬとは、情け無いことよ。ふん、今のうちにでかい顔をしておくが良い。わらわの真の姿を見て、恐れおののき、ひれ伏すがよいわ!! )
アグニスは炎がかき消され、視界の開けた道を見た。
「進もう。」
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