第十二話 おっさんの残念な冒険 2 【閲覧注意】
お子様には相応しくない表現がありますので、苦手な方はご注意下さい。
恥ずかしい。
見ないで。
声を震わせてその人は言う。
「きれいだよ。今の君の姿が好きだよ。」
リカルドはリリアンの傷痕に何度もくちづける。
「好きだよ、リリアン。
ずっと前から、
そう、ずっと前から
こうやって君に触れたかった。」
ああ、
リカルド様。
お慕い申し上げます。
「リリアンが誰にも見せたことのないところをもっと見せて。」
「はっ!!」
リカルドは飛び起きて辺りを見回した。
先ほどと同じ、銀杏の木の下に、隣にはスレッジ・ハマー号。
「俺は一体!?」
どうやら、夢を見ていたらしいと言うことに気がつくのにかなりの時間を要した。
「何だ!?今の?」
夢と言うには、あまりにもリアルだった。
リリアンの素顔を見た事がないのに、夢の中でははっきりと想い浮かべる事ができた。
痛ましい傷痕だった。
暗がりの中できれいな濃い瞳を見た。
彼女の体温、息遣い。
リカルドが唇をつけるごとに、漏れる甘えるような吐息。
リカルドの唇には彼女に触れた肌の感覚と体温が残っている。
しかも、寝間着を着ていた。
残念な、と言ってはかわいそうだが、見た目より機能性重視って感じのやつで、それがまた現実味をおびている。
こういう夢に出てくるリリアンは何も身につけていないか、ほとんど紐みたいな下着と相場が決まっていて、妄想の域を越えずいまひとつ虚しさが残るのだか。
しかし、今夜は。
まるで本当に、本物のリリアンと……。
「ちくしょうめ!」
思わず軍事作戦部隊用語が炸裂してしまう。
「何で起きちまったんだ!!」
「ひゃっ!!」
リリアンはびっくりして身体を起こし、辺りをキョロキョロと見回した。
床で寝ていたリカルドの犬が顔を上げる。
「ゆ、夢?」
まだドキドキしていて、身体中が熱い。
ベッドには誰かの体温を感じるような暖かさが残っていて、まるで、本当のリカルドが先程まで側にいたようだ。
お馬に乗った勇ましい姿で、私を一緒にお馬に乗せてくれたり、お花畑で二人だけでダンスしたり。
そんなリカルドの夢なら何度も見たことがあるけれど。
それに、そんな夢の中のリリアンは、市長のお嬢さんみたいなたっぷりした髪で、肌もきれいなままなのに。
今日夢に現れたリカルドは、かぶりものをつけていないリリアンを見て、嫌がらないばかりか、傷痕にキスをしてくれた。
そんな事、想像しても悲しくなるだけだから、なるべく考えないようにしていたのに。
一年ほど前に初めてリカルドに会って以来、この薬草園へ訪れるのは一月に一度程だったのに、今月はそんなに間を空けずに二度も会うことができた。
そればかりか、自分のことを"リリアンさん"と呼んでくれたのだ。
男の人に名前で呼ばれた経験などないから、きっとのぼせ上がってこんな夢を見てしまったのだろう。
夢の中でも、低くて甘い声で何度も私の名を呼んでくれた。
今の私の姿が好き
そんなふうに言ってくれた。
誰にも見せたことのないところをもっと……
「ひにぃゃああああ。」
枕に顔を埋めてもまだ足りない。
まな板に置かれた魚のように、くねくねとベッドの上で身悶えする。
「私ったら!私ったら!」
がばっと身を起こし、サーブの首に抱きついた。
「どうしよう、わんちゃん!
もうリカルド様のお顔見られない!」