黒ヤギさん郵便
リリアンとリカルドが崩れて雪の山になってしまったかまくらから這い出すと、街の方から黒い生き物がトコトコ歩いて来るのが見えた。
遊び疲れた名犬サーブが帰って来たのかと思いきや、
「んめぇー。」
「あっ、黒ヤギさん郵便だわ。」
黒山羊が白い封筒を口に咥えてこちらへ近づいて来る。
「イーラーさんへ薬の注文かしら?」
「めー。」
黒山羊はリリアンの前で立ち止まると、口に咥えていた手紙を突き出した。
「ありがとうね、山羊さん。」
リリアンは黒山羊から手紙を受け取り急いで中を開いた。
急がないと読まずに食べられてしまうのだ。
「あら、ユミアナさんからだわ。」
「んめー。」
「こらこら、待ちなさい。」
リリアンから手紙を奪おうとする黒山羊の首を押さえた。
「リリアンさん、早く読んであげて。」
「はいはい……。はい、っと。お待たせ、読み終わりました。」
リリアンがそう言うと同時に、
「めっ!」
黒山羊はリリアンの手にある手紙に食いつき、むしゃむしゃ食べてしまった。
黒ヤギさん郵便で届けられた手紙は、読み終えたら配達してくれた黒山羊達にお駄賃としてあげる決まりになっている。
「ご苦労様ー。」
リリアンは口をもぐもぐさせながら元来た道を引き返す黒山羊に手を振ったが、何だか元気がなさそうだ。
「あいつらは何て言ってきたの?」
「どうやら防御力アップの刺繍に使う刺繍糸にかける魔法を間違えてしまったみたいで、黄色6番の糸が変な液と異臭を放ちながら暴れ回って家中大変みたいです。」
リリアンは魔法使いではないので、どんなに正確に刺繍を刺す事はできても糸そのものに魔法をかける事はできない。
それだけはリリアンの手助けなしにユミアナとキンバリーがやるしかないのだが、どうやら失敗してしまったようだ。
「お家のお掃除や、糸の買い直しで当分はお針の会は延期するってお手紙に書いてありました。」
リリアンはしょんぼりと答えた。
今日も明日もその翌日も、午後はユミアナの家へ行く約束をしていたから、楽しみにしていた予定がまるっきり無くなってしまったのだから無理はない。
おまけに、明日からリカルドと名犬サーブも居なくなってしまう。
イーラーは地下室に篭りきりだし、しばらくの間はひとり寂しく午後を過ごす事になりそうだ。
リカルドにとっては、異臭を放ち黄色い液を撒き散らす糸なんかどうでも良いが、可愛いリリアンにこんな思いをさせるなんて、へっぽこケモミミ魔女どもにはつくづく腹が立つ。
しかし、先程の会話を思い出して名案を思いついた。
肩を落とすリリアンに、リカルドが言った。
「予定が空いたなら、一緒に不死鳥の火山へ行かないか?」
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