シスコン令嬢の姉は悪役令嬢!?
リンジー・ポーレットは、淡い桃色の髪の少女がはにかんで笑う様子を見て思い出した──
「ひょええええっ!」
──そして、淑女らしからぬ奇声を残して視界を暗転させた。
『イブリンのラブ・マジック』という乙女ゲームがある。
タイトルに『マジック』とあるが、この世界に魔術・魔法等は存在しない。また、奇術や手品も無関係である。
どうしてこの単語が入っているかはまったくの不明だ。
おそらく語感が良いとか、そんなどうでもいい理由からの命名だろう。
そうに違いない。
リンジーはその語感が良いだけのゲームに転生していた。
そして『イブリンのラブ・マジック』のヒロイン──イブリン・ノーランを見て思い出し、ぶっ倒れた。
「いや、待って?」
誰もいない自分の部屋のベッドの上でリンジーは呟く。
しかし、「待て」と言ったところで時間は止まらないし、待ってもくれない。
「いやいや、それでも待てぇいっ!」
ぺしっと空気にツッコミを入れてぼやく。
だって、意味が分からない。
──リンジーは、悪役令嬢の妹だった。
◇
ピスタチオ味のマカロンをぽいっと口に入れながら、情報を整理しているとトレヴァーの来訪が伝えられた。
彼はリンジーの婚約者で、ガーラント子爵家の三男である。
「リンジー? 具合は……ん? 元気そうだな……」
口の周りにお菓子の屑を付けているリンジーを見て、トレヴァーは安堵と共に呆れの混じった息を吐く。
猫被りと元気が取り柄のお転婆娘──もとい可愛い婚約者が倒れたと聞いて、慌てて学園を早退してきたのだが……心配は無用だったようだ。
「トレヴァー!!!」
寝巻にも拘らず、トレヴァーにびゅんっと飛び着いてきたリンジーは、おっかないメイド長にすぐさま注意を受けた。
「お嬢様!」
リンジーに抱き着かれたトレヴァーは「俺は何もしてません!」と両手を上げて身の潔白を主張するが、トレヴァーもきつく注意された。
無罪なのに婚約者が阿呆なせいで、とんだとばっちりだ。
怒られて、少しは気を付けるかと思いきや。
着替えの終わったリンジーは、ついさっき叱られたばかりのくせにトレヴァーに両手を広げて突進して来る。
「こら! 待て待て待て、抱き着くな!」
「え、酷いこと言う……」
「さっきメイド長に怒られておいてなんで抱き着けんの?」
トレヴァーは、ぷうと頬を膨らませる婚約者の頬を突き、ぷすぅと空気を抜く。柔過ぎる頬っぺたの感触が楽しい。
「聞いて! 大変なの!」
「話を変えるな」
「だって、大事件が起こるよ!」
「リンジー……また何かしたのか? ほら、言ってみろ、メイド長には黙っててやるから」
「違ーーう! 私じゃなーい! 無実、無実ぅ!」
「無実は俺だ! ったく、まだ何もしてねえってのに……」
「待って? 何の話? ていうか、それより私の話を聞いて!」
リンジーは自分が倒れた原因について、トレヴァーに身振り手振りで一生懸命に話した。
途中何度か脱線しかけたが、トレヴァーの軌道修正でなんとか伝えることができた。
「──つまり、リンジーの大好きなエステルが『悪役令嬢』とやらなんだな?」
「そうなの! でねっ、男爵令嬢をめっためたに虐めて処刑されちゃうの」
「ワーナーが婚約破棄を言い渡してか?」
「そう!」
泣きそうなリンジーの顔に嘘の色は見えなかった。そもそも彼女は嘘がド下手だ。
だが、にわかには信じがたい。
冷静沈着で理性的な、あのワーナーが、そんな非常識で愚かなことをするだろうか?
まず、リンジーの姉が、ゲーム内では傲慢で我儘なヒステリックな人物らしいのだが、実際の彼女はそんな人物ではない。
むしろ、デビューしたての娘達や学園の後輩達にとって、淑女の見本とされている存在である──つまり、リンジーの姉とは思えない完璧令嬢だ。
「このままじゃ、お姉様が殺されちゃう!」
べしょべしょ泣き出したリンジーに、トレヴァーは「これは慰める為であって、一切邪な気持ちはない」と宣言してからリンジーの肩に手をまわして頭を撫でた。
尚、邪な気持ちはある。物凄ーく、ある。ないわけがない。
「ああ、もう泣くなよ。ワーナーはそんな馬鹿なことしないって。な?」
「だって……ピンク頭がぁ……お姉様がぁ……」
「あっ! ほら、リンジーの好きなピスタチオ味のクッキーだぞ? 食え」
口元に寄せられたクッキーに、リンジーはあーんと口を開けた。
もぐもぐ。
「……美味しい」
「ん、よかったな」
トレヴァーは一先ず安心した。
リンジーの泣き顔はあまり見たくない。
大好きなピスタチオのお菓子に釣られ、すっかり悩んでいることを忘れただろうと安心したトレヴァーは、帰った。
……メイド長にたっぷりと叱られた後に。
が。
リンジーは、もちろん忘れていない。
いくら鳥頭だからといって、大好きな姉が殺されることをどうして忘れられよう。
リンジーは姉が大好きだ。
優しくて美人で、リンジーの自慢の姉だ。
両親も兄も大好きだが、リンジーが家族の中で一番好きなのは姉である。
「こうなったら『イベント』ぶっ潰してやんよう!」
リンジーはピスタチオ味のフィナンシェを頬張りながら誓った。
その後、お菓子の食べ過ぎで夕飯が食べれなかったリンジーは料理長においおい泣かれた。
そしてもちろんメイド長にはたっぷり叱られた。
◇
記念すべき、第一回目のイベント発生スポットにリンジーはスタンバっていた。
ワーナーのルートを選んだ場合、ヒロインは中庭に来る。
来なかったら、それでいい。安心だ。
──しかし、彼女は来た。
あんちきしょうめ、周囲をきょろきょろして怪しいこと泥棒猫の如し。
いざ、リンジーが成敗してくれよう。
「もし。そこのご令嬢、どうかいたしまして?」
頭に葉っぱを付けたリンジーの登場に、ヒロインことイブリン・ノーランは驚いた顔を見せた。
「い、いえ、お気遣いなく……」
「でも、何か探している様子に見えます。私でよろしかったらお手伝い致しますわ」
「……──ない」
「え?」
「あの! 本当に大丈夫ですからっ! さよなら!」
去っていくヒロインの聞き取り辛い声なら聞こえた。リンジーの耳はちょっと引くほどに良いのだ。
彼女は確かに言った。「よろしくない」と。
そして、ヒロインが記憶持ちだと察したリンジーは、彼女のイベントを潰しまくった。
姉の婚約者以外のルートも潰した。
姉の友人であり、リンジーにも優しい第二第三第四の姉達に泣かれたくなかったからである。
というか、むしろそちらばかりを潰していた。
◇
「リンジー美味しい?」
「美味しいよ、お姉様」
イベントをどんどこ潰しているリンジーはご機嫌で、大好きな姉とお茶を楽しんでいた。
途中から、なぜか姉の婚約者も参加してきたことには不満だが、姉しか視界に入れなければ問題はない。
「リンジーはピスタチオが好きねえ」
「うんっ」
「あら、口に食べかすが……」
「え~取ってえ?」
「もう仕方のない子ね。……はい、取れたわよ」
「ありがとう、お姉様」
「うふふ、リンジーったらいつまで経っても甘えん坊さんなんだから」
「えへへ」
ころころと姉が笑うので、リンジーも釣られて笑う。
「ピスタチオの食べ過ぎは良くないぞ、リンジー」
「けっ」
楽しい気分に水を差すのはいつだって、ワーナー・ステーシーだ。
「肌荒れや浮腫みの原因だし、食べ過ぎで腹痛も引き起こすんだ」
この男はいつもリンジーにねちねち小言を言う。
「……うっざぁ」
「おい、聞こえてるぞ。エステルとトレヴァーがお前に甘くても、私は甘やかさないからな」
まったく口煩い男である。
ゲームでは一番攻略しやすい断トツのチョロ男のくせに、生意気だ。
あと『お前』呼ばわりはやめてほしい。
最近、リンジーはこの男のイベントに限り、ヒロインの邪魔をしていない。
理由はこのねちねち男よりも、姉に相応しい男性がいるのではないかと思ったからである。
「ワーナー、ごめんなさい。リンジーが可愛くて、つい甘やかしてしまうの」
「いいや、君は悪くないよ」
姉にだけ声のトーンが違う。
リンジーにだけ、ねっちねちである。
これだからこの男とお茶を飲みたくなかったのだ。まるで泥を飲んでいる気分になる。
「リンジー、そんな不貞腐れた顔をするな。お前は伯爵令嬢としての自覚が──」
うんたらかんたらねちねちと煩い男の話は右から左へ流してやる。
「あーあ、お姉様とだけお茶が飲みたかったよぉ」
お邪魔虫がいなくなって、姉にぎゅっと抱き着くと「あらあら」と優しく頭を撫でられる。
やっぱり、あんなねちっこい男にくれてやるのは惜しい。
だからか。リンジーは何気なく聞いてしまった。
「ねえ、お姉様はワーナーが浮気していたらどうする?」
「え?」
姉の顔が悲しみに歪む。
どうしたのだろう、こんな顔して……。
「お姉様?」
「リンジー、なんでそんなことを聞くの?」
「ん? ちょっと思っただけだよ」
「……もしかしてあの噂を知っているの?」
「え? 噂?」
何のこっちゃ、リンジーはさっぱりである。
「いいのよ、気を使わなくて」
「使ってないよ」
「リンジーは優しいのね……」
「ほんとに知らないってば」
「いいの。いいのよ、リンジー。もう何も言わないで」
「……」
姉の悪い癖が出てしまった。
リンジーが理解できない姉の癖。それは、『ネガティブな思い込み』である。
こうなると彼女は、うじうじグチグチめそめそする女──略して『うグ女』になる。
「──というわけで、お姉様が『うグ女』になちゃったんだけど、理由を知らない?」
植物園でのデート中、リンジーはトレヴァーに聞いてみた。
トレヴァーは、姉とワーナーと同い年の十八歳なので、一年生のリンジーでは知りえないことを知っていると思ったのだ。
「……知らないのか?」
「え? え? ……悪い話?」
「リンジーって本当に噂話に疎いよなあ」
「ねえ、悪い話なの……?」
トレヴァーの言いにくそうな顔に、それだけは悟った。
男子しかいない武官育成学科に属しているせいか口が悪い彼だが、ワーナーの言うようにリンジーにはすこぶる甘い。
なので、こういう顔をするということは、リンジーが悲しむ『悪い話』なのである。
「──実は」
噂は、ワーナーと、男爵令嬢の熱愛だった。
リンジーにとっては、狙い通りだったが姉が『うグ女』になれば話は別だ。
「ちくせう! 婚約破棄してやる!」
責任を全部ワーナーに押し付けたリンジーは憤慨した。
「……一応確認するけど、破棄するって言ってるのはエステルとワーナーの話、なんだよな?」
「当たり前でしょ!」
婚約破棄──トレヴァーは、それが自分に言われたものでなくても寿命が縮みそうになった。
それはトレヴァーが今、『リンジーから聞きたくない言葉』第一位である。
「はあ……なんて心臓に悪い言葉だ。この世から真っ先に無くなればいいのに……」
◇
「お姉様ぁ!!!」
デートを早々に切り上げて、自宅に戻りノックもせずに姉の部屋に突入するとリンジーめがけて花瓶がふっ飛んできた。
「うおっ! あっぶねえ!」
トレヴァーの声とともに、花瓶にぶつかる寸でのところでリンジーは強い力に引っ張られた。
次の瞬間、すぐ横からガッシャンと派手に割れる音がする。
後頭部を大きな手に守られて、ばくばく煩い心臓の音を聞きながら、リンジーは花瓶が飛んできた方向を見た──
「浮気者ぉ~~ッ!!!」
「待て! 違うんだ! エステル、落ち着け!」
視線の先にあるのは、姉とワーナーの修羅場だった。
「ねえ、トレヴァー? お姉様が……」
「あーあ。エステルの奴、ぶち切れてらあ。おっかねえ~」
トレヴァーは全然驚いていないが、リンジーは信じられない。
お淑やかで華奢な姉が、あの大きな花瓶をぶん投げたのだろうか。
呆然としていると、ひょいとトレヴァーに荷物のように担がれて部屋から出される。
「待って! お姉様が!」
「落ち着くまで離れるぞ」
「でも!」
「また花瓶が飛んで来たらどうするんだ」
「トレヴァーが守ってくれるから大丈夫でしょう?」
「…………本っ当、そういうとこな」
「?」
◇
リンジーの部屋で、トレヴァーと一緒にピスタチオ祭りを開催しているとよれよれになったワーナーとエステルがやって来た。
そして事の発端の理由を聞くことになった。
噂を聞いたエステルが、ワーナーに話を確認しに行った先で、件の男爵令嬢と一緒にいるところに出くわしたのが先ほどのエステルの乱心の原因だそうだ。
しかも、やってもいない嫌がらせを『やめてくだすわぁ~い』『謝ってくれたら許しますからぁん』とぶりぶりくねくねと言われた。
エステルは、誓って嫌がらせなんてしていない。
しかし、否定すれば彼女は『酷い酷い~~』と喚き散らかす。
エステルは思った──彼女は頭がおかしい、と。
ワーナーは、この状況にオロオロとして役立たずなのでエステルは言うしかない。
『ノーラン男爵令嬢は、ワーナーが私の婚約者と分かっていまして?』
エステルは、淑女の見本と渾名されている完璧令嬢だったので、声を荒げたり不機嫌さを表に出すことはなかった。
どれだけ腸が煮えくり返っていようとも。
『知ってます。でもワーナー様は貴女よりも、あたしの方が好きなんです。それに、あたし達愛し合ってるんです』
さすがのエステルもこの言葉には冷静さを欠き、眉間に皺が寄る。
あと、しゃきしゃき喋れるのならば普段からそうしてほしいと思った。
『えっ!? いやいやいやいや、私はそんなことは断じて言っていない! 待て、エステル、誤解だ!』
『ワーナー様ったらぁ、気を使ってるんですかぁ? エステル様の前だと気が休まらないと仰っていたではありませんかぁ~』
──何を見せられているのだろう?
ワーナーの腕にメス猫が纏わりついている。
『いや、それは……とにかく、離してくれないか?』
ワーナーは、気が休まらないと言っていたという彼女の言葉を否定をしてくれなかった。
『……分かりました。私はお二人の為に身を引きます』
そう言って、エステルは踵を返す。
目の前でイチャコラする二人をこれ以上見たくなかったし、涙が零れそうだったから……。
『エステル様、ありがとうございます!』
『待ってくれ! エステル!』
待つものか。
『さようなら、ワーナー……いえ、ステーシー侯爵子息』
『エステル!!!!』
そして、エステルを追っかけてきたワーナーにビンタをかましたことから、エステルのスイッチが入った。
かくして、あの修羅場に発展したという。
「私の誤解だったの」
うふふ、と笑う様子はいつもの姉だった──優しくてお淑やかなリンジーの自慢の姉だ。
「ノーラン男爵令嬢が、あまりにも節操がない……いや、奔放なものだから見かける度に注意していたのだが……執着されてしまったようだ」
「あの、ワーナー……勘違いしてごめんなさい」
「いや、私が誤解させるようなことをしてしまったせいだ。悪かった。……君の前で気が休まらないと言ったのは、君に、こ、恋をしているから、なんだ。……君といると格好の悪いところは見せられないから……だから……その……」
「ま、まあ。そう、でしたの?」
「ああ、私は初めて会った時からずっと君を愛してる」
「……嬉しい。私も、あなたを愛しているわ」
「エステル」
「ワーナー」
甘ったるい空気に、リンジーとトレヴァーが眉を顰める。
この二人が眉を顰める理由は違うのだが……それは言うまでもない。
「お騒がせカップルだよなあ」
トレヴァーは呆れたように言い(羨ましくなんかない)、頬を膨らませたリンジーは姉に問う。
「ねーえ、お姉様ぁ? 本当にワーナーでいいの?」
「ふふふ、私はワーナーがいいの」
幸せそうな姉にめげずに「婚約やめないの?」と聞けば姉は首を横に振って、リンジーを「こらこら」とちっとも怒気を含まない声で叱った。
「こんな奴にお姉様を渡したくないけど、お姉様がいいって言うなら仕方ないよね」
リンジーが口を尖らせて言うとワーナーに鋭い目つきでギンッと睨まれる。
だが、トレヴァーを盾にしているので全然怖くない。
「『こんな奴』なんてお前にだけは言われたくない!」
ワーナーはエステルの手を握ったまま喚く。
「まあまあ、落ち着けよ。な?」
リンジーの盾ことトレヴァーがワーナーに言葉をかけると、ワーナーは怒りの矛先をトレヴァーに変えて声を上げた。
「大体! トレヴァーが甘やかすから、リンジーは──」
完全にとばっちりのトレヴァーを眺めながら、リンジーはピスタチオ入りのチョコレートを姉と一緒に仲良く齧った。
◇
「ねえ、結局イブリンはどうなったの?」
美術館でのデート中、リンジーはトレヴァーに聞いてみた。
最近、めっきり彼女を見かけなくなったのだ。
「……今頃そんなこと聞くのかよ」
姉とワーナーの修羅場から、もう二月経った頃である。
トレヴァーは「鳥頭め」と言ってリンジーの頭をこつんと小突いたが、彼女のその後のことを教えてくれた。
トレヴァーが言うには、虚言癖や奇天烈な行動が目立つため、僻地で療養をすることになったそうだ。
「僻地ってどこ?」
「北」
「北の?」
「アバーシュレン」
「アバーシュレンって……」
北にあるアバーシュレンという地には『死んだ方がマシ』だと言われる修道院があるとかないとか、あるとかあるとか聞くが……。
いや、でもまさか。
だって、トレヴァーは『療養』と言った。
きっと今頃、彼女は体に良い温泉に浸かっていることだろう。アバーシュレンにはリウマチに効く温泉が湧いているという話はリンジーでも知っている程に有名だ。
彼女はきっとリウマチなのだ。そうだ、そうに違いない。
リウマチが治るといいね、イブリン……。
「まあ、うん! お姉様が幸せならいっか!」
あまり深く考えるのはやめようと、鳥頭……もといリンジーは気持ちを切り替えた。
「……リンジーは、本当にエステルが好きだよなあ」
「うん! でもトレヴァーのことも好きだよ?」
「っ! い、いや、それは、エステルよりも、か?」
「え? それは……うーん?」
「はあ、悩むなよ。……じゃ、じゃあ……ピスタチオよりは……?」
「同じくらい!」
え、即答?
「…………聞かなきゃよかった」
「わあ、この絵画見て! とっても素敵!」
がっくりと肩を落とすトレヴァーをよそに、リンジーは姉妹が寄り添う絵画を見て満面の笑みを浮かべるのであった。
──余談ではあるが、リンジーが自身の恋心に気が付くのはもう少し……いや、もうしばらくは先の話である。
(頑張れ、トレヴァー!)
【完】