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試練

 ドラズさんやレンリスさんの言っていたことが分かったのは昼食の後でした。

 気持ち悪くなって、横になったのですが、全然良くなりません。


「うぷっ……」


 色々な物が食道を逆流してくるのを感じ、まずい、と思ってトイレに駆け込みました。


「おげぇ……」


 何とか醜態を晒さずに済みましたけど、口の中が気持ち悪いです。

 それに昼食で食べた物を全て戻してしまいました。

 それでも全然すっきりしません。


 それにしてもこの船は本当にすごいですね。

 洗面台のボタンを押せば、奇麗な水が出てきます。


 私がうがいをしていると誰かが走ってきました。


「ディアス君?」


「香さん?」


 ディアス君の顔は真っ青でした。

 その理由は良く分かります。


「香さん……うぷっ……ご、ごめんなさい……!」


 ディアス君はトイレに駆け込み、私と同じことをしています。


 ジンブから大陸に渡った時も酷い船酔いに襲われたのを思い出します。

 しかも今回の方が酷いです。


「とりあえず、横になっていたいです……」


 私は自分の部屋に戻りました。

 揺れを意識するとさらに酔いが悪化していく気がします。


 千代は航行の為、船橋にいるので私は一人。

 無言でいるとどんどん調子が悪くなっていく気がします。


 どれくらい経ったでしょうか?

 部屋のドアが開きました。


「見事にやられているね」


「ドラズさん……」


 首を少し動かすとディアス君を担いだドラズさんがいました。


「夕食の時間だよ」


 ドラズさんは元気そうです。

 酔いに強いのでしょうか?

 それとも種族の違いでしょうか?


「すいません、食欲がないです……」


 今は目の前に食べ物を置かれただけで吐きそうです……


「駄目だよ。食べな。酔いで辛いのは分かるけど、食わなきゃ体力を消耗するだけだよ。早く船に乗れるようになる為にも少しでも体力を回復しな」


 ドラズさんの言葉は最もです。

 食べることも鍛錬だと思うべきですね。


「おっ、自力で立てるのかい? ディアスよりは根性があるね」


「し、師匠、あまり揺らさないでください…………また、吐きそうです…………」


「もう吐くものなんてないだろ。さぁ、食堂に行こうか」


 私たちが食道に行くとレンリスさんがいました。


「おっ、人間はやっぱり辛いんだね」


 私たち見てレンリスさんは笑いました。


「どうだい。飲むかい? 十年物の上等な葡萄酒だよ」


 レンリスさんは瓶を見せますが、今はお酒の匂いを嗅いだだけで吐きそうです。


 私とディアスは力なく、拒絶します。


「あたしは貰おうかね」


 ドラズさんはレンリスさんの対面に座りました。


「ディアスと香ちゃん、少しで良いから、胃に何か入れておきな」


 私とディアス君はフラフラと席に着き、干し肉と野菜を口にしました。

 戻ってきそうな感覚に襲われて、水で強引に流し込みます。


 でも、しばらくして結局、全て戻してしまいました。


 部屋に戻り、横になっても体調は変わりません。

 

 何より一人でいるのが辛いです。

 誰か人といたい。

 そう思って、ディアス君とドラズさんの部屋に行きました。


 ドアをノックするとディアス君が弱々しい声で「どうぞ」と言ってくれました。


「失礼しますね」


「香さん、どうしたんですか?」


 ディアス君はベッドで横になっていました。

 顔は真っ青です。

 人のことは言えませんが…………


「誰かと一緒にいた方が気持ちが紛れる思いまして……迷惑ですか? それにドラズさんは?」


「師匠はまだレンリスさんと飲んでいるみたいです。そうですね、僕も誰かと一緒にいた方が気が紛れるかもしれません」


「どうやらドラズさんたちは私たちと体の作りが違うみたいですね」


 私は床に座り込みました。


「そういえば、香さんのお爺さんって師匠と知り合いなんですよね」


「そうみたいです。でも、お爺様はドラズさんのことを言ってませんでした」


「西方連合に行く、と言ったなら一言ぐらいあってもいい気がしますけど?」


「…………それなんですけど、私、お爺様には何も言わずに来たんです。多分、帰ったら怒られると思います」


 ディアス君は驚き、「どうしてですか?」と聞いてきました。


「私が西方連合に来た理由は仇討なんです」


「仇討ですか?」


「私には師匠が二人いたんですけど、その一方が、一方を殺してしまったんです」


「それは決闘ですか?」


「だったのかもしれません。でも、今となっては分かりません。さらに問題だったのがその後です。あの人は商船を奪って、大陸に渡ったのです。それを知った私はジンブを飛び出したのです。そして、あの人が東方同盟でも暴れ回り、その後、西方連合に渡ったと知りました。今思うと衝動だけで動いていたと自覚しています。西方連合では言葉が通じませんでしたし、ハヤテに会わなかったら、どうなっていたか…………」


「香さんって、やっぱり行き当たりばったりで生きているんですね」


 ディアス君、やっぱりっていうのは止めませんか?

 少し傷付くんですけど。

 まぁ、否定はできません。


 今回だって、あの人の手掛かりを見つけて巨人族の領内へ入りましたけど、そこで手詰まりです。

 そして今は千代の為に天空都市に向かっています。


「行き当たりばったり、そうかもしれませんね。でも、こうやって色々な人たちに会えて私は嬉しいです。…………さてと」


 私は立ち上がりました。


「どうしたんですか? まだ一緒いてもいいですよ」

とディアス君が言いますが、そういうわけにもいきません。


 だって……


「また吐き気がしてきたんです…………」


「あっ、僕も……」


 私たちは仲良くトイレで吐くことになりました。

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