プロローグ
『カードゲーム世界王者の異世界攻略物語』の外伝、レイドア攻防戦後の愛洲香の物語になっています。本伝からの登場人物は愛洲香、ドラズ、ディアスのみとなります。
ハヤテと別れて、もう二週間が経ちます。
一人は本当に寂しいです。
ちょっと油断するとハヤテたちの所へ帰りたいと思ってしまいます。
でも、今は戻りません。
私の本懐を成し遂げてから、堂々と会いに行きたいです。
ハヤテは力のほとんどを失ってしまいましたけど、リザちゃんとアイラが付いているので大丈夫でしょう。
…………本当に大丈夫でしょうか??
いえ、魔物に襲われたりとかの心配はしていませんよ。
だって、あの二人なら大抵の魔物や強敵を倒せるでしょうから。
でも、あの二人のハヤテに対する愛は異常だと思います。
私くらいの常識を持って、ハヤテに接してくれると良いんですけど……
それにナターシャもヤバいです。
元々の経験値が違います。
……もしかして、ハヤテは肉食動物に囲まれてしまったのではないでしょうか?
今、ハヤテの傍には常識のある私やローランがいません。
そう考えるとなんだか、危険な気がしてきました。
早く私の本懐を遂げて、ハヤテの所に戻らないといけない気がしてきました!
――私の本懐、それは私の師匠を殺すことです。
現在、私は竜人の領土を抜けて、巨人の領内へ入りました。
魔王が消滅した影響でしょうか。
ここまで何の障害もなく、入って来れました。
で、巨人領に入ってから問題が発生しています。
巨人族に襲われたわけではありません。
私は今、イノシシから逃げています。
別に普通のイノシシなら群れに襲われてもどうにか出来ます。
でも、私を追ってくるイノシシたちは……
「これって、ハヤテが召喚するワイバーンくらいの大きさじゃないですか!?」
そんな大きさのイノシシ集団が私に猛進してきます。
私が振り切れないなんて、とんでもない素早さです。
逃げ続けた私は崖下に追い込まれてしまいました。
「仕方ないですね……」
私は妖刀ミノワを抜きました。
「魔陰流特式ノ一『マストビ』!」
飛ぶ斬撃を巨大なイノシシに放ちます。
「ギャァァァァァ!」
猪が絶叫しました。
思わず耳を覆うほどの絶叫です。
攻撃は効いているみたいですけど、皮が厚すぎて致命傷にはなっていません。
それどころか怒り狂って、威嚇してきます。
退路はどこにもありません。
「ちょっとした魔物よりも厄介ですね」
私は戦うことを決め、二本目の刀、イワジュクも抜きました。
そして、いざ戦おう、と思った時です。
とても大きな地鳴りが起きます。
それはこちらに近づいているようでした。
「な、何ですか!?」
イノシシたちが騒ぎ出しました。
そして、逃げ出します。
その内の一頭が私の目の前で両断されました。
「えっ?」
衝撃で私は尻もちを付きます。
「なんだぁ? ちっこいのがいんのぉ」
現れたのはとても大きな人間です。
いえ、人間ではありません。
「巨人族?」
「んだ。そういうあめーは小人族かぁ?」
目の前の巨人は珍しい者を見て、驚いているようでした。
それにしても小人族って……
「私は普通の人族です。愛洲香と言います」
この日、私は初めて巨人族に会いました。
私は巨人族と出会い、集落に招かれました。
「んじゃ、東方の島国からわざわざ、来たんか? それは大変だの? ほれ、食いな」
私を助けてくれた巨人のハグーさんはとても好意的です。
食事には大きな肉の塊を出されました。
残すのは悪いと思い、必死に食べますが、三分の一くらい食べるのが限界です。
「あなた方は魔王の配下だったんですよね?」
「んだ、けど儂ら、戦いは好かん。大地を耕して、動物を狩猟している方が好きだ。魔王さんも食料を渡せば、戦わんくて良いって言ってくれたんよ」
確かに竜人族の戦闘力があれば、巨人族を生産に回した方が良いかもしれません。
あの魔王は狂っていましたが、頭は良かったのでしょう。
「しかし、人間がどうしてここに?」
「はい、あなた方の領内に私のような東方人は来ませんでしたか?」
ハグーさんは少し考えて、「いや、知らんな」と答えました。
「えっ、何かしらの被害が出たりしてませんか?」
「なんもありゃせん。お嬢ちゃん、誰かを探しているんか?」
「ええ、まぁ、そうなんですけど…………」
あの人は強い者との戦いを欲しているはずです。
だから、巨人族を狙うと思っていました。
「もしかしたら、他の集落の連中なら何か知っているかもしれんよ。よくここにも来るで。明日から聞いてみるとええ。そん間はここに居てええさ」
ハグーさんはそう言ってくれました。
私はハグーさんの厚意に甘え、ここを拠点に情報を集めることにしました。
二週間後。
師匠の手掛かりは未だにありません。
ただ飯を食べるだけでは申し訳ないので私は森で狩りをして、巨人族の皆さんの役に立っています。
「あんた、凄いな。そんなにちっこいのにこんな大きな大山イノシシを狩るなんて。この大きさは俺たちだって苦労するぞ」
巨人族の比較的年の若い方たちが私の狩ったイノシシを運びながら言います。
大きさではドレイク並みですけど、魔力はありませんので慣れれば、難なく狩れるようになりました。
そうやって、今日も働いて、夕食を食べて寝ます。
あれ?
ここはどこでしょうか?
辺りに風景がありません。
「香、久しぶりだな」
リザちゃんの声がしました。
「久しぶりです、リザちゃん…………! あ、あの、腕に抱えている子供はどうしたんですか?」
リザちゃんは小さな赤子を抱えていました。
「あっ、そうか、香には言ってなかったな。ハヤテと私の子だ」
「!?」
「なんじゃ、香、久しぶりじゃな」
後ろからアイラの声がしたので、振り向きました。
「アイラ、リザちゃんが…………!?」
アイラも赤ちゃんを抱き抱えていました。
「ア、アイラ、その子は…………」
「当然、ハヤテと儂の子じゃ」
「!!?」
「香、久しぶりだね」とハヤトの声がしました。
「ハヤテ、あなたは…………!?」
ハヤテと一緒にローラン、シャルちゃん、ナターシャ、サリファちゃんとルイスちゃん、それにリスネさんまで!?
なんでみんな、赤子を抱いているんですか!?
「ハヤテ、これはどういうことですか!?」
「いや、その…………リザと関係が出来てから、アイラにも求められて、そこからは成り行きで…………」
「じゃ、じゃあ、私も…………」
「いや、さすがにこれ以上は難しいよ」
「そ、そんな…………」
「それに香には目的があるんでしょ。だったら、俺と一緒にいるべきじゃないよ」
確かにそうです。
まだ私にはやるべきことがありますけど、ありますけど…………!
「香はいずれジンブに戻るんだろ? ハヤテのことは私たちに任せろ。幸せにするし、幸せになるから」
「その輪の中になんで私がいなんですか! …………あれ、ここは?」
私は飛び起きました。
「あれは夢…………ですか?」
正夢になったり、しませんよね?
あんな夢を見ると焦ります。
二週間、結局、他の巨人族の集落にも師匠は現れていないようです。
私は手掛かりを完全に無くしてしまいました。
「だからって、今からハヤテを追うのはどうでしょうか。今、どこにいるか、正確な位置だって分かりませんし…………あぁ、もう!」
変な夢を見たせいか眼が冴えて、眠れそうにありません。
「ちょっと外に出ますか…………」
私は集落の外へ出て、近くの川の岸を歩きます。
空は曇っているようで星は見えません。
そのせいで辺りはかなり暗いです。
「ハヤテたちと合流するのはともかく、一度、レイドアに戻るのは有りかもしれません」
川岸に座ってそんなことを考えていた時でした。
とんでもない衝撃に襲われました。
「な、何ですか!?」
森の中に何かが落ちたようです。
衝撃のあった方へ向かうと草木が吹き飛んでいる場所がありました。
前に見たドレイクの火球で出来た窪みに似ています。
ドレイクの存在を警戒しますが、周辺に大型の魔物の気配はありません。
「これは?」
窪みの中心で何かが光っていました。
それは楕円形の卵のような形で青白く光っています。
そして、脈を打ち、生きているようでした。
「なんですか、これは?」
私は恐る恐るそれに触れます。
熱くはありませんでした。
少し温かいです。
そして、私が触れた瞬間に卵のような物体は強い光を放ち、形を変え、子供くらいの人型になりました。
「な、何ですか!?」
私は驚き、咄嗟に動けませんでした。
その隙に、人型の物体は私の口に指のようなモノを突っ込みます。
「ふぐっ!?」
口の中を何か触手のようなものが動き回ります。
それはとても気持ち悪かったです。
一定時間すると私は解放されました。
「何のつもりですか!?」
人型の物体から距離を取ります。
「生命情報ヲ入手、解析――――復元ヲ開始スル」
目の前の人型の物体はしゃべりました。
独特の話し方です。
ハヤテの世界の言葉で言うなら、機械っぽい口調でした。
やがて光が弱くなり、目の前の人型の物体は本当の人間のような姿に変わっていきます。
しかもそれは…………
「私? しかも、子供の頃の姿…………?」
何が起きているか分かりません。
「目前ノ生命ヲ母体ト認識」
「は、はい?」
目の前の私に似た『それ』に感情が宿ったようでした。
「ママ…………」
なんですって!?
「誰がママですか!?」
いきなりなんですか?
私、あなたを生んだ覚えなんてないんですけど!?
あっ、でも黒い瞳と髪ですし、私とハヤトの子供ってことにして、リザちゃんたちを一歩リードできませんかね?
…………いえ、そんな事しませんよ。
などと私は誰かに言い訳をしていました。
「お願いがある」
機械的だった口調は消え、人間っぽく話し始めました。
「私を故郷へ返して」
「故郷? それはどこですか?」
すると私に似た少女は天を指差し、
「天空都市『エルバザール』」
と言いました。
天空都市ですって?
そんなの聞いたことがありません。
それとも魔王領では常識なのでしょうか?
「一旦、集落に戻って、ハグーさんに聞いてみますか」
見ると東のそれが少し明るくなっていました。
もうそろそろ夜明けのようです。
読んで頂きありがとうございます。
宜しければ、『カードゲーム世界王者の異世界攻略物語~モンスターを召喚できるディスクを使って、モンスターとヒロインたちが戦います~』の方もよろしくお願い致します。
少しでも「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への率直な評価とブックマークをお願い致します。