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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界とかいうところから来た男に会ったんだが

作者: Zaki

異世界ものを書いてみました。

「俺は異世界から転生してきたんだ。」


夜風に髪をなびかせながらそう話すのは、俺とコンビを組んでいる人族、彼らの間では見た目がイケメンらしい、のコウジだ。


「そうか・・。」


俺には異世界とか言われてもピンとこない。

だから、とりあえず、当たり障りのない返事しかできなかった。


彼とは、3日前から一緒に行動をしている。

このクエストは、言ったら、ただの用心棒だ。

依頼主は別に1パーティー限定とはせず、頭数をそろえるために俺たちを雇った。勿論、俺とコウジだけではなく、他の奴らもいる。

ソロの場合は他のソロのやつと、もしくは、奇数パーティーの溢れたやつとそれぞれ2人一組で担当を割り当てられている。


俺はソロで行動をしているから、誰か知らないと組むことになっていた。コウジもソロだったようだが、変な奴じゃなくて良かった。そう思っていたら、この発言だ。一体こいつの頭の中はどうなってるのだ?


「なぁ、分かるか?いきなり『私は神様です。あなたは死にました。これから異世界に転生させます。それでは良き異世界ライフを。』って言われても、どうしたらいいのか分かんないだろ?」


コウジは鼻息荒く話してくるが、俺からしたら、いきなり『俺は異世界から転生してきたんだ。』って言われても、どうしたらいいのか分からない。

『それは災難だったな』と言うべきなのか?それとも、『もうこっちには慣れたか?』と言うべきなのか?


実際、コウジとコンビでこの見回りをしているが、最初の日は、まずは仕事をこなすことが最優先なのだから、それに注力するってもんだ。そうでなければ、報酬は貰えない。2日目には少し、当たり障りのない話をした。ただ、それだけだった。当たり前だろう、いきなり身の内をベラベラ喋るような奴には、逆に警戒を感じる。こいつは俺の気を逸らして、この依頼を失敗させたいのか、とか要らぬ心配をしてしまうだろう。

そして、今日、こいつは自分の過去を話し始めた。


「俺の元の世界の人間は、こっちの人間のように運動能力が高くない。また魔法のようなものも存在しない。だが、科学がある。多分、科学による異世界チートで、魔王撃破してくれ、っていう神様の考えなんだろうと思うんだよね。おい、聞いてるか?」


こいつは一体、何を話してるんだ?科学とはいったい何なんだ?向こうの世界なら、俺が知らなくても当然かもしれないが。それに魔王ってなんだ?そんな存在は神話やおとぎ話を含めても聞いたことがない単語だ。それをあたかも当然にいるみたいな風に言うが、一体なんのことを指すのだ?


「それに、お前みたいな亜人ってのは、物語の中でしか見たことがないんだよな。」


あぁ。俺は人族とは違う。人族はそれ以外の種族を見下して、まとめて亜人と呼ぶ。ただ、それは多くの場合、侮蔑の意味を含む。こいつもいい加減理解したらどうなのか。。。


「おい、リンクス、聞いてるか?お前らの種族って表情分かりずらいんだよね。」


俺の名前はリンクス。リザードマンだ。

人族とはことなり、亜人種と呼ばれる種族には、色んな種族が居る。そしてそれらは共通して、『魔物』と称されては人族から虐殺されていた歴史を持つ。しかし我々は魔物とは異なる。人語を操り、武具を使いこなし、また社会を形成する。肉体的な欲求のみに溺れず、精神的な高みを生の喜びとする。それはむしろ一部の人族よりもよっぽどと崇高な生き方をしているという事を多くの人族は知らない。いや、知ろうともしないというべきか。


「もし、我々を見下していなくて、覚える気があるなら、次からこう呼べ。我々はリザードマンだ。亜人と十把一絡げに呼ぶ出ない。」


「そうやって『亜人』って言葉に固執しすぎじゃないの?確かに、そうやって他種族を差別する人間が多いけど、逆に『亜人』って言葉にいちいち反応してたら疲れるだろう?何も知らずに『亜人』って言葉だけを知った子供にもそういった怖い顔向ける訳じゃないんだろ?」


このコウジという男は妙にいちいち理屈っぽい。


「お前には我々の歴史が分かってないんだ。所詮、人族は我々を虐げていた側の部族。我々が虐げられた歴史は決して消えない。我々の先人が受けた苦しみと今のこの生活を作るまでに重ねた努力に敬意を払うなら、『亜人』という言葉を使うべきではない!」


「ちぇ。はいよー。わかったよー。俺の空っぽのおつむにしっかり入れておきますよー。」


いかんいかん。思わず、言葉が荒くなってしまった。誇り高き部族の末裔である以上、私もその誇りを大事にして生きていかねばならんというのに。


「ところで、リンクスってどこの出身なの?俺、転生してきたのがパンジーグで、そこからアリクを通り抜けて、このコホウまで流れ着いただけで、まだまだ世界を知らないわけ。これまでリザードマンに会う事って滅多になかったからねー。あ、犬獣人や猫獣人にはたまに見かけたけど。」


こいつは、一言でいえば、おしゃべりだ。本当にこいつのクラスは剣士なのか?術師系のクラスの方が絶対向いているんじゃないか?と真剣に思ってしまった。


「我の故郷はナームテブだ。だが、リザードマン自体は、シアーネの方が多いと聞く。ナームテブはリザードマン以外にも、人族、ネコ族、その他の少数部族も混ざって暮らしている。」


「へーそうなんだ!パンジーグもアリクも人族とそれ以外は別で生活しているのがほとんどだったからな!お前みたいな珍しい奴と話せて面白いんだよ。」


「別に我自体は珍しく種族ではない。居住圏というか、部族によって、住んでいるエリアに偏りがあるだけだ。」


「ま、そうだけどよ!俺まだこの世界に生まれて3年も経ってないんだから、色々教えてよ、兄貴!」


「お前の方が余程年上に見えるが?」


「いや、俺、まだ2年と9か月ほどよ。バブーじゃないけど、まだ難しいこと分かんないお年頃。あ、体はいきなり成人した体で転生したから、この肉体年齢なわけよ。あ、ちなみに中身はもう40代のオッサンだからな。体は前世よりも若返ってしまったから、一仕事終わった後の娼館での楽しみが倍増してたまんないな。ガッハッハ。」


「コウジ。娼館とか行くのか?そういうものも、国によって制度が色々違うから、渡り歩くなら気を付けておいた方が良いぞ。違法としている国もあるからな。場合によっては客も捕まるぞ。」


「何?リンクス、ご丁寧にありがとう!まさか堅物と思ってたお前さんからそんな情報を聞けるとは思ってもみなかったぜ!!」


「いや、我は行かないが、時々他の冒険者が行ったとか言う話を聞く機会もあるからな。それよりも、警戒に戻るぞ。」


「アイアイサー!」


コウジは謎の掛け声を掛けて、仕事に戻る。こいつの仕事モードをみると、只者ではない事がすぐにわかる。喋りだすとなかなか止まらない困ったやつではあるのだが・・・。

さて、今回のクエストは、村の警備だ。5日間連夜で行われる。

5日間連夜で行われる村のまじないの間、村の外からの襲撃を抑える必要がある。なぜなら、このまじないをやっているとき、詳しい理由は分からないが、魔物が狂暴化したりして村を襲う事が起るそうだ。まじないで使っている薬草の香りか、霊薬から溢れ出る霊力のせいだとか、諸説あるが、はっきりしない。

我らリザードマンもそうだが、他の亜人族も別に影響は受けない。この儀式は毎年行われていて過去の警備要員に亜人族も居たし、そもそも村の住人にも亜人族はいる。


・・・。


暫くして、急にコウジの息が静かになった。全ての挙動が音を立てないような動きになり、こちらに合図を出そうとしていた。どうやら我とほぼ同時に気が付いたようだ。やはり、人族にしてこの気配察知能力は、なかなかのものだな。


目でやり取りを済ませ、眼前の草むらとその奥の木々に目を向ける。


微かに葉が擦れ合う音が聞こえたかと思った瞬間。


「キシャーーーーー!」


ホーンラビットのような、しかしそれはもう生者の鳴き声ではないうめき声をあげながら、異常な速さで飛びかかってきた。しかも関節の曲がり方などもおかしい。


「ハッ!」

飛んできた『それ』を愛槍で難なく叩き落す。


一瞬の時間差で別の個体がコウジに向かって飛んでいたようだが、それもコウジの一閃の前に迎撃されていた。草むら方向から出てきたことを考えると、一瞬の時間差で出てくること自体、計算された動きといえるだろ。コウジもこちらに気が向いたその一瞬にもう1体が出てきたのだから。


しかし、それを叩き切ったコウジもなかなかの腕前だ。


「ったく、異世界チートでもありゃ、もっと楽なんだろうけどなー。」


また訳の分からないことをのたまっているが、我と同じく全く笑っていない。まだ木陰から出てきていない個体への警戒を解いていないためだ。


「分かってると思うが、でかいのが来るぞ。」


「へいへーい。」


・・・。


実の時間にして、ほんの何秒かの後。それは急に飛び出してきた。何の前触れもなく。


ドドッ。

瞬きの時間で一気に距離を詰められる。

まずい、と思う前に、コウジの剣が火を噴いていた。文字通り。


「うーーーりゃ!」

ザザザー。大きな熊のような魔物は、獲物が居た場所から数メートルすぐ後ろで素早く方向転換をして、次のタックルの準備をしているようだった。

一方、コウジは燃え盛る炎の剣を身構えながら、軽口を叩くほどの余裕だ。いや、余裕が無くても、そういう戦闘スタイルだろう、この男は。


熊のような体をしているが、顔面には大きな目が一つ、口からはみ出す大きな牙が4本、耳の後ろには触手のようなものを何本も生やした『それ』は、忌々しそうにコウジを見たかと思うと、一瞬コチラに目を向けた。

と思った瞬間。


一気にその巨体が目の前に迫ってくる。

槍は剣に比べて接近戦が得意ではない。言い換えると、懐まで飛び込まれるとそのリーチの長さが扱いづらさに変化してしまう。


「どうりゃーーーー」


ドシッと音がした方向、コウジが居たのとは逆方向に、魔物が転がっている。


「ここまでじゃーーい!」


コウジの燃える剣が突き立てられたと思ったら、その魔物は、ビクン、ビクン、と数回痙攣のように動いたのちに、それ以上は動かなくなった。

そして、剣を指した箇所から少しずつ燃え出す。


「一丁あがり、だな。」


剣を振って表面についたであろう血を飛ばし、コウジがこちらに歩いて戻ってくる。

先程の鮮やかすぎる身のこなしと、燃える剣に私は命を助けてもらったのにもの関わらず、礼を言うのも忘れるほどに困惑していた。


「お前は一体何者なんだ?」


「は?俺はコウジ、異世界転生者だぜ?」


ニヤリと笑うその笑顔は、純粋に力を求めて高みに上った者が浮かべるような、したり顔だった。


ちょっと突然な終わり方かもしれません。すみません。

またアイデアがまとまったら加筆または続編、はたまた別作品として書くかも知れませんが、ご期待はあまりしないでください。

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[良い点] おもしろかったです。 読みやすかったですし、分量もちょうどいい塩梅だったかと思います。 終わり方はとくに気になりませんでした。 転生者を現地人からみた描写なので、こちらもいい塩梅かと。 […
[良い点]  作品としては、転生者を第3者視点から描くという意味で面白いものだと思います。  また、作品としての世界観をある程度考えているようにも感じるため、雰囲気としては良いと思います。 [気になる…
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