ヘビー級ママ ~ヘビー級プロレスラーのおっさんが捨て子のママになってしまった~
『俺女子(以下略)』の1万PV達成記念作品第二弾です!
今回は前回よりもできる限り短目にしました。
※作者はプロレスの知識はほとんどありません。
14年前、それは雨の日の出来事だった。
「えーん! えーん!」
激しい雨が降る中、道端にダンボールに入れられた赤ん坊が捨てられていた。
「……」
俺はどうしたら良いか分からなかった。ただこの子を捨てた親がどんな理由があるにしろ最低だと感じた。
このまま放っておいたら、この子は死んでしまう。
見付けてしまった以上、警察に届けてやろう。
そう思って俺はその子に手を伸ばした。
「ま……ま……」
「……ママか、お前のママはどこに行ったんだろうな」
「まま? ……まま!」
「あぁ? い、いてててて!」
その子は俺の無精髭を掴んでさっきまで泣いてたのに雨の中で輝く快晴のような笑顔を見せた。
「まま! まま!」
「痛い痛い! 俺はお前のママじゃねぇ!」
「まーーまーー! きゃっきゃっ!」
「ママ! 朝だよ!」
「ん? おぉ」
「おーきーてー!!」
「わかったから上に乗るな!」
14年後。
俺、『新龍 壊三郎』。
今年で34歳になる現役のヘビー級プロレスラーだ。
「……うへへ」
「おい、気持ち悪い笑い声出して何してんだよ?」
「だってママ起きないんだもーん、だったら晴音も一緒に寝るー」
「お前が乗っかってて起きれねぇんだよ。てか、いい加減俺の事『パパ』て呼べ、俺はお前のお父さんだぞ」
「ママはママだもーん」
今年で14歳になる娘の『晴音』。14年前に捨てられていた赤ん坊を紆余曲折あって俺の養子となり、今は二人で暮らしている。
後数年で高校生になるのに甘えん坊なのはどうかと思うが……いや、甘えるのは良いんだが……。
この14年間ずっと俺の事を『ママ』と呼び続けている。
何度言っても俺の事を『パパ』でも『お父さん』とも呼んでくれない。
しかも人前でもママと呼ぶから変な噂が立ってしまって困ってる。
そこで俺は決めた! 晴音が高校生になるまでの間に俺をパパと呼ばせる!
「なぁ晴音、何度も言ってることだがよぉく見ろ、他の友達のママと俺を比べて、それでも俺がママに見えるか?」
「え? うん」
こいつには俺はどう見えてるんだ? どこで教育を間違えたのだろうか……。
「ねぇ、今日ママの試合があるよね! 学校終わったら観に行っていい?」
「別に構わねぇが……絶対に外では俺の事ママって呼ぶなよ?」
「えー? どうしようかなー?」
こんな感じの他愛もない日常が続いているが、それでも俺は幸せだし、晴音にも幸せになって貰いたいから、今日も俺はプロレスのリングの上で戦い続けるのであった。
『さぁ今宵もやってまぁぁぁぁいりました! 男と男の真剣勝負! 果たして勝つのはどちらだぁぁぁぁ!!』
「相変わらずうるせぇ実況だな」
俺は控え室でウォーミングアップした後に専用のマスクを被ってリングへと足を運んだ。
『今宵もド派手な技を披露してくれるのかぁぁぁぁ! 赤コーナー『カイザーSABU』!』
カイザーSABUが俺のリングネームだ。
『続きまして青コーナー『ポイズン・レッカ』!!』
ポイズン・レッカ。悪役として有名なプロレスラーだ。名前の通り毒霧などの反則技を平気で使う奴だ。
少しでも油断したら無傷では帰れそうにない。
プロレスラーでありながら俺は怪我は出来るだけしたくない。
何故なら晴音が泣いてしまうからだ。
「よぉSABU。今日も盛り上がっていこうぜぇ?」
「悪いなレッカ。娘が見てるんでな、客をある程度楽しませたら、お前にはご退場願おう」
『さぁ、今ゴングがなったぁぁぁぁぁ!!』
――カァァァァァァン!
ゴングがなると同時に俺はすぐにレッカと組み合った。
「おいおい良いのかSABU? こんなに近いと視力失うかもだぜぇ?」
「いきなり毒霧でも使うのか? 残念だがこのまま技に繋げ……」
「ママー! 頑張れー!」
技に移行しようとしたら、晴音が客席から大声で応援してくれたのだが……。
(ママ?)
(誰の事だ?)
他の観客達がざわつく中、レッカが一人笑みをこぼす。
「SABU、あれお前の娘さんだよな? 前々から思ってたんだが、娘にママって呼ばせるとか、どういう教育させてんだよ、ヒヒヒ」
「何度も言うが、あの子が勝手に言ってるだけだ!」
俺はレッカを突き放してからロープへとダッシュし、ロープの反動を使ってレッカの顔面にラリアットを決めた。
「ッ!?」
俺のラリアットを喰らって倒れるレッカ、しかし俺の腕からは出血していた。
どうやらレッカの鋭く尖らせた爪で切られたらしい。
そのままレッカは何事もなかったように立ち上がって俺のバックを取り、腰に手を回してバックドロップを決めた。
「ぐはっ!?」
「ヒヒ、油断したなSABU。にしてもお前の娘って、いかにもアホそうだよなぁ」
「な、に?」
レッカはバックドロップから寝技に移行して俺に逆エビ固めを決める。
「ぐぁああああ!!」
「父親をママ、ママてさぁ、自分が恥じかいてる事にすら気付かない、父親のアンタも迷惑してるって事にも気付かない、本当にバカだよなぁ、そんなバカ娘の目の前でくたばっちまえよSABU!」
その瞬間、俺の中で何かが切れた。
「……せぇ」
「あぁ?」
「うるせぇんだよゲス野郎。俺をバカにするのは構わない、だがな、あの子を、晴音をバカにすることだけは許せねぇ!!」
強引にレッカの逆エビ固めから脱出した俺はレッカが立ち上がったと同時にドロップキックを決めた。
「ぐぇ!?」
そして倒れたレッカにジャイアントスイングをする。
「そんなにあの子をバカにしたいなら俺を倒してからにしろやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
レッカを投げた後、追い討ちとして、俺は100kg越えの自慢のヘビー級フライングボディプレスを御見舞いしてやった。
「ぎゃあ!?」
「うぉおおおおおお!!」
そこから繋げて腕ひしぎ十字固めでフィニッシュを決めた。
――カンカンカンカーン!!
『ワァァァァァァァァァァァァァァァァ!!』
大きな歓声が上がる中、俺はガッツポーズを決めた。
「ママかっこよかった!」
「おう、ありがとな」
試合が終わり、晴音と二人で帰路に着く。
そして、今日の試合のレッカの言葉を思い浮かべる。
確かに娘にママと呼ばれるのは他人から見たら変だ。
レッカみたいにバカにする人間はこの先いくらでも出てくるだろう。
だが、それでも。
「晴音、俺はいつまでもお前のママでいてやるからな」
晴音の頭を撫でながら俺は笑うのであった。
「え、急にどうしたのママ? くすぐったいよ~」
「ハハハ! さ、今日もママが美味い飯食わせてやるからな!」
奇妙なママの戦いは、これからも続いていくのであった。
この話ができたキッカケは、なんかTwitterで「Vtuberさんのママになりましたー」て、のをよく見掛けて「閃いた!」んで、この作品ができました。
Vtuberさんのママの皆さんにはちょっと申し訳ない気持ちがあったりなかったりする、そんな作品です。