第一話【世酔】
短め
前編「世酔」
上を向いてなんとやら。
教科書にもある有名な歌。
明るい歌。
元気になる歌。
詭弁だと思う。
こんな軽いリズムに乗せられて書き連ねなれた歌詞は
どれをとっても悲しみと哀愁に絶望で彩られている。
「好き」明るい言葉だ。
誰もが知っている言葉。
明るい意味に溢れ、元気に満ちてと気に悲しみを含めど最後には大団円。
戯言よ。
この言葉は、この感情は誰にも規制のかけられぬ麻薬、媚薬。
それを知りながらも私たちは踏みとどまれない。
「恋」という枠組みはあれどその過程は星屑のように。
数えきれぬほどもある。例えばそう、
俺は彼女が好きだ。でも私は彼女に恋をしてはいけない。
そう世界は決まっていて私、俺たちの感情はここに縛られる。
この一山幾らの捨て値で売れそうなチャチャな絶望をどうしてやろうか。歌でも作ればよいのだろうか。
思い立ったら動くべき。俺は銀に光るアレを取り手首の玄を掻き鳴らす。
紅い玄で鳴らない音を奏でれば、胸に走る清涼感。
この重苦しい胸も少しは楽になる。
…足りない、足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない。
……そうだ、俺はペットボトルのキャップにアルコール消毒のエタノールを注いだ。
そこに一本、彼女の髪を潜らす。呷る。
喉をヤクコノイタミガキモチワルクテキモチイイ。
安い消毒液は、胎児に影響がでるから飲んではいけない、保険の授業で聞いた。
だからこのイヤな体を壊すために、飲む。
彼女に酔えるなんて変態的なといわれても仕方ないじゃないか。男ってのはこういうもんだろ?……寝るか。
火照る体を指で慰め、上を向いて寝た。苦しさで枕が濡れぬように。