俺と僕とヒーロー
明けましておめでとうございます!
時間というものはあっという間で気づけば一ヶ月。春の陽気からじめじめとした梅雨の時期を迎えようとしていた。
「今日も雨か……」
子虎となった俺は留守番として境内で丸まっていた。
功太はいつものように学校に行き、虎姫さんはその功太が傘を忘れたらしくそれを届けに行っている。
この約一ヶ月程の期間は中々に疲れるものだった。
取り敢えず“脈動”が使えるということで虎姫さんと功太の二人がかりで俺に週五回の特訓を行い、功太は功太で習慣づいている修行を虎姫さんと行い……なんか思い出すと体が震えて来たな。失敗したらモフりの罰があって精神もすり減ったし……はぁ、今になって前の世界が恋しくなってくる。これがホームシックという奴か……。
「……ん?」
そんな軽い憂鬱な気分になっている時に、目の前の境内に登る階段から嫌な雰囲気が漂って来ている。こんな雨の中、なんだろうか?
というか修行のおかげで気配とか読めるようになった俺って凄いな。
「近づいてくる……」
そんな腑抜けた事を言っている間にも嫌な雰囲気、殺気が徐々に近づいてくる。
怖い。体が震える。
無意識の内に体が修行の成果を表すように戦闘体制に移行していた。
まず見えたのは黒い傘。そして、次に黒い縁の長い帽子に喪服のような黒い服装の女性が現れた。いや、本当に誰だろうか。長い縁のせいで顔はよく分からないし、こんなに殺気を放っているという事は余程の怨み辛みをこの神社に持っているのか……よく分からない! でも誰か助けて! ヘルプ!
「……あら、可愛い子猫だこと……」
俺の姿を見てポツリと呟く女性。うわー、鳥肌がたちまくって今すぐ逃げたい。
「そんな可愛い子猫ちゃんに質問があるんだけど……」
その時、降っていた雨が止んだ。いや違うな。女性を中心として雨が吹き飛んだ。その表紙に傘やら帽子も飛んでいった。そして女性の顔が露になった。
一言で表すと修羅。
肩まで伸ばしていた黒髪が逆立ち、今にも俺を殺そうとギラギラとした目で睨み付ける。
「ここにいた家族はどこにいった!!」
あ、無理です。勝てるとか足止めとか考えれないです。
俺は今出来る限界の早さで隣の林に逃げようとした。しかし、それは余りにも遅かった。
「逃げるな!」
気づいたら俺は修羅とかした女性に首を掴まれ締め上げられていた。どういう速さしてんのこの人! いやまず人間かこれ?
「逃げるという事はこの島で起こった事を知ってるんでしょ! ならそれを私に教えなさい!」
「に、にゃあ……」
「……そんな誤魔化しか通じるとでも?」
女性は俺の反応が気に入らなかったのか、締め上げる力を強くする。く、苦しい……。
「一目みた時から貴方は只の猫じゃないって私は分かってるのよ。今度ふざけた真似したら……首をへし折るわよ?」
「わ、分かった……」
「よろしい。じゃあ今のこの島の異変について説明をーー」
「雫さん、止めて!」
な、ナイスタイミング功太!
俺が今にも殺されそうになっていた時に慌てて境内の階段を二人が登って、修羅の女性にそう叫ぶ。
すると、みるみる内に力は弱まり俺は地面に落とされた。
「へぶ」
「功太君!」
落とした俺なんぞ目もくれずに功太に一直線に向かう女性。だが、それを間に入って止める人がいた。
虎姫だ。
「あの、すみませんがどちら様でしょうか?」
「天下原雫。功太君の親戚ですが……あなたは?」
「あぁ、親戚の方でしたか。私は虎姫。今は二人のお世話をしているものです」
「……虎姫? ははは、ご冗談を。 その名前はこの島で封印されている神様の名前ですわよ?」
「はい、その通りです。私がその虎姫です。封印は当の昔に破いていましたので」
「……へぇ」
「……はい」
何か二人の間でバチバチと火花が散っているように見える。遠目でよく分からないけど。
「ち、ちょっと二人ともそんなに険悪にならないで、取り敢えず雫さんに説明したいから家に入ろう?」
「……まぁ功太君がそう言うなら」
「従いましょう」
「俺は風呂に入りたい……泥で体がべとべとだ……」
「じゃあ私が「功太ー。頼むー」……しょぼん」
功太のおかげで最悪な展開は回避された。流石は八歳児。大人の女性には効果抜群だな。あ、おい、虎姫さん。汚れた俺も良いとか呟きながら距離を詰めるな。怖い怖い。
そんなこんなしながら四人は境内の裏にある自宅へと向かった。




