テントウムシの冒険
お子様に読み聞かせられるお話を意識しております。
ある公園の草むらに、一匹の元気なテントウムシがおりました。
でもそのテントウムシ、今少し悩んでいます。
「ボクは一体どんな色で、ホシがいくつあるテントウムシなんだろう」
そう、実はこのテントウムシ、自分がどんなテントウムシなのか知らないのです。
自分の背中は自分で見ることが出来ません。
「悩んでいても仕方ない。誰かに聞いてみよう」
テントウムシはチョッチョコ、トットコ、草むらを歩きます。
大きなネコジャラシのクキで、仲間のナナホシテントウに出会いました。
彼は赤色で七つのホシがあるテントウムシです。
「こんにちは、ナナホシテントウさん。ちょっと聞きたいんだけど、ボクの背中は何色なのか教えてくれないかい?」
「色なんて、何だって良いじゃろ」
ナナホシテントウはのんびりとネコジャラシを登ります。
「でも気になるよ。ボクは自分のホシの数も知らないんだ」
「ホシなんて、あっても無くても変わらんじゃろ」
「うーん、そうかなぁ?」
テントウムシは納得いきません。
「別の誰かに聞いてみよう」
テントウムシはチョッチョコ、トットコ移動します。
ツツジの木の枝に、ホシがない黄色いテントウムシが休んでいました。
「こんにちは、キイロテントウくん。ちょっと聞きたいんだけど、ボクの背中は何色なのか教えてくれないかい?」
「さぁね。興味ないし、教えてあげないよ」
キイロテントウはツーンとソッポを向きます。
「そんなぁ。じゃあ、ボクのホシの数を教えてくれないかい?」
「さぁね。面倒くさいし、数えてあげないよ」
「うーん、ダメかぁ」
テントウムシは悲しくなってしまいました。
「別の誰かに聞いてみよう」
テントウムシはチョッチョコ、トットコ、ツツジの木を登ります。
ツツジのてっぺんにカマキリがいました。
「こんにちは、カマキリさん。ちょっと聞きたいんだけど、ボクの背中は何色なのか教えてくれないかい?」
「いいぜ。見てやろう。ちょっと後ろを向いてみな」
テントウムシは喜んで、クルリと背中を向けました。
カマキリはカマを揺らし、ギヒヒと笑います。
「よく見えないなぁ。もう少し、近くに寄ってみな」
テントウムシがカマキリに近付こうとすると、空から声が聞こえてきました。
「そこの君、危ないよ! それ以上近付いたらカマキリに食べられちゃうよ」
「それは大変だ!」
テントウムシは慌ててプワンと飛び立ちます。
下を見てみると、カマキリが悔しそうにカマを振っているのが見えました。
「あぁ、危なかった。助けてくれたのは誰だろう?」
テントウムシが不思議に思っていると、もっと高い所から声が聞こえてきました。
「ボクだよ、トンボだよ」
スゥーッとトンボがテントウムシの周りを飛び回ります。
テントウムシがすべり台の上にとまると、トンボも隣にとまりました。
「助けてくれてありがとう」
「どういたしまして」
テントウムシは親切なこのトンボに、背中の色を聞いてみる事にしました。
「トンボさん。ちょっと聞きたいんだけど、ボクの背中は何色なのか教えてくれないかい?」
「うーん。ボクの目は、沢山のモノが見えすぎるんだ。色んな色が飛び込んでくるから、よく分からないなぁ」
トンボの大きな目玉には、確かに沢山の景色が写っています。
「じゃあ、ボクのホシの数も分からないのかい?」
「ちょっと分からないなぁ。ごめんよ」
「気にしないでおくれよ」
分からないんじゃ仕方ありません。
「別の誰かに聞いてみよう」
テントウムシは親切なトンボと別れ、イチョウの木までプワンと飛びます。
イチョウの木の枝に、一羽のハトが羽を休めていました。
「こんにちは、ハトさん。ちょっと聞きたいんだけど、ボクの背中は何色で、ホシがいくつあるのか教えてくれないかい?」
ハトはクイクイと首を傾げます。
「ごめんなさいね。私はあまり目が良くないの。あなたは小さすぎて、色も模様もよく見えないわ」
「そうなんだ」
見えないんじゃ仕方ありません。
テントウムシはほとほと困ってしまいました。
「ボクは誰に聞けば良いんだろう」
ハトはクルックーと喉を鳴らします。
「誰かに聞くんじゃなくて、自分の目で確かめてみたらどうかしら?」
「どうやってだい?」
「ここの近くにある別の公園に、綺麗な池があるのよ。その池の水に、姿を映してみたらどうかしら?」
「そうしたら、ボクの色も、ホシの数も分かるかな」
テントウムシはハトにお礼を言って、池のある公園を目指すことにしました。
プワン、と飛ぶテントウムシ。
こんなに長い距離を飛ぶのは初めてです。
「遠いなぁ」
でもテントウムシは、どうしても自分がどんなテントウムシなのか気になるのです。
「頑張るぞ!」
テントウムシがやっとの思いで辿り着いた公園には、立派な池がありました。
水面はお日様の光を浴びてキラキラしています。
「よし、早速見てみよう」
テントウムシは葉っぱを伝い、おそるおそる池を覗き込みます。
でも映っているのは自分の顔とお腹ばかりです。
「そうか。背中は映らないのか」
テントウムシはガッカリしました。
でも、どうしても諦めきれません。
「そうだ。うんとうんと高く飛んで、池に向かって真下に飛んでみよう。羽が映るかもしれない」
テントウムシはプワンと飛び上がります。
そして、頑張って頑張って、うんと高く飛びました。
「少し怖いけど、降りてみよう!」
テントウムシは勇気を出して、池に向かって一気に降りました。
キラキラした水面に、テントウムシがグングンと近付く姿が映ります。
「わ、わ、早い! このままじゃ、池に落ちちゃうよ」
大変です!
慌てて止まろうとしますが、テントウムシはとても疲れていたせいで羽が上手く動かせません。
「もうダメだぁ」
ヒューッと落ちていくテントウムシ。
危ない!
テントウムシが目をつぶると、何かの上にポトリと落ちました。
なんだかとっても柔らかい。
どうやら水では無さそうです。
「何だろう?」
おそるおそる目を開けると、綺麗な羽が見えました。
テントウムシが落ちたのはカモの背中だったようです。
「助かった。ありがとう、カモさん」
「どういたしまして。危ない所だったようだね」
カモはスーイと泳ぎ、テントウムシを岸まで送ってくれました。
「君は池の上で何をしていたのだね?」
「ボクはボクの背中の色とホシの数が知りたかったんだ。だから、池に映るボクの羽を見にきたんだよ」
カモは「そうか」とクチバシで羽を整えます。
「それで、君は背中の色とホシは見られたのかね?」
「うん!」
テントウムシは元気一杯に答えました。
「ボク、黒色で赤いホシが二つあるナミテントウだったんだ! やっと分かって嬉しいよ!」
「そうか、それは良かった」
テントウムシ……いえ、ナミテントウは大喜びです。
カモも自分の事のように喜んでくれました。
「ところでナミテントウくん。君は自分の事が分かって、それでどうするのだね?」
「特にどうもしないよ。ボクはボクだもの。前よりも黒と赤が好きになったけど、他は何も変わらないよ」
「そうか」
カモとお話している間にたくさん休めたナミテントウは、すっかり元気の元通りです。
ナミテントウはカモにお礼を言って別れると、元いた公園に帰ります。
そして、親切にしてくれたトンボやハトに背中の色とホシを教えてあげました。
「あのね、ボクは黒色で赤いホシ二つのナミテントウだったよ!」
元気なナミテントウは、ある公園の片隅で、今日も楽しく暮らしているのです。
おわり