贄姫
短いですが
いつだかわからないほど昔のはなし。
ある村にジロスケという若者が住んでいた。
ジロスケの家はどこにでもある平凡な農家で村はそれなりに大きな村だった。
村の近くの川は3年に1回水があふれ田んぼや畑をダメにしていた。
村の人々は水神様が怒っていると考え、毎年一人村から生贄をだすことにしたのだった。
それが20年前の話だ。
生贄に出される者は村長が丘から射った弓が当たった家の娘と決められその娘を贄姫と呼ぶ。
ジロスケの友達も何人かすでに生贄にされてしまっている。
しかし、いまだに3年に1回の川の氾濫は収まることはなかった…
そんななか今年も贄姫を選ぶ日がやって来た。
その日村はお祭りみたいに騒がしくなる。
「気持ち悪い…」
人が一人死ぬことになるのによく陽気にいられるなとジロスケは思っていた。
「あ!ジロくん!そんなところで何してるの?」
幼馴染みのマチだ。長い髪に白い肌。この村じゃ珍しいほど綺麗で男友達からも人気だ。
「俺はこんな祭り楽しめない…」
「なんで?美味しいご飯いっぱい出でるしガヤガヤしてて楽しいよ??」
「斜め向かいのキミねぇちゃんもトクちゃんも生贄にされたんだぞ!!今日はお前かも知れないんだ!!わかってるのかよ!!」
「そうだけど…いっぱい人がいるし私ってことはないよ」
「気持ち悪いよ!!あんなの何の意味もないのに!!」
「ちょっと。どこ行くのジロくん!」
ジロスケはマチに背をむけ村の中心地から逃げ出すのだった。
日も沈みお祭りも佳境を迎える。
村長は赤い服を着ると数人の男たちを後ろに従え丘へと登っていく。
村人は矢に当たらないよう家の中に入る。
それからどれくらいたっただろうか村長がまた男たちを後ろに従え丘から降りてくる。どうやら決まったようだ。
男たちは家を一軒一軒周り探すのだ。そして見つかると大声を出しながら家の中に押し入り娘を捕まえる。毎年見ているがやはり狂った光景だ。
今年の生贄はマチだった。
マチの家に押し入った男たちは暴れ泣くマチを無理矢理捕まえ。にこやかな顔で出てくる。
「お母さん助けてお母さんおかあさんおかぁ…」
「…」
を捕まえられたマチの親はひどく青ざめていたが決して文句は言わない。
諦めたのか暴れることをやめたマチは運ばれていく。途中でこちらに気づいたのか目があった。
悲しげで絶望をしている目だった。
捕まった娘はまず村の神社に数日間監禁される。お酒を無理矢理飲まされ生のお米を食べさせられ心身ともに衰弱仕切った時に初めて贄姫として生贄にされるのだ。
ジロスケは使命感にかられていた。助けなければならないと思ったからだ。なんでそう思うのか村の掟を破るということの恐ろしさもわかっていた。しかしどうしても助けたいのだ
男友達に力を借りれないかといつもの溜まり場に行ったのだが
「贄姫になったんじゃしゃーないよ。あきらめよ」
といった具合にこの制度を受け止めてしまっている。
手伝ってもらえる人もなくジロスケは一人でマチを助けることになった。
20年の間1度も贄姫が脱走することはなかった。なぜならほとんどが受け入れてしまうからだ。死ぬことを殺すことを殺されることを
ジロスケはやっとの思いで神社の警備の交換の隙に忍び込みマチのいる部屋の前まで入ることに成功する。マチがつれていかれて3日目だった。
部屋にはお酒の臭いと濡れた犬のような少し生臭い香りが漂っていた。
「マチ…マチ俺だ。助けにきた」
「…ジロくん。ジロくん…私はもう死ぬしかないの…もし逃げられても…もう…」
暗闇の奥から弱々しい声だけが聞こえる。
「もっとこっちに来いよ。今開けるから」
「こんな姿見せられない…」
「いいから早く来るんだ。あいつらが帰ってくる」
「…うん。」
暗闇の奥から闇にはえるような白い肌をだしたマチがふらふらと歩いてくる。
「…」
「見ないで…」
「うん…行こう。」
「うん。」
「歩ける?」
「…うん」
「うん…」
そうしてジロスケはマチを助けることに成功した。しかし村に帰ることもできない。
「二人で暮らそう。誰もいないところで」
「ジロくんがそれでいいなら…」
「ああ、それでいい」
二人は再び賑やかになった村から抜け森を抜け、誰もいない所に家を建てた。
それから数ヵ月後マチは子供を産んだ。
風の噂だが村ではジロスケの親とマチの親が斬首の刑にあい。新しい贄姫も選ばれたらしい。
しかしジロスケはマチが救えたから満足だったのだ。
その後マチとジロスケがどうなったのか誰も知らない。
少しだけエグいかも…