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覚醒そして最終回






やはり白い世界にいた

ちゃぶ台やタペストリーは無くなっており、代わりにソファーが置かれ、その上で少し宙に浮いた今週号のジャンプがペラペラと捲れていく…おそらくそこに目には見えないティナが居るのであろう…ソファーを囲うようにエアコン、空気清浄機が稼働して心地よい空気を送り出している、床?にはプレステが乱雑に置かれソフトも剥出しの状態でタイトルと中身がバラバラに入れ替わるように入っている、空中にはガラスのコップが浮き、中にはコーラが注がれ、そのすぐ側にはポテトチップのり塩味の袋が口を開き、やはり空中をふわふわと漂っている

柾はといえば、パンツの上に剣道の防具を身に纏い竹刀を帯刀し背中には日本一と書かれた旗を差し、腰にはだんごを入れた巾着をぶら下げた珍妙な格好をして、ただ突っ立っていた


先に口を開いたのは柾だった「あのーティナさん?何で私はこんな格好しているんでしょうか?」

ティナ「黙れ、今いいとこなんだよ」


柾「………」

柾(くそー良い部屋に住みやがって、てか俺が改変して手に入れようとした物じゃねーか…)

とりあえず柾は正座して竹刀を床に置き小手を外し床に並べ、並べた小手の上に外した面を顔の金属の部分が小手に当たるように丁寧に置く

面を外して気が付いたが丁寧にも手拭いが頭に巻かれている、手拭いで首や額を拭う…異変に気付く…坊主頭になっている…この手拭いが頭に吸い付く感じ…髪の長さは1ミリ~2ミリだろう

柾「俺の髪がぁ~~!?!!」

ティナ「うるせぇ!!!!!」


ティナ「チッ!仕方ねー相手してやるか…漫画村が閉鎖して暇だったのによ~」チッ!

柾(メッチャ舌打ちしてる…機嫌悪いんだな…)

ティナ「で?」

柾「いや~改変の力を使ったはずなんですけど、何で失敗したのかな~と」

ティナ「そんな事もわかんねーのか、使えね」チッ

ティナ「アレだよ…前置きが長かったんだよ」

柾「え~…それが原因?」

ティナ「バトル漫画でもあるだろ?散々前置きだけ長くていざ戦ってみたら圧倒的大差で負けちゃうような雑魚、そういうのをこの世界では噛ませ犬とかギャグ漫画ならフリって言うんだよ」

ティナ「柾がやってたのはそれだよ、あんだけ長々とイメージ練ってたらそりゃ作者的にもフリかな?って思うだろ…ったく…当たり前だろ」チッ!

ティナ「やるならこうやるんだよ」

そう言うとティナは何もなかったはずの空中からオトナの雑誌を出現させた

柾(……!!俺の秘蔵エロ本が!)

ティナ「……やっぱり変態だな…見た目も中身もやっぱり変態だったか…」

柾「…何の事ですかな?私…そのような低俗な雑誌全く身に覚えがありませんが…それに私も17歳の健全な男子高校生でありますからして、別にそういった物をとやかく言われるのはガラスのハートが砕け散り星屑に…」しどろもどろ

ティナ「へぇー…アスリート系筋肉女子が良いのか…ハッサソぴったりじゃん」ペラペラ

柾「その雑誌にそんな特集ねーよ!!」


柾「…あっ…」



ティナ「…話が逸れたな、改変の力を使う時は出来て当たり前みたいな空気を出す事が、成功させるコツだよ」

柾(ちょっと機嫌が良くなったみたいだ…)

柾「あのーティナさん、もう1つお訊きしたいのですが…次回予告で今回最終回って言ってたんですが」

ティナ「あーこのまま行くとマジで柾(主人公)死亡でバッドエンドだろうな」

柾「…死んだらどうなるの?」

ティナ「私は死んだ事ないから知らん」


柾「………」


ティナ「…まぁ助けてやらんでも…ないが…」

柾「!!マジで!?絶対ティナは助けてくれないと思ってた!」

ティナ「失礼だなこのヤロー、まぁバッドエンドになるかどうかは、柾の頑張り次第だけどな…私としても大切なオモチャが簡単に壊されるのは嫌だし…」

柾「?あぁ、何だってやってやるぜ!」

ティナ「では、今から私の事を師匠と呼ぶとよい」

柾「はい!師匠!」

師匠「うむ、良い返事じゃ…実はこの白い世界は重力、空気の薄さ、温度等を自由に調整出来るんじゃ…更にはこの世界で過ごす1年は外の世界では5分に満たない…ワシはこの世界を精神と時の部屋と呼ぶ事にしておる…」

柾「はい!師匠!マジで丸パクりです!」

師匠「柾よ!今からお主にはこの部屋で修行をしてもらう!必ずや強くなり、死刑になる未来を変えるのじゃ!よいな!」

柾「はい!師匠!」

師匠「では、ツッコミ素振り10000回始め!」

柾「はい!…えっ?ツッコミですか?師匠?」

師匠「当たり前じゃろう!それとも死刑になりたいのか?」

柾「!!!い、いえ!やります!やらせて下さい!」

師匠「ホッホッホ…ワシの修行は厳しいぞい」


かくして柾の修行は始まったのだった


師匠「違う!ツッコミ一回一回に感謝を込めるんじゃ!」

柾「はい!師匠!…気を整え…拝み…祈り…構えて…なんでやねん!…気を整え…拝み…祈り…構えて…なんでやねん!」ハァハァ

柾(空気が薄い…ツッコミという単純な動作のはずなのに、次の動きを考える事さえ脳が酸素を必要としているのか…ぼんやりとして苦しい…それになんだ、この重力は…!地球の2倍はあるか?ツッコミをする腕がまるで重りを付けたみたいだ…温度は27度、湿度90%だと?春先のビニールハウスのようではないか!暑い…汗が流れる…!)



師匠「よし!本日はこれまで!しっかりと飯を食べ明日に備えるのじゃ!」ポテトチップのり塩味バリボリ…コーラ グイー


柾「……」ハァハァ

柾(飯…そういえばだんごがあったな…何で俺はお茶菓子ばっかり食べてるんだろう…)

柾は腰に着けた巾着に手を伸ばす…ベタベタしている…巾着の中身を確認する…みたらし団子が入っていた…

柾 (タレでベッタベタじゃねーか…!)

柾「きび団子じゃねーのかよ!なんでやねん!」


ツッコミLv1→Lv2


師匠「うむ!良いぞ柾その調子じゃ!」

柾「はい!師匠!ありがとうございます!」


一年後


柾「気を整え…拝み…祈り…構えて…なんでやねん」ス…パッァァン

柾「気を整え…拝み…祈り…構えて…なんでやねん」ス…パッァァン

柾「目標をセンターに合わせてなんでやねん」ス…パッァァン


師匠(うむ、素晴らしい集中力じゃ…ツッコミが音を置き去りにしておる…)

師匠「よし!本日はこれまで!」

柾「はい!…あれ?まだ感謝のツッコミ素振り10000回を始めて一時間位しか経っていない?最初に始めた時は1日掛かったのに…それに全然汗かいてないですよ師匠?」

師匠「それだけツッコミが上達していたという訳じゃよ、それに今この空間の空気はエベレストの山頂と同じ位、重力は地球の10倍、温度と湿度は夏のビニールハウスと同じ位じゃ、それだけ体も鍛えられたようじゃの」


師匠「柾よ!次が最後の修行じゃ!今までの修行の成果を見せるのじゃ!」

柾「はい!!!師匠!!!」

師匠「よろしい、次にワシがボケた時にツッコミを入れるのじゃ…そうすれば、おのずと自らの力が分かるであろう」

柾「はい!!!師匠!!!」



柾「この修行自体なんやねん!こんなん修行ちゃう!茶番やで!!なんでやねん!!!」パッァァァン!!!


師匠(ワシがボケる前にツッコミを入れるとは…!速い…!)


柾「いつでも師匠ヅラしとんねん!」パッァァァン!!!


ティナ(…私の師匠設定を打ち破るとは…!この力…想像以上!)

ティナ「合格だ!免許皆伝のようだな、これで一流のツッコミマスターだ!おめでとう柾!」


柾「合格?免許皆伝?これで死刑にならずに済むんですね!」

ティナ「…え?…知らない…けど?なんとかなるんじゃない?」


柾「…なんでやね~~~ん!!!!!」スゥ…パァァァン!


ツッコミLv2→LvMAX



ティナ「とりあえず修行終了おめでとー」カラ~イカバリボリ

柾「うん、修行して自信が付いた…気がする…」

ティナ「実際結構強くなってるはずだよ」サイダー グイー

柾「そう…かな~俺ってそんなに強くなったかな!?」

ティナ「うん無双無双!マジ最強だって!髪も生えたし気持ち身長も伸びた気がする!カンゼンニモテモテダヨー」

柾(…なんか行けそうな気がしてきた!!!)


ティナ「そろそろ柾にも伝えるべきかな…」

柾「?何が?どうした?改まって…」

ティナ「この世界の事…柾の世界の事…改変と創造の力について…詳しく」

柾「小説の中なんだろう?改変は分かるけど創造の力?」

ティナ「私も分かる範囲でしか語れないけど…」


ティナ「私達も柾と同じなんだよ…現実世界から気が付いたら小説の中にいつの間にか立っていた…私が最初にいた世界も柾の世界と同じように私にあらゆる苦難や困難を与えてきた…それでなんやかんやあって、私は今に至る…」


柾「…な、なんやかんや…ぜ、全然わからねぇ…ティナも現実世界から来たのか…」

柾(世界よりもティナとハッサソに苦しめられてる気がするが…)


ティナ「あぁ、私は口下手だから…上手く説明出来ないが…その世界で何度も死にかけて嫌になって、なんのイベントも起きないこの白い空間に引きこもってる、それであまりにも暇だから柾を見つけておちょくって暇を潰してるってわけ」


柾(…今更ティナの性根については言及しないが、あのティナが引きこもる程だ、いろいろあったのだろう)


柾「うん?じゃあ俺も向こうの世界に行かないでここに引きこもる事も出来るんじゃ…」

ティナ「ハァ?私が暇になるだろうが!変態ヤローと一緒になんて居られるか!」

ティナ(それにここも絶対安全とは言えないし、柾は向こうの世界に行くといいよ!うん)


柾「心の声と口に出してるの逆じゃないですかね…」


ティナ「そういう事だから柾は向こうの世界に行く度に大変な事になると思うけど、頑張ってね」

柾「何がそういう事なんですか…」

ティナ「物語に危険とか困難が無ければ面白くないだろ!本当に物分かりが悪いな」チッ

柾「はぁ…」


柾「創造の力って言うのは?」

ティナ「あー…説明するのめんどくさくなってきたなー…とりあえず、右向いてみ?」


柾はティナに言われるがまま右を向いてみるが、ただ白い空間がどこまでも続くだけで何も見当たらない

柾「何もないぞ?」

ティナ「今、説明書きが出ただろう?補足って言うの?その説明書きが出る前に文章を改変する事を私は創造って呼んでる、使えるようになると便利だよ」


柾「あー、ずっと出てるよな…つまり過去を変えるのが改変で未来を変えるのを創造って呼んでるのか」

ティナ「この2つを使いこなせれば死刑にはならない…はずだよ」


柾(今回ティナはいろいろ教えてくれた…俺の最終回に思う所があったのかもしれないな…間接的とはいえ、手助けをしてくれている、本当は俺が思うよりも優しい奴なのかもしれない)


柾「最後に訊いてもいいか?現実世界に戻りたいとは思わないのか?」


少しの間を置いて絞り出すようにティナは語り始めた

ティナ「私は…もう…諦めちゃったんだよ…この世界になんの不自由もないし、柾みたいな奴のナビゲーター役も悪くないかな…って、でもハッサソはあんなムキムキになっていろいろな世界の物語を冒険してる…まだ諦めてないんだよ、きっとどこかに本当のエンディングがあるって…現実に戻れるって信じて…」


ティナ「お願い…柾…ハッサソを助けてあげて…」


ティナの悲しそうな、泣き出しそうな、今にも消えてしまいそうな…儚くて朧気で…そんな声を初めてきいた

柾(ティナとは短い付き合いだけど、初めて本音をぶつけてくれた気がする、姿も見た事の無い彼女だけど、ティナが簡単に嘘をつくような人ではないと俺は知っている、見た目に関してはきっと言いたくない、言えない理由があるのだろう…それが呪いなのか、なんなのかは分からないが、女性の嘘は黙って流すのが男だろう…挑発的な態度で威圧的で高圧的な彼女だけど、それでも、だからこそ本当の彼女は誰よりも優しく、弱いのだろう、そんな彼女を、いや彼女達を見捨てるような事は出来ない)


柾「ハッサソだけじゃ駄目だ、ティナも一緒に帰ろう!俺が最終回なんか、ブッ壊して本当のエンディングを見つけてやる!」


ティナ「あっそ…じゃあがんば~いってら~」うちわパタパタ

柾「…冷たく…ないっすか?」シュワシュワシュワ




ティナ「ブタもおだてりゃ勝手に冒険するってな…これが創造の力だ…」


師匠「白き世界は白紙の世界…描いた文字は足跡となり軌跡となりやがては奇跡となる…全ての物語を歩いた先で振り返ればそこには希望があるか、はたまた絶望への序曲なのか…進むがよい進んだ先に必ず真実はある…求める物とは違うとしても」









6日目終了あと1日


柾「牢屋の中か…ちょっと懐かしい気がするな」

ティナとの修行を経て一年振りの物語再開である、前回と状況は全く変わってはいないが、過酷な修行が柾の全身から根拠の無い自信を溢れ出させていた

柾「とりあえず状況確認だ…装備は相変わらずパンツに胴と垂、ゲームボーイ…あっ…竹刀、小手、面ティナの所に置いてきちゃったな…まぁいいか」

柾「食糧もだんごは食べちゃったからカルピスの原液だけ…それも大丈夫だろ、今日中に脱獄すればたいした問題はないし」

柾「それじゃあ、行きますか!」そういうと柾は軽く腕を回して錆びの浮いた鉄柵を掴むと思い切り力を込める


柾「ふん!うががが!ぬぅおー!おりゃ~!」


鉄柵はピクリともしない


柾「ハァハァ…あの修行はいったい何のために…」

柾「…どうやって脱獄すればいいんだ!そうか!きっと俺が気が付いていないだけでかめはめ波とか撃てるようになってるんじゃ…」

柾は例のあの構えを取る、男子たるもの必ず一度は、本気になれば、かめはめ波が撃てるんじゃないかと夢見るものである

ましてやここは小説の中だ使える可能性は十分過ぎるほどある…!


柾「かぁ~めぇ~はぁ~めぇ~!」


掌に熱い物を感じる!薄暗い牢屋の中が明るく照らされた……気がした


柾「波ァァァーーーーーー!!!!」スカっ!


柾の渾身のかめはめ波はむなしく空を切る


柾「…なんか行けそうな気がするな」

その後も何度もかめはめ波を試す柾


柾「波ァァァーーーーーー!!!!」ぽふっ!

柾「波ァァァーーーーーー!!!!」パすっ!

柾「波ァァァーーーーーー!!!!」ぱみゅ!


柾「まぁ一年修行した位でそんなケンシロウとか悟空みたいな事が出来れば苦労しないよな、実際ツッコミの練習しかしてないし…」

美月「あのー…」

柾に声を掛ける一人の女性、その女性は柾の向かいの牢屋に居たようで、声を掛けるタイミングを完全に見失い、柾の一連のやり取り?を見届け申し訳なさそうに声を掛けてきた

柾「ビクッ?!!!……やぁ…あのこれには牢屋の中で体が鈍らないようにする体操で深い意味は…ハハッは…」

柾は咄嗟に言い訳を口にしながら、あたかも最初からあなたの存在には気が付いていましたよ的な空気を醸し出しつつ恥ずかしさを押し殺していく

柾(キャーハズカシー全力でかめはめ波撃とうとしてるとこ見られた…!)

美月「もしかしてというか…日本人ですよね、背中に日本一って書いてあるし」

柾にとってその冷静な返しはキツく、いっそのこと笑い飛ばしてくれた方が心の傷は小さくて済むのにと思う反面、日本人というワードをこの牢屋で聞けるとは思ってもいなかった…多少の動揺をしながらも声の女性が居るであろう向かいの牢屋に視線を向ける…薄暗い牢屋で目を凝らした先には巫女装束を着た黒髪の綺麗な女性が座っており柾はその見た目からすぐに同じ日本人だと理解した


柾(あぁー…このパターンはまずい…流石の俺でもだんだんと、どういう展開になるかは読めてくるぞ…)

客観的に見て宮島のタペストリーと白虎隊の旗を牢屋に飾り自身の背中には日本一と書かれた旗を掲げパンツに胴と垂の格好をして、かめはめ波を全力で出そうとしていた男である、どう贔屓目に見ても頭のおかしなヤベー奴だと確実に勘違いされるだろう、いや…されているだろう

柾(最初の一言が肝心だ…これ以上絶対に勘違いされる訳にはいかない…!紳士的に!)


柾「ボンジュール ナイストゥミーチュー コートジボアール マイネームイズ MASAKI MATUMA Hahaha~!…オーイェー」



美月「……あ、はじめまして私は火乃森 美月…です」


柾「………」

美月「………」


駄目だった…美月の柾に向ける視線はどこか余所余所しく、しばらくの沈黙が続く


柾は何か話し掛けなければと思いつつも、そういえば現実世界で高校生をやっていた頃は自分から女子に話し掛けた事ないな…引っ込み思案で奥手で童貞だったもんな…等と思いながらも沈黙に耐えられず現実逃避をする為にゲームボーイに手を伸ばした


単音のどこか懐かしい音が牢屋に響く


柾は牢屋の暗がりの中、美月の方をチラと見る

同じくらいの歳だろうか…落ち着きがあり大人びた印象を受ける


柾(ユアちゃんの時は見た目が異世界の住人って感じで現実的じゃなかったから、気軽に話し掛けられたんだな…同じくらいの歳の、しかも日本人の女の子と楽しくトーキングできたら今頃童貞なんかとっくに…)ピコピコ…


柾(美月さんも俺と同じように小説の中に迷い込んでしまったのだろうか?)ピコピコ?

柾(話し掛ければ何か情報が掴めるかもしれない……よし!ゲームが一区切りついたら話し掛けるぞ!)ピコ!


美月「うるさい…」ぼそ

柾「ピコッ!!…あ、ごめんゲームうるさかった?」

美月「いや、そうじゃなくて……」

美月は言葉を濁す


美月「実は私…信じてくれなくてもいいんですけど…」

柾「?」

美月「見ての通り巫女をしていて…霊感があるんです」

柾「はぁ…」

美月「その…MASAKI MATUMAさんに憑いている人がうるさかったもので…つい…」

美月のMASAKI MATUMAはかなりナチュラルでネイティブな発音だった

柾「…柾でいいよ、それより俺に霊が憑いてるの?!まじか…そういえば初日に幻聴が聴こえたような…悪霊?どんな人…?」

あまり怖い話は得意ではないが嫌いでもない柾は恐る恐る訊く

美月「信じてくれるんですか?」

柾「信じるもなにも、心当たりがあるからな…なにか俺に伝えたい事でもあるのかな?」

美月「その人の言ってる事をそのまま柾さんに伝えます」


たンクトップがみつからなくて

すパーリング以来会えなくてごめんね

けっこんし

て一年が経ち

こどもが生まれました

こどもはお父さんに

にた元気

いっぱいな女の子だよ、名前は

るみ子です

よろしくね


美月「と筋肉隆々の女性の霊が言っています」

柾「縦読み!?…あ、あぁー、そう…分かったよ…内容はともかく、美月さんの霊感が本物なのは分かったよ…」

柾はひきつった笑顔で応える

美月「奥さんですか?おめでとうございます、お父さん」

全く悪怯れる様子もなく、素直に祝福の言葉を贈る


柾は否定の言葉を口にしようとして、寸でのところでその言葉を呑込み言葉を続ける「いや……そうだな奥さんじゃないけど、大切な人だよ、助けになってあげたいんだ…」


美月「フフっ」

急に美月は笑顔になる

柾「なんか俺変な事言った?」

美月「いや柾さんやっぱり日本人じゃないですか!外国の人かと思って緊張してなんて言葉をかけようかと…」

柾「?!俺の挨拶が悪かったか…英国紳士を意識してみたんだけど…改めて、俺の名前は松麻柾、美月さんと同じ日本人だよ」


どうやら美月は見た目とは違い結構天然らしい


美月「でも柾さんいい人そうで良かった、最初変な人かと思っちゃいましたよ。」

柾「この世界に来ていろいろ酷い目にあったから…ゴメンね、それと、さん付けしないで柾でいいよ…多分同い年くらいでしょ」

美月「えぇー!まだ私そんなに歳とってないですよ!今年18です!」

柾「俺も18だよ!えっ?そんなに俺老けてる?」

柾(なんだい!?このハートフルで癒されずにはいられない会話のラリーは、まるで青春の源泉かけ流し状態じゃないですかい!?)


柾「美月ちゃんはどうして捕まったの?」

美月「…お腹が減って…置いてあったお弁当を食べたら…捕まっちゃった…柾は?」

柾「俺は変態ストーカーに間違われて、本当は冤罪だけどね」キリッ

美月「あぁー…変態ぽいもんね!ふふっ」

柾「失礼な!こんないい男なかなか、いないよ~?」


その後も楽しいトーキングは夜まで続き、生まれはどことかお互い、気付いたらこの世界にいた等、他愛のない話をした


柾「そうだ!これ!お近づきの印にカルピスの原液!」

美月「いえ!結構です!」


結構食い気味に断られた…


美月「そっちから外の様子分かります?こっちの牢屋は月明かりが入らないから見て欲しいんだけど」

まだ美月が柾に対する言葉はどこか余所余所しい

柾「こっちの格子窓も高い位置にあるから夜空しか見えないよ?」

そう言いながら柾は立ちあがり格子窓から夜空を見上げる、小さな格子窓からは半月が見え、まるで石の壁に飾られた月の絵画のようだ、タイトルをつけるなら囚われの半月か…実際囚われているのは柾なのだが…

柾「やっぱり月しか見えないよ」

美月「月の形は?」

柾「半月だけど?」

柾(小説の補足が読めないのか?俺にしか見えてない?)

美月「そっか…柾はそんなに悪い人に見えないから伝えておくね、満月の夜になったら私はここを脱獄します」

柾「脱獄?!出来るの?」

柾(そうだった美月ちゃんとの会話で忘れてしまってたが、そういえば俺、明日死刑だった!こんな事してる場合じゃなかった)

柾「何で満月?いやいや!それよりも俺も脱獄しないと明日死刑なの完全に忘れてた!」

美月「そうなんですか…御愁傷様でした」

柾「うぉーい!まだ死んでないよ!美月ちゃん!満月になれば脱獄出来るの?」

美月「えぇ、満月の時が一番霊力が上がるので多分脱獄出来ると思います」

柾(どうする?霊力が上がると脱獄出来るの?よくわからんが…今何時だよ?日を跨いだら改変の力があと1回しか使えないじゃん…他に上手く脱獄する方法も思い浮かばないし)

柾「えぇーい!成るようになれ!美月ちゃん!俺が満月にするから一緒に脱獄させてくれ!」

美月「満月にするって…どうやって」


柾「説明は後でする!」


改変!!


そう言いながら柾は立ちあがり格子窓から夜空を見上げる、小さな格子窓からは半月が見え、まるで石の壁に飾られた月の絵画のようだ、タイトルをつけるなら囚われの半月か…実際囚われているのは柾なのだが…


そう言いながら柾は立ちあがり格子窓から夜空を見上げる、小さな格子窓からは満月が見え、まるで石の壁に飾られた月の絵画のようだ、タイトルをつけるなら囚われの満月か…実際囚われているのは柾なのだが…


美月(!!)

柾「よし今回は上手くいった!美月ちゃん!満月になったよ!」

美月「……こっちからは確認出来ないですけど、とりあえず満月になったんですね?…今何が起きたのか説明してもらってもいいですか?」

柾「今のは改変の力っていって…」

柾は美月に今までの出来事を出来るだけ詳しく、頭のおかしい奴だと思われないよう言葉を選びながら説明していく

そして柾の言葉を一通り聞き終えると美月は少し悲しそうに顔を落として「……そう」と呟いた


?「オーッス!元気にしてた美月?」

二人の間に微妙な空気が流れ始めた時、その声はどこからともなく牢屋の中に木霊する

美月「秋山さん!こっちです!」

どうやら声の人物は秋山と言うらしく、会話の内容と状況から美月の知り会いが助けに来てくれたらしい


だんだんと秋山の声が近くなってくる…しかし柾はその状況にどこか違和感を覚えていた…


秋山「おーこんな所に居たの?大変だったね」

どうやら声は柾と美月の牢屋の間にある廊下から発せられているらしい…

しかし柾の目はいくら凝視してもその姿を捉える事はなかった

いや、正しくは人の姿を捉える事はなかったと言うべきか…確かにそこには声を発する物が存在していた、刀だ、ぼろぼろの柄に白い羽のような刃の刀…それが空中にぷかぷかと浮かんでいる


秋山「こちらの兄弟は?どちらさん?」

美月「今日ここで知り合って…」

柾「はじめまして、松麻柾と言います」

秋山「柾君か!びっくりしたでしょ!俺幽霊なんだよ~!」

柾(……リアクションをとってあげたいがティナで見慣れてしまってるな…秋山さんは幽霊か…もう何でもアリだな…だから足音がしなかったのか、なるほど)

柾「あ、あぁー幽霊ですか!なるほど…びっくりしましたよーははは」

秋山「だよねー俺も死んだばっかりの頃、幽霊初めて見て超びっくりしたもんな~死ぬかと思ったよー!で?兄弟はどうして死んだの?」

秋山は随分とチャラそうな口調で幽霊ジョークを飛ばす

美月「秋山さん、とりあえず牢屋から出してもらえますか?」

秋山「えぇー?牢屋で巫女姿もオツなもんだよ?ねぇ!柾君!」

柾(同意を求めないでくれ…巫女よりも捜査官の姿の方が個人的には…)

美月「そうですか、そんなに成仏希望ですか…」

秋山「冗談だよ、じょーだん」

そう言うと刀は目にも止まらぬ動きで牢屋の鉄柵を切り裂いた

あれだけ柾が力を込めてもびくともしなかった鉄柵がいとも容易くスッパリと切られカランコロンと床に転がる

柾「おぉ~!すげー」

素直に感嘆の言葉が口をつく

秋山「どう?見事なもんでしょ」

美月「えぇ、刀の切れ味が」

どこかトゲのある言い方が秋山に向けられるが、当の秋山は飄々とした口調で「いや~切れるもんだねー正直まだ寝たりないから自信なかったんだよね~これで切れなかったら、すげーダサいよな!」と全く気にする様子は無い

美月「そうですね、本当ならあと半月位寝ないと満月にならないですから…」

秋山「そうなの?どういう事?」

美月「柾さんが…」

美月の視線が柾に刺さる

柾「美月ちゃん、今さら、さん付けなんて…俺達もう仲間みたいなもんだろ?」キリッ


秋山「なるほど…まだ知らないのか…」

まるで全てを理解したように秋山が呟く

柾「…何が?」

刹那殺気が走る

美月「柾さん、あなたは本当にいい人そうなので、本当の事を伝えようと思います」

立ちあがり一歩一歩、柾に近づく美月…空に浮く刀の柄を握り柾に正面から向きあう

そこに柾の知る彼女の姿はなかった、冷たい瞳に冷たい声

柾はその瞬間「死」を最も身近に感じた

柾「…ははっ冗談だろ?そんな空気出したって…美月ちゃん?」

柾の怯える様子を気にも止めず、美月は刃をそっと自分の腕に当てる…腕からツーと血が伝い床にポタリと落ちる

美月「この刀は特別な刀、払えば魔を祓い、掬う事の出来ぬ想いに救いを与え、終わる事の無い魂に終焉を与える事が出来る刀…私は生者だから切られれば血が出ます…が柾さんあなたは…」

冷たい白刃が柾に真っ直ぐ向けられる

白い刀が月の光を浴びる

まるで正体を現すかのように秋山の姿を月の光が照す

秋山「兄弟…俺はこの刀を依り代にこの世とあの世の狭間に存在している、兄弟は…」

少し白髪混じりの男は先ほどのチャラそうな口調をせず柾に真剣な眼差しを向ける

柾は言葉を失いへたり込み、二人の冷酷なまでの口調に耳を傾ける他なかった

白刃が柾の頬にそっと触れる

柾「ぐぁ!!!」

熱い!冷たい光を放っていた刀が頬に触れただけで…まるで赤々と熱せられた鉄の棒を押し当てたように皮膚が爛れてしまったような感覚がする

美月の握る刀の刀身が柾の顔を鏡のように映す

そこには頬をごっそりと抉られた柾の顔があった

柾(!!!少し触れただけだぞ!?顔が…!)

感覚が無く…刀が触れた場所から徐々に溶けて消えていく

美月「私達はここみたいな世界に来るのは初めてじゃない…その度に生きて日本に帰っていった」

美月「あなたのような魂だけの存在を…世界の創造者を見つけて、消して…魂を浄化させた…厄災を世界を消す為に、帰る為に」

柾「お、俺は死んでいたの、か?」

美月がコクりと頷く

秋山「兄弟が悪い訳じゃないよ…魂が世界を生み出しそれを依り代にしてしまう…全ては大厄災が…その原因を仕組んだ奴が必ずどこかにいるはずなんだ…罪の無い魂を飲込み続ける存在が」

美月「あなたの魂はしっかりと弔います」


美月「ここで消えて下さい」


柾「待ってよ…大厄災とか…よくわかんないよ…ここはギャグ小説の中じゃなかったのかよ?」

柾の世界が瓦解を始めていた

秋山「…悪いな兄弟…お前の存在が新たな掬う事さえ叶わない存在を生んでしまうんだよ」


もはや柾の体は半分程が消え意識を保つのがやっとの状態だった

瓦解が進む世界も柾の体に比例して消えていく、先ほど迄は夜だった世界は星空が崩れ、ちらほらと真っ白な無がひび割れたように拡がる


そして遂には世界は白い世界に変わっていた

唯一残った物は柾の僅かばかりの意識と満月のみが残っている

柾(どこで間違ってしまったのだろう…俺はいつ死んだ?死んだ事さえ気が付かず…俺はいったい…誰で何者で何の為に存在していたのだろう…)

柾(ははは…懐かしいな…死ぬ前は走馬灯が見えるって本当なんだな…もう死んでるらしいけど)


中学生の時、俺は剣道部だったんだ、先輩も先生も厳しくて毎日の練習が嫌だったなぁ、一緒に部活に入った親友の田中、元気にしてるかな?そういえば田中はモテモテでもらったバレンタインのチョコをよく俺にくれたよな、田中は喧嘩も強くて、俺は殴られるのが怖くて喧嘩すらしたことないよ、朝の登校時に偶然田中と会って何故か田中、靴じゃなくてモフモフのかわいいスリッパ履いてきてて、全然気が付いてないみたいで、そういうちょっと抜けてるおっちょこちょいな一面もあって田中は料理も上手くて、家庭的で優しくて、正義感があってどこか大人びてて、時々見せる笑顔の八重歯が眩しくて、でもどこかちょっと闇を抱えたミステリアスな一面もあって、そうだ勿論頭も良かったな…勉強中だけ眼鏡を掛けるそんな田中だった、体育祭なんか田中(学校代表)VS父兄全員の綱引き対決で見事圧勝…田中のアダ名は確かエルム街の悪夢だった…


柾「田中の話ばっかりじゃねぇ?!今!俺の死際!俺の走馬灯!!田中の走馬灯みたいになってんじゃねーか!」スゥ…スパァァァン!


柾のツッコミにより世界の再生が改変が始まる


美月「…!」

秋山「…どうやら目覚めちゃったみたいだね、柾君…大人しく消えてもらえないかな」


柾「悪いな美月ちゃん秋山さん…やっぱり死ぬのは怖いよ、それに俺にはやらなくちゃならない事があるから…だから」

柾の体がみるみるうちに再生していく、パンツに胴、垂、日本一の旗にゲームボーイのお馴染みの装備も一緒に

白い世界は瞬く間に荒野に変わっていく

柾「オラ、本気で戦わせてもらうぞ!これが…超マツマ人だぁ~!」シュインシュインシュイン

柾の髪が金色に変わり目付きが悪くなる


美月「そうです…か…」

美月が刀を構える

美月「柾さんとは別の形でお会いしたかったです、さようなら」


柾(これが創造の力かぁ~世界が全てオラのもんみてぇな感じだ…えれぇ力だなぁオラ、ワクワクすっぞ!)

柾「勝てる!!!あいてがどんなヤツであろうと負けるはずがない!!!オレはいま、究極のパワーを手に入れたのだ――っ!!!」シュインシュイン

そう叫ぶと柾は美月に飛びかかる

柾「死ねーい!キエェーイ!!」


死亡フラグ世界のルールその4に則り反撃を行いマス


柾「…ドクン……!かはっ!」

柾の心臓は最後の鼓動を終えた

全身から血を吹き出し、荒野に倒れる

柾(あっ…俺死んだ…視界が狭くなって手足が痺れてつめた…く…)

荒野の全ては風に晒され砂に変わる









美月「呆気ない終わり方…」

秋山「美月ちゃんも優しいね…本気になれば一瞬で終わってただろうに」

美月「も、ですか…秋山さんも彼からは今までとは違う何かを感じたんじゃないですか?」

秋山「さあね?あまり興味はないね」

















白い世界にいた





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