チュートリアル
白い世界にいた
いや…前回来た時と比べあちこちに酒瓶や缶が転がり明らかに汚れている、酒臭い
ティナの茶化すような酔っ払った声が聞こえる「よ、よくも妹をー!…ぷっ…復讐は新たな復讐しか生まないけど…くっふふ…このティナちゃんが復讐してやる~覚悟すろ~にゃはは」
上機嫌なティナの言葉には一切触れず柾は口を開いた
柾「おい…どういう事だ?なんだあの茶番は?」
低く殺意さえ宿った眼にティナは身震いをする程の何かを感じた
それもそのはず、第一話の大半を使った謎のバトルに柾はもはやどこからツッコミをいれたら良いか分からなくなるほどで、しかも筋肉生命体と自分の意志とは別に何故か唇を重ねてしまっている、当然その行動の生む感情の矛先はその一部始終を観ていたであろうティナに向かっていた
ティナ(あれを仕組んだのはハッサソなんだけどにゃ~)
ティナ「でもこれでわかったでしょ~」
柾「あぁ、お前らが人の行動を操る事が出来て、それを観て楽しんでる最低な奴らだって事がな」
少し考える間をおいて
ティナ「半分正解…かにゃ?」「人の行動を操るって言うと語弊があるかにゃ~」
柾「?」
気の抜けた声が柾の脳内に響くその瞬間、柾の怒りはふいにどこかに消え、同時に理解した
ティナ「これが改変の力だよ、小説の文章を好きに書き換える力」「今、私の力で「気の抜けた声が柾の脳内に響くその瞬間、柾の怒りはふいにどこかに消え、同時に理解した」って書き加えたにゃ、つまりこの力を極めれば人の行動どころか世界すら思いのままって事、そしてこの力は松麻柾、君も使う事が出来るハズだよ」更にしれっと「それを観て楽しんでる最低な奴らって事は合ってるよ」と続けた
急に怒りが静まり、不思議な現象を理解した柾だったが、同時に怒りとは別の感情が込み上げてくる
柾「…ぐぅ~…初めてだったのに…」
ティナ「?」
柾「初めてのキスだったんだよ~!!」
ティナ「ぷ!ドンマイ」
柾からティナの顔は見えないが、これ以上ない程のしたり顔だという事は想像に難くない
ティナ「しかし、第一話から主人公があんなラブシーンを演じられちゃうとこの後の展開がしまらにゃいな~」
ティナ「改変の力のお手本として過去の事実をねじ曲げてあげるよ…」ふっ…
最後の含みのある笑いが少し気になるが、柾にはトラウマを消す有難い申し出である事は間違いなさそうだ、柾は食いぎみに「!そんな事が出来るのか?!」と驚いてみせた
ティナ「ティナちゃんに任せなさーい、ゆっくりやるからよーく見てなさい?」
改変!!
懐かしい匂い…懐かしい声…そして懐かしいぬくもりはだんだんと冷たくなっていた…気がつけば柾はハッサソに唇を重ね子供のように泣いていた…
懐かしい匂い…懐かしい声…そして懐かしいぬくもりはだんだんと冷たくなっていた…気がつけば柾はハッサソに体を重ね子供が出来たら女の子がいいなぁと呟いた…
柾「おぉーい!!?悪化してんじゃねーか!!!しかもこれ死○じゃね!?どんな変態野郎だよ!この小説閲覧制限なしにしちゃったからね?!」
ティナ「よし。これで悲しい過去じゃなくなったぞ!良かったな!童貞も捨てられて一石二鳥!」
柾「ノーカウントノーカウントノーカウントノーカウントノーカウントノーカウント俺は大丈夫俺は大丈夫俺は大丈夫これは現実じゃないこれは現実じゃない」ブツブツ
ティナ「まぁ現実ではないんだけど…小説の中だし…」
ティナ「これでわかっただろ?」
柾「あぁ…これ以上ない程のチート能力だ…くっふふ」
柾(ティナの言う事が本当なら、超絶美少女達を作りだしハーレムで一生暮らす事も可能…!異世界生活を謳歌してやるぜ!)
ティナ「言っておくけど私には柾が今何を考えているか解るからにゃ~そんな事にならないように私がいる事を忘れないように」
柾「ぐっ…!なら俺は何を目的に生きていけばいいんだ…?」
ティナ「生きるのに目的が必要かい?なら生きる目的を探す為に生きてみろよ…」キリッ
ティナは酔うと名言が云いたくなるらしい
ティナ「では、引き続き異世界冒険よろしく頼むよ!柾君」
めんどくさい奴だ
柾の体が例の如く消えていく…
柾「なんか前回より消えかた雑じゃね?」シュワシュワシュワ
ティナ「あっ、そうだ伝え忘れてた…向こうの世界に何か異物感を感じるよ…ってもう居ないか…まぁいいか……おぇっ…力使い過ぎた…気持ち悪…」
?「もうお姉ちゃんたら無理しちゃって…柾が本当に改変の力を使えると思ってるの?」
ティナ「ハッサソか…使いこなせないだろうな…まだアイツは生まれたての小鳥みたいなものだからな…」
ハッサソ「なら…」
ハッサソの言葉を遮るように
ティナ「でも保険は打ってある…それにアイツは普通の小鳥じゃない」
ハッサソ「………」
ティナ「アイツがすずめになるか不死鳥になるか楽しみじゃない?」
ティナ「それより体はもう大丈夫なのか?」
ハッサソ「私なら、全然へいきだよ!」
ほら、と言ってぴょんぴょん跳ねてみせた
ハッサソ「私は柾が心配だからちょっと見に行ってくるね」シュワシュワシュワ
ティナ「………無理しちゃって…世界の反撃を食らって無事なもんか…」
外に柾は立っていた
太陽が真上に昇り世界を照らす…空気が綺麗なのだろう、とても心地よい…大気が澄み遠くまで見通す事が出来る、戦いの最中には辺りを伺う余裕はなかったが…柾はぐるりと周辺を見渡した、遠くに小高い山が見え、その頂上にお城のような建造物が見えるお城の周辺には鬱蒼と繁る森が広がり木々の大きさから永らくこの国に戦渦が広がる事がなかった事を物語っていた、森の下には城下町が栄え活気があるようで、人々が行き交う様子がみてとれる、俺の少し後ろにはこの世界の俺の家があり、どうやら木造の2階建てのようだ、イメージとして西洋的な雰囲気を感じさせる…西洋行った事ないけど…前回はそこで目を覚ましハッサソと出会った、ハッサソの事を考えるとトラウマが甦るのであまり深くは考えないが、その家の裏手は海が広がっており微かに潮風を感じる事が出来る…向かって右手はドンドンと花火なのか大砲の音なのかが響きおそらくハッサソの言っていた王国の千年祭を報せる音なのだろう
柾「なるほど、第1話はバタバタしてて気がつかなかったけど、俺が行動すると上の文章みたいな解説が勝手に付いてくるんだな」
柾(これがティナの言っていた、俺が世界を作るって事なのか?)
柾「家の作りとか、やっぱり日本とは違う別世界なんだなぁ」
柾「とりあえずストーリー的にはお祭り会場に向かうべきなんだろうけど…改変の力…本当に使えるか試してみるか!」
どうもティナの口振りとハッサソのルールその1が気になる、能力を理解したとはいえ、おそらく俺に伝えていない何かがあるとみて間違いないだろう
柾「よし!考えても仕方ない…まずはティナの真似をして…」
改変!!
懐かしい匂い…懐かしい声…そして懐かしいぬくもりはだんだんと冷たくなっていた…気がつけば柾はハッサソに体を重ね子供が出来たら女の子がいいなぁと呟いた…
柾(まずは俺のトラウマを消してやる!)
懐かしい匂い…懐かしい声…そして懐かしいぬくもりはだんだんと冷たくなっていた…気がつけば柾はハッサソに体を重ね子供が出来たら女の子がいいなぁと呟いた…
柾「ぐはぁ…!駄目だ…変えられない…ハァハァ…」
柾(それにめちゃくちゃ疲れるじゃねーか、全身が震えて筋肉が悲鳴をあげてる…とてもじゃないが、連続では使えないな…)
柾「何で変えられないんだ?ティナが邪魔してる?一度変えたらもう一回は駄目とか?単純に俺のやり方が違うのか?」
答えは分からないが根性なし甲斐性なしの柾はとりあえず諦めて、お祭りを見に行く事にした…
柾「ひどい言い種だな!…まぁ今回は諦めてお祭りに行くけど、体力が回復次第いろいろ試してやるからな…!」
お祭り会場に着いた頃には柾は杖を突き体は、ボロボロのぼろ雑巾のような姿になっていた…普通に歩けば10分もしないであろう道程を30分以上かけて歩いていた、理由は少し歩いては能力を試し休んでを繰り返して歩いていたからなのだが、小説として描かれていない部分で能力を使っても力は発動しない…この世界のルールその2を身をもって体験していた
柾「…ハァハァ…なるほど…そういう事か…通りで成功しない訳だ…早く説明が欲しかった…」ハァハァ
柾「ハッサソがあんなにムキムキなのも頷けるな…もう全身筋肉痛だもんな、あの位体力がないと使いこなせないんだろうな」
無駄な努力ご苦労さん
柾「うるせぇ!」
ツッコミが雑になってきた柾はとりあえずお祭り会場を見渡した
会場は元々公園として使われていたのだろう、広場の真ん中に噴水があり、その周りに様々なお店が建ち並んでいる、会場の入口から向かって右手にはサーカスか見世物小屋か大きなテント、左手には力自慢の男達が集まりハンマーを振りかぶり何かを叩いて力を競っている…レースが行われるのか噴水を一周するように柵が設けられたりと相当な賑わいをみせていた
チケット売りの男「一番人気はスイートキャット!まだ賭けていない人はお早めに~もうすぐレース始まるよ~!」
威勢の良い売り子の声が響く
広場の奥もまだ会場が続いているらしく大きな階段が上に延びていた…
柾「…嫌な予感がする…いや、俺はここを知っている…いやいや…まさか…ね…?」
柾は嫌な予感を確信に変えるようにお祭り会場の奥に歩を進めた
柾(俺の予感が正しければ、この階段を登った先には鐘が見えてくるはず…!)
予感は確信に変わる…!階段越しに鐘がだんだんと見えてきた!
柾(…やっぱり!クロノトリガーじゃねーか!!いや、名作だけども!散々やり込んだけども!)
柾には確信と同時に嫌な予感…嫌な予測が一瞬で浮かんでいた
ゲームファンなら思い浮かぶであろう…鐘の下ではゲームならメインヒロインであるマールとぶつかり出逢うシーン…イベントがある…しかしここはギャグ小説の中だ!どう間違った所で美少女ヒロインに出逢う訳がない…!王国のお姫様などいる訳がないと、なら誰がいる?決まっているハッサソだ!きっと全力でタックルしてくるに違いない…!いや、ぶつかって因縁つけて裁判になるのか?それとも仁王立ちで、待っていたぞケンシロ……等と考えていると無慈悲にも、無情にも、柾の足は最後の階段を登りきってしまっていた……
どうせハッサソなんだろ!?ハッサソなんだろ~!最初からわかってんだかんね~!全然期待なんかしてないんだからね~!?
ドックン ドックン ドックン 実際には一瞬であったであろうその時はとても永く感じ柾の期待と不安の入り交じった鼓動が胸を締め付ける
そこで見た景色を彼は一生忘れないだろう…
大きな鐘の下で待っていた彼女を…
肌は白く透き通り瞳は明るい茶色、顔立ちは整い、目元は少し垂れ、その顔はどこか幼さを残し優しい印象を与える
綺麗な白い髪が太陽に晒され影の加減で青くも見え、顔の輪郭を柔らかく印象付ける
柾「メインヒロインキターー!!異世界BANZA~~I!!」
背は自分より少し低い位…150㎝位か、少し痩せて見えるのは着痩せするタイプなのかもしれない…胸はもっと近くで見ないとわからないなぁ…ハァハァEかな?Fかな?また着ている服装が良いですなぁ~体のラインがはっきり分かるハァハァ異世界的民族衣装って感じでハァハァピンクを基調として白や赤の飾りがハァハァ…
柾にしてみれば嬉しい誤算、第二話にして既にメンタルが崩壊寸前だった柾にはまだ知り会ってすらいない、お互い面識すらない彼女だったが、柾の荒んだ心に確かに一筋の光を与えていた、自分のよく知るゲームと似た世界、そこに現れた美少女ヒロインと自分(主人公)の出逢いのフラグ
もはや柾を止める物はなにもなかった
気がつけば柾は彼女に思いっきりタックルをしていた…
ドンと音を立て美少女は尻もちをつく
カラーンコローンと鐘が鳴る
美少女「…いったーい」
美少女「あれ?どこだろう無くしちゃった?」
ゲームなら、ぶつかった拍子にペンダントを落とすシーンである
だが柾はそれすら見越して彼女が落とす筈だった物を地面に落ちる前に手を伸ばし受け止めていた
しかし、受け止めたそれは柾の想像していた物とは違っていた
それは小ビンである、しかしその程度の差異は柾にとって些末な事だった…透明なビン、コルクで蓋をした小さなビンには黒い液体が入っていた、咄嗟に受け止めていて良かったかもしれない、軽いとはいえガラスのビンだ、落ちたら割れていた可能性もある
しかしその行動は彼女に確実に不信感を与えていた
柾「どうぞ、大切な物落としましたよ、正確には私が受け止めましたけどね」キリッ
そう言うと柾は彼女に手を差し出し、尻もちをついた彼女を立たせ、小ビンを渡した
美少女「…あり…がとう」
差し出された手を握り返す事はなく、立ちあがり、小ビンを受け取る
美少女(何この人?自分からぶつかってきて、謝りもしないで何でキメ顔?泥だらけだし、私が小ビンを無くしたのに気がつかなかったら盗んでたんじゃ…もしかして泥棒?浮浪者?)
松麻柾「私の名前は左に書かれている通り松麻柾といいます、この物語の主人公をしております」キリキリッどや~
美少女「…はぁ、そうなんですか(左に?主人公?この人、間違いない…ヤベー奴だ…!)…私は…えーと…吟遊詩人をしてます」
柾「へぇー!詩人なんだ!俺も中学生の時、オリジナルポエム作ってたよ!なんか、運命…だよね…二人の出逢いは偶然じゃなかったんだ、僕は君に出逢う為に生まれてきたのかもしれない…それって…奇跡…だよね」キラキラポージング
美少女「……」
柾「あっ…ごめん、なんか自然にポエムっちゃった、あー俺位のポエマーになると自然に出ちゃうんだよねー、ごめんね!でも僕達って凄く似てるんじゃ…ないかな…」横顔どやー
美少女「……そう…ですかね…はは…違うんじゃ…ないですかね…」
柾「そうだ!せっかくだし一緒にお祭り見てまわろうよ!」
美少女「いや、ちょっとこの後、予定があるので…」
柾「じゃあ!名前だけ!名前だけでもちょっと拝見させて頂きますよ?!」
柾は美少女の左を凝視する、目が充血し、血走り、刮目する
itumade(……うわっメッチャ見てくる、キモッ)
柾「itumade?いつまで?あんまり英語は得意じゃないんだけど…変な名前…だね…異世界だからかな?」
そう言うと、彼女の血の気が引いていくのがわかった、みるみる顔は青ざめ、ぼそぼそと何かを呟いている
柾(まずい、流石に初対面の人が自分の名前を知っていたら変なのか?左に名前が出るのがこの世界の常識ではないのか?!)
ユア「…そ、その名前で呼ばないで下さい…!私の名前はユアです…」
依然として顔は青ざめたままで、言葉を続ける
「どうしてその名前を知ってるんですか?まさか?ストーカー?」
柾「ち、違うんだよ、ぼ、僕と君が出会うのは運命なんだよ…?ハァハァだから怯える必要なんてないんだよぉ…ハァハァ」
完全に墓穴を掘る…泥だらけのぼろ雑巾のような男が可憐な美少女に何を言った所でそれは犯罪である…例えそれが現実と妄想の区別がつかなくなってしまった、哀れな存在だとしても、現実が法律が民衆が世界がそれを許しはしないのだ…淘汰されるべき存在なのだ!
柾「おい!解説!適当な事言ってんじゃねーぞ!」
ユア「ひ、ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ!近寄らないで!男の人怖い!こ、殺される…助けて…変態ストーカーさんの言う事何でもします!命だけは、命だけはー!」
柾「あ、貴女に言ったんじゃないですよ、ほら僕こう見えても女性にそんな乱暴な言葉使いませんから…だから…ね、ね…!」ニコ~
ジリジリと近寄る柾
ユア「ごべんなざーい…助けてママぁ~…」ウワァ~ン
ついには大粒の涙を流しその場にへたり込んでしまう
観衆A「おい、あの変態、女の子泣かせたぞ」ガヤガヤ
観衆B「いきなり押し倒して強姦?強盗殺人?」わらわら
観衆C「おい、あの男の顔、この顔にピーンと来たらのヤツじゃね?」ざわざわ
観衆D「1着はうっちゃれダイナじゃったか…また負けてしもうたわい」
観衆E「誰だ!俺の弁当食べたのは!?」
観衆F「私のネコちゃんがいなくなっちゃった」うわ~ん
観衆「シ、ケ、イ!シ、ケ、イ!死刑!死刑!死刑!…」死刑コールが続く
柾「…あの…なんか…ごめんね」
時既に遅し
衛兵A「ちょっと」ムキ
衛兵B「来てもらおうか」ムキムキ
肩を叩かれ、屈強な衛兵二人に連れていかれる男の姿がそこにはあった
その頃ハッサソは…
ハッサソ「お気にのタンクトップが見あたらな~い!?これじゃ、柾とのデートに遅れちゃう?!」キャピキャピ
次回予告
王国裁判の判決はもちろん死刑!悪の申し子、柾は無事に死刑に処され王国に再び平和な日々が訪れていた…だが平和な世は長くは続かなかった!ハッサソのお腹には柾の血を継ぐ命が宿る!
お腹の子に罪は無いとハッサソは抵抗するが、世界がそれを許しはしなかった!次回ハッサソVS世界連邦!ハッサソとお腹の子の運命や如何に、そして世界の命運や如何に?