⑦美少女は不良に狙われたようですよ?
学校祭が始まり、校内はとても賑わいを見せていてHR企画も忙しくしていたが皆の顔はとても楽し気な表情で曇りのない眼を見せている。
「本田くん、それたこ焼きじゃないよ」
「は?まじで」
「ベビーカステラにたこ焼きソースはセンスないわね」
「うっせえ沙耶、ちょっとBクラスに文句いってくるわ」
「思いっきり、学祭のしおりにベビーカステラって書いてありますけど・・・」
「美夏の言う通りね、この間抜け和樹」
「てめえ、今日という今日は許さねえ、俺を馬鹿にしやがってぇぇぇ」
クラスから飛び出ていった沙耶を憤怒した和樹が追いかけていった。
残された人たちは相変わらず、とキッチンでオーダーの処理をしていた。
秀一はキッチンから食事や飲み物を提供するウェイトレスでその他数名の男子とその他数名の女子も同じ、そして美夏を中心としてやっているのが料理スタッフ。
物を作ったり、飲み物をカップに注いだりするのが仕事である。
そして奏は受付スタッフとして廊下で栞にあるスタンプラリーの欄にハンコを押していた。
椅子に座って机に置いているハンコを押すだけという楽な仕事についている元に白髪の美少女が嬉々とした表情を浮かべながらこちらに近づいてきた。
「えるみか、ってもうこんな時間だったのか」
「うん、仕事はもう大丈夫?」
「そろそろ交代がくるからちょっとまってて」
「わかったよ」
えるみは奏の横で立ち待ちしている。
その美少女を目視した金髪の男と黒髪のグラサンを掛けたチャラそうな二人組がこちらへと一歩、また一歩と近づいてきた。
「君、生徒会長やろ?」
「はい、そうですけど」
「わてらと遊ばへん?ってこのナンパ古いか」
「ええと・・」
金髪の男がえるみをナンパしているのを見た奏は席を立ちあがった。
「すみませんが先約があるのでそれは叶わないですよ」
この二人組は奏でより少し身長が高いがガタイはいかつくない。
それも含め簡単に口を出すことができたのだろう。
「お前には聞いてないやろが、このボケが」
黒髪の男は胸倉をつかんできて教室の壁に奏を叩きつけた。
奏はそれでも相手を威圧する目で見続けている。
「かなでちゃん!」
「で、昭和くん。ダサいのはその髪型だけにしろよ」
「てっめええ」
左拳を握った黒髪はそれを怒り任せに奏に飛ばそうとしている。
それを見て金髪の男は不敵な笑みを浮かべ、周りにいる人たちは半円を囲むようにこちらをただ見ている。
黒髪の男は奏に向かって放たれた拳は奏の右手によって軽く受け止められていた。
「なんだよ、この力の籠ってないへなちょこパンチは」
「舐めてんじゃねえぞ、クソガキ」
黒髪が口を出す前に金髪の男が拳を奏に放った、が、それをあっさりと受け止められた。
それを受け止めた男は拳を捻り上げ、胸倉を掴んで、ごみを投げるかのように軽く放った。
「奏、いったいどういう状況だこれは?騒がしいと思ってきてみれば」
「そうだね、だけどあまりいい状況とは言い難いってことだけはわかるけどね」
金髪の男の拳を受け止めたのは沙耶に追いかけられていた和樹であった。
それに後付けするかのように状況が悪いと付け加えた秀一。
それに連れて、和樹を追っていた沙耶や教室で働いていた美夏などHR企画の人がぞろぞろ出てきた。
「なんだ、なんだ」
「おい、喧嘩だってよ、ちょっといってみようぜ」
廊下の人たちも興味本位でこちらに向かってきて、そこには大量の生徒たちが集まっていた。
「和樹、助かった」
「へ、俺に助けられなくても今のは軽く捌けてただろ」
「ちがいないな、このヘナチョコたちだったらの話だけどな」
奏と和樹はわざと挑発するかのように会話を続ける。
それを見てえるみはオドオドした姿を見せるがそれも一瞬。
すぐに生徒会長モードに入り、不良二人組の前に出てきた。
「ここは学校祭の場であって、あなたたちが問題を起こす場ではないの。これ以上やるなら警察を呼びますよ」
金髪の男と黒髪の男は脅しが効いたのか舌打ちをして、その場を去っていった。
「この時代にこんなやつらがいんのかよ、まったくありえねえ世の中だ」
和樹は二人組の逃げていく背中を見ながら言葉を吐き捨てた。
「それにしても無事でよかったです。奏くん、和樹くん」
「美夏の言う通り、ほんと無事でよかったよ、て、まあ心配する必要もないか」
沙耶の言っている意味を理解できるのは幼馴染である、えるみと和樹、秀一、美夏、沙耶の4人だけである。
「お得意の体術で一網打尽ってか」
「まあ、あいつら程度なら一人で余裕だったけど助けが来なかったらひどいことになってたよ、ありがとう」
和樹の言葉の返答に礼を付け加えて返す。
「まあ、いいってことよ」
照れているのか鼻を欠いて視線を窓の外に向けた。
「それにしてもさっきまでいたギャラリーいつのまにいなくなったの」
廊下を見渡し、さっきまでいた人たちがいなくなったのを見て沙耶は呆れていた。
「本当に申し訳ございません。お手数をおかけしてしまいました。」
「えるみちゃんも罪な女ってことよ」
「そういうことですね」
秀一と和樹という馬鹿と天才の意見が一致することはほぼほぼないのだが今回は同意見だった。
「そんなことは・・・自分でもないとは言い切れないのは悔やみます。」
「まあしゃーねえよな。えるみちゃん可愛いし」
「それは違いないですね」
「ちょっと秀一まで・・・まあ確かに美人すぎるだけじゃなくて品格っていうの?圧倒的に高いもんね」
和樹、秀一、沙耶に続いて褒め殺しするかの如く、えるみを褒め叩いていた。
「おい、奏、どした?」
奏は向かいの校舎をずっと睨んでいるのを和樹が見つけて声を掛ける。
明らかに奏がいつもする表情ではない、人を殺しそうな目と言ってもいいくらいの目力で見つめている。
その先には茶髪で少し身長の高い博士のような恰好をしている人が立っている。
あちらもこっちを不敵な笑みで見返している。
「おい、奏。あの眼鏡じじいと知り合いなのか?妙に顔が」
「ああ、あの人は・・・」
「かなでちゃん!」
「ああ」
和樹の質問にこたえようとした奏を黙らせたえるみは顔を少ししたに向けた。
向かいの校舎にはもう姿はなかった。
「奏くんあの人になにか・・・」
「これ以上詮索するのは良くないと思うわ」
美夏の詮索を止める沙耶に秀一は頷く。
「まあ、せっかくの学校祭なんだから今からでも楽しんでいこうかみんな」
周りの空気を良くしようと先陣を切った秀一に周りが賛成する。
奏の表情は虚ろげだがえるみは明るくいつも通りと変わらない。
「えるみ、いこうか」
「うん。じゃあまた後でね!みなさん」
「ああ、楽しんで来いよ」
えるみが和樹たちに手を振って去っていく後ろで心配している感情を心に閉まって笑顔で手を振り返した。
―――奏は拳を握りしめ、また怒りの表情を露わにしていたのを知らず。
政府通知こないかな