②友人たちはみんな優秀です
朝を迎えて学校に行く支度を済ませた二人は現在学校に向かっていた。
そしてまだ頭が活性化していない朝から毎回恒例の行事である晒されの刑が行われる。
このせいで朝にえるみと歩く時の奏はいい気分とはとても言い難い状態だ。
「おはようございます生徒会長」
「おはようございます」x60回くらい(適当)
えるみが挨拶されるだけなら全然かまわないのだがその後だ。
「あの人いつも生徒会長の横歩いてるけどなんなの?」
「さあ、奴隷とか?」クスクス
「なんだよあの男、生徒会長の横を歩きやがって」
「羨ましいぃ」
「死ね死ねシネ、Deaーth☆」
おいおい、なんでそこまで言われなきゃいけないんだよ。
みんなには超絶人気少女と歩くということは相当なリスクがあることを知ってほしい。
毎回、小さく呟いている醜い嫉妬の声が聞こえてくるがえるみのためにも聞いて聞かぬふりをしている。が、さすがに毎回となるとメンタルも削られる。
以前なんて奏と生徒会長は付き合ってるみたいな噂が流れて丸一日質問攻めぷらす信者による嫌がらせで勉強、読書どころではなかった。
まあそれも含めて自分の幼馴染は絶大な人気を得てるんだなと少し誇らしく思えた。
そんなこんな、いつの間にか栗白高等学校と書かれた門に到着していた。
「さて、俺はいつも通り校庭のベンチで読書するけどえるはどうするんだ?」
「今日は何もないけど私がかなでちゃんと隣に座ったらたぶん読書どころじゃなくなりそうだから先に教室に行くよ」
「そうしてくれると助かる。」
「そう言われるとなんか傷つくよ」
えるは、不満な顔をすると妙に落胆した。
「事実だ。じゃあいくわ」
「予鈴が鳴るまでにはクラスに戻るんだよ」
「はいよ」
奏はいつもの校庭のベンチに向かう。
あそこは人目に付かずゆっくりと本を読むのにはうってつけのポイントでベンチが木の陰に隠れているため、日光を遮ってくれる。
昼休みになるとチラホラと弁当を食べに来る人がいるが朝に来る人はほとんどいないため、朝によくここを訪れては本を読んでいる。
一度、えるみと一緒に来たことがあるが一瞬で人の群れができるため、えるみは気を使って奏を一人にしてくれている。
ベンチに座るとバッグから小説を取り出し、しおりを挟んでいたページを開き黙々と読みだした。
小説を読みだして時間は経ち、腕時計の針は朝のホームルームの5分前を示していた。
(恋愛小説を何冊か読んではいるものの全く分からないな)
小説を閉じバッグにしまうと立ち上がると2階の廊下の窓から視線を感じた。
見上げるが廊下からこちらを見ている人の気配はない。
「なんだったんだ?」
誰かに見られていたという確証もなくあまり気にはならなかったため勘違いということで片付けた。
6時限目の始まりを示すチャイムが鳴った。
6時限目は学校祭準備ガイダンスというわけでクラス内のメンバーを各役割に分担するのが主な内容で特に関心のない奏にとっては読書時間である。
なぜこんなに早く学校祭準備の話し合いが始まるの言うかとこの栗白高等学校の学校祭は5月の中旬に行われる。
学校祭準備期間を通すことで新入生は早く学校に慣れることができ、他にもグループで活動することによって友人関係を築くことが目的とされている。
黒板の前に出ている50代後半くらいの禿眼鏡のおじさんは俺らの先生である高山金だ。
先生ともう一人横に立っている可憐な少女は学級委員長の東雲舞花だ。
定期試験では雪葉えるみに次ぐ実力者でいつも2位に位置している。
話し合いが進むと学校祭の役割が黒板に書きだされ、各自でやりたいところを決めるための自由時間になった。
「なぁ、奏」
後ろから名前を呼ばれた奏は読書を一時中断し、栞を挟んで本を閉じた。
座り方を横に直し、後ろの席にいる和樹の方を向いた。
「なに?」
小さく心を躍らせている男はプリントを指さした。
「俺らはホームルーム企画をやろうぜ。上手くいけばコスプレ喫茶とかもいけるんじゃないか?」
下心丸出しの欲望に満ちた笑みで奏を勧誘する和樹は見ていて痛々しい。
それでも奏には断る理由は見当たらない。
「別にやりたい企画もないし楽そうだからいいよ」
ホームルーム企画とは簡単に説明するとクラス内で出し物することだ。喫茶店やお化け屋敷、お祭りなんかが行われている。
了解の意を示し、ふと周りを見渡すと役割決めのために友達のところへと立ち歩いている人達が何人かいる。
その中にこちらに向かってくる金髪の長身の男と茶髪のショートヘアの女の子とそれとは対称的に黒髪に長い髪をしている女の子が歩み寄ってきた。
「僕も入れてもらっていいかな?一之瀬君、本田君」
クールな彼は女性に人気で1週間に一回ペースに告白されるモテ男であり、奏と和樹とは高校1年の時からの友人である。
「私も参加させてよ」
「同じくです」
茶髪の髪の女の子に続き黒髪の女の子が参加希望してきた。
「くそ、邪魔が入ったか。」
「邪魔ってなによ」
「べつにー」
心の声が漏れていた和樹に沙耶は圧を掛けた口調で問いを投げた。
和樹が悔やんでいるのも無理はない。自分の計画は沙耶によって恐らく破棄されるからだ。
「そうだね。よろしく頼むよ。秀一、沙耶、美夏」
ここで説明すると金髪のクールな男が早瀬秀一、ソフトテニス部のエースで女子の憧れの男子という設定になっている。
続いて茶髪のショートヘアーに少し着崩しているのが高坂沙耶、子供大好き人間でよく保育園のボランティアをしているが裏では5thMissionというバンドのヴォーカルをしている。
まあ裏でとは言ったが校内中には知れ渡っているため学校祭では軽音楽部とコラボしてよく歌っている。
そして最後に黒髪の長い髪をした清楚な美少女が柊美夏、勉強のできる優しい女の子で校内3代美女に称されているためやはり人気がある。
「改めて思うけどこの面子の中にいると俺って場違いだな」
「そんなことないぞ、奏、なんせ俺らのリーダーなんだからな」
「そうだよ。一之瀬君、君がいないと何も始まらないよ」
「奏は別に場違いとかじゃないと思うよ。この私、沙耶様が認めたんだから自分に自信もちなって」
「そうだよ奏くんはみんなの言う通り私たちのリーダーなんだから」
「みんな・・・」
みんなのフォローに少し感動したがまあそのことは言葉には出さないでおく。
いい友達を持ったと改めて思った奏は心の中で静かな喜びが水のようにあふれた。
「そんじゃあ、黒板に書いてくるか。」
立ち上がろうとする和樹を秀一は手のひらでストップの合図をだして座ることに留めた。
「僕が書いてくるからいいよ座ってて」
「お、そうか?」
「一之瀬君の分を書いてくるよ、そっちのほうが効率がいいからね」
秀一はなんて優しいんだろうか。と思ったのは奏だけで和樹は女子に見せるいい場面を逃したことに少し不満気にしていた。
「秀ちゃん、私も手伝うよ」
黒板に歩み出した秀一は「それじゃあよろしく頼むよ」と小さく微笑み、沙耶はその後ろを歩いて行った。
「なんか、沙耶ちゃんと秀一くんって絵になるカップルって感じだよね。付き合ってないらしいけど」
和樹の不満度はより一層増し、「そうか?」と美夏の言葉に適当に答えた。
奏は秀一と沙耶を見ると確かに気持ち楽し気な雰囲気が漂っているのは確かだ。
奏は喋ることがなくなり、会話の切り良く終わったため、態勢を戻し、机に頬杖をついて片手で読書を始めた。
―――そうしてふと思う。
(これも恋愛ってやつに発展するのかな)
今期の好きなアニメはロクでなし魔術講師と禁忌教典というものです。
是非見てください。