①幼馴染といつも通りの日常
初投稿になります。
文章など至らない点が多々ありますが読んでもらえるととても嬉しいです。
評価などもお待ちしています。
「恋愛」とはなんなのだろうか。
俺はいまだにその意味を理解していない。
高校生になれば多少なりとも「恋愛」というものを知ることができるのではないかと思っていたが、それを否定する出来事が起きた。
屋上に呼び出された俺はクラスの女の子から告白を受けた。
その時思った感情は嬉しいとか感動とか迷いとかそういうものではなかった。
「ごめん、好きとかわからないしまずメリットがないよね。」
そうして告白を断ったことで女の子はただただ泣きながら無言でその場を去っていき俺はただただ黙って彼女の背中を見続けていた。
恋愛知らずの俺にはあの時なんて答えるのが正解だったのだろう。
転校した彼女にちゃんとした返事を返すことができなかった。
そうして時は立ち高校3年の春から俺――― 一之瀬奏の物語は少しずつ始まりだした。
季節は春を迎え、始業式から約2週間が経過。
放課後のチャイムが校内に鳴り響いた。
掃除が終わり教室には日直や部活に行く準備をしているクラスメイトが残っていた。
奏がこの時間帯まで一人でクラスに残っている理由はいつも一緒に帰っている幼馴染を待っているためだ。
「奏ちゃん、帰りましょう」
教室の入り口から綺麗な白髪の長い髪の少女――雪葉えるみが僕のことを呼んでいた。
「ああ」
手に持っている本を閉じるとそのままスクールバッグに入れて椅子から立ち上がった。
「いいよなぁ、一緒に帰る女の子がいてよ。しかもあんな超絶美人の優等生ってお前はどこの漫画の主人公だよ」
後ろの席に座っていた本田和樹が頭の後ろで手を組み椅子を傾けて小刻みに動かしていた。
この男はサッカー部のエースでサッカー大好き人間だと思っていたはずが最近「将来バンドしたい」とカミングアウトしてきた何を考えているかわからない奴だ。
「ただの幼馴染だって、変える方向も同じだし一緒に帰るのを断る理由もないからね」
「そのテンプレ集漂うセリフは飽きたぞ俺は」
「嘘を言った覚えはないよ」
「そういうことをいってるんじゃなくてな、そういうセリフを吐く奴ほど結ばれる運命にあるんだよ」
「誰が?何と結ばれるの」
その問いに答えるように和樹は右手の人差し指で奏を指さした。
「お前と!雪葉ちゃんがだよ!」
「俺は別にえるになんの感情も抱いてないよ、それじゃあもう帰るよ」
廊下に向かって歩き出す奏を見る和樹は微笑みながら小声でどうだかなと呟いた。
夕陽が空に昇っている帰り道には野球道具を持って道を歩く少年たちや買い物終わりの主婦たちが歩いている。
この辺りは色々な店が並ぶ市街地となっていて帰り道でここを毎回通る。
その道には白髪の少女と体を少しだるそうにしている男が歩いていた。
「今日はゆかちゃんとさやかちゃんとお昼ご飯食べたんだけどゆかちゃんのお弁当箱に野菜が入ってなくてさやかちゃんがそれを指摘したら口論になっちゃって大変だったよ」
「へえ、それは大変だったね」
楽し気に話すえるみのおしゃべりは止まらないが彼女がこうやって気を張らないでいられるのならそれくらいの我慢は容易い。
「それでね、ゆかちゃんのお弁当を私が作るなら食べるっていうから明日作っていくんだけど今からスーパーによっていいかな?」
「いいよ、別に帰ったところでやることないし飯も作ってくれるんだからついてくよ」
「ありがとう」
えるみが微笑むとなんだか心が安らぐというか嬉しくなるというかなんとも表せない。
「そういえば、えるってどこの大学行くんだっけ」
「私は別に決めてないけどそういう奏ちゃんはどこに行くの?」
「俺も特に決まってないんだよ。だから参考にしようと思ったんだけど」
「もう高3の春だからね、そろそろ決めないとまずいよね私たちも」
「俺は自分のやりたいことから進路を導き出そうと思ったけどその大前提であるやりたいことがないんだよな」
複雑な表情をしたえるみは空を見上げた。
「まあそうだよね。自分のやりたいことが見つからないと進路なんて決められないものね」
僕も空を見上げると空には紅色が広がっていて詩で表現できそうなくらい綺麗でなんとなく落ち着く感じがする。
「綺麗だよな、夕焼けって」
「うん、そうだね」
2人は玄関で靴を脱ぐとえるみは奏が持っていた買い物袋を持った。
「さてと、私は夕飯の支度するから奏ちゃんそれまで今日出た宿題でもしてきなよ」
「いや、今日は手伝うよ。だけど先に着替えて来るわ」
「了解です、あなた」
愛らしい顔で上目使いをちらに向けて来るえるみは何を考えているのかわからない。
とりあえずなんか言葉を返そうか迷ったけど面倒くさいからスルーして階段を昇った。
「やってみたものの恥ずかしすぎるよこれ」
奏に聞こえないように呟き、頬染めながら買い物袋を持ってリビングへと向かった。
いつも通りの黒の短パン、白のTシャツに黒のパーカーというラフな格好に着替えて部屋を出た。
リビングに入るといい香りがキッチンから漂ってきた。
えるみは学校の制服の上を脱いでエプロンを身にまとっていた。
小皿に口に付けて味見する彼女の姿はもう生活の一つと言ってもいいくらい見慣れた。
「あ、奏ちゃんシチュー盛り付ける皿用意してもらってもいい?」
「わかった。」
戸棚から盛り付けの皿を取り出しえるみに渡してシチューを入れてもらう。
盛り付け終わった皿をリビングのテーブルを置いた。
「あとはいいよ、飲み物とスプーンは私が取ってくるから座ってて」
「悪いな」
「いえいえ」
えるみはお盆にスプーンとコップ、お茶を用意してリビングまでと運んできた。
エプロンを外し椅子の背もたれに掛けるとお茶を手に持ちコップに注ぎ始めた。
「なあ、えるって恋愛がどういうものかわかるか?」
「え」
突然のカミングアウトに硬直するえるみが注いでたコップからはお茶が溢れ始めた。
「える!おちゃ、おちゃ」
「あわわ、ごめんなさい」
キッチンまで走り布巾を取ってきたえるみはお茶を拭き始めた。
「どうしたの奏ちゃん、気になる人でもできたの?」
「いや、去年の冬に告白されたことを思い出したんだよ」
安堵の表情を浮かべたえるみは布巾をリビングに戻し椅子に座った。
「恋愛って人を好きになるってことじゃないのかな私もよくわからないけど」
「俺には好きになるとかっていう感情がわからない、だからそれを知りたかったわけだけど多分無理かもな」
「いずれ奏ちゃんにも好きな人ができるんじゃないかな、さ、冷めちゃう早く食べようよ」
「そうだな」
いただきます。と言いスプーンを手に取ってシチューを食べ始めた。
「そういえば、帰り道の話のことなんだけど、奏ちゃん小説読むの好きなんだから次は書く側になってみたらどうかな?」
奏はお茶を飲み終わりテーブルに置くと唸り始めた。
「一度は考えたことはあるよ。それでいざ書いてみたけど自分には才能がないって実感したよ」
「そうなんだ。奏ちゃんにはぴったりだと思ったんだけどなあ」
スプーンを置いた奏は空になったコップにお茶を注ぎ始めた。
「というかえるも自分の進路考えろよ」
「私は私で案がないわけでもないから大丈夫だよ」
シチューを食べ終わった二人は皿をまとめてリビングに運んだりお茶をしまったりと片づけを淡々と進めていた。
片付けを終えた二人はリビングのテーブルに宿題を広げて進めていた。
宿題は教え合うことなく黙々と進んでいき10分くらいであっさりと終わった。
えるみはともかく奏も学年TOP10に入るくらいで勉強はできるほうだ。
2人して背筋を伸ばすと宿題を終えた後を見計らったかのようにえるみの携帯からLINEの音がなった。
「さてと、今日はどうするんだ?」
「ああ、お父さん今日も残業らしいから泊まってくよ」
えるみのお父さんは残業が多く、お母さんは外国で働いていていつもえるみが家に一人でいるからそれを心配したえるみの父親が俺の家に泊めさせているという状況だ。
なぜかえるみの父親から厚い信頼を得ていて俺の父親とも仲がいい。
俺の家もえるみの家と同じ感じで父親は単身赴任、母親は病院の看護師で今日は夜勤でいない。
それで週3~4回は一緒に泊まっている。
「了解。なら先に風呂入って来いよ、俺はコンビニでアイスでも買ってくるから」
「それなら私が買ってくるから先にお風呂入りなよ」
「いやさすがに夜道を女の子に歩かせるわけにはいかないからな」
「じゃあ夜に一人で女の子を家に置いておくわけ?」
困った顔で頭を掻く奏をえるみはくすくすと笑った。
「冗談だよ。じゃあお先にもらうね。」
「勘弁してくれよ」
風呂に入り終えソファーに座っている奏とえるみは先ほどコンビニで買ってきたパピコを半分にしてテレビをみながら2人で食べ始めた。
奏は小説を読み、えるみは動物の番組を見てひたすら可愛い~を言っている。
「奏ちゃん子猫可愛いよ~。ねえ!飼わない?」
「飼わない」
えるみのいうことを適当に流すのはなれたものだ。
いま動物番組は子猫子犬特集をやっていてえるみはそれに興味津々状態で小説を読めたものじゃない。
「奏ちゃん~」
「飼わない」
「まだ何も言ってないよ。」
番組も終わり欠伸を口で隠しているえるみはウトウトとしていた。
壁にかかっている時計の針はちょうど11時を示している。
いつもこの時間帯に就寝するため、それを知らせるかのように欠伸が出る。
「そろそろ寝るか」
「そうだね。あ、そうだ奏ちゃん一緒に寝ようよ?」
「一緒に寝るメリットがない、却下」
「女の子に向かってそれはありえないよ」
「知らないよ、もう寝るぞ」
「本当は一緒に寝たいしょ?」
「同じ屋根の下なんだから一緒だろ?おやすみ」
一足先に階段を上っていく後ろではえるみが口を尖らせて拗ねていた。
「そういうことじゃないんだよ」
静かに放ったその言葉には彼女の思いが込められていた。