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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

好きに変なんてことはない

作者: 新京極鈴蘭

「やっほー!」

「なんだまた来たのか」


いつもと変わらない夏休み。勉強会。私にとっては、彼女はかけがえのない存在で、隣にいないとなんとなく落ち着かない。


「宿題見せてよ」

「そんなことだと思ってた」


私と静香(しずか)は、小学校の頃から仲が良く、いつも一緒に遊んでいた。それは高校生になった今でも変わらず、お互いの家に行き来したり、ちょっと街中に出掛けてみたり、そんな関係。


そう、どこにでもいる、あり得る、幼馴染みという関係。


「ここの日本語訳ってなに?」

「あー、『あなたは私を愛していると思ってました』って私は訳したけど…」


口に出すと急に恥ずかしくなる。宿題だから仕方ない、そう言い聞かせる。


「ねえ、恋人ってどういう感じなんだろう」


不意に質問される。


「分かんないな。そもそも恋人なんていたことないでしょ、お互いに」

「確かにね、でもほら、うちのクラスって彼氏持ち結構いるじゃん。だから、恋人がいるってどういう感じなのかなって思って」


そう言って静香はシャープペンシルを置き、立ち上がった。


「宿題やんないのか?」

「あとで。今は暑くて無理」


しょうがない奴だな、と思いながら、私は静香にアイスを食べさせようと部屋を出る。


「どこいくの?」

「アイス、取ってこようかと思って。お前の好きなイチゴのがある」

「ほんとに!?さっすが(いつき)!」


私は静香の笑顔を背に、階下に降りていった。


「…恋人、か…」


ふと、さっきの静香の言葉を思い出す。恋人って本当に何なんだろう。お互いに好きである男女が一緒になって、デートしたり、手を繋いだり、キスをしたり…。


(あれ?これって私たちもよくやってないか?)

(キスはさすがにしてないけど、二人で出掛けたり、手を繋いだりはしてるぞ?)


私と静香は、よく二人で遊ぶことが多い。小さい頃は、静香と手を繋いで歩くことも多かった。今はちょっと照れくさいが。


「恋人同士がやるようなこと、私たちも普通にやってんじゃん」

「何が、恋人ってどういう感じなんだろう、だよ…」

「でもそれって…私が…静香のこと…」


ないない、と頭を振る。女の子同士の恋愛なんて、考えたことがない。だけど、男の人と恋愛するなんてことはもっと考えられない。ましてや静香が男の人と手を繋いだり、一緒に出掛けたりするのは全くもって頭に思い浮かばない。


「恋愛感情、ないのかな…」

「静香が恋人、か…」


静香の口からはあり得ないだろうと思っていた、その言葉。私自身もあまり気にしてこなかった。だけど、もう…


「私たちは、高校生、だもんな」


そう、高校生。女の子は結婚もできる年齢になる。今のうちから、将来を考えていかなければならない。


「おっと、アイスを持ってかないと…」


私は駆け足で階段を上った。


「おっそいぞ樹ー!」

「持ってきてもらってんのになんだその言い方は」

「えへへ、ありがとう樹」


静香が時々見せる、照れたような笑顔に私は弱い。

普段は馬鹿みたいに騒いで、クラスの友達と他愛ない会話をして笑顔を振り撒いているのに、私に対しては、女の子らしい、優しい笑みを向ける。


「なあ、さっきの恋人の話、静香、好きな人でもいるのか?」

「いないって言ったら嘘になるかな」

「じゃあ、いるんだな」

「……」


静香が無言になるときは、図星を言い当てられたときだ。つまり、静香には意中の相手がいる、と捉える。


「樹は、いるの?」

「私?」


私は…一体どうなんだろう。

男に恋愛感情は抱けない、というか分からない。

だからといって、女の子に抱けるかといったら…


それにしても…静香に好きな人がいる、のか…

なんか…もやもやするな…


ん?もやもや?


静香に好きな人がいるなら、応援すればいいじゃないか。親友なんだから。


あれ?おかしいな…なんだろ、このもやもや…


すっきりしない。好きな人がいるだなんて認めたくない。


ずっとそばにいるのが当たり前じゃないか。なのになんだよ今更好きな人がいるだなんて…


私のそばに…私の?そばに?


え?静香がそばにいてくれれば、嬉しいの?


静香に、好かれたい?


静香が……好き?


好き?


ああ、分からない、なにも分からない…とりあえず、今は…


「分かんないな、恋とか、そういうのは」


これが、今私が言える最高の答えだ。


「…そっか、樹は昔から、疎いもんね」

「!」


疎いってなんだよ。静香に好きな人がいる方が私としては恐ろしいわ。

静香の隣に男が…いる…考えただけで…


「静香っ!!」

「わあ何だよびっくりしたなー!」

「恋愛感情って…女が女に抱くのって変か?」

「…??」


言ってしまった。咄嗟に出たものだけれど、変な質問をしたな、と自分でも思う。


「私は、さ…恋愛感情がよく分からない。お前に言われた通り、疎いからさ。でも…何故か分からないけど、静香に好きな人がいるって聞いたら、胸の奥がもやもやして仕方なかった。静香は、やっぱり私にとって特別で、一緒にいるのが当たり前っていうか…」


もう分かってる。私は静香が好きなんだって。でも、ストレートにそれは言えない。だって普通じゃないから…


「だからさ…静香には、私のそばにいてほしいっていうか、恋人ができても、私とは変わらず仲良くしていてほしいっていうか…」

「なーんだ、そんなことか」


なーんだ、って、私はあれほど考えた結果お前に伝えたんだぞ。それなのに『そんなこと』で済ませるのかよ…


「私は、言われなくても樹のそばにいるよ」

「だって、私の好きな人だもん」


…今なんて?


「私は樹が好きなんだよ?」

「…!?」

「樹さ、『女が女に恋愛感情抱くのって変?』って私にさっき訊いたじゃん?その質問聞いてさ…なんか勇気っていうか希望っていうかそんな感じのものが湧いてきてさ」


静香の目は心なしか光っていた。


「私も思ってた。女の子同士で好きになるっておかしいことだって。でもね、好きになったのならしょうがないのかなって」


静香は一呼吸置くと、再び息を吸った。


「私は、樹が大好きだーーーっ!!」

「小さい頃から、一緒にいてくれて、私を守ってくれた樹が大好きなんだーーー!!」


そっか。静香は私といることを選んだんだ。世界の偏見や差別を乗り越えて。


「私も、静香が好きだよ」

「…えへへ、なんか照れちゃうね」


静香の笑顔は相変わらず可愛くて。


「あっ、アイス溶けてる…」

「あーあ…ま、いっか。アイスよりも甘い想いを受け取ったからね」


静香は私を見てウィンクした。


「なあ、明日…デート行かないか?」

「え?あ、そっか、私たち付き合うんだっけ?」

「そうだよ、自覚持てよ」

「実感湧かなくて」


私と静香は見つめあって笑った。


「さーて、映画に水族館に遊園地!あ、無難にいつも通りのショッピングでもいいよ?」

「どうしようかな?」

「うーん、あ、ここがいいんじゃない?」

「あ、確かに…」


夏休みの勉強会のはずが、いつのまにか私たちのデートプランになっていた。


新京極鈴蘭です。

短編小説を書いてみました。よろしくお願いします。

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