魔法
「いやぁ、蜘蛛は強敵でしたね。」
「ホントにな。大体お前のせいだけど。」
蜘蛛を倒してから暫くしたら落ち着いたらしく、エルビスも何時もの調子に戻っていた。
「本当に申し訳ありませんでした。蜘蛛はどうも生理的に受け付けないんですよ。ああ、シーラちゃんは黒光りするあのカサカサが苦手ですよ。」
「ああ、俺もあまり得意ではないな。見つけたら速攻で潰すけど。」
台所の天敵だからね、しかたないね。
みんなも苦手でしょ?
あれ得意なのアシダカ軍曹くらいじゃね?
アシダカ軍曹はエルビスが騒ぐの目に見えてるんだけどね。
「にしてもご主人様カッコよかったですよ~?なんでしたっけ?〘シロガネ流剣技、抜刀術六番。彩花煉死奏〙でしたっけ?一瞬で敵を切り刻むとか可笑しいけどもうツッコミません。なれました。」
慣れたか~。
少し残念だな、驚くエルビスは見てて楽しかったから。
「時にご主人様?さっきから何をいじってんですか?」
エルビスが聞いてくるのは俺がボールみたいに弄ってる球体の事だろう。
「これか?蜘蛛倒したら落ちてたヤツ。なんだか分かるか?」
「うぇ、蜘蛛のドロップ品ですか。迷宮の魔物は確率でアイテム落とすんですよ。それは魔炎石ですね。杖とか鎧とかに使われる魔力を流すと魔炎石に触れている材質に炎属性が付与されるという品です。鎧に使われてるのは束縛系のトラップ対策の為だったかな?そこそこレアですよ?売れますね。資金集めは基本です。」
ドロップとかすんのか。
今までドロップしなかったのは運がなかったんだろう。
ドロップ・・・ソシャゲ・・・う、頭が。
作業ゲーは人を選ぶからなぁ。
ドロップ狙って十時間狩場往復は普通。
と、話がそれた。
つまりマジックアイテムか。
これを元になんか作りたくなるよね。
・・・ドロップ狙いで二階層狩りまくるか?
雑魚なら無限湧きするらしいし。
所々RPG準拠な異世界だよな、ここ。
◇
「ようやく!ようやく最下層である、一階層に着きましたよ!長かったですねぇ、具体的に言うと約1週間ですねぇ。ツッコミませんよ、速すぎるでしょとかツッコミませんよ!もうチートはスルーです!と言うかご主人様の適応能力高すぎワロタ。」
「すこし黙れ。それか有意義な情報だけ喋れ。」
現在、魔物と交戦中である。
「・・・怒ってます?」
「気が散るから話すなら情報だけにしろ。」
「アッハイ。とりあえずそいつ物理無効兼魔属性対抗弱持ちです。」
物理無効されると俺打つ手無いんですが?
よしシーラさん、出番です。
〘焔之矢〙で殺っちゃってください。
魔法が使いたいね、物理無効とか脳筋アタッカーにはトラウマものだよ?
イデア・ファートゥムは魔属性だけど現段階では魔属性なんて2リットルの水の中にカルピスの原液を一滴入れただけ並に薄いし効果ないだろう。
ダークウルフは黒いくせに魔属性が弱点だったらしいから勝てただけみたいですし。
お前は聖属性とか光属性とかが弱点なんじゃねぇのかよとツッコミをしたのは仕方ないだろう。
今目の前にいる敵は蛇と言うか爬虫類系の見た目の魔物だ。
なんで物理無効持ってるのかと聞かれてもこっちも聞きたい。
「そうです!ご主人様!ご主人様!さっきの魔炎石です!あれ使えばいいんですよ!」
「馬鹿め!さっき盗まれたわ!」
さっき遭遇した魔物にアイテムを盗むスリ系スキル持ちが居たらしく魔炎石は持っていかれたのだ。
「この無能ご主人様!」
「うるせぇ!そもそもあれが盗みスキル持ちとは思わねーだろ!」
見た目が鼠だったんだもの。
「どーすんですか!シーラちゃん任せとか恥じゃないですか!」
何もしてない君には言われたくない。
「これでボスも物理無効持ちだったらご主人様詰みますよ?」
「そうだ!イデア・ファートゥムで炎の剣とか作ってさ!?」
「無理です・・・。」
「なんでさ!魔剣だろ?何で無理なの?」
「属性つけるのは〘付与〙と言って専門外なんですよ!シーラちゃんは!」
「誰かいないの!?〘付与〙持ちの方は!」
「居ますけどこの迷宮の外ですよ!」
「\(^o^)/ナンテコッタイ・・・。」
「顔文字を表現しないでください!ご主人様混乱してますね!?」
お前もだろ。
などと慌ててたら
「あの、取り敢えず魔物を倒したので落ち着いてください。マスターもエルビスも。」
と弓を持ってシーラがやって来た。
爬虫類系の魔物は向こうの方でこんがり焼けていた。
きっと〘焔之矢〙で焼いたのだろう。
「ああ、取り乱して申し訳ない。そして任せきりで申し訳ない。」
「面目ないです。」
エルビスと二人揃って土下座をする。
「顔を上げてください。・・・そうですね、本当は迷宮を出てからの予定でしたが仕方ありません。マスター、マスターさえ宜しければこれから魔法の基礎だけでもお教えしますが。」
「願ったりかなったりだけどいいの?」
「はい、その方が今後スムーズに進みそうですし。」
「ならお願いします!シーラ先生!」
これで念願の魔法が使える!
「先生はやめてください。それではまず最初に・・・エルビスがおしえます?魔法はエルビスの方が得意ですし。」
「え?なんでだ?」
「さっきからエルビス、とても暇そうにしているので。」
―――エルビスちゃんが仲間になりたそうにこちらを見てる。
―――仲間にしますか?
→はい
YES
OK
おいログ。
てかこれやってんのエルビスだろ。
遊ぶなよ。
「わかった、わかったから選択肢の矢印を動かし続けるのをやめろ!!」
脳内にめっちゃ矢印のピコピコ音がこだまするんだが!
うるさい事この上ないだよ!
「おっしゃあ!これで何もしてないという不名誉な称号はなくなった。
エルビスちゃんの魔法講座はっじま~るよ~!と言っても内容はシリアスですけどね。」
おい、不安を煽るな。
「そもそも魔法とはなにか?との事ですが、マナとか色々ありますが、それは何でもかんでも型に当てはめようとする学者達の凝り固まった理論なので省きます。魔法を使うのに必要なのはイメージ、強い意志なんですよ。」
思いとほかしっかりと説明してくれるエルビス。
「イメージと言うと?」
「例えばですね、『火よ!』て叫びながら手のひらに火が灯るのをイメージしたとしますね?すると実際に手のひらに火が灯ります。魔力を持ち、そして強いイメージを鮮明に描ければ一時的ではありますが事象構築を成立させれる、即ち魔法が使えるという訳です。要は自己暗示の最たる物です。」
「でもその理屈だと何でもできることにならないか?」
「本来の魔法とはそういう物でした。たった一人のある者だけが使える奇跡、それが魔法。しかし、その者は自分の死後に世界に魔法の源を幾千幾万と放ち、あらゆる種族で魔力を身につければ魔法が使えるようになったのです。おかげで今の魔法は型にはまった凝り固まった物になってしまっています。魔法はある者が使える万物の奇跡では無く大抵の種族が使える便利なツールに様変わり。」
深い溜息をつくとエルビスは
「根底は変わっていないんですがね、どうしてか価値観や倫理、法則に凝り固まっているのです。火と氷の混ざりあった魔法、なんてこの世界で使える者はいません。何故なら火は氷と決して混ざり合わないという考えがどうしても脳髄に染み付いているからです。」
「つまり、重力を無視して空を羽も持たずに飛ぶ、とかも出来ないのか?」
「無理ですね、種族によっては羽根を持っていますので飛ぶという考えができますが羽根を持たぬ種族、人間などは空を飛ぶ事は魔法でも不可能だと決めつけてしまうのです。羽根を持っても人は空を飛べないのだ、と固定観念に囚われていると言えばわかり易いでしょう。ですがまぁ、得意不得意は有りますからね、その人によって使える魔法が少し決まります。」
「難しいのな。」
と言うかめんどい事情があるのな。
「一番面倒なのはそんな魔法しか使えないくせに自分は一流魔法使いだとか語ってる奴らですよ。」
そこからしばらくは講義に関係ない愚痴だったので割愛させてもらった。
「要は魔法を使うには魔力と高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に物事をイメージ出来ればいいんだろ?」
「ええ、そうなります。さて、次は実技を・・・。」
「いや、その必要は無いよ。魔力の扱いなら多少はイデア・ファートゥムで身につけた、後は自分でどうにかするさ。」
「そうですか?まぁ気持ちはわかるので頑張ってくださいね~?」
そう言ってシーラの所に飛んでったエルビス。
「イメージ、型にはまった考え・・・似てるんだな。魔法も、白銀流剣技も。どちらもその本質は変わらないんだな。ならそれは・・・俺が自分でたどり着くべきことだな。」
不意にそんなことを考えていた。
遅くなりまして申し訳ありませんでした。
ネタをまとめてたら筆が進まなくて・・・。