邂逅
黒色さえ飲み込むような漆黒の闇の中、目の前には青く、蒼く、碧く輝く剣だけが俺の目に写る。
俺、白銀 壱華はごく普通、とは言えないが高校生だった。
普通と言えないのは家が特殊で色々と教えこまれていたからだ。
しかし、さっきを境に俺の人生は大きくずれてしまった。
思い返すは今に至るまでの出来事。
目が覚めると何故か石造りの部屋の中に居り、周りには屈強な男どもが大半をしめる集団が居た。
「よぉ、起きたか兄ちゃん。」
スキンヘッドの人が良さそうな笑みを浮かべ俺に話しかけてくる。
何故かゲームとかに出てきそうな鎧を着てるけど。
「いやぁ、驚いたぜ。まさかエイウィレナに入ったとたん人が倒れてるんだもんなぁ。」
スキンヘッドの男は豪快に笑いながら言う。
倒れてた?
いや、そもそもここは何処だ?
エイウィレナなんて聞いたこともない。
改めて自分の周りや自分を良く見てみる。
自分を含めここにいる人は全てゲームに出てきそうな格好をしていた。
ちなみに俺は鎧は着ておらず麻かなにか出てきた簡易な服を身に纏っていたが。
「エイウィレナにそんな格好で来るなんて普通じゃ考えられない。おい、兄ちゃん。あんたここが何処だかわかるか?」
隠していても仕方ないので素直に首を横に振る。
「そうか、じゃあインフィアリに聞き覚えは?」
これも首を横に振る。
その後もいくつかの質問をされたが全て首を横に振ることしか出来なかった。
スキンヘッドの男はしばし考え込んでいたが他の男達とも話し合い
「兄ちゃん、あんたは恐らくは異世界人だ。」
男曰くこの世界はインフィアリといい、人類、エルフや獣人、魔族と言った様々な種族が暮らす世界でエイウィレナは突如出現した塔の事で中には魔剣や聖剣の様な武具が封じられているらしい。
エイウィレナは全部で十八あるらしい。
エイウィレナのような特殊な場所では百年に一度くらいの割合で異世界の人間が迷い込むらしく、俺もその一人の様だ。
「しかし、ついてねぇなぁ。エイウィレナは一度入ったら封じられたら武具を誰かが手にするまで出られないらしいんだよ。まぁ百人はいるから問題ないだろ。」
なぁ、と周りの男達に笑いかける男。
「そういえば名前を聞いてねぇなぁ。あんた、名前は?」
なんと答えよう?
普通に白銀 壱華と言えばいいんだろうか?
それともイツカ・シロガネ?
・・・イツカ・シロガネでいいと言うかこの世界はきっと名が先で姓が後に来るんだろう。
郷に入っては郷に従えと言うしね。
「イツカ、イツカ・シロガネです。」
「イツカ、か。いい名前だな。俺は・・・」
男が自分の名を語ろうとした刹那、視界から色が消えた。
いや、色ならある。
それは黒、真っ黒な闇が舞い降りたのだ。
しかも目の前にいたはずの男の気配は疎か、周りにいた人達の気配も消えていた。
「な!だ、誰かいませんか!?誰か!?」
何も瞳には映らず、何も耳には聞こえず、何も感じない闇に居ることに気が狂いそうになる。
不意に
カツ。
カツカツ。
カツ、カツカツカツ。
足音のような音が響き出す。
「誰かいるのか!?」
半ば縋るような声で叫ぶ。
「居るよ。」
その声は幼い少女の様だった。
「君以外の人間にはご退場願ったからね。ここにいるのは君と、そして僕だ。」
闇が晴れる。
「初めまして。君は選ばれるといいね。」
俺の目の前には大体14そこらの真紅のゴスロリ服を身に纏った黒髪の少女が居た。
選ばれるといい?何のことだ?
「さぁ、抜いてみるといい。」
少女が何処からか青く、蒼く、碧く輝く美しい剣を取り出し地に突き刺した。
瞬間、目には剣以外のすべてが映らなくなり、声が響く。
「剣を抜ければ君は生き永らえることが出来る。抜けなければ死ぬ。」
選択の余地はないんだよ、
と耳のそばで声がする。
俺は剣の前に進み息を整えた。
とまぁ、そんなこんなで今に至る。
「と言うか、あれだよな。抜けなければ死ぬって抜けなかったら私が殺すって事だよな。あの子人間じゃないのかな?」
いや、既に異世界にいることを認めて考えてる俺何なの?
「まぁ、夢なら夢でいいか。現実だとしても彼処より楽しそうだしな。」
「独り言呟いてないで早く抜いてくれないかな?君が異世界人である事はさっきの連中との話を聞いてたから知ってるけど、残念ながら現実と認めた方がいい。」
少し苛立ちの混じった声が聞こえる。
「仕方ない。」
柄を掴み剣を抜こうとする。
しかし、柄をつかんだ瞬間茨の様な何かが腕に絡みついてきた。
「ぐ、ぐぁあ!」
茨の様な何かは腕を食い破り身体に侵食してくる。
「耐えることだ。君が相応しくないものなら喰い殺されているが君は今も生きている。第一試験合格というわけさ。わかったらさっさと抜いてください・・・?」
痛みを堪えていると頭の中にも声が谺響する。
『さっさと抜いたらどうなんですか?ご主人様?焦らしプレイとか上級者ですね。え?ちがう?いいからちゃっちゃと抜いてください。そこの私の分身が喧しいですから。ほら、ハリー、ハリー。』
訳が分からず混乱していたがめんどくさくなって原因と思わしき剣を引き抜く。
「だぁらっしゃー!抜いたぞオラー!」
「おお、やりますねご主人様。さすが私が見込んだだけの事はあります。」
いつの間にか隣にさっきのゴスロリ少女に似た銀髪で紅の瞳をした女の子がいた。 (この子もゴスロリだったが色は白だった。)
「だれ?」
「さっきの喧しい赤いのの本体で貴方の使い魔みたいな者ですよ。ご主人様。とりあえず魔剣を抜いた事はおめでとうございます。」
混乱が頂点に達して俺は意識を手放した。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
サブタイトルを邂逅に変えました