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いずれ不敗の魔法遣い ~アカシックレコード・オーバーライト~  作者: Sin Guilty
転章 大いなる災厄編

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第06話 四人目の聖女

「ん……」


 大人っぽい見た目どおり、声もなんか色っぽいな。


 「転移(テレポート)」でサイハテから王都ファランダインまで戻ってきている。

 まあ無いとは思うが、万が一を考えて建造中の浮遊新都ファランダインで「謎()の褐色美女」の封印解除に臨んでいる。


 「盾の聖女」――言ってみれば各種結界魔法の専門家(スペシャリスト)を自他共に認めるアリアさんが膝を屈する前で、謎の褐色美女が目覚めようとしている。

 アリアさんがあらゆる解除を試みても何の反応も見せなかった結晶(クリスタル)結界は、埒が明かないので俺が強制的に「上書きの光(オーバーライト・レイ)」で消し去った。


 アリアさんは張り切っていたらしい迷宮(ダンジョン)攻略に続き、自分の専門分野とも言える結界解除でも役に立てなかったので、思った以上に落ち込んでいるようだ。


 (*・д・)σ < orz?


 やめたげて。


 ……どうも俺のやる事なす事、アリアさんにツライ立場を強いる事になっているような気がする。


 別に悪意があるわけではないのだが、なんとなく負い目と言うか引け目を感じるので何とかフォローと言うか償いと言うか……

 とはいえ効果的な解決方法が思い浮かぶ訳ではないのだが。 


 しかしこの状況は、妙と言えば妙なのだ。


 ()()――「正体不明の浮遊要塞」の出現からその攻略、謎の美女との邂逅と言うのが「大いなる災厄」の序盤イベントだと言うのであれば、「勇者と三聖女」――勇者であるジャン、聖女であるネイ、アリアさん、クリスティーナ(おくさん)のいずれかの()結晶(クリスタル)結界は解けなければおかしい。


 俺が「上書きの光(オーバーライト・レイ)」を使えなければそこから話がすすまない。

 それじゃあどうしようもないと思うんだが……


 まあ他の仕込み(イベント)と連動して解除されるようになっていたか、あるいは……()()()に城迷宮(ダンジョン)を攻略していれば解除のアイテムが手に入っていたとかだろうか。


 ――考えられるな。


 それなら犯人は俺という事になる。

 ゲーム的にいうならば用意されている攻略手順、イベントをチートですっ飛ばすから、物語展開に矛盾や行き詰まりが発生するというパターン。


「それに一票ですねぇ」


 ねぇ語尾ヤメテ。

 

 ゲームとして考えれば、製作者の思惑をイレギュラーな手段で台無しにする慮外者であることには俺も同意する。


 だがこれはゲームじゃない。


 「大いなる災厄」の筋書きをぶっ壊す事が俺達にとって不利に働かないのであれば、できることは全てするべきだと思う。

 けっして面倒くさいから第伍階梯魔法と追い討ちで一掃したわけじゃない。

 迷宮(ダンジョン)での万が一の仲間の負傷や、時間のロスを考慮した結果だ。


 ほんとだぞ?

 

「まあ一定の説得力はありますね」


 ねぇ語尾を止めてくれたという事は、タマも一定の理解をしてくれているらしい。


 確かに困った事になる可能性もあるので、今後は勝手に自分の判断だけでやらずに、タマやツクヨミには相談する事にしよう。


 本来あるべき「勇者と三聖女」の形が崩れている現状では意味が無いような気もするが。

 

 まあそのせいでこれ以上イベントの進行が不可能です、と言う状況になったとしても構わないっちゃ構わないんだけどな。


 そうなれば俺達はイベントとやらが止まったこの世界(ラ・ヴァルカナン)で楽しく生きていく。

 どうせ現実にエンディングなんて無い。

 在り得るとしたらバットエンド――「世界(ラ・ヴァルカナン)の終わり」なんだろうけれど、それは俺がさせない。 


 何かに一区切りがついたところで、明日からはまた日々が続いていく。

 俺とクリスティーナの今の暮らしだって、物語で言うなら幸福な結末(ハッピーエンド)の向こう側だろう。


 何かと盛り上げてくれる要素が世界(ラ・ヴァルカナン)に溢れているのは、有難いんだか有難くないんだか。

 なんなら俺達の新居で、クリスティーナ(おくさん)といちゃいちゃして過ごすだけでもいいんだけどな、俺は。


 ――サラやセシルさん、アリアさんあたりが絡んでくるとラブコメ風になりかねんが。


 物語としての需要はなかろうが、それはそれで楽しいだろう。

 さっさと世界(ラ・ヴァルカナン)の問題を片付けて、そういう暮らしに入りたいものだ。


「意識が戻りますわ」


 アリアさんの言葉通り、謎の褐色美女の意識が戻り、ゆっくりと目が開かれる。

 瞳の色は鮮やかな紅。


 まだ意識ははっきりしていないようで、ぼうっとした表情で周りを見回している。


「綺麗な女の方ですね、あなた?」


 ――奥さんから突然振られる正しい答え探し。

 どう答えてもアウトな気がするのは気のせいか。


 どうするツクヨミ。


 m(o・ω・o)m < blocked in every direction


 あきませんか。

 八方塞と言うのであれば無難なところで突破するまでだ。


「ソウダネ」


 棒読み口調になるのは仕方が無いが、そんなこと無いよというのもあれだしな。

 君のほうが綺麗さ、なんてみんなの前では流石に言えないし。


 とにかく「謎の褐色美女」の意識が戻るという事は、異変の引き金(トリガー)になる可能性がある。


 それを見越して、世界(ラ・ヴァルカナン)の主要国家に派遣した竜の巣(ドラゴン・ネスト)への避難はそのまま継続してもらっているし、セト&ティスを中核とした十三使徒、魔法遣い達には辺境で何が起こっても即応可能な体制を維持してもらっている。


 まあ世界(ラ・ヴァルカナン)中の冒険者ギルドをフル稼働させて、異変が起こりそうな辺境領域に冒険者を派遣するという原始的な手段を取っているので、異変が発生したとしても情報が入るまでにタイムラグがあることは考えられるのだが。


 今回の「調査クエスト」参加者には「転移(テレポート)」の魔石を支給しているから、可及的速やかに情報は伝達されるはずだ。


 いずれは哨戒端末とか、せめて通信用の魔道具(マジック・アイテム)をネモ爺様達、錬金術師に開発してもらう必要があるな。

 異変には初動が重要なのは言うまでもないし、正しい初動を起こすには可能な限り早く、正確な情報が不可欠だ。


 俺の提唱した世界(ラ・ヴァルカナン)の異変に対応するための「異能者組織」を最も効果的、有機的に運用するためにはその辺の充実を急ぐ必要がある。

 

 まあ今はないものねだりをしても仕方がないから、手持ちのカードで何とかするしかない。 


「ここ……は?」


 ぼうっとした表情のまま、謎の褐色美女が疑問の言葉を口にする。


 いきなり理解不能の言語を話されなくてよかった。

 本来日本語しか話せない筈の俺が言う事ではないかもしれないが。


「君は言葉は話せるが、自分を何者かわかっていない。名前ぐらいは覚えているかもしれないが。どうして今ここにいるのか、なぜ自分の意識が断絶していたのか、どうして迷宮の奥深くで封印されていたのかは何一つわからない。――それでいいかな?」


 クリスティーナの半目を避けるように、勢いよく質問を重ねる。

 いきなりいろいろ言われた謎の褐色美女だけではなく、この場の誰もが俺の()()に驚いているようだ。


 ――そういうもんなんだよ、迷宮の最深部で出逢うパターンとしては。


 苦笑しているのはタマだけだ。

 猫の姿でそれだけ表情豊かなのは世界がどれだけ存在してもお前くらいだろうな。


「え? あ、は、はい……」


 俺の勢いに引き気味だ。

 ただやっぱりか、という様に俺とタマが同時に天を仰ぐ。


「あの……ツカサ様はなぜそんなことがわかるのですか?」


 半目をしていたことも忘れて、クリスティーナ(おくさん)が聞いてくる。

 こういう時はまだ「あなた」ではなく「ツカサ様」に戻るのが面白い。

 アリアさんや、ジャン、ネイも同じ事を訊きたいという顔をしている。


 ――()()()って言っても通じないだろうしなあ。


「こういう状況なので、遠慮している場合じゃないからね。銀の義眼(左眼)超過駆動(オーバードライブ)させている」


 もっとも納得いくであろう説明をする。


 実際、今俺の銀の義眼(左眼)は魔力のエフェクトを発生させ、その目に映る対象のあらゆる情報を丸裸にしている。


 この状態の俺に心的外傷トラウマに近いものを持っているアリアさんが、「ひ」という声と共に一歩引く。

 アリアさんだけでなく、クリスティーナ(おくさん)やジャン、ネイも半身を引いている。


 ――そんな警戒しなくてもそっちは見ないよ。

  

 とにかく目の前の謎の褐色美女の反応(リアクション)は演技ではない。

 内心もほぼ同じ反応を示しているからだ。


 それよりももっと厄介な情報が、俺の銀の義眼(左眼)には表示されている。


 名前は「リリン・イニティウム・フィーニス」


 ステータスの各数値は一般人に比べれば桁違いだと言えるが、最近レベルを上げまくっている俺達には遠く及ばない。


 問題はそこではなく、ジョブ欄だ。


 これ以上は深く潜っても情報は表示されない。

 俺の銀の義眼(左眼)()の姿の情報を丸裸にはできても、()()()()は無理なのか。


 そこにはクリスティーナ、アリアさん、ネイと同じ。


 「聖女」の文字が表示されている。


 ――四人目の聖女。


 本来三人のはずの聖女の四人目は、「勇者と三聖女」の関係に波風を、事と次第によっては亀裂を生む存在として送り込まれたのか。

 

 俺の銀の義眼(左眼)に映し出される謎の褐色美女――リリンは本当に怯えているだけだ。


 さてどうしたものか。



「師匠、始まった!」


 そう思っている俺の目の前に、セトが「転移(テレポート)」で現れる。

 何が、と聞くまでもない。


 リリンの覚醒に連動して各地で異変が起こったというのであれば、まずはそれを鎮圧しよう。

 全てはその後だ。


「とりあえず、リリンさんは俺達と行動を共にしてもらいます。いいですね?」


「私は、リリンというのですね……」


 名前も覚えていない状況か。

 多分この人が、タマの眷属なんだろうなあ。


「間違いないですね。記憶や使徒としての能力は封じているようですが」


 ラスボスが仲間として参加か。

 ホントにベタな展開だな。


「主がこういうの好みでしたからねぇ」


 俺 の せ い か 。

次話 蹂躙

近日投稿予定です……


申し訳ありません、連日投稿の維持が出来ておりません。

極力そうするべき頑張ります。

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