第04話 正しい初動
目の前に今回の異変――正体不明の浮遊島が、その不気味な威容を晒している。
情報通り、ゆっくりとヴェイン王国王都ファランダインへ向かって移動しているようだ。
その巨大さからすぐそこに存在しているようだが、実際にはまだそれなりの距離は開いている。
飛翔の魔法で空中へ浮かんでいるのは予定通り、俺、クリスティーナ、アリアさん、ジャン、ネイという俺プラス「勇者と三聖女」の布陣だ。
セトとティスは自分たちも参加するとずいぶんごねたが、俺は初動を間違えるつもりは無い。
本来この世界を守護する立場である「勇者と三聖女」以外を連れてくるつもりは全くなかった。
俺の言っていることを頭では理解できているのだろうが、置いて行かれると言うのは「一番弟子」を自認するセトとティスにしてみれば仲間はずれみたいで淋しいのだろう。
最期は拗ね気味になっていたから、後で何かフォローをしなければ。
中の人は同じなのに、セトとティスそれぞれにしなければならないのが結構大変だ。
なぜか二人同時に俺と行動する事を最近嫌がるしな。
仲が悪い――と言うのも妙な表現だが――などという事はありえないんと思うんだが、謎だ。
まあセトは一緒にネモ爺様のところへ最新の「魔法武具」でも買いに、ティスは王都で有名な宝飾店にでも連れて行けばいいだろう。
なんだかんだ言ってまだまだ子供だ。
「と思っているのは主だけなんですけどね」
やかましい。
というかツクヨミがタマの思考追跡《Thinking tracking》をブロックしてくれているはずなのに、最近こいつは的確に俺の思考を読みやがる。
(*_ _)人<sorry master
いやツクヨミのせいじゃないよ。
タマが見た目どおり、化け猫化してきているだけだ。
もしくは俺が読み易すぎるのか。
とにかくセトとティスは万が一に備えての対応部隊に回ってもらっている。
今のところ何かが発生したと言う連絡は入っていないが、本命の侵攻にあわせて世界各地で異変が同時多発するのはまあ、お約束だ。
何もなければそれでいいが、万一があった場合即応できるような体制を布いて来ている。
主要国家の王都には、竜の巣を一時的に避難場所として借り受けたジアス教の大司祭クラスが向かっている。
今はもう到着していて、緊急避難要請を通しているはずだ。
八大竜王とセト、ティスを含む十三使徒たちには「サイハテ」以外の辺境域に何か異変が発生した際に対処してもらうように、いつでも転移可能な状態で王都ファランダインで控えてもらっている。
魔物や魔獣の大量発生であれば対応してもらい、正体不明のものが現れたら即応せずに俺に連絡を入れるように指示している。
セトとティスを含む十三使徒たちはともかく、八大竜王の爺様たちは俺のいう事なんか聞かずにすっ飛んでいくんだろうなとは思っているが。
まああの連中がそうそう遅れを取ることもあるまい。
意外と逃げるときはさっさと逃げるしな。
なんにせよ、目の前の「正体不明の浮遊島」をさっさとどうにかすればいいだけだ。
正体不明の浮遊島がどのような攻撃手段を持っているのか不明なので、こっちの浮遊島はもってきていない。
俺とアリアさんの手による魔法障壁をそうそう貫かれるとも思えないが、わざわざでかい的を用意する事も無い。
俺達5人くらいであればアリアさんの絶対防御障壁で覆えるし、いよいよとなれば俺の「上書きの光」で即座にフォローできる。
さてやりますか。
「私、こう見えて迷宮攻略は結構得意ですのよ? どのような不意打ちや罠であっても、私の「絶対防御障壁」で防いで見せますわ」
結構大きい胸を反らせて、アリアさんが宣言する。
アリアさんが俺達と本格的な戦闘行動を共にするのは初めてだ。
鼻をふんすふんす言わせて、アリアさんの気合が入っている。
確かにアリアさんの「盾」の能力は、視界が制限され罠などが満載の迷宮攻略では有効だろう。
だが初めてであるが故に、アリアさんは俺達の「攻略」の荒っぽさ、もっとはっきり言えば大雑把さを知らない。
アリアさんだけが真面目に「正体不明の浮遊島」へ上陸し、これ見よがしに聳え立っている巨大な城――間違いなく内部は迷宮化しているであろう――を突破すると思っているのだ。
「――え?」
俺と二人で結構攻略もしているクリスティーナが、何を言っているのかしらという疑問の声を出す。
いや、普通はそう思うもんだと思うぞ、クリスティーナ。
俺らがちょっと異常なのかも知れない。
その証拠に、実は結構常識人なジャンとネイが曰く言い難い表情をしている。
いやお前らのほうが、俺の攻略方法よく知ってるだろ。
今回ははなから空中に浮いてくれているから、迷宮を抉り出す必要が無いから楽なくらいだ。
「……あの……私、なにか変なこと申しましたかしら?」
クリスティーナの反応に、アリアさんが不安そうに問い返す。
いや別に変な事は言ってませんけど、引かないでくださいね?
俺の銀の義眼と左手のグローブは既に魔力の焔を吹き上げている。
無詠唱で既に「第伍階梯魔法」を発動しているのだ。
俺は敵性存在だと解っている迷宮をてくてく攻略する気など始めから無い。
ドロップアイテムなどにさして価値を見出せない俺としては、叩いて潰すほうが早い。
まだそれなりの距離がある「正体不明の浮遊島」に、遥か上空からほぼ同じ大きさの岩山が堕ちる。
――第伍階梯魔法「山脈墜」
轟音と共に「正体不明の浮遊島」にそれが直撃し、精緻に造られた城ごとその巨大な浮遊島を割り砕いて墜ちてゆく。
「な、な、な……」
アリアさんのリアクションって結構面白いよな。
整った顔しているのに、子供みたいになる。
ジャンとネイはもう慣れたものなのか、「おー」とか言いながらその様子を眺めている。
爆音と魔法のエフェクトを撒き散らしながら、さっきまでゆっくりと進行していた「正体不明の浮遊島」は地に落ちる。
そこへ俺の銀の義眼を向け、まだ生態反応のある魔物、魔獣全てをその視界に捉える。
――10887体か、あれだけ派手に堕ちてそれだけ生き残っているという事はやっぱり相当高難易度迷宮だったんだな。
その全てを目標固定し、地上に向かって10887本の光の矢が俺から雨のように降り注ぐ。
これでとりあえず発生した「脅威」は排除完了だ。
敵性存在を示す「赤」のカーソルではないものが結構含まれているから、この後地上で調査だな。
特に何もなければこれで終了だが、おそらくそういうこともあるまい。
「――なんですのこれ。これが貴方達の迷宮攻略なんですか?」
呆然、と言う表情でアリアさんが尋ねる。
「貴方達っていうか、ツカサさんのですけど……今日はまだ地味だよな、ネイ」
「ですね。普通の迷宮だと、地下の最下層までをまず引きずり出すところからですものね。あれに比べれば、叩き落して魔法で一掃しただけですから……」
ジャンとネイの言葉に頭痛でもしたのか、アリアさんはこめかみを押さえている。
うん、俺も久しぶりに普通の人の反応を見たから思い出したけど、迷宮攻略ってこんなもんじゃないよな。
レベルをあげることに躍起になっていた「やり直し」の過程で、いかに効率よく敵を殲滅するかに特化した結果、こんな風情の無いやり方になってしまっている。
今度一回、ちゃんとらしい迷宮攻略もしてみるべきだな。
「こんなことで驚いていたら、ツカサ様の側室なんて務まりませんよ?」
「肝に銘じますわ」
クリスティーナとアリアさんがなにやらおかしな会話をしているが、聞かなかったことにする。
とりあえず俺の銀の義眼が捉えている、敵性ではない生命反応を確かめてみよう。
結構強固な結界に護られているみたいだし、何か展開はあるだろう。
未だ爆炎と轟音を撒き散らす、もと浮遊島であったものが堕ちた場所へ俺達は高度を下げて行く。
次話 罠
3/6 投稿予定です。
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