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いずれ不敗の魔法遣い ~アカシックレコード・オーバーライト~  作者: Sin Guilty
新章 十三使徒編

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第05話 第一席たる異能

 セトの存在に反応して全ての結界が解除され、部屋の扉が開いてゆく。


 ここに至るまでの通路在り方や、そこにかけられた多重結界。

 そして今開いていく扉にかけられている結界の魔力量をみただけで、セトがどれだけ眠り続ける妹を大事にしているかが窺い知れる。


 「眠り姫スリーピング・ビューティー」を護る結界には、セトの「魔力」以外の()も混じっていたから、セトが大事な妹を護るために、その助力を認めている存在がいるという事だ。

 おそらくはセトがまず倒すと宣言していた、「十三使徒」の第二席であるシリスさんのだろうと思う。

 我々使節団のホスト役も務めてくれていた。


 ハッタリ満点で現れた俺達に嫌な顔ひとつ見せず、そつなくこなしてくれていた、初見ではまさに「出来る男」のイメージだった。


 ああ見えてセトが口さがなく言う相手というのは珍しい、というか初めて聞いた。

 それだけ心を開いているという事でもあるんだろうし、正直ちょっと妬けた事は内緒だ。


 シリスさんは年の頃は二十半ばの青年、「理系魔法遣い」とでもいおうか、なんとなく「魔法遣い」としての理想形のルックスを有しておられた。

 自分があれくらいの歳になった時に、ああいう空気を纏えていたらいいなあと思える。

 

 うっかりやさぐれたら、クリスティーナ(おくさん)、サラ、セシルさんの三人からフォローと言う名の一刀両断を頂戴したので今後は自重しようと思う。


 止めは能力管制担当(左手のグローブ)のメッセージだったけどな。


 o(´^`)o Do you want to change the avatar ?


 アバター変えますかって……


 変えません。

 俺はこの姿で生きていきますとも。

 

 と言うかそんなこともその気になれば可能なんだな。

 地味なところで自分が本当に「創造主」、少なくともそれに等しい権能を持っている存在なのだと言う事実を突きつけられてしまった。


 まあこのさえ無い見た目も含めて俺は俺だから、今更変えられるからと言って変える気も無い。

 十数年とはいえ、この見た目と共に育ってきたからこその俺なのだ。

 アバターなどではない、この姿も含めて「八神司」だ。

  

 大体ある朝突然、美形欧州人な自分に変身していたら自我が崩壊しそうだ。

 クリスティーナ(おくさん)に大騒ぎされそうだしな。

 能力管制担当(左手のグローブ)の顔文字も嫌そうだったから、止めておいたのは正解のはず。


 それよりも――


「室内に溢れる魔力量が半端じゃありませんね……」


 左肩で囁くタマの言葉に全面的に同意する。


 膨大とは言っても、俺が先刻10の「大規模転移(ゲート)」を起動させるのに使用した「魔力」の半分以下程度ではあるものの、個人が展開する魔力量としては破格だ。


 今のセトの最大魔力から言えば、三桁分に届こうかと言う量である。


 問題はそれが妹の体内に内在している訳ではなく、目の前の部屋中に展開されているという事だ。

 これだけの魔力を常に放出し続けていると言うのであれば、「聖女」級に匹敵するイレギュラー存在といってしまっていいだろう。


 いや魔力の量もそうだが、俺の義眼に表示されているこの()は……


 完全に扉が開ききる。


 白一色。

 なんの家具も置かれていない広い部屋の中央に、魔力の光に包まれた女の子が浮かんでいる。


 普通であれば驚くべき光景なのであろうが、こっちへ着てからの俺も、その俺と付き合いの長いみんなも、女の子が魔力に包まれて空中に浮いているくらいでは動じない。

 どちらかと言えばまだ「魔法」を扱い始めて一年にも満たない俺よりも、クリスティーナ(おくさん)やサラ、セシルさんのほうが受け入れやすいのかもしれない。

 いやサラとセシルさんは少し驚いているかな?


 セトに良く似た面差しの、美しい少女。


 セトが髪を伸ばせばそのまま美少女だと思っていたが、やはりその具現を目の前にするとセトは男の子で、しっかり美少年なのだという事が良くわかる。

 今目の前に浮かぶ妹さんのように、女の子特有のやわらかさが足りない代わりに、男の子としての力強さとでもいうべきものが宿っている。


 それにしても綺麗な娘だ。


 そりゃセトの妹なんだから当たり前なんだろうけれど、クリスティーナ(おくさん)やサラ、セシルさんや、ネイ、アリアと言う聖女組みを見慣れている俺でも感心してしまう。

 いや、そのおかげで放心せずに済んでいるといったほうがいいのかもしれないが。


 セトと同じ少しくすんだ金髪だが、癖はなくストレートだ。

 瞳は閉じられているのでわからないが、セトと同じ碧なのだろうか。

 眠り始めたのは四年前六歳の時と聞いていたけれど、ちゃんと身体は成長しているのか十歳くらいに見える。

 四年の時間を感じさせるように、髪は長くのびている。

 「癒し」の魔法からも伺えるように、生命維持は溢れる「魔力」が行っているのではあろうが、どういう「魔法」としてそれが成立しているかは()()()()わからない。


 能力管制担当(左手のグローブ)が時間の問題で分析してくれるだろうけれど。


「……どう、師匠?」


「綺麗な子だな。さすがにセトの妹さんだ」


 セトの質問に素直に答えると、瞬間湯沸かし器のように真っ赤になった。

 なんで妹さんを褒めたらお前が照れるんだセト。


 解せぬ。


「そ、それはありがと。――いやそうじゃなくて。師匠の銀の義眼(左目)ならもう()()()()()んじゃないかなと思って……」


 お、おう。


 そうだよな、誰が妹が綺麗かどうかをこの状況で聞くのかって話だな。

 師匠が馬鹿やると弟子としては赤面するしかない訳だ。

 

 すまんセト。


「物凄い魔力が展開されていることはわかりますけれど……ツカサ様の銀の義眼(左目)じゃないと見えないことがあるという事ですよね、セト君」


「うん、まあね」


 サラの質問に、セトが答える。


 この二人は年の頃が似ているせいかとくに仲がいい。

 ここにセトの妹さんが加われば、年長組みと年下組みの人数バランスもよくなるんだけどな、などと馬鹿なことを思い浮かべる。

 ジャンとネイはどんな分野でも自分たちが分けられると悲しそうな顔をするから、あいつらはニコイチでいいや。


「魔力の無い私には何もわからないですね……」

 

 セシルさんが、自分が役に立てない事を悔しそうに呟く。

 そういうのは気にしなくていいんですよセシルさん。

 仲間は得手不得手をお互いフォローし合えればそれでいいんだから、セトがここにつれてきたいと思ったセシルさんは今は供にいてくれるだけでもいいんですよ。


 だからこそ「魔法」こそが専門分野――そう思われているだけで、実はその担当は能力管制担当(左手のグローブ)だから先のようなボケた発言をしてしまうわけだが――である俺がしっかりする場面だ。


「私にも、膨大な魔力が展開されている事しかわかりません。ツカサ様の目には何か見えているんですか?」


 「姫巫女」――「三聖女」の一人であるクリスティーナ(おくさん)にもこれはわからないか。

 そんなものが見えるのは、俺の銀の義眼(左目)くらいなのかもな。


「この部屋に溢れている「魔力」は、セトの「魔力」だ。正確にはセトの魔力と全く同質の「魔力」を、妹さんが展開し続けている」


「やっぱり見えるんだね、師匠()()


 この部屋に溢れる魔力を感知した瞬間にわかった事実を口にする。

 やはりセトは当事者だけあって、その事実を理解しているようだ。


 にも、という事は他にもその事実を把握している人間がいるという事か。

 やっぱりシリスさんあたりだろうな。


「それっておかしなことなんですか?」


 魔力の無いセシルさんが素直な疑問をぶつけてくれる。

 だがそれの何がおかしいのかは、クリスティーナ(おくさん)もサラもわかっていないだろう。

 

「ああ。基本的に「魔力」ってのは人それぞれ千差万別で、全く同じものは存在しない。俺の銀の義眼(左目)にはそれが色となって見えているんだけど、クリスティーナ(おくさん)もサラも、もちろんセトも全然違うんだ。当然俺もね」


 これだけ話してもだからどうなんだって話だろう。


 クリスティーナ(おくさん)とサラの「魔力」も違うという事は伝えたから、血が繋がっているからと言って同じ魔力になるわけでは無いという事はわかってくれただろう。


 ここからどう説明するべきか。 


「師匠だけが出来る事……ってこの言いかたしたら多すぎるからわかんないよね。さっきも僕にしてくれた「魔力充填」――これは普通の魔法遣いには不可能な奇跡なんだ、本来。師匠といると麻痺して当たり前になっちゃいそうだけれどね」


「私もサラも、もちろんセト君も。本来「魔力」の回復には「祈り」が不可欠で、唯一の例外は「魔石」によるものだけですものね」


 セトの説明に、クリスティーナ(おくさん)が理解できたと言う表情をする。

 サラもピンと来たようだ。


 魔物(モンスター)や魔獣を倒して入手する「魔石」が保有している「魔力」は、俺の銀の義眼(左目)に見える色で言えば「透明」と言うのが一番しっくり来る。


 見えはするが、色がないとでも言おうか。


 透明な「魔力」は誰の「魔力」にも馴染み、ほとんどロスを発生させることなく「魔石」を使用した者の魔力を回復させる。


 能力管制担当(左手のグローブ)が事も無げにやっていたので普通と思っていたが、「魔石」に「魔力」を充填することも俺以外には不可能な事だとセトは言っていた。  


 俺が「魔力充填」を行う場合、俺の「魔力」を能力管制担当(左手のグローブ)が、「色抜き」をすると言うイメージだ。

 俺の黒銀のような「魔力」を、「透明」に濾すとでも言おうか。


 ちなみにセトの魔力は「金色」に見える。

 故に俺の銀の義眼(左目)には、この部屋は金色の輝きに満ちて見えている。


 キンキラ。


 クリスティーナ(おくさん)は「桜色」で、サラは「水色」

 これは俺のイメージを能力管制担当(左手のグローブ)が魔力の差に当てはめてくれているだけで、絶対的なものというわけでは無いだろう。


 俺の保有魔力が膨大故に問題は無いが、その際に発生するロスは必要な「充填量」の数倍発生する。

 セト級の魔力保有者を、空の状態から万全にしようと思えば、さっきみた「十三使徒」以外の「魔法遣い」達数百人が総出で行っても足りないだろう。


 そもそも「魔力変換」が出来ないから無意味な仮定ではあるが。


「だけどセト。妹さんの能力――異能と言ってしまっていいと思うけど、それは俺がやってる事とは本質的に違うよな?」


 俺は膨大なロスが出る事を厭わずに、無色の部分だけを濾し取ってそれを「魔力充填」に使用している、言ってみれば力技だ。


 だが妹さんの場合、自身の魔力を相手のそれにいわば調()()している形だ。


 それだけでも「ユニーク魔法」と呼べるだろうが、それ以上に特殊なのは「祈り」を経ずして自身の魔力が尽きる事が無いという点だ。


 俺のように自動的に回復しているわけではない。


 俺の銀の義眼(左目)には、自然に溢れているあらゆる()の魔力を吸収し、それをセトと同じ色に調()()して放出しているように見えている。


「妹さんの異能は、「無限魔力供給」とも呼べる代物だぞ、これ」


 膨大な時間が「魔法」の行使に必須な状況で、妹さんの異能は破格過ぎる。

 この事実をジアス教の上層部は把握しているんだろうから、ここまで手厚い保護をするというのも充分に頷ける話だ。


 ジアス教における秘奥といってもけして過言では無いだろう。 


「うん。それが眠り続けていても妹が「十三使徒」の第一席であり続け、教皇庁からも手厚く扱われる理由なんだ。師匠が相手じゃなければ、教皇猊下は絶対にここを見せる事を許可しなかったと思う。今は僕にしか恩恵は無くなっているけれど、本来は誰にでも使えていたんだよ」


 俺の言葉に、セトが沈痛な面持ちで応える。

 

「――四年前まではね」


 四年前に、こうなる理由があった。


 だからこそ妹さんは四年間「眠り姫スリーピング・ビューティー」であり続け、セトと、おそらくはシリスさんもそれを何とかするべく努力していたという事なのだろう。


 そしてセトが俺に弟子入りする際に言っていた言葉。


『魔法消し飛ばす奴だけでも教えてくれよ、どうしても勝ちたい奴がいるんだよ』


 その相手が実の妹である「十三使徒」の第一席(ティス)だという事は、その後の繰り返しを重ねる中で教えてくれた。


「セトお前……妹さんが意識無いままに発動し続けている、この魔法を止めたかったのか」


 意識の無いまま、お兄ちゃん(セト)の魔力を調()()し、放出し続けている妹を解放するために。

 だからこそ、魔法を無効化する「妨害(インタラプト)」に食いついた。

 それこそ最初は信頼関係も何も無い状態で、己の全てと引き換えにしてもいいという覚悟で。


「……うん。だけどそれは今すぐじゃないよ師匠。全部説明するから、それも含めて全部終わったら僕のお願いを聞いてほしいんだ」


 セトがここへ俺を連れてきた理由は間違いなくそれだろう。


「師匠が与えてくれた「妨害(インタラプト)」は「魔法」が「魔力」で構成されている以上、ユニークであろうがなんであろうが消し飛ばせる。だけどそれは相手の「魔力量」を上回っていないと意味が無い。僕と(ティス)の魔力はこの部屋では全くの同等になっちゃうんだ」


 なるほどな。


 ここでなら魔力は無限に補充される。

 そして妹さんの魔力もセトと同じ「金色」である以上、何をどうやっても互いの魔力量は同等であり続けるというわけか。


「本当は僕が「妨害(インタラプト)」を使うつもりだったけど、この部屋じゃ魔石を使っても、師匠に「魔力充填」してもらっても一緒なんだ。だから師匠にお願いするしかない。お願い、師匠……妹の目を覚まさせてやってほしい」


 俺が必要な理由は良くわかった。

 

 だけど――


「弟子のお願いは何でも聞くって約束しただろ。だけどその前に話してくれ。そこまでわかってるってことは、お前一度一人で試しただろう。一人でやろうとするってことは、なんか危険(リスク)もあるんだろう。出来る事なら何でも協力してやるから、まずはちゃんと説明してくれ」


 俺だけではなく、クリスティーナもサラもセシルさんも頷く。

 お願いなんかされなくても、出来る事なら何でもやるんだ俺達は。


 仲間に対しては絶対に。


 だけど。


 俺の銀の義眼(左目)が映し出す魔力の()()

 何度かセトに感じていた違和感。

 そしてセトが俺達に内緒で、一度妹さんの「魔法」を止めようとした理由。

 四年前にあったという出来事と、その結果妹さんが眠り続けているという事実。


 それらから、もしかしてと想像できる事はある。


 その想像通りなら、例え俺の「上書きの光(オーバーライト・レイ)」の封印を解いたとしても、本質的な解決が無理かもしれない。

 左肩のタマも同じ想定をしているのか、黙して語らない。


 だが、本当に俺の予想通りの状況であるならば、たった一つの冴えたやり方は存在する。

 俺やタマ、もちろんセト本人も危惧している状況をひっくり返せる一手はある。


 そのためにもセトの話を詳しく聞かなければならない。

 

「師匠には適わないや」


 泣き笑いのような表情をセトが浮かべる。

 それは覚悟を決めた人間の表情だ。


「うん、説明するよ。僕がまだ、魔法遣いですらなかった頃からの話を」

次話 セトとティス

1/11投稿予定です。


新章になっても自分なりのハッピーエンドしか書くつもりは無いので、どうやってその着地点に持っていこうか考えているところです。

プロットは仕上がっているのですが、どうはめ込もうかなと言おうか。


セトとティスの問題が解決するまでお付き合いいただければ嬉しいです。

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