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いずれ不敗の魔法遣い ~アカシックレコード・オーバーライト~  作者: Sin Guilty
最終章 絶対不敗編

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第57話 101周目 【終末をみんなで】

 自分の目で「滅日」――「世界(ラ・ヴァルカナン)の終わり」を目にするのは初めてだ。

 少なくとも今の俺、八神(ヤガミ)(ツカサ)としては間違いなくそうだ。


 今までは俺の死が引き金になって「滅日」と「創世」――俺が「死に戻り」と呼んでいた力が発動していたんだから当たり前といえば当たり前だが。


 とはいえこれは、クリスティーナが「何度見ても怖い」というのは頷ける。

 己のやっている事にも関わらず、物理的に怖いというよりも本能的な禁忌に触れているような感覚が確かに怖い。


 「滅日」の文字通り、世界(ラ・ヴァルカナン)が無に――いや光に還って行っている。


「100回も繰り返した事に、何を今更」


 タマのいう事も尤もだが、目でみるのはインパクトが違うんだよ!


 というか自分の「死に戻り」がこんなに大それたモノとは当初想像していなかった。


 セーブ&ロードでも、時間の遡りでも、記憶の過去送りでも「死に戻り」と「経験累積」の組み合わせが成立し得ないことから、「世界(ラ・ヴァルカナン)の再構築」ではないかと想定はしてはいた。

 「死に戻る」度に増え続ける金貨、自動人形(オート・マタ)の「(アルジェ)」や人造使い魔(ファクティファミリア)の「白の獣ベスティア・ジ・アルブス」と「黒の獣ベスティア・ジ・アテル」が、その想定を裏付けてくれていたしな。


 だからこそ、「姫巫女」の能力、というより「聖女の仕組み」に抗する為に、その瞬間での己の再構築の継続という手段を取る事に思い至れた訳だ。


 だからといって、こんな一代スペクタクルな光景が毎回繰り返されているとは思いもよらなかった。

 観客はどうやらクリスティーナだけだったっぽいけれど。

 もしかしたら同格の「聖女」であるネイやアリアさん、あるいは「勇者」もこの光景を毎回みていたのかもしれない。

 

 今俺達は、俺の力でヴェイン王国王都「ファランダイン」の上空に「浮遊(レビテート)」して、「世界(ラ・ヴァルカナン)の終わり」を目の当たりにしている。


 今は世界(ラ・ヴァルカナン)中の生命が光の粒子に還っていっているところだ。

 俺の左目の義眼による広域哨戒(エリア・サーチ)でも、あらゆる生命反応がものすごい勢いで消失して行っている。


「すっごい……」


 セトが思わず声に出している。


 確かにこの光景はすごいな。

 セトにも俺の義眼ほどではなくても、魔力的に生命が消えて行っていることくらいは察知できているだろう。

 事実、足元の王都「ファランダイン」にはもはや人っ子一人どころか、小動物すら存在しない。

 全て光に還って、俺達の周りに浮遊している。


「……綺麗」


「……ええ、本当にそうですね」


 サラとセシルさんは、わりと女の子っぽい反応だ。

 確かに光景としてみればものすごく美しい光景だとも言える。

 

 ただこれが、再創生されることを知らずにみればまた別の感想になるだろう。


「――怖いのはこの後です……」


 クリスティーナが俺の右腕に今一度強くしがみ付いてくる。

 タマが見せる「夢」で見ただけでも相当に怖かったのだろう。


 強くしがみ付かれるたびに、当たってくる感覚に動じないように心がけていると、ふと陽の光が消える。

 「神前裁判」は昼一から開始されるため、今はまだ昼下がりあたりのはずだ。

 よしんば夕暮れ時であったとしても、急に日が沈んで深夜のようになる事などありえない。


 一瞬で満天に星を浮かべた雲ひとつ無い夜空に変じている。


 西の空にかかりはじめていた太陽が、ばきばきと畳まれるように無くなったのだ。

 冗談みたいな風景だ。


「――本格的に、はじまります」


 本気で怖がっているのかと思ったら、どうやらクリスティーナは俺と供に「世界(ラ・ヴァルカナン)の終わり」をみる事を楽しんでいるようだ。

 

 そりゃあなあ。


 信じているとはいっても、次の周もまた俺が「泉の間」に現れるかどうかを保障されていない状況で、一人でこれをみる事に比べれば安心感が違うのだろう。

 しかも次の周は、もう何の障害もなくなっているのが決まっている。


 楽しむ余裕も生まれるというものか。

 

「太陽が……」


 セトが絶句している。

 サラもセシルさんもさすがに綺麗とか言っている場合ではなくなっているようだ。


 いや俺もなんだけどな。


 今みているこれは「世界(ラ・ヴァルカナン)の終わり」なんだと頭では理解していても、無くなるという事が現実的に想像できない太陽が、目の前で消えてなくなるとやはり言葉を失う。


 「ラナ○ータ」なんて言葉はけして頭に浮かんだりしていない。


 日本(あっち)でCGによるSF映画なんかを見慣れている俺ですらこうなのだ。

 世界(ラ・ヴァルカナン)が物理的に、本当の意味で「終わる」ことなど想像したことも無かったであろうサラやセシルさん、基本冷静なセトですら呆然と眺めるしかなくなるのは無理の無いことだろう。


 「終わり」はやはり俺を中心に広がっているのか、まず生命体が全て消失し、次に一番近い恒星である太陽を消した。


 という事は――


 案の定、空気が綺麗なためか宝石をぶちまけた様に全天に輝く星々が、深夜、街の明かりが消えていくように失われてい行く。


 ――この世界(ラ・ヴァルカナン)の宇宙ごと終わっていくのか。


 全天から星がなくなり、黒一色になった空にヒビが入り、硬質な音と供に硝子が割れ、地上へ降るようにして空も無くなってゆく。

 

 俺達の視界が真の闇に覆われていないのは、元世界(ラ・ヴァルカナン)であった光の粒子が回りに浮かんでいるからだ。

 今地上に降りかかる空の欠片達も、地上に着くまでに全て光の粒子に還っていく。


 声もなくその光景を見つめる俺達の目の前で、今度は地上が無くなりはじめた。 

 地平線の彼方から、光の津波が押し寄せるようにして地面が捲れ上がりながら光へ還ってゆく。

 あっという間に山脈も平原も川も海も街も光に還り、足元の王都「ファランダイン」の歴史ある建物たちも全て光に還った。


 もうこの世界(ラ・ヴァルカナン)に形を保って残っているのは俺達だけだ。

 後は俺達を中心に無数に漂う、元世界(ラ・ヴァルカナン)であった光の粒子だけだ。


 もはや「浮遊(レビテート)」で浮いているのかどうかさえも判断つかない。


「ツカサ様とみると、綺麗です」


 腕の中のクリスティーナがポツリと漏らす。

 おそらくは「無」であろう漆黒の闇に、数え切れないほどの光の粒子がゆらゆらと浮かんでいるのは確かに綺麗だ。

 闇夜に蛍の群生地に足を踏み入れたらこんな感じなんだろうか。

 こんな数の蛍が生息しているところなんて無いだろうけれど。


「すっごいもの見せてもらった、師匠ありがと。――後は僕達だけだろうから、先に行ってるよ。これ自覚無いだけで、僕も100回光に還ってるんだよなあ。師匠に逢う度に、なんか懐かしい不思議な感じがするのを、頭じゃなくて身体でやっと納得できたよ」


 セトが俺のほうへよってきて、感想を述べる。


「次はセトの件だな。一年前のネイの件済ませたら、さっさと逢いに行く事もできるけど、どうする?」


 俺の義眼は一度会った人間をすべて記憶している。

 周回を重ねてもそれは失われることは無い。

 「転移(テレポート)」を使えば一瞬で逢いに行く事も可能だ。


 今までは数日間の流れを基本守ることを前提としていたが、今後は別にそういう縛りも無い。


 「姫巫女」解放という宿願――いや「ファースト・クエスト」は解決しているんだし、すぐ逢いに行っても問題は無いだろう。


「んー、止めとくよ師匠。やっぱりちゃんと今までどおりに逢いたいかな、師匠とは。そっからちゃんと続きをやりたい。理由はよくわかんないけど、なんとなく」


「そっか」


 そういうものかもな。

 わかるような気がする。

 

「あ、そうだ。記憶どうする? これはセトだけじゃなくてサラやセシルさんも。今の俺なら、1周目からの記憶を全てつなげることも出来るけど……」


 一気に100周分の記憶が戻れば、結構きついと思う。

 まあそれでも可能なら、自分の記憶は持っておきたいものだろう。


「あっさり言ってるけどそれすごいよね師匠。戻ってすぐそうなったら一年長いだろうから、次の周で全員集合した時に、その話またしてよ師匠。そのときに決めるよ。きっと戻してもらうと思うけど」


「私もそれがいいです。出逢いは今までどおりが嬉しいです」


「私もですね。お部屋には必ずまた参ります」


 みんなそれでいいみたいだ。

 セシルさんの発言の直後に脇に肘が入った。


 痛いです。


「じゃ、先に行ってるよ師匠。またね」


 またな、セト。

 お前はずっと頼りになる弟子だった。

 次からはちゃんと師匠らしくいろいろ教えるから期待しててくれ。


 主に能力管制担当(左手のグローブ)がだけど。

 

「待ってますから、必ずまた逢いに来てくださいね。そうじゃなければ私達「雷龍(トニトルス・ドラク)」に殺されちゃいますけど」


「そこはほんとによろしくお願いします。うっかり時間間違えたりされると悲劇です」


 冗談めかしてサラとセシルさんが言う。


 ちゃんと助けに行きますとも。

 一年あると日時が曖昧になりそうだけれど、タマもいるし、何より俺には頼りになる能力管制担当(左手のグローブ)がいてくれますからね。


 大丈夫です。


 何でもかんでも頼りすぎな気もするけど。


 それを合図に、三人も光へ還って行く。


 サラとセシルさんは一瞬怯えた表情を浮かべたが、セトは最後まで興味深そうに光に帰っていく己の身体を見つめていた。


 痛みとかは無いようでほっとする。


「さて、私達も今回に限っては先にお暇しましょう。お邪魔でしか無いでしょうしね」


 タマがいつもの調子で最後を締める。

 私()というからには、能力管制担当(左手のグローブ)も一緒に行くんだな。

 左目の義眼は残しておいてくれないと困るが。


「タマ、いろいろ聞きたい事もあるけど、それは後にしてとりあえずお礼言わせてもらうよ。今までバカみたいな周回に付き合ってくれてありがとう。おかげで目的は達成できたよ」


「本当にありがとうございました、タマさん」


 クリスティーナも俺と一緒に頭を下げる。

 なんか仲人にお礼言っている新婚夫婦みたいだな。

 ある意味タマのおかげで出逢えて、タマのおかげでこうしていられるんだから間違っちゃいないのかもしれないが。


「どういたしまして。もうお分かりでしょうけれど、こちらの思惑もあったのでお礼を言われることではないのですがね。まあ時間はたっぷりあります。貴方が急かすのであればすぐに全てを話してもいいですが、まずは今の世界(ラ・ヴァルカナン)での生活を楽しむのもいいでしょう。どうやら貴方もそのつもりのようですし」


 ばれてる。


 まあ深刻な事態であればタマのほうから言って来るだろう。

 それくらいの信頼関係は築けているつもりだ。


「どうあれ、これからもよろしく頼む。()()()()()()になるだろうし。もちろん能力管制担当(左手のグローブ)もな」


 (。・ω・)ノ゛ Best regards future


 ほんとに頼む。


「余計なことかもしれませんが――ツカサ、今やあなたは世界を自由に出来る力を持っています。だけどそれを重荷に感じたり、それを使って全ての人々を幸せにするのが義務だとか思い込んだりしないように気をつけてください。まずは貴方が世界を楽しむことが何より大切なのです。他人を救う機械みたいになってしまわないように。その点ではクリスティナ王女殿下、貴女に期待します。我が主の伴侶として、楽しい世界を供に歩まれますように」


「っはい!」


 なんだこの空気。


 タマが俺を気遣ってくれているのはわかるが、ほんとにカーチャンが新妻に息子を託すような空気は止めてくれ。

 確かにタマに期待したのは、カーチャン的ポジションではあったけれども。


 クリスティーナもやけにいい返事を返すし。


 ともあれ心配しなくても大丈夫だよタマ。

 俺はちゃんと楽しむとも。

 

 自分の力を使うべきときにはちゃんと使って、自分が一番楽しめるように行動するよ。

 持っているあまりの力の大きさに勘違いして、世界を守る装置のような事にはならない。


 自分が一人の八神(やがみ)(つかさ)という人間として行動し、その先々で自分の力でできることはするけれど、こんな風に世界ごと再構築するのはよほどの時以外簡単にはしない。 


 絶対にやらないとは約束できないけどな。


「まあ貴方の事ですからね」


 おい、能力管制担当(左手のグローブ)、また思考ブロック外れてないか?


「ふふふ。ではお先に」


 そういってタマの黒い身体が光に還る。

 同時に俺が最も頼りにしてきた左手のグローブからも僅かな光が漏れ出る。

 能力管制担当(左手のグローブ)もタマと一緒に行ったのだろう。


 結構いいコンビだと思う。


 これで終わった世界(ラ・ヴァルカナン)に存在するのは、俺とクリスティーナ二人っきりだ。

 

「クリスティーナ」


「ツカサ様」


 ほぼ同時にお互いを呼び合い、照れて赤面する。

 世界(ラ・ヴァルカナン)に二人っきりになってまで何やってんだかな。


 だけどちゃんと話がしたかった。

 文字通り、誰の邪魔も入らないこの状況で。


 いつも俺達の会話は、殺し殺されるような状況でばっかりだったから。

 目的を果たし、お互いもうなんの遠慮もなく、本音も隠す必要がなくなった今だからこそ。


 クリスティーナが俺の腕に抱かれていたような状況から抜け出して、至近距離で二人で向き合う。


 終わった世界(ラ・ヴァルカナン)の最後の二人で、少しお話しをしよう。


 これからの二人の事を。

次話 101周目【魂に刻んで】

本日22:00投稿予定です。

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