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いずれ不敗の魔法遣い ~アカシックレコード・オーバーライト~  作者: Sin Guilty
最終章 絶対不敗編

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第56話 101周目 【アカシックレコード・オーバーライト】

 我を失って取り乱しているネイの意識を奪う。

 申し訳ないけど、自棄になって全力攻撃を仕掛けられても困るし、勘弁してほしい所だ。

 

 いやもう、魂が俺の事を赦しはしないかもしれないけど。


 他人である俺達から見て、どれだけ歪でどれだけ異常に見えても、本当のところは二人にしかわからない。


 俺の価値観では、二人の関係は歪に見える。


「勇者」は救いようのない屑だ。

 少なくとも今この時点での「勇者」は、間違いなく屑だった。


 一方でネイは「勇者」に縋るしかなかったのだろう。

 どれだけ酷い扱いをされても、村を救ってくれた恩があり、何時また暴走するとも知れない自分の力を制御できるのが「勇者」だけだったのであれば、そうならざるを得ない。

 

 まだ幼いネイが、慕っていた村人達から向けられた視線に恐怖するのは理解できる。


 俺に言わせれば、村人達の自業自得だとも思っている。

 自分たちに御しきれない力を、便利だからといって自分達だけの為に利用していたのだ。

 しかも暴走のきっかけは、ネイにしかどうしようもない魔物(モンスター)の襲来を何とかさせようとした結果ときている。


 だからといって、ネイに「聖女」の力の兆しが見えた時点で「教会」に「聖女認定」を申請していれば魔物(モンスター)の来襲になす術なく蹂躙されて滅んでいたことも疑い得ない。


 そうなればネイもまた、最初のクリスティーナや、今のアリアのようになっていたんだろう。


 そう考えれば、ネイの村を救った時点では、「勇者」は確かにネイも救ってはいるのだ。

 頼っておきながら、ネイに恐怖の眼差しを向けた村人達を張り倒してやりたくはあるが、他人が口を出す事でもない。


 だけどそれに付け込んで、ネイを自分のために利用していた「勇者」は赦しがたい。

 それも大事にしていたのならまだしも、「聖女教育」によるものではなくネイが表情を失うほどの扱いをしていたようだし。


 俺の価値観では、屑の所業だ。  

   

 だけどネイにとっては、俺の価値観など知った事じゃないだろう。


 依存であれ、自己犠牲であれ、ネイの想いはネイのものだ。

 間違ってたどり着いた答えであっても、()()()()にとってはそれが何より大事なものだったのだろう。


 それを奪われたネイにとって、これからの人生は苦痛でしかないかもしれない。


 だが俺が「勇者」を殺したのは、あくまで俺にしたことと、クリスティーナに対してしたことの落とし前をつけたに過ぎない。


 いやもっと正直に言えば今の「勇者」の言動全てが、俺にとって胸糞悪いから殺したのだ。


 俺の価値観を押し付けて、勝手に上から目線でネイに同情し、間違った依存から解放してやろうとして殺した訳では断じてない。


 ただ俺には、特殊な力があって――


「慈悲深いツカサ様が、出逢いからやり直す機会をくれてやろうと?」


 うわあ、嫌な言い方するなあタマ。

 正直そういう気持ちが全く無いとは言わないよ。


 言わないけどさ。


「そんなことを他人の理不尽に出くわす度にやっていれば、本来一番大事な「あなたの世界」が一向に前に進まなくなりますよ。――ほんとうに、日本(あっち)で恋愛感情さえ抱いていない同級生の命を救うために、何度も「死に戻り」を繰り返していた頃と何も変わらない」


 猫の癖に呆れた表情というものを浮かべて、タマが嘆息する。


 あ、腕の中でクリスティーナが反応した。

 余計なこと言うなタマ、女の子はそういうの結構怖いって聞くぞ?


 恋愛感情さえ抱いていないと言ってくれたのは好判断ではあろうが、その時点で誰か他の「女の子」のために俺が「死に戻り」をしていたことがばれたじゃねえか。


「――いやそれは違うぞタマ。日本(あっち)では意地になってたのもあるけど、()()()を見捨ててまで先に進みたいという気持ちが希薄だったせいもある」


 同級生ですよ。

 間違いなくただの同級生。


 ……実際まともに口聴いた事も無かったしな。


「だけど今は違う。今俺はもう一刻も早くクリスティーナといちゃいちゃしたいし、いちゃいちゃどころではないこともしたいし、見も知らん赤の他人のために停滞してる場合じゃないんだよ、正直なところ!」


「……え、あ、そうですか」


 あ、タマがちょっと引いた。

 クリスティーナも腕の中でもじもじしている。


 思わず本音が漏れでたな。失言だ。

 俺の体温も、腕の中のクリスティーナの体温も微上昇を開始している。

 

「そういうのは後で、二人きりでしてもらえませんかねぇ」


 仰るとおりですね。

 明確な敵であったとはいえ、首を切り飛ばした「勇者」の死体の傍でやる事じゃない。

 100回も殺し殺されしていると、人間として大事な部分が麻痺してきて困る。


「えーと、だから今回、俺とクリスティーナの問題が片付いたにも関わらず「死に戻り」――いやもういちいち死ななくても発動できるから「やり直し」か――するのは、少なくとも自分のためなんだよ。自己満足に過ぎないかもしれないけど、だからこそな」


「私のためでもあります」


 クリスティーナがすかさず同意してくれた。

 俺とクリスティーナの想いはほぼ同じだろう。


「なるほど……」


 タマにとってもそれなりに納得できる理由なのか、一定の理解は見せてくれる。


 要するに俺は後ろめたいのだ。

 何かすっきりしないのだ。


 本当に赤の他人だったら、ここまでしようとは思わない。


 世界(ラ・ヴァルカナン)が俺の箱庭ではなく自律して動いている以上、悲劇や理不尽はそれこそどこにでもあふれているだろう。

 それを己が全能を持ってすべて救おうなどと思い上がってはいないし、それはこの世界(ラ・ヴァルカナン)に生きる人たちが自らするべきことだ。


 それは目に映った人を、俺の力で救う事はあるだろう。


 前から思っていることだが、俺は「不可逆性ゆえの命の尊さ」なんていうものは否定してやる。

 本来であれば死ぬしかない、いやもう死んでしまっている人であっても、俺の力が及ぶ範囲であれば躊躇なんかしない。

 望まれ、俺もそうしたいと思えば生き返らせることすら、俺にとっては禁忌(タブー)ではないのだ。


 だけど「やり直し」は、上手くいえないけれど少し違う。


 もはや不死といってもいい存在になりえた今の俺は、長い時間をさかのぼってのやり直しは出来るだけしたくない。

 クリスティーナや助けてくれた仲間達との幾度もの繰り返しで、魂とでもいうべきものに繰り返す日々が積もっていくことはもう知っている。


 だけど今此処にいる己に至る選択と時間の積み重ねを、できるだけ無かった事にしたくない。

 俺だけはそうならないからこそ、よりそう思う。


 死の不可逆性は否定しても、自分の、他人のその時々の選択を否定するようなことはするべきじゃない。

 だから俺は今後、よほどの事が無い限り「滅日」と「創世」は極力使わないつもりだ。


 絶対に使わないというのは我ながら嘘だと思う。

 他のすべての人間の、全ての選択を踏みにじってでも「やり直したい」事は起こるかもしれないから。

 

 だが今回は別だ。


 それはネイが、ついでにアリアも、クリスティーナと同じ「聖女」という立場だからだ。


 俺はこの世界(ラ・ヴァルカナン)へ着て、「聖女」の中ではクリスティーナと最初に出逢えた。

 それはほんの偶然に過ぎないのだ。

 この世界(ラ・ヴァルカナン)へ転移するときに、たまたまお約束のイベントがある地点へ現れたからに過ぎない。


 それを運命と呼ぶのかも知れないけれど。


 ――今のなし。


 いや最初こそ強烈な出逢いだったけれど、サラの願いと、セトとセシルさんのフォローのおかげで挫けずに何度も「やり直す」ことで、俺は「姫巫女」ではないクリスティーナと出会うことができた。


 他人からみればずいぶん歪な形だろうけれど、それで俺達は惹かれあって今に至れているのだ。


 今のネイやアリアの立ち位置に、クリスティーナがいたって不思議じゃなかった。

 そう思うと、一度くらい彼女らにもやり直す機会があってもいいんじゃないかと思ってしまうのだ。


 それが正しいか間違っているかはわからない。


 これから自分達だけが幸せになって行こうとする中で、クリスティーナと同じ立場であったネイとアリアの事など知ったことじゃないとするのが後ろめたいだけとも言う。


 ご立派な理由や理屈じゃない。

 自分達がすっきりしたいがために、「やり直し」をネイとアリアに強要するのだ。

 その点では、最初にタマに言われた言葉はあながち間違ってはいない。


 当然そのやり直しには俺が介入する。

 「勇者」がその当時から屑ならば、その場で殺して俺がネイの村を救ったっていい。

 「勇者」の事などどうでもいいのだ。


 力に溺れ、より強い者に一方的に絡んで殺された愚か者に過ぎない。


「ツカサ様、一体なにが起こりましたの?」


「大丈夫ですかツカサ様。何かしばらく、ツカサ様の頭が無かったような気がするのですが……今は乱入してきた男の頭が泣き別れになっていますね」


 闘技場内に駆けつけていたサラとセシルさんが到着した。

 意外と冷静だな、セシルさん。

 筆頭侍女モードの時と、ただのセシルさんのときとのギャップがかなりすごい。


 そういえばクリスティーナを筆頭に、公的な立場の時と素の時の差が激しいな女性陣は。

 セトと俺は基本変わらないから、やはり女は怖いというべきか。


「あー、騒がしくなってきたね師匠。遠巻きにしてた兵士達もサラ王女殿下がここに来たことで躊躇してられなくなっただろうし、どうする? 関係者連れてどこかに「転移(テレポート)」する?」


 既にこの場にいたセトが、周りの状況を把握して提案してくる。

 確かにこのままだと話をしている状況じゃなくなるな。


「ああ、いいよセト。こっちで何とかする」


「何とかって……え?」


 苦笑いを浮かべたセトが、次の瞬間ぎょっとした表情になる。

 それはそうだろう。

 もはや「魔法」とかの域ではない。


「ツカサ様、これは……」

 

 腕の中からクリスティーナが驚いた表情で俺を見上げてくる。

 

「ああ、「死に戻り」の力を上手く使えばこんな事も出来るんだよ。今加速度的に自分の力の使いかたを把握して行っている――というより思い出して行ってるといったほうがいいのかな?」


 今世界(ラ・ヴァルカナン)は俺が選択した対象を除いて、静止している。

 何も知らないセトやクリスティーナからみれば、「時間が止まっている」と感じるだろう。


 実はそうじゃない、時間は止まらない。

 俺の意識がある以上、時間は流れ続けている。


 俺の力でも、時間を止めたり進めたり、遡ったりすることは出来ない。

 過去と寸分違わぬ世界を、今の時点に再び「創世」できるだけだ。

 俺の考えた未来のような世界を、今の時点に「創世」できるだけだ。


 やっぱり「創造主(シ○ッカーの首魁)」の力は出鱈目だな。


 だからこれは時間が止まっているわけでは無い、世界(ラ・ヴァルカナン)全てが静止しているだけなのだ。

 効果としては同じだけれど。


「……もう何でもありだね師匠」


「あー、まあな」


 今この世界(ラ・ヴァルカナン)で動けるのは、俺とクリスティーナ以外では、サラ、セシルさん、セト、アリアだけだ。

 ネイの意志はもう聞いたから、止めておいたほうがいいだろうと判断した。

 どちらにせよ意識は奪っていたわけだし。

 

 タマは止めてやれと思ったのにしれっと動いていやがる。

 この化け猫め。


 |壁|・ω・`)ノ I am here


 あ、能力管制担当(左手のグローブ)も動けるか。

 てかお前は左目込みで俺と一心同体だから動けて当然だろ。

 そうじゃないと俺が困る。


 (//・ω・//)


 照 れ ん な 。


 ともかく、やっと悲願達成したにも関わらず、もう1周するつもりである事を()()にも伝える。

 

「いいんじゃないの、師匠っぽくて。「姫巫女」解放だって、最初はサラ王女殿下に頼まれてやってたんだしね。まさか途中から自分を殺す相手に惚れるとは思わなかったけど。だけど次こそは僕の件に付き合ってよね」


 しかしセトはもう慣れたもので、記憶が継続しているんじゃないかと思うほど自然に俺の周回を受け入れているな。


 妹さんの件は約束する。


 セトの妹なら是非逢いたいしな。

 さぞや可愛い――いえなんでもありません。


 なんでそんな即察知できるんですか、身体が触れていると思考が読めたりするんですか。

 抓らないでください、痛いです。


「私はお願いを聞いていただいた立場です。ツカサ様が決められたことにとやかく言う権利もつもりもありませんわ。それに素敵だと思います」


 サラは「聖女」――「姫巫女」の立場に最初から懐疑的だった立ち位置だ。

 反対する理由は無いだろう。


 だけど俺の腕の中にいるクリスティーナと話したそうにしている。

 そりゃ見も知らぬ男に頼ってまで開放したかったおねえちゃんが目の前にいるんだもんな。

 ごめん、これが終わればいつでも好きなときに話せるようになるから我慢してくれ。


 腕の中のクリスティーナも、サラのことはすごく気になっているようだ。

 部屋で何度も話すたびに言っていた。

 サラがいなかったら俺と出逢う事がなかったと思うと、感謝してもし切れないのだと。

 「姫巫女」から解放された暁には、ぎこちないかもしれないけれど「姉妹」としてたくさんお話がしたいと。

 もうちょっと待ってくれ。


「私に否やはありません。ツカサ様のおもうがまま振舞ってくだされば、私がそれにあわせます」


 セシルさんはいつも俺を全肯定してくれる。

 これに甘えると危険だとは思うけど、どれだけこれに救われて来たかわからない。

 ちゃんとまた逢いに行くよ、セシルさん。


「さて、アリアさん? 何を言っているか理解は出来ないだろうけど、一年前からやり直せるとしたら、何か願いはあるかい?」


 普通であれば気狂いの妄言と一蹴されそうな質問だろうけれど、「姫巫女」を凌駕し、「聖女」としての己の力を含めて「勇者」を歯牙にもかけなかった俺の言葉故に、真面目に聞いてくれる。

 実際今、時間を止めているとしか思えないような状況なわけだしな。


(わたくし)は……」


 数瞬、逡巡した後、きっぱりと答える。


「いえ、(わたくし)は何も。「聖女」としての責務に誇りを持っていますし、「勇者」様がどのような方であってもそれを受け入れるのが(わたくし)の義務です。貴方には敗北しましたが、例えそうであっても、(わたくし)が「聖女」の責務を放棄することはありません。ですから願いは何もありませんわ」


 虚勢もあるだろう。

 だが凜とした、己の選択に誇りを持っている表情だ。

 ただの義務ではなく、これだけの事があってなお「聖女」たらんとするのはたいしたものだ。


 そうだよな、クリスティーナも50周かかったんだよ。

 たった1周で「聖女」の矜持が折れる訳無いよな。

 「勇者」が屑なのがあれだけど。


 自分でもよくわからないけれど、「聖女」の責務を頑なに守るアリアさんが嬉しくて、ちょっと笑ってしまった。


「――な、何がおかしいんですの?!」


「ごめんなさい。馬鹿にして笑ったわけじゃない。今度はクリスティーナと一緒に逢いに行くよ。そのときにまたゆっくり話そう。ネイと一緒に先に行っておいて」


「何を――」


 無数に湧き上がる「上書きの光(オーバーライト・レイ)」に触れて、アリアさんとネイ、「勇者」の遺体が光の粒子に還ってゆく。


 クリスティーナ以外のみんなは初見だろう。

 さすがに驚いた顔をしている。


 いや俺自分の目でみるのは初めてなんだ、「滅日」がどんな風に世界(ラ・ヴァルカナン)の全てを一度光に還すのか。


「夢でみる限りでは、け、結構怖いですよ?」


 クリスティーナの発言に、みんながちょっと怯えた表情をする。

 正直俺もちょっと怖いが、一度くらいは自分の目でみてみたかったんだ。


 こんな機会はもうめったに無いだろうから、この101回目の「世界(ラ・ヴァルカナン)の終わり」をみんなで見よう。


 そして次の周こそ、みんなで楽しく世界(ラ・ヴァルカナン)を進めていこう。

明日は投稿お休みさせてください。


次話   101周目【終末をみんなで】

次々話  101周目【魂に刻んで】

最終話  ひさしぶりのはじめまして

余話   LOOP THE END 【sideクリスティナ―続く日々】


9/11-9/12にかけて連続投稿予定です。

これで「姫巫女編」完結です。


もうしばらくお付き合いくださったら嬉しいです。

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