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いずれ不敗の魔法遣い ~アカシックレコード・オーバーライト~  作者: Sin Guilty
第七章 幾重逢瀬編

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第47話 52周目 【選択可能なあらゆる手段】

――52周目


「どうするタマ」


「どうすると言われましても」


 そりゃそうだ、そんなこと言われてもタマも困るよな。

 それはよく解る。


 51回目の「死に戻り」を経て、今俺は最初にこの世界(ラ・ヴァルカナン)に現れた位置に佇んでいる。


 鬱だ死のうとか、死んだ鬱だとか言っている場合じゃない。

 ゆっくりとじゃなく猛ダッシュで走りださねばどうにもならない。

 いや走ったからって何とかなる話でもないけれども。

 

 しかし本当にどうする。


 大見得切って「次こそ勝つ」宣言してしまったぞ。

 しかもそれに対するクリスティナの言葉は否定系だったけれど、嬉しそうだったぞ。


 言った言葉には責任が伴うって、子供の頃に言われた。


 惚れた、いやまだ惚れたわけじゃええいもうまどろっこしい、いいよもう惚れました。

 はいはい八神司はクリスティナ・アーヴ・ヴェインに惚れております。

 俺は自分をサツガイした女に惚れる真性ですとも。


 その惚れた女にあんなあきらめの表情浮かべられて、あったまに来た。

 そのくせ本当は全然あきらめきれてない事が俺みたいな馬鹿にでもわかって、それに拍車をかけた。

 

 頭に来たのは、惚れた女にあんな顔させている自分にだ。

 何が「古の魔法遣い」だ。

 何が能力(チート)だ。

 

 日本(あっち)で38回もトラックに轢かれなおしていた時と何も変わっていない。

 いやあの時はまだ、(いわい) (りん)に何かを求めていたわけではない。

 学校で人気者の美少女が、あんな理不尽に死んでしまうのが納得いかなくて、俺が意地になっていただけだ。

 

 だけど今回は違う。

 はじめは同じようなものだったけど、もう違う。

 

 俺は俺の望みを叶えるためにクリスティナを「姫巫女」から解放したいと思っているし、その事が俺のクリスティナへの得点稼ぎになることを期待している。

 そうでもなきゃ、あんな嘘みたいな美人に惚れたところでどうにもならない。

 

 男として相手にされる想像すらできない。

 

 それに「姫巫女」のままだったら、いつか現れる「勇者」様に無条件で掻っ攫われることが確定しているしな。

 

 自分の彼女でもないのに、掻っ攫われるも何もあったものじゃないけれど。

 

 今の俺にとっては、クリスティナにとっての「姫巫女」の立場が過酷なものであるかどうかは関係ないとも言える。

 クリスティナが「姫巫女」のままだと、普通の女の子として口説くことも、彼女にすることも、あるいはきっちりフラれる事も出来ないから、俺が俺の望みのためにクリスティナを普通の女の子に戻したいのだ。

 

 「姫巫女」じゃなくなっても「第一王女殿下」だけどな。

 それを言うならたとえ平民だったとしてもあの美貌だ。

 俺が今の状況にいなければ、口をきくことすらできない相手であったことは疑いえない。

 

 自分の気持ちは充分理解できている。

 

 だから自分に頭に来た勢いで言ってしまった。

 

「次こそ勝つからな、クリスティーナ!」


 と。


 その言葉に込めた気持ちは嘘じゃない。


 俺は絶対にあきらめる気はないし、どんな手を使ってでもいずれクリスティナを「姫巫女」の立場から解放して見せる。

 何度サツガイされようとも、タマの脚色が無くなって前回みたいな好意を寄せられなくなったとしても、ちゃんと普通の女の子になったクリスティナにふられる覚悟だってある。

 

 永遠に近い繰り返しであったとしても、俺の「死に戻り」と組み合わされた「経験累積」と「成長限界突破」は、いつか必ず全ての強さを凌駕する。


 ――はずだ。

 

 希望を持たせておいて、やっぱり無理だったと投げ出す。

 そんなことは文字通り死んでもしたくないし、する気もない。


 だけど。


 それはクリスティナも同じとは限らない。


 今は自分を救うために、俺だけが何度も死を繰り返していることを申し訳なく思ってくれている。

 自分なんかにもう構わずに、俺の力でもっと楽しい暮らしをしてくださいと前回泣きながら言われたのだ。


 惚れた女にそんなこと言われて、はいそうですねとあきらめる男がいるとでも思っているんだろうか。


 俺は諦めない。

 自信がある。

 何百回、何千回繰り返そうともそのたびに少しずつでも「望み」に近づいていることを確信できる俺は折れる必要が無い。


 「死に戻り」だけでなく、「経験累積」と「成長限界突破」が支えてくれる。

 いつかは必ず届くという確信をくれる。


 でもクリスティナは解らない。

 今は解放してくれるかもしれないという希望をもって、俺の繰り返しに付き合ってくれるだろう。

 俺をクリスティナの思う「不毛な繰り返し」から解放しようともしてくれたし、それを俺が否定したら嬉しそうにしてくれた。


 そのはずだ。

 それ位は自信を持っていいはずだ。

 思い違いだったら泣くが。


 だがそれが百回繰り返されたら。

 いや千回、一万回繰り返されたら?


 増え続ける「失敗」の夢を見せ続けられ、「どうせ今回も失敗する」と思うようになってしまったとしたらどうだろう。


 それは今以上の地獄を、強制的に繰り返させられることと同義にはならないか。


 逃れ様の無い状況で、俺という妙な力を持った無能の独りよがりに永遠につき合わさせられるくらいなら、「姫巫女」の義務を全うして生涯を終えた方がずっとマシなのかもしれない。


 いずれ「勇者」と出逢い、世界(ラ・ヴァルカナン)を救う「聖女」――「姫巫女」として本来あるべき生涯が不幸なものだと誰が決めた?

 今現在が普通の女の子と比べて過酷なだけで、この後もそうとは限らない。

 「勇者」と出逢い、俺が日本(あっち)でこよなく愛した英雄譚、冒険譚が始まるかもしれないのだ。


 いや比べるのはそんな希望的な未来でなくてもいい。

 これから永遠に繰り返される失敗に付き合わされ続けることと、「姫巫女」として責任を全うする人生の比較でいいのだ。

 

 どちらがよりましか、なんていう選択は間違っていると思う。

 思うが「間違っている」と本当の意味で口に出来るのは、それを打開できる者だけじゃないのかとも思う。


 俺は俺の望みの、欲望のために永遠を繰り返すことは出来ても、それがクリスティナの為になるとは限らないのだ。

 このままであれば、それでも己の望みを押し通す強さ、あるいは我が侭さが必要だ。


 それはストーカーのいう愛とどこが違うというんだ。


 確信できる。


 今までの「姫巫女」としての暮らしではなく、()()()()でクリスティナが最初にあった時のような目をするようなことになったら、俺はきっと耐えられない。


 この「ファースト・クエスト」には達成期限が設定されていると考えたほうが良い。

 本来何事もそうだ、時間は絶え間なく過ぎて、結果はある時点までに出さなければならない。

 「死に戻り」が出来ても、その本質が変わらないとは考えたことはなかったが、どうやらそのようだ。


 のんびり強くなって行けばいいとか言っている場合じゃない。

 それこそ可能であれば今回で「姫巫女」を凌駕可能になれるような、劇的な手段が必要だ。

 30周を越えたあたりから、魔物(モンスター)を倒すだけで劇的に強くなることは無くなってきている。

 ステータスは伸びてはいるが、質的な変化が止まっているのだ。

 

 にも拘らず、「姫巫女」には未だにまるで歯が立たない。


「どうするタマ」


 もう一度同じ言葉を繰り返す。

 タマもその言葉の意味は解ってくれているようだ。


 一度目の様に、ある意味真っ当な答えを返してくることはなく、じっとその猫の瞳で俺を見つめている。

 

 今タマの尻尾は52本あるんだな。


「あなたはクリスティナ王女殿下さえ手に入れば他はどうでもいいと思えますか?」


 くだらないことを考えていたら、思いのほか真面目な口調でタマが問うてきた。

 何を言い出すんだこの猫52又は。


「あほかタマ」


 確かに俺の目的は、今やクリスティナに集中していると言っていい。

 だからと言って、それ以外がどうでもよくなっている訳ではない。


 サラやセシルさん、セトも大切だし、この世界(ラ・ヴァルカナン)は気に入っている。

 

「クリスティナを「姫巫女」から解放するってのはそういう事じゃないだろ。クリスティナが王女として、サラのお姉さんとして、一人の女の子として――できれば相手に俺を選んでくれればありがたい――暮らせるようにするから意味があるんであって、クリスティナが大切だと思っている、思うようになるだろう全てを犠牲にして解放したって何の意味もないじゃないか」


 クリスティナを「姫巫女」から解放するっていうのはそういう事だ。


「正しいですね」


「だろう?」


 俺は間違った事を言っていないはずだ。

 相手の都合も、状況も、その周りの人のことも考えずに、自分の望みだけを優先する。


 それこそストーカーそのものじゃないか。


「だけどそれが原因かもしれません」


「どういう事だ?」


 正しいから勝てない。

 そういうのか。


 間違っていてもまず勝つことが必要ならそうするべきだと。


「私の様に「創造主」やあなたのような異能の持ち主に接していると、「数値化された力」というものが絶対的なものとは思えなくなります。ただの力のぶつかり合いや、美しさを競うたぐいのものであっても、その個人が持つ能力・技術・経験が劣っている側が、勝っている側を凌駕することがままあります」


 それは俺にもよくわかる。


「精神力」


 集中力やコンディション、そういったものをひっくるめて「精神力」と表現したが、それは確かにあるだろう。

 まるでやる気の無い者と命がけの者がぶつかれば、彼我の能力差は逆転することはありえる。


「その通り。もちろん力の基礎たるは数値化可能なものであろうかとは思います。それなくして精神論を語るつもりはありませんが、ある一定を越えたそういう力を十全に生かすのは「心の在り方」――そうではないかなとも思うのです」


「必死さが足りないっていうのか?」


 いくらレベルやステータスを上げてもまるで歯が立たないのは、俺の「精神力」が足りないからか。


「いやそれはないでしょう。あなたが本気で、必死であることは51回も死に戻りをしていながら心が折れるどころかやる気になっている事でもわかります。言葉や態度をいかに軽いものに装おうが、その本質は結局行動に現れます。あなたは本気だ。それは疑いえません」


「……」


 タマがこういう物言いをするとは思わなかった。

 別にわざと軽く言っているつもりは無いが、タマにはそう映っていたのだろうか。

 だが深刻にしても変わらないことなら、気楽にいったほうがいいと思うのは確かだ。


 もしかしたらそういう考えも、「足りない」部分となっているのだろうか。


「……足りないとしたら狂気ですね」


 タマは今の俺の考えと、似たような事を感じているようだ。

 しかし狂気か。

 ある意味狂気の沙汰だと思うんだけどな、今の俺の行動は。


 そういうのとは違った方向のそれが必要という事なのか。


「これは貴方が「死に戻り」という異能を持っていることも一因でしょう。普通の人間には耐えられない繰り返しも、それを耐えられる存在にとっては「次こそは」というある意味余裕を生みます」


 それは確かだ。


「考えてみてください」


 何を言われるかは大体想像がつく。


「今回のこれが最後の機会で、これをしくじれば次はない。あなたの「死に戻り」は今回で打ち止めであった場合を」


 言われた。


 それがあるからこそ何度物繰り返しに耐えられるというのもあるとも言えるが、本来「次」など無いはずなのだ。

 「次」があることに慣れてしまっているのかもしれない。


「そういう「恐怖」と、それでもなんとかしたいという「狂気」が足りないのかもしれません」


 正しい事を言える余裕が、常にある。

 それこそが何時までも「姫巫女」をなんとも出来ない原因かもしれない。


 だからといって間違った事をすれば正解にたどり着けるのか?

 クリスティナ以外はどうでもいいというのは、具体的にどういうことだ。


「あなたは八大竜王を狩る事を良しとせず、魔物(モンスター)はともかく人には一切手をかけていません。倒すことによって得られる力があるかもしれないのにです。それは善悪という基準で言えばあるいは正しいのかもしれません。ですが「姫巫女」を倒し、クリスティナ王女殿下を開放するという事に目的を純化した場合、甘いともいえませんか?」


 ――そういう、ことか。


「それにあなたには「死に戻り」があります。「力」を得るために一度世界(ラ・ヴァルカナン)をめちゃくちゃにしてしまっても、それで得た力を持ったまま「やりなおす」事が可能なのです。それでもやらないというのは……」


「俺がその重荷を背負う覚悟が無いから、か」


 そうだ、俺は人なんか殺したくない。

 それが仲間とくればなおの事だ。


 次周では生き返るから今回は殺してもいいなんて、俺のような力を持っている存在が一番たどり着いてはいけない結論だと思っている。


 だけど……


「……厳しい言い方をすれば、そうともいえるという事です」


 そうだクリスティナは、待つことしかできない。

 だけど俺にはまだできることがある。

 それをしないで「繰り返し」に付き合わせ続けることが本当に正しいのか。


 俺は「自分の在り方」を変えてでも、クリスティナの解放の可能性を少しでも高めるべきではないのか。

 

 八大竜王であろうが、人に好意的な魔物(モンスター)であろうが、「姫巫女」を倒すための糧になるのであれば躊躇なく倒す。

 その対象を魔物(モンスター)に限定せず、人であっても得る事が出来る力があるならば倒す。


 いや言葉を飾っても仕方がないな。


 自分の目的の為に、たとえ人でも殺す。

 

 それはつまり、力持つ存在であるセトやサラをも手にかけることと同義だ。

 

 それが俺に出来るのか。

 出来たとしてもそれが正しいのか。


 どうせ「死に戻り」で元に戻るから。

 力を得るために、何周かは犠牲にしても仕方がない。


 それを良しとするのか。


 答えを出せないまま、俺の52周目はもう始まっている。

次話 53周目-80周目【お説教】

11/30 投稿予定です。


無事出張から帰ってきました!


本日より毎日投稿を再開いたします。

お見捨てなく一週間お待ちいただいていただけていることを祈るばかりです。


おそらくあと数話、遅くとも今週中にはプロローグにたどりつける予定です。

出張中はプロットを組めても文章を書く余裕がまるで無く、一気投稿できず申し訳ありません。

最初に思い描いた結末へ向けて進めていると思いますので、ご期待いただければ幸いです。


今話はなんか辛気臭い事考えてますけれども、筆者としてはハッピーエンド以外を書く気はありません。

そのハッピーエンドが、今まで読んでくださっている方々の思われるハッピーエンドと近い形であればと願います。


もうしばらくこの物語にお付き合いいただければうれしいです。

今後ともよろしくお願いします。


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