第46話 51周目 【宣言】
タマのやっったこと。
それは――
「いや、「姫巫女」が意外にも普通の女の子みたいな反応をするものですから、すこし夢に干渉してみたといいますか……私達使徒って、本来そういうの得意なんですよ? 創造主の思惑を人に夢で伝えるとか。サラ王女の「神託夢」の別Verといったところでしょうか……」
なにやらものすごくいい訳くさいがどうしたんだタマ。
なるほど。
で、何を見せたんだクリスティナに。
いったい何を見せたらあの禁忌破りサツガイマシーンみたいだった「姫巫女」が、今目の前で全裸で震えているポンコツクリスティナに化けるというんだ。
「えーっと、怒らないでくださいよ?」
それは事と次第によるだろう。
というか俺が怒るような事なんだな、そうだな?
このやろう何をしやがった。
いやたとえ怒ったところで、もうやってしまっているものをどうにも……「死に戻り」を使えば何とかなるのか。
「……1周目から前回までのダイジェストを、夢の形に編集してお届けしてみました……」
……。
それはつまりどういう事だ?
俺がクリスティナに殺され続けているのを、全部当の本人に見せたってことか?
自分が素っ裸で「禊」をしているところへ突然「転移」してきて禁忌を犯し――要はクリスティナの裸体を見てしまって――、「姫巫女」としてやむなくサツガイしていた全ての記録を見せたのか。
「それはえっと、真実をそのまま?」
タマがそういうことが出来ても不思議は無いとは思うが、解せないのは結果としてクリスティナが今みたいな状況になってしまっていることだ。
問答無用でサツガイモードに入っているというなら解りもするが、一時間も「禊」を続けながら、俺が「転移」してくるのを待っているとか意味がわからん。
「いえ、少し脚色はしましたね。まさかあなたがクリスティナ王女の裸体をみた時に、一瞬で頭に思い浮かべている事を克明に伝える訳にも行かないでしょう?」
いやちょっと待て、タマお前。
ってことは何か、お前俺の思考はすべて読めているってことなのか。
おい。
「あ、しまった」
しまったじゃねえ。
いやそれは後ほどじっくり話し合うとして、今は脚色の内容だ。
「ツカサ……様で、間違いありませんよね?」
クリスティナはいいから服着なさい、服。
ああ、「禊」の場だからそういうものが無いんだな。
しょうがないから俺の「黒の外套」を「転移」させてかけてやる。
「あ、ありがとうございます……」
恥じらいに頬を染めて、俺の外套で身体を隠す。
……これは下手な素っ裸よりも破壊力あるな。
いやそうじゃない、そんなこと考えてる場合と違う。
というかこう言うのも全部タマには筒抜けなのかよ、勘弁してくれ。
ところで俺の名前まで把握しているじゃないか、クリスティナ。
どんな風に脚色して、どんな風に見せたんだ。
「姫巫女の重責を一人で担っているクリスティナ第一王女のことを、妹姫であるサラ王女殿下から聞かされた旅の魔法遣いが、何度殺されても挫けずに解放しようとする、見るも涙、語るも涙の感動の大巨編に……」
相当脚色しやがったなこのやろう。
いや、そのままを伝えられるよりもマシなのかも知れないが、つまりクリスティナが今目の前でもじもじしている理由はそういうことか。
自分を「姫巫女」の立場から解放させようとして、何度も死を繰り返してもがんばっているのが俺だと認識している訳だ。
大筋では嘘じゃない所が性質が悪い。
「……貴方を待っていたのです。「勇者」様ではないのに、私を「姫巫女」から解放しようとしてくれる貴方を……」
夢見る少女のような表情で、俺を見つめて語ってくる。
俺の外套の裾をぎゅっと握り、僅かに上気した頬は桜色に染まっている。
俺の外套結構万能だからなあ、寒さやその辺は羽織った瞬間に解決しているはずだ。
能力管制担当に、その辺の抜かりは無い。
しかしクリスティナみたいな美女がこんな表情浮かべると、それだけで思考停止させられかねない。
声だって、最初に俺を詰問した時とは比べ物にならないくらい、綺麗でやさしげだ。
これは、完全にこれはタマの見せた「夢」を信じ込んでいるな。
まあしょうがないか。
多分俺が本当に現れるまでは、半信半疑だったはずだ。
さすがに夢に見たからと言って、そのままそれを信じてしまうほど単純では無いだろう。
だけど、信じたかったのだ。
自分が背負うしかないと覚悟も決めていた「姫巫女」の重責から、解き放とうとしてくれる存在が居る事を。
だからこそ夢の通りに現れなかった俺を、一時間も「禊」を続けながら待っていた。
本当に現れてくれる事を期待して。
遅れこそしたものの、夢で見た通りに俺が「転移」で現れた瞬間に、その夢が真実だと確信してしまっても無理は無い。
現実とタマの脚色の乖離が恐ろしいところだが、事実といえば事実ではあるのだ。
俺の見た目や身につけているものも寸分違わず同じとなれば、なおの事だろう。
「夢でみた通りです。その黒い髪も、黒い瞳も銀の瞳も……」
これ、自意識過剰かもしれないけど、すごく俺に好意的じゃないか?
サラやセシルさんが俺に向ける視線とも違う、恋する乙女のような……
そんなもん向けられた経験が無いからわからないけどね!?
サラやセシルさんは、好意ももちろんあるけど、俺の力に対する期待もあるからな。
それがいやな訳では無いけれど。
だけどそれなら、クリスティナも同じじゃなくちゃ矛盾する気がする。
彼女こそ、自分を「姫巫女」から解放してくれるかもしれないという、「期待」が視線に宿ってしかるべきじゃないんだろうか。
「孤独に「姫巫女」の責任に耐えてきた少女が、初めて自分を女の子として扱い、普通の女の子に戻そうとしてくれる男性に出逢ったら、打算よりも先に感謝が来るんじゃないですかね。感謝というより、一足飛びで恋心になってしまうのかも」
いや、いくらなんでもそれはチョロすぎないか?
いかに「姫巫女」の重圧が重いとしたって、それじゃあんまりにも……
いやちょっとまて。
普通の女の子として扱い、普通の女の子に戻そうとしてくれる?
確かに俺はクリスティナを普通の女の子に、サラのお姉ちゃんに戻そうと思って前周まではがんばっていた。
だけど普通の女の子として扱ってた記憶は無いぞ?
転移→裸をみる→戦闘→サツガイされる。
この繰り返しだ。
とてもじゃないけれど、普通の女の子として扱っているとは言い難い。
それどころか自分でも危惧していたように、暴漢か強姦魔のような所業を繰り返していると思うのだが。
その上毎回最後はサツガイされるというオマケ付き。
「ほら、そこはそれ、ちょっとした脚色をですね……」
タマお前……。
うん、これは後ほどじっくりとどんな「夢」を仕立て上げたのか、タマに聞く必要がありそうだな。
クリスティナに好かれるのは望むところだけれど、好かれた俺が虚構じゃ何の意味も無いんだよ。
最初こそそれでうまく行ったとしても、現実との乖離にうんざりされるのがオチなんだから。
「イゴキヲツケマス」
このやろう。
反省して無いな。
確かにクリスティナに夢を見せることによって、前周までの顛末を繰り返し伝えるのはいい手かもしれないけれど、今後は脚色一切禁止だ。
だからといって真実を余さず伝えるのも禁止だぞ?
わかってるなタマ。
男が瞬間でする妄想を、女の子に知られた日には生きていけないんだからな?
というかお前が俺の思考を完全に読んでいる件については大変遺憾の意を表明するとともに今後一切禁止だ。
禁止のしようが無いのが腹立たしいが、せめて俺に気付かれないような心遣いくらいはしてくれ。
「ゼンショシマス」
Thinking tracking《思考追跡》 ――block (≧ω≦)b OK!!
「あ、ツク……能力管制担当、裏切りましたね!?」
さすが能力管制担当、頼りになる。
「創造主一派」で信じられるのはお前だけだ。
お前を信じられなくなったら終わりな気がするよ。
「ツカサ様」
「禊」の泉から出て、クリスティナが俺の目の前まで歩いてくる。
いや、その俺の外套のした全裸なんだから、あんまり近づかないで欲しい。
すっぽり覆われて見えないとはいえ、いや見えないからこその妄想が……
俺の着ていた服を羽織っているという点も、意外に破壊力が高い。
ハダカYシャツに通じる浪漫がある。
(//・ω・//)
……そうか、タマに読まれなくなったとはいえ、能力管制担当とは一心同体みたいなものか。
すまん能力管制担当、下品な人間で。
「……ツカサ様は、「勇者」様にしか赦されていない私の裸を見てしまいました」
……そうですね。
いや今回はみないようにしようとしたんですが、あなたが一時間も粘った結果ですよね?
「責任を取ってくださいますか?」
上目遣いで見つめてくる、恥じらいの表情がものすごくかわいらしい。
これが無表情に俺をサツガイしていた「姫巫女」と同一人物とはとても思えない。
その表情に意志が宿っているだけで、ここまで変わるものなのか。
反射的に「はい」と答えてしまいそうになる。
だがそういうわけにも行かない。
そりゃ取れるものなら取りたいし、前回からはどうやら心を奪われてしまったようなんですけどね。
だからといって、「姫巫女」の力を失ったままにしていいとも思っていない。
俺がクリスティナ、いや「姫巫女」に勝てるようになる必要が絶対にある。
クリスティナが今までの人生を捧げてきたものを放り出して、自分の都合だけで動くつもりは無い。
「俺が「姫巫女」の力を上回れたら、是非責任は取りたいところだ」
「……やはりそうなのですね。そうやってツカサ様は「姫巫女」の義務を遂行する私に、何度も命を奪われてこられました」
まあ確かにそれはそうだ。
前回もはじめて変化があったとはいえ、結果的にはサツガイされたしな。
「どうやってツカサ様が何度も「やり直し」をされているのかは、私にはわかりません。ですけど……」
悲しそうな表情を浮かべるクリスティナ。
泣き笑いのような、うれしいのに悲しいといった表情。
何でだ、なんでそんな表情を浮かべる?
「夢でツカサ様のことをみて、それが本当だとわかって、私は本当に、本当にうれしいのです」
そういって俺の目も見つめ、にっこりと微笑む。
なのに目尻からは涙がこぼれそうだ。
「……ですけれど、全てを捨てて攫って下さらないのであれば、今回で終わりにしましょう。次のやり直しでは、もう私に関わらないでください」
その言葉と同時に、至近距離で「姫巫女」の魔力が全開で展開される。
完全に油断していた、どうしようも出来ない。
能力管制担当があらゆる対策を立てようとするが、この至近では全て無駄だ。
「魔法近接戦闘」は相手の懐にもぐりこんでこそのもので、逆に潜り込まれたら終わりだ。
高速機動で相手を幻惑してなんぼの戦闘方法なのだから。
「『姫巫女』には勝てません。私はやはりこの力とともに生きてゆきます。ツカサ様も自分から私などに関わらなければそれだけのお力です。いくらでも幸せな暮らしが出来るでしょう。私のために何度も繰り返し命を奪われて磨り減っていくことは無いのです」
俺の視界いっぱいに、桜の花弁が乱舞する。
これは今回はここまでだな。
「……私がツカサ様の命を奪うのは、これが最後としてください」
ああ、そりゃそうか。
自分のためにがんばっている相手を、何度も殺したくなんか無いよな。
それはわかる。
逆の立場だったら、俺だってそれは嫌だと思うだろう。
「本当に今までありがとうございました」
もう目は見えないが、泣き声なのはわかった。
だけどなクリスティナ。
タマに見せられた脚色たっぷりの繰り返し物語を見せられて、やはり自分は「姫巫女」として生きていくしかないと悲劇のヒロインモードに入っているんだろうけどな。
俺はそんなこと認めてやらない。
俺をもう殺したくないとか、俺の時間を無駄にしたくないとか、そんなお前の都合は知ったことじゃない。
俺は俺の揺ぎ無い望みで、お前を「姫巫女」から解放してみせる。
今回見せられたいろんな知らなかったお前をみて、より強くそう思ったよ。
殺された相手に惚れっちまう真性の執念を舐めるなよ。
どんな手を使ってでも、必ず自分の望みを叶えて見せる。
お前の諦観を否定してやる。
だってお前泣いてるじゃないか。
ぜんぜん納得できて無いじゃないか。
ようくわかった、俺の異能は、与えられた能力たちはそのために存在するんだ。
宣言してやる。
「次こそ勝つからな、クリスティーナ!」
もう目も見えないし、声をまともに出せているかもわからない。
「竜神化」していないのに苦痛が無いのは、クリスティナがそうしてくれているからか。
だけど言ってやった。
諦めてなんかやらないからな。
「……馬鹿な、ひと……」
微かに聞こえた、クリスティナの泣き笑いの声ににやりと笑い、俺は51回目の意識を手放した。
次話 閑話 51周目 THE END 【side クリスティナ―福音あるいは甘言】
11/22 投稿予定です。
完結済短編「異世界娼館の支配人」も出来ましたらよろしくお願いします。
http://ncode.syosetu.com/n4448cy/
同じく完結済中篇「三位一体!?」も出来ましたらよろしくお願いします。
http://ncode.syosetu.com/n7110ck/




