第43話 51周目 【告白】
人の為に何かをする。
悪いことじゃないし、人にはそうしたいという願望が確かにあると思う。
偽善だなんだと言いたがる人も多いけど、そればかりではないだろう。
いや偽善であったとしても、誰かのために何かを実際に出来るというのは悪いことじゃないはずだ。
やらぬ善よりやる偽善。
意味の取りようは人それぞれだろうけど、俺はこの言葉が嫌いじゃない。
「力持つ者の義務」なんていうとさすがにピンとこないけど、それだって人が生み出した言葉だ。
人の中には、そういった「無期待献身」の素地はある。
……と思う。
自分が降ってわいた力を得ているのであれば尚の事、そう思いたいのかもしれない。
多くの人が斜に構えたことを言うのは、自分の理想とする行動を取るには力が足りないからで、力があればそうとは限らないと信じたい。
そうじゃないと力に振り回されて、自分でも想像できないくらい卑しい人間に堕してしまいそうで、怖いのかもしれない。
それにサラやセトになつかれたり、セシルさんとの関係だって、俺が彼女らの側に立って行動しているからこそのものだ。
「無期待献身」なんて御大層なものじゃない、俺だってきっちり見返りを得ている。
だから何周かかっても必ず、クリスティナを「姫巫女」から解放して見せる。
みんなの為にも、何よりも俺の為にも。
……。
――などと頭悪いなりに、いろいろ考えてはいたのだ。
だが、そう言うものじゃないと思い知った。
いや嘘じゃない。
そういう想い、考えが建前に過ぎず全部嘘だったというわけじゃない。
ただ、そういうお題目ではなく、己の意志で、己の欲で「そうしたい」と思えるほどシンプルなことはないということに気付いただけの話だ。
正しいとか間違っているとか知らん。
俺がそうしたいから頑張るし、その為に他所に迷惑をかけないようにする。
単純だ。
……。
なのになぜかサラとかセシルさんに対して、少し後ろめたいのはなぜだろう。
それどころかセトに対してさえも、それはある。
なんなんだろう、この言い訳したくなる感じ。
そういう方面の経験が全くないから、自分の感情を把握しきれない。
やる気は充分なのに、どこか後ろめたいこの感覚を誰か説明してくれ。
「……想像以上にヘタレですね。驚きを禁じ得ません」
もうちょっと、もうちょっと手加減をお願いしますタマ。
ほんとにへこむから。
「要は今までみんなの願いを叶えるいい人ポジションで、どちらかと言えば受け身で事に当たってきたのに、これからは自分の欲に従って能動的に動くのがどこか後ろめたいのでしょう。いいじゃないですか、結果としてみなの望む方向へ動くことは変わらないのですから」
ズバッと言われた。
言われてみればそういう事なのか。
「そ、そういうもんかな……」
「知りませんよ、あなたの本心なんて。なんですか? サラ王女殿下にも、セシル女史にも好意を向けられておきながら、クリスティナ王女殿下を選ぶ俺罪作りだわー、つれーわー、とか、そんなのだったら張り倒しますよ?」
――猫パンチでか。
……。
か、感じ悪いなそれは。
いやでも俺が今なんとなく後ろめたくなっているのって、そういう事なのか?
……自意識過剰の極みだ。
何よりもまだクリスティナを「姫巫女」の立場から解放出来てすらいないし、クリスティナが最終的に俺をどう思うかすら、わかっていないのに。
これは張り倒されておくべきか。
「まあどれだけ身勝手なものでも、心にわだかまりがあるのはいいことではありませんからね。男としてどうかとは思いますが、サラ王女殿下やセシル女史本人に告白してみたらどうですか、自分の正直なところを」
それはありかもしれないな。
俺が何度も「死に戻り」をしていることを説明しているのはセトにだけだが、俺がこれから頑張る理由をみんなにちゃんと言っておくのはいいかもしれない。
「なんですかね、この正直に言ったのだから俺は赦されるというような気持ち悪さ。浮気したけど正直に言ったのだから赦してくれてもいいじゃないか、みたいな身勝手さを感じますね」
タマ、お前。
だいたい浮気とかそういう……
「セシル女史がどういう反応するか楽しみですねぇ」
……。
楽しんでいやがるな、このクソ猫め。
いいや、自分がしたいようにすると決めたのだ。
みっともないと思われようが、自分が伝えたいと思ったことは伝えることにする。
――サラの場合。
無事最初の救出を終えてからオルミーヌ砦に移動する、「飛翔」でサラを抱えて移動している時に言ってみた。
はじめびっくりしたように目を見開いてからは、なぜかずっとくすくす笑っている。
「ツカサ様が、クリスティナお姉さまをお嫁さんにしたくて、「姫巫女」の立場から解放したいと思っていたら、私がどう思うかですか……。ずいぶん具体的ですね。なぜツカサ様がクリスティナお姉さまの事や、私の望みを知っているのかは置くとして、そうですね……」
俺の腕の中に納まりながら、ずっと楽しそうにしている。
ここのところずっとそうだけど、最初の頃に在った、俺を味方にするための演技とかは最近あまり感じられない。
それは最低限怒らせるようなことを言わないようにしてはいるのだろうけど、俺が味方であることを最初から疑っていないような感じだ。
面白いのは、本人もそれをどこか不思議そう感じているっぽいところ。
記憶は残らなくても、何度も繰り返し出逢いなおしていることで、何かが重なって行っているのであればいいなと思う。
我ながら感傷的だとは思うけれど。
そんなサラが、とびっきりの笑顔で俺の問いに答えをくれる。
「囚われのお姫様は、解放してくれた殿方を好きになってしまうものだと思いますよ? ええ、物語としてはそうあるべきです。私はそう思います」
50回も出逢いなおした中で、一番屈託なく笑っている様に見える。
本当に年相応の表情で、複雑な表情をしているであろう俺の顔を、楽しそうに見上げている。
「クリスティナお姉さまは私など比べ物にならないくらいお綺麗ですからね。ツカサ様が一目で心を奪われても不思議ではありません。なぜかツカサ様はクリスティナお姉さまをもうご存知のようですけれど、そこはあえて問いませんわ?」
「えーっと……」
ああそうか、焦ってこのタイミングで俺の方から「姫巫女」の話を出せば、聡いサラはいろいろと気付いたのかもしれない。
周回を重ねるごとに、昔からの知り合いの様に懐いて来てくれているしな。
「……そうですね、万一クリスティナお姉さまに振られてしまったら、私で我慢してくださいますか? 私であれば一年待ってさえいただければ、ツカサ様のお嫁さんになるのは望むところですもの」
そう言って本当に嬉しそうに笑っている。
フォローどうも。
何で年下に赤面させられなきゃならんのだ。
どうやらサラの中では、俺がそういう目的で頑張るのは悪いことではないようだ。
それどころか、それを望んでいる節すらある。
うーん、やっぱり自意識過剰が過ぎたかなあ。
「ツカサ様さえよろしければ、クリスティナお姉さまも私もお嫁さんにしてくださっても構いませんよ? それなら私、クリスティナお姉さまと寵を争ってもいいですわ。素直に第二夫人でもかまいませんけど」
恐ろしいことをとびっきりの笑顔で言うのは止めてくれ。
胃が痛くなるし、温和な王様が修羅と化す気がする。
冗談でも洒落にならない。
「あら、私は本気ですのに」
そう言って、また笑う。
自分でも笑いが止められないようだ。
余計なこと言うんじゃなかったな。
今までで一番、精神的優位に立たれた気がする。
解せん、何故だ。
まあいいや、サラが本当に楽しそうだし、俺も悪い気持ではないしな。
……つ、次はセシルさんか。
どうしようかな、言うの止めようかな。
「ヘタレもここに極まれりですね」
やかましい。
だってなあ……
部屋で古傷を直すあの流れの中で、クリスティナに俺が惚れたらどうするかを、セシルさんに聞くのはハードル高くないですか?
別にその状況で必ず聞かなければならないという訳でもないけれど、その後に聞くのはなんというか卑怯くさい気がする。
というか、今後周回するたびにこの羞恥プレイ繰り返さなきゃいけないのか。
いや自分が伝えておきたいと思う限りはそうなんだが……
思っていたより、結構照れくさい。
何で俺は自分から進んで羞恥プレイしているんだという気になって来た。
タマという観客がいるのが悪いんだな、そうだな。
「自分を殺した相手に惚れるような真性が何を今更……」
タマしゃべれないように戻ってくれないかなー
次話 51周目【応援】
11/19 23:00頃投稿予定です。
完結済短編「異世界娼館の支配人」も出来ましたらよろしくお願いします。
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同じく完結済中篇「三位一体!?」も出来ましたらよろしくお願いします。
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