第40話 2周目 【再挑戦】
「ほんとなんだよね?」
部屋に戻って一通り説明が完了した後の、セトの一言目だ。
まあそう言いたくなるのもわかる。
「でも師匠がそんな嘘つく必要性は無いし、僕の感じた疑問もそれなら全て納得がいく……けど。だけど、やり直しなんてそんな……それに師匠でも一撃で殺されるって、「聖女」ってそこまでぶっ飛んでるのか……」
自分を納得させるべく、一人でぶつぶつ言っている。
今この部屋にいるのは俺とセトだけだ。
タマと能力管制担当も居るが。
「銀」には次周でどうなるかを是非聞きたいので、「アイテムボックス」に戻ってもらっている。
ちなみに「銀」曰く、「アイテムボックス」に入った瞬間から出てくる瞬間まで、主観では時間が全く経過していないらしい。
次に「アイテムボックス」から出てくる瞬間が、入った瞬間の続きだそうだ。
時間経過が無いと考えれば、食料品や薬品の類を保存するのにはいいな。
なにか俺の「死に戻り」と関わりがありそうな結果ではあるが、今のところなにがといわれても明確に答えられるものは無い。
でも何か引っかかる感じだ。
「そうだセト、一回目俺が考えなしに「転移」した時、セトが何か言いかけてたんだけど、何を言おうとしたか予想つく?」
確かに慌てた様子で何かを言おうとしていたのだ。確か――
『ちょ、師匠――』
「ちょ、師匠、待って待って。本当にそこが「姫巫女の神殿」なら、男の師匠が踏み入れた時点で「禁忌を犯した大罪人」になっちゃうから。もっと慎重に行動しようよ――ってところじゃないかな。僕の情報から師匠が神殿の場所にあたりをつけて、ソッコで行こうとしてたんなら。というか本当に行ったんだよね? そして一撃でやられちゃったんだよね? ほんともうちょっと慎重に行動しようよ師匠」
まことに持って面目ない。
なるほど、本人だけあってその状況で自分が何を言うかはすぐわかるのも当然か。
今この瞬間にそうなったら自分が何を言うかを考えればいいんだから、そりゃそうだよな。
「とにかく、師匠の言っている事は全面的に信じるよ。整合性があるし、師匠が僕にそんな嘘言う必要性が見当たらないし、今の台詞に本気でへこんでるみたいだし……」
「……そりゃどうも」
自分の中で納得がいったのか、くすくす笑いながらセトが言う。
余裕が戻っていいことだ。
いまだにタマから距離を取っているあたり、まだビビッてはいるんだろうが。
こちらから信じてくれと説明し始めたのではなく、セト自身が違和感を持ったことに対する答えとして説明しているので、受け入れやすくもあるのだろう。
実際、俺の説明でセトの疑問点は一応全て納得できたようではあるし。
こっちは何も嘘ついているわけではないから、当然といえば当然なんだがな。
ただ俺が異世界から来たことや、タマや能力管制担当といった、「創造主一派」絡みのことはぼやかしている。
別に隠す必要も無いといえば無いんだが、事態の整合性とは別に、納得してもらうのに酷く時間がかかるような気がしたからだ。
今後必要になれば、その時に説明すればいい。
「だけどそうなると、僕の記憶が連続しないところが悔しいな。何とかならいかな、師匠?」
タマが言葉を発しないまま、セトをじっとみている。
「創造主一派」としては、セトの勘のよさと理解の速さは警戒対象なのかも知れない。
「繰り返す世界の記憶を持つ」というのは、本来あってはならないことなんだろうしな。
だがセトの言うとおり、それが出来れば俺としても心強い。
記憶を共有できる相手が居るというだけで、かなり気が楽になるしな。
「ちょっと思いつかないな。まあ何度繰り返すことになるのか今はまだわからないけど、毎回セトに納得してもらうのを簡略化する手段なら、あるっちゃあるけどな」
だがそれが叶わない場合の次善の策を、俺は知っている。
「……そんな手あるの? どうするの?」
「セトが最初に疑問を持ったことと基本は同じだよ。セトが信じた相手にしか絶対に言わない言葉を、俺に教えてくれればいい。俺がその言葉を口にすれば、セトもすんなり信じられるだろう?」
セトが驚いた顔をする。
何を言っているのかを瞬間で理解するのはさすがだが、そのあと頬に朱がさした。
あ、誤解させたか。
そういう意味は含んでいない。
「その言葉の意味を俺が理解して無くてもいいんだ、弱みを見せろといってる訳じゃない。俺が口にするその言葉を、セト自身が自分が俺に伝えるしか、俺が知る可能性がないと信じれるものでさえあればいいんだよ」
「よくそんなこと、すぐに思いつくね」
いやそれは俺が元居た世界の俺が大好きな作品に元ネタがあるからだね。
――今私が一番欲しいものは、マイフォークである。 by助手
だからそんなに感心されると心苦しいものがある。
だけどこういう状況であれば、効果的な手であるのも確かだ。
まあセト自身が今回のように自ら違和感に気付くだろうから、要らないといえば要らない用意かもしれない。
俺がこのシチュエーションでやってみたいというだけだ。
「そういう言葉、何かある?」
「うーん、ちょっと思いつかないかな。まあ僕の事だし、今回みたいに師匠が説明してくれれば今回と同じように信じると思うよ」
あるな、このやろう。
だけどそれを俺に言うには照れくさいというか、躊躇いがあるというあたりか。
なるほど、まだそこまでの信頼は築けていないという事だな。
こちらもまだ隠している手札がある状況では、セトだけを責めると言うわけにもいかない。
たしかにお互いを曝け出しあった後だからこそ、厨二と助手のああいうやり取りが刺さるんだし、妥当なところだろう。
今後の周回で教えてもらえることを期待しよう。
まずは「再挑戦」に臨む前のアドバイスを頂戴したいところだ。
「魔法戦闘」については、「十三使徒」第三席であるセトは頼りにしたい。
「師匠の方向性で間違ってないと僕も思う。なんで短い周期で繰り返すのかはよくわからないけど、師匠がいいたくなさそうだからそこは聞かないよ。どうしても「姫巫女」に勝ちたいって理由ははなんとなく予想はつくけどね。サラ王女いいなあ、師匠にそんな風に想ってもらえて……」
そのあたりも、隠したいというわけじゃないんだけどな。
上手く伝える自信が無いだけで。
まあそこを不問としてくれるのであればありがたい。
師匠と弟子という関係も、こういうときは楽だ。
「『姫巫女』の技が、師匠級の魔法防御陣ですらすべて無効化するというんなら、相手の攻撃は全て見て躱すしかない。僕の奥の手をあれだけ躱せた師匠なら、普通は問題ないと思うけど、一発でも受けたら終わりだからね……僕の時もいくつかは防御魔法陣で弾いていたもんね?」
「……さすがにあれだけの量は躱しきれなくてなあ」
「身体能力を上げれば躱しきれるようになると思うから、そこは積み重ねるしかないね。魔物領域の情報はさっき伝えた通り。怪我させずに「姫巫女」を無力化するのもそれでいいと思う。師匠の「魔法近接戦闘」って発想は素晴らしいと思うよ。僕もその方向で修行はじめようと思うくらい」
俺の発想じゃないんだけどな、それも。
うちの頼りになる能力管制担当によるものだ。
(`ー´〃)
うん、すごいのはお前だ。
間違いない。
「それと師匠、「聖女」――「姫巫女」は戦闘の素人だという事を忘れないで。師匠もその辺なんか怪しいけど、彼女らは圧倒的な力で魔物を薙ぎ払う事はあっても、対人戦闘の経験なんて全く無いはずなんだ」
それはセトの言うとおりだろう。
あまりにも圧倒的な攻撃力で、1周目の俺を一撃で首ちょんぱしたことで忘れがちだが、彼女は戦闘経験なんてほとんど無いはずなのだ。
セトの言う通り、今のところそれは俺もなのだが、こっちは繰り返しの中で実戦経験を積んでいける。
「そしてどんな強力な技であっても、目で捉えられないと当てられない……はず。少なくとも師匠がくらったという技については間違いないと思う。目で捉えられないくらいの高速機動。そこからの一撃を狙うのが今ある情報の中では正解だと思う」
戦闘の素人であれば、高速機動で引っ掻き回せば勝機はある。
……はず。
あるといいなあ。
どちらにせよ、今回はよく相手をみることも重要だ。
「なるほど、頼りになるな。とりあえずそれでダメだったらまた助言頼むわ。どうやってやられたかは出来るだけ詳しく伝えられるように努力する」
申し訳ないけど、とセトに言われた事だ。
対策を練るには、どのように負けたかを出来るだけ克明に知ることが重要だと。
確かに棒立ちで呆然としているところ首ちょんぱされました、では対策の立てようも無い。
それでもこれだけの助言はくれているわけだが、次回はもっと具体的に出来るようにしておくべきだというのはもっともだ。
負け様、というか死に様を詳しく聞くことにセトは遠慮があるようだが、何、気にすることは無い。
俺が何十回、何百回負けを重ねても、最後の一回で勝てば俺は不敗だ。
その最後の一回を成立させる為に出来る事なら、何でもやろうじゃないか。
「再挑戦、行って来る」
「そんな気楽に……でも行ってらっしゃい、がんばって師匠」
とりあえず今回は、1周目と同じタイミングで挑んでみる。
「……僕も見に行っちゃダメかな? 巻きこまれて死んでも、師匠の話どおりなら問題ないよね?」
「やめとけ、俺はセトが死ぬとこなんてみたくない。どうしようもなくて、それを覆す為にやり直すのは有りだと思うけど、どうせ巻き戻るから死んでもいいってのはちょっと違う気がする。俺が言っても説得力無いかもしれないけど」
セト本人は覚えていなくても、俺はセトが死んだことを忘れられない。
避けられる死なら、避けておくのが正しいはずだ。
「ううん、ごめんなさい」
なんとなくでも、俺のいわんとすることは伝わってくれたようだ。
恥ずかしそうに謝られた。
いや俺もなんかえらそうなこと言って申し訳ない。
よっし、気持ちを入れ替えて再挑戦。
俺のほうは何回首ちょんぱされたって、諦める訳にはいかないしな。
たとえ今回も負けても、何度でも挑んでやる。
何度でも挑めるのが、俺の現在唯一の優位性だしな。
行くぞ、能力管制担当、タマ。
逝くぞじゃ無いことを祈る。
出かけるので、今日ははやめの投稿です。
次話 閑話 ?周目 THE END 【side クリスティナ―知らない記憶】
11/15 投稿予定です。
完結済短編「異世界娼館の支配人」も出来ましたらよろしくお願いします。
http://ncode.syosetu.com/n4448cy/
同じく完結済中篇「三位一体!?」も出来ましたらよろしくお願いします。
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