第39話 2周目 【助言者】
方針が決まったのでそれに従って動く。
冒険者ギルドでは、基本的に1周目と同じように行動して済ませた。
ケトル峡谷で入手した膨大な魔物を出すことはしなかった。
わざと間違えて「雷龍」を出すときにちょっと緊張する羽目になってしまったが。
「雷龍」どころじゃない魔物も今はアイテムボックスに溢れ返っているから、そっちをうっかり出すわけにもいかない。
確実に1周目より大きな騒ぎになるだろうしな。
それとやっぱり前回の金貨は残っていて、今回貰った分がプラスされた。
金貨だからいいようなものの、これ日本だとどちらも本物なのに、どちらかは偽札だという状況になるのだろうか。
アイテムボックスに「生物」が入らなくてよかった。
だけど魔物の死体が入るという事は……やめよう。
嫌な想像をしてしまった。
「錬金術師」のネモ爺様がいる「隷属契約斡旋所」でも、1周目と同じように行動した。
特に問題なく、ほぼ同じ結果に出来たと思う。
やはり金貨と同じように、「白の獣」と「黒の獣」は増えた。
という事は「自動人形」である「銀」も増えるんだな。
試しに「アイテムボックス」から同時に出してみたが、特に問題なく「同型機」とお互いを認識しているようだが、どうなのだろう。
「人造使い魔」はしゃべらないのでよく解らない。
次周に「銀」を持ちこして聞けば、どういう状態なのかわかるだろう。
今回も「死に戻る」ことが前提の話なのが情けないが、しかたがない。
ここまではまあ予定通りというか、とくに問題はなかった。
同じように行動すれば、同じような結果に収束している。
「師匠!」
……。
問題はセトだ。
天才というのは、思いのほか厄介なもののようだ。
「師匠頼むよ。どういう事か教えてくれないと夜も眠れない。絶対に師匠、僕の奥の手、知っていたよね? でも僕は人前で使ったのは今回が初めてだ。どういう事か教えて」
1周目と同じように王族専用の浴場へ来てはいるが、ずっとこんな調子だ。
前回は俺に女の子と勘違いされて、まだ拗ねていた頃なのに。
「魔法指南」の際、セトが奥の手を出した時に力技で無効化するのではなく、無数の魔法を「見て避ける」練習になると思ったのが失敗だった。
俺のその様子を見て、セトは確信したらしい。
俺がセトの魔法戦闘を、奥の手に至るまで知っていると。
確かに知ってはいるんだが、さて何と説明するべきか。
「だいたい師匠、最初に僕を見てちょっと笑ったよね? 初対面で敵対しているのに。僕は師匠を知らないのに、なんで師匠は僕を知っているのさ」
ちゃんと1周目と同じようにセトが現れてくれて、ほっとしたんだよ。
そりゃ不思議だよな。
間違いなく初対面の人間がなぜか自分に好意的なだけではなく、自分の秘奥と言っていい技まで知っているとなれば。
とにかくいろんなところをよく見ているし、記憶している。
納得のいく説明をしてやらねば解放してくれそうにない。
「……彼はよく見ているし、察しもいい。何回やり直してもその都度気付くでしょうし、きちんと説明したほうが良いのではありませんか?」
猫のくせに今回も一緒に風呂に入っていたタマが、諦観したように言う。
確かに毎回気付かれるのであれば、もうぶっちゃけた方がはやいというのも一理ある。
セトの方が「魔法」のエキスパートではあるし、いろいろな助言も得やすいだろう。
俺は「力」こそ強いが、「魔法」に関しては素人なのだ。
「聖女」についても一番詳しいのはセトだろうしな。
それに本当に何十回も繰り返すのであれば、セト自身の助言とその結果を毎回伝えることで、より有用な助言をもらえるようになるかもしれない。
考えてみればこれはちょっと面白いな。
セト自身の記憶は毎回リセットされるけれど、俺はセトの助言もその結果も覚えている。
それを毎回セトに伝えることで、より改善された助言、対応策が生み出される可能性は高いと言える。
セトは我知らず、己の判断をより洗練していくことが可能になる訳だ。
実践を伴った試行錯誤を、俺を介して無限に行う事が可能なのだから。
結果として俺達も助かるとなれば、そういう助言をしてもらえる状況を整えるべきか。
「あの……師匠? 腹話術?」
そんなわけあるか。
何で表情凍っているんだセト。
猫……この世界に猫は存在しないけど、まさかこんな小動物が怖い訳でもあるまいに。
「――魔物がしゃべったあああああああああ!!!」
突然大声を上げて俺の背後に回り、腕にしがみついて震えだした。
こっちがびっくりするわ、なんなんだ一体。
仮にもこの世界最高峰の魔法遣いが集められた「十三使徒」の第三席が、小動物相手に奇声上げてびびるなよ。
確かに本来しゃべるはずがないものが突然しゃべりだすのは驚くだろうし、気持ち悪くもあるだろうけど、叫び声を上げるほどか?
――いや、俺も向うで突然猫がしゃべりだしたら、飛び上がって驚くか。
なんかいろいろ、常識が麻痺してきているのかもしれないな。
「し、ししし、師匠、師匠。ま、魔獣。そいつ魔獣。なんで師匠、魔獣なんて連れてるの? 魔物を使役するのも珍しいのに、ま、魔獣って……」
初めて聞く呼称が出たな。
「魔獣ってなんだ?」
あれだけの力を持つセトが、ここまで怯えるからには相当の脅威と見做される存在なのだろう、魔獣とやらは。
「し、知らないの? 師匠。言葉を話す魔物は悪魔の使徒、つまり魔獣だよ。し、神罰が下るよ? こんなの連れてると」
誰が下すんだよ、神罰。
「聖女」か。
言葉を話せる魔物は、ジアス教にとっては邪悪の象徴という事らしい。
実際に居るんだろうな、言葉を解し強大な力を持って人に敵対する、いわば「高位魔物」とでもいうべき存在が。
セトが籍を置く、神の使徒たる「十三使徒」と正対する存在という事だ。
なんだろう、「666の獣」とかあるんだろうか。
まあ確かに「魔法」を知るものにとっては、見た目はその脅威度とイコールではないというのは解る。
俺だってセトだって、見た目で言えばまったくもって強そうじゃないものな。
「こんなのとは失敬な、私は魔獣などではありません。それとツカサに必要以上に接触しないよう忠告しておきます」
「ど、どうして?」
おっかなびっくりと言った態度で、俺の背中に隠れながらセトが問う。
いくらなんでもビビり過ぎだろうセト、魔獣に対してなんかトラウマでもあるのか。
でもなんでだろう?
「――能力管制担当が、なぜか不機嫌になりますので」
(・△・#)
怒りの表現と同時に、ごく微弱な電撃系防御陣を発動させる能力管制担当。
いやそれ見えるの俺だけだからね?
こいつがその気になれば、俺の能力は全て使用可能なところが怖いと言えば怖いな。
俺の意志に反して発動させることはないのだろうけど。
「っひゃ!」
バチン、という音と供に、ぴったりと俺にへばりついていたセトがびっくりして離れる。
確かに能力管制担当は俺の意志を読んでくれる。
一定以上にセトにくっつかれると、俺は確かに困る。
困る理由は「嫌悪」というよりは、「恐怖」と言った方がより真実に近いと思うのだが、能力管制担当にはそこまでは解るまい。
俺が「嫌がっている」と判断して、排除するように動いてくれているだけだ。
ヤキモチ焼いている訳ではないはずだ。
たぶん。
きっと。
セシルさんにはそんな様子を見せないしな。
「な、なんなの師匠。なにがどうなっているの?」
混乱してセトが涙目だ。
意外な一面だな。
「死に戻り」を繰り返していると、こうやって俺だけ相手を深く知って行くようになるわけか。
いいことなのやら、そうでないのやら、今の時点では判断が付かない。
とりあえず、いま目の前でおろおろしているセトは面白いが。
「まあ落ち着けセト。一から説明するから」
とりあえずのぼせる前に、風呂から上がろう。
次話 2周目【再挑戦】
11/14 23:00頃投稿予定です。
完結済短編「異世界娼館の支配人」も出来ましたらよろしくお願いします。
http://ncode.syosetu.com/n4448cy/
同じく完結済中篇「三位一体!?」も出来ましたらよろしくお願いします。
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