表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/114

第38話 2周目 【分析と方針】

 「効率」と一口に言っても、大前提にあるのは俺の「死に戻り」の異能だ。


 この世界(ラ・ヴァルカナン)に追放されるにあたって、あれだけの能力(チート)をもらっていたにもかかわらず、本来であればクリスティーナに首チョンパされたところで俺の冒険は終わっていたはずだったのだ。


 「おおツカサ、死んでしまうとは情けない」といって、有り金の半分と引き換えに蘇生してくれる王様は、この世界(ラ・ヴァルカナン)にはいないしな。


 よく考えれば恐ろしい話だ。

 自分が一度、それだけの迂闊さをやらかしていることはしっかり認識しておこう。


 そのためにも、生命線とでもいうべき自分の「死に戻り」の異能について理解しておくことは重要だ。


 正直なところ、自分でもよく解っていない。


 死ねばある時点からやりなおせる力だという事は間違いないだろうし、今まではその理解をしておけば特段困ることもなかった。


 ゲームで言うところの、セーブポイントからのやり直しのように認識している。


 「経験累積」の能力(チート)で、ゲームオーバーまでに蓄積したレベルや経験値が適用されるという点が違う位か。

 別の能力(チート)である「アイテムボックス」内を見れば、入手したアイテム類も次周に持ち越されているようなのが地味に便利だ。

 金貨は持ったままだし、「白の獣ベスティア・ジ・アルブス」と「黒の獣ベスティア・ジ・アテル」も入ったままだ。

 「(アルジェ)」はアイテムボックスから外に出していたから無くなっている。


 これ周回重ねて自動人形(オート・マタ)とか「人造使い魔(ファクティファミリア)」が重複したらどうなるのだろう。

 タチ○マみたいになるんだろうか。


「今ですら1周目との展開はかなりずれているのにもかかわらず、1周目をベースに「死に戻り」を繰り返すことを前提とする根拠。それを納得させてくれ」


 俺の言葉にタマが頷く。

 人間慣れとは恐ろしいもので、猫のそういう仕草にもうあまり違和感を感じない。


「まずあなたの「死に戻り」が、「どういうものかよく解っていない状況」は変わっていません。それを前提に聞いてください」


 それはそうだろう。


 というかタマはその力の解明及び監視のために俺にくっついていたはずだ。

 あるいはこの状況は、分析を進めるという視点ではタマにとっては有り難い状況なのかもしれないな。

 こっち世界(ラ・ヴァルカナン)が幾度繰り返そうとも、新作ゲームを楽しみにしている創造主に文句言われることはないだろうから、この機に解明してしまいたいのかな。


「短い期間……具体的に言えば1回目と同じか、引き伸ばしても数日以内での繰り返しを推奨する最初の理由は、長い時間をかければかけるだけ、当然のことながら世界が進んで行ってしまうからです。」


 ?

 

 当たり前のことを言っている様にしか聞こえない。

 もうちょっとわかりやすく言ってくれないと良く理解できない。


地球世界(むこう)での「死に戻り」は半日にも満たない期間の繰り返しでした。それでもあなたが何度も「死に戻る」事にした理由であるあの少女は、死に方こそ変わっても、死という結果は変わらなかったことは覚えているでしょう」


 もちろん覚えている。


 38回も繰り返して、嫌というほどどうにもならない現実を突き付けられた。

 その結果を変えることを条件に、俺はこの世界(ラ・ヴァルカナン)に……


 つまりそういう事か?

 長い時間をかければ、その間に確定してしまう事象が時間の経過に応じて増える。

 それが俺にとって都合の悪いことであれば、一つ一つ都合のいいように覆していくのが大変、もしくは不可能だという事か?


「いえ逆ですね。今のあなたは事象の収束に干渉するだけの力を持っていますから、大変だとはいえ変える事自体は可能です。むしろ絶対に変えられないのであれば「死に戻る」意味がない。変える為にこそ「やり直す」のですから」


 だったら何が問題だというのだろう。


「変えてしまえること自体があなたの負担になるのでは? というのが能力管制担当(左手のグローブ)の見解ですね。見解というか心配ですが」


 変えてしまえることが負担になる?

 何故だ。

 サラが望み、俺がそれに応えるという大前提があるのにそうなってしまうものか?


「人とは、時間の積み重ねで出来ているのです」


 極端な例で言えば、「姫巫女」撃破に十年の時間が必要だったとする。

 その間魔物(モンスター)しかいない人跡未踏の地で俺が修行に明け暮れたとしても、世界(ラ・ヴァルカナン)は俺とは関係なく十年間動いてゆく。


 至極当然のことだ。


 サラは十九歳になり、セシルさんは二十五歳になり、セトは二十二歳になる。

 クリスティナだって十年間歳を取る。

 当然何もせずに歳だけ取るわけではないから、いろいろな日々の出来事がそれぞれの身に十年分積み重なってゆく。


 それがただただ不幸なものであれば、それを覆すのにそんなに抵抗はないだろう。


 だがそうとは限らない。


 十歳が結婚可能になる年である王族のサラであれば、結婚し子供も生まれているかもしれない。

 クリスティナを「姫巫女」から解放するという望みは叶わなくても、別の「幸せ」を積み重ねて行っていて当然だ。


 それを「前の周のサラに頼まれたから、今の暮らし全部リセットするね」とは言えない。

 別人ならまだしも、当の本人に「もういいのです」と言われれば、「死に戻る」理由の根幹が消えて失せる。


 前の周のサラが本物か、十年を暮したサラが本物か。

 そんなものどちらも本物に決まっている。

 であれば、その瞬間に目の前で生きているサラ本人の願いを無視することなど出来ようはずもない。


 かくして俺の十年は無に帰すわけだ。


 ちょっとぞっとした。

 

 だが言われてみればよく理解できる話だ。


 今この瞬間に願いを叶える力が無ければ意味がない。

 それはいくつもの能力(チート)を持ち、「死に戻り」の異能を持っていても本質的には変わらないのだ。


 タマをアドバイザーにしておいて本当に良かった。

 考えなしに「修行!」をはじめて数年後に、呆然とするかもしれなかった訳だ。


 やっぱりゲームとは違う。

 当たり前だがよく考えないといけない。


「直接かかわりのない人々も当然、長くかければそれだけの人生を積み上げます。それを一方的に「無かった事」にしてやり直させるのはやはり気が咎めるでしょう。一度観測された事象は、よほどの干渉が無ければ同じ結果に収束するであろうというのは、地球(あちら)での38回でほぼ確実かと思われますが、長くなればそれもわかりません」


 違う選択をして、違う結果にたどり着く人が出る可能性もあるという事だ。

 それが不幸かどうかは当人にしかわからないが、一度他人が積み上げた人生を、自分の都合で勝手に無かった事にするのは確かに気が咎める。


 少なくとも俺が干渉した人間の周りは確実に変化し、「死に戻る」前での事実は無かった事になる。


 一番の問題はその事実を、俺以外が認識できないという事か。

 自分が覚悟を決めてした選択を、勝手に無かった事にされる。


 であれば、積み上げたものがほとんどない、大きな変化になりえない短いスパンで繰り返すのが「無難」だという事は理解できる。


 短い時間ならいいというものではないだろうけれど。


 だがその範疇であれば、明確な意思を持ってそれなりの干渉をしても結果は変わらないという事は、俺が身を以て経験している。


 例えば求婚(プロポーズ)を受け入れたり受容れなかったりすることは発生しないだろう。

 

 それこそ俺が積極的に干渉しない限り。


「……よく解った。それで行こう。俺の「死に戻り」と「経験累積」の組み合わせは、「必要なときに必要な結果を出す」のに適している。不必要な長時間の「白紙化」は避けたほうが良いというのには、俺も全面的に同意するよ。……ありがとな」


「私ではなく能力管制担当(左手のグローブ)の考えです」


 猫のくせにすました顔でタマが答える。

 確かにそう言っていたな。


「そっちに言ったんだよ」


 (///∇//)


 なんで能力管制担当(こいつ)が、俺にこんなに親身になってくれるのかは不明だ。

 物凄く助かるが。


「私の意見はそれよりも実戦経験の積み上げが重要だと思うからですね。一日あれば転移(テレポート)との組み合わせで、効率的な魔物(モンスター)領域を狩り続けることが可能でしょう。ステータス的にはそれで強化し、強くなる度にそれを実験で試し、「姫巫女」の動きや「技」を覚えるのは重要です。知識的な経験というやつですよ。先ほどの()()で身を持って体験されたでしょう?」


 運動もどうかと思うが、戦闘ってお前……


 タマの意見は、より現実的な「目的を達成する点に必要なこと」という見地に基づいてのものだ。

 それも充分納得できる。


 確かに俺には戦闘の経験が無いに等しい。


 振り回す力そのものを鍛えることと並行して、振り回し方も覚えなければ()()はなれない。

 とくにただ魔法をぶっ放すだけではない、「対姫巫女」として選択した「魔法近接戦闘(M.C.Q.B)」であれば尚の事だろう。

 

 これで方針は固まった。


 何回殺されることになるのかは解らんが、心折れないように頑張ろう。


「しかし深く考えたことなかったけど、俺の「死に戻り」って、実際どういう事なんだろうな」


「それを知りたくて、私はあなたにくっついているんですけどね。少なくとも平行世界が生まれたりしている訳ではありませんよ」


 そうなのか。

 さすが「創造主一派(シ○ッカー)」、そういう事は解るんだな。


 違う世界線の未来から、誰かがやってきたりすることはないわけだ。

 そういうのも好きだから、ちょっと残念だな。


「未来も過去もないですよ。軸は常にあなたです」


 苦笑いのような口調でタマが言う。


「この世界(ラ・ヴァルカナン)も常に一つです。あなたの死による意識断絶と同時に、私たちもコマ落としのように「死に戻り」の時点に戻るので、何がどうなっているのやら観測不可能なんですよね」


 そりゃ訳が分からないと言うしなかいよな。

 

 ……あれ、何か違和感を感じるけど、なんだろう。

 なんかおかしくないか?


「……っん……」


 ベッドの上でセシルさんが身じろぎをする。


「あ、セシルさんが起きそうですので私は黙ります。朝までまだ時間があるので戦闘再開されるのであればどうぞ」


 しません。


 戦闘言うな。


次話 2周目【助言者】

11/13 23:00頃投稿予定です。



完結済短編「異世界娼館の支配人」も出来ましたらよろしくお願いします。

http://ncode.syosetu.com/n4448cy/

同じく完結済中篇「三位一体!?」も出来ましたらよろしくお願いします。

http://ncode.syosetu.com/n7110ck/


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字報告無効になってるのでこちらで。 ×身を持って 〇身を以て or 身をもって
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ