表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いずれ不敗の魔法遣い ~アカシックレコード・オーバーライト~  作者: Sin Guilty
第六章 世界上書編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/114

第37話 2周目 【姫巫女対策】

 結論から言えば、やはりセシルさんは来た。


 よかった、来てくれて。

 タマの記憶をどうにかせずに済んだ。


 1周目よりもよりせっぱつまった感じで、何でもするからサラ王女殿下をお願いしますという勢いだった。

 サラと二人で脱落した近衛騎士たちに「癒し」をかけて回る直前の会話から、一気に畳み込まれた様なものだ。

 本人は侍女筆頭としていたって普通の行動だと思っているみたいだけど、やはり俺には行き過ぎた献身としか思えない。

 怪我の事があり、その状況を救ってもらっているというのが大きい事は、それを治した俺に対する態度からも理解できるがそれだけでもないと思える。

 いくら主人のためとはいえ自分の全てを捧げられるというのは、現代日本に生きてきた俺には新鮮というか、やはり腰が引ける。


 幸いにしてこちらは二度目だったので、最初よりは恥をかかせることなく事態をおさめられたと思う。


 そのセシルさんは今、ベッドでぐっすり眠っている。


 明け方に熱を出すこともわかっているので、その対策も取っているから大丈夫だろう。

 どちらにせよ王都までの道行、馬車はきついだろうから俺が抱えて飛翔(フライ)で飛ぶことに変わりはないだろうが。


 言い訳どうしよう。


 まあサラの「神託夢」を詳しく聞いたところによると、サラは俺とセシルさんがこうなっているのはどうやら知っているとみていいだろう。

 であれば、余計な言い訳はないほうが良いか。


 セシルさんはやはり「神託夢」の内容は聞かされてはいなかった。


 ショックを受けるかと思ったが、元より「神託夢」の内容を聞く事が出来る人間はごく限定されており、侍女筆頭程度の立場では聞けなくて当たり前だそうだ。

 サラや王様が判断したことに対して思うところはない様だったので一安心。


 俺なら自分だけ聞かされていないという事を知ったら、やっぱり落ち込むと思うからな。


 セシルさんの献身といい、近衛騎士たちの命を懸けた忠誠といい、現代日本で育った俺にはどうしても強烈に感じる。

 身体も命も平気で投げ出せるほどの忠誠心というものに、接する機会などほとんどの人間にはないだろうから、仕方がないと思う。


 俺がサラの「神託夢」を知った上で変えることが可能な力を持っていることを説明したら、セシルさんは素直に感心してくれていた。


「で、ではツカサ様は今宵私がこうしてここに来ることも御存知だったのです、か?」


 と頬を朱に染めて聞かれた時には、どう答えようかと悩んだが。


 知っていましたし、期待していました。

 すいません。


 数値的な成長ではなく、知識的な経験がいかに重要かを妙なところで思い知った。


 一度目は無我夢中だったが、俺だけ二度目となれば優位性(アドバンテージ)が違う。

 どこをどうすればどう反応する。

 それを把握していると、俺自身は何も変わらないのに色々とまた全然違ったものになるものだ。


「ずるい、です……」


 と息も絶え絶えに言われた時は、鼻血出そうになったが。



 古傷を直した後のマッサージの際の話である。

 

 ――広義の。



「いえ、あなたの性能自体も1周目とは全く変わっていますよ」


 性能って。


 暖炉の脇で狸寝入りを決め込んでいた化け猫であるタマ――よく解らん表現だ――が話しかけてくる。

 セシルさんは発熱を抑えるための「魔法」での眠りだから、会話程度で起きる心配はない。


「そうなの? あんまりピンとこないけど」


「何のために魔物(モンスター)領域一つ丸ごと殲滅したと思っているのです。魔法はもちろんですけれど、身体能力全般もレベル上昇に伴い、文字通り桁違いに向上しています。あらゆる()()に余裕が出るのも、当然の事なのですよ」


 運動言うな。


「『姫巫女』対策に関しては、タマと能力管制担当(左手のグローブ)は一致しているんだったよな?」


 そのアドバイスに従う形で、ケトル峡谷のボス級魔物(モンスター)はただ単純に魔法をぶっ放す形では倒さなかったのだ。


「ええ。戦闘については能力管制担当(左手のグローブ)が専門ですから、私の意見と一致する必要はないのですが、幸い一致しています」


 口数? の多くない能力管制担当(左手のグローブ)の代わりに、タマが説明してくれているが、「対姫巫女戦闘」の骨子は能力管制担当(左手のグローブ)によるものだ。


「普通の「魔法」は通用しない?」


 それは一度目の相対で俺自身も理解できているが、今一度確認する。

 あの舞い散る炎のような桜の花弁は、事も無げに俺の多重展開された防御魔法陣を消し飛ばした。


「まず間違いなく。もちろん「姫巫女」が展開する「魔法」を相殺するための「魔法」はこちらも必要ですが、「姫巫女」を無力化するためには照射型や魔法陣展開型の魔法は無益でしょう。1周目に喰らった積層防御魔法陣を消し飛ばした「技」は、レベルを上げようが「魔法」を変えようが同じ効果を発揮すると思っていたほうが良いでしょうからね」


 (・`ω´・)b  M.C.Q.B(Magica Close Quarters Battle)


 やっぱりそうか。

 故に「魔法近接戦闘(M.C.Q.B)」を選択するというわけか。

 

 術式として発動された「魔法」が全て無効化されるのであれば、拳や脚に「魔法」を込めた攻撃を直接叩き込む。

 積層しようが魔法防御陣をまとめて消し飛ばされるのであれば、「魔力」でブーストした自身の機動力をもって相手の攻撃を全て躱す。


 漠然と俺のイメージする「魔法戦闘」とは大きく異なりはするが、目的を考えれば理にかなっているとは思う。

 

 俺の目的は「姫巫女」の撃破だが、それは消し飛ばすことと同義ではない。


 瞬殺されている身で偉そうなこと言える立場ではないけれど、目的を達する為には極力無傷で無力化することが必要だ。


 目的を見失っては何の意味も無い。


 「手術は成功しました。しかし結果患者は死亡しました」なんていうブラックジョークと同じことをやらかす訳には行かないのだ。


 それには高火力術式をぶっ放すよりも、相手を無力化する必要最低限のダメージを叩き込める「魔法近接戦闘(M.C.Q.B)」の方が都合がいいのは確かだ。


 「魔法近接戦闘(M.C.Q.B)」を強化するためには「魔力」でブーストする、いわば掛け算の前にあたる基礎身体能力を高めることが必須だというのは理解できる。

 元が貧弱では、数百倍にブーストしても高が知れている。


 何事も地力を伸ばすことが一番大切なのは変わりないという事か。


 幸いにして魔物(モンスター)を狩ることでレベルを上げれば、それに伴って身体能力も上がるので、無心に魔物(モンスター)狩りをすればいい。


 地味な筋トレや走り込みを延々やらねばならなかったとしたら、泣きが入っていたことは疑いえない。


 いやたとえそうでも、やるつもりだけれど。


「正直に言わせてもらえれば、「姫巫女」との差は一回や二回死に戻った程度で埋められるものだとは考えていません。何回も、いえ何十回も、事によったら百回単位で「死に戻る」事を覚悟する必要があるでしょう」


 マジですか。

 そこまで差があるのか。


 だが、確かにそうか。


 現状は一撃で首ちょんぱされているような状況なのだ。

 まずは問答無用でサツガイされる状況を脱しなければならない。


 「禁忌を犯したものは即サツガイせよ」ってクラ○ザーさんじゃあるまいし、まずはまともな会話を成立させる必要がある。

 そのためには相手の戦闘能力を圧倒的に凌駕することが最低限必要になるのは結局同じだ。


 会話が成立したとしても「姫巫女」を降りて、ただのクリスティナに戻っても大丈夫な事を納得してもらうには、どのみち「姫巫女」を軽くあしらえるほどの「力」が必要だしな。


「ということはあれかな。一度かなり長い時間をかけて強化してから「死に戻り」をするのが一番いいのかな? 効率重視というと語弊があるけれど、手段を選んでいられない状況でもあることだし」


 ゲーム攻略的な発想で申し訳ないが、俺の考えではなんとなくそうなる。

 今から必要なだけの魔物(モンスター)を狩り尽くしてから死に戻れば、一番「効率的」だ。


 万が一今この世界(ラ・ヴァルカナン)に存在する全ての魔物(モンスター)を狩っても足りないとしても、狩り尽くしてからやり直しが一番効率的なことには変わりが無い。


 幸い俺は最高効率の狩場で、延々と狩り続ける事を苦にしない。


 いや正直に言えば大好きだ。

 ゲームと現実は違うとはいえ、MMOなどで休日の朝から寸分違わぬ狩場で延々と同じ得物を狩り続けることに幸せを感じる。


 普通の人には理解してもらえないだろうことはわかってはいるが、とてとてを無限チェーンしていると脳内に不思議な物質が分泌されているのがわかるのだ。

 沼を駆け回っていたときのあの多幸感は、ちょっと筆舌に尽くしがたい。


 傍から見ていると確かにキモイだろうが。

 我々のコ○ブリを奪い合っているのとは、比べ物にならないのだ。


 今はもう違ってしまっているのだろうか。


 なぜそんな繰り返しが苦にならないかといえば、それが最高効率だという事が解っているからだ。

 最高効率でなくなれば、それはあっさり苦行に成り果てる。

 故にレベル帯によって、狩場は推移するのだ。


 いや熱く過去のゲーム記憶を思い返してしまったが、目的があるのであれば効率を追い求めるのは悪い事ではないと思う。


「それも一理あります。ですが我々があなたの「死に戻り」を観察してきた結果を加味すれば、ほぼ1周目をなぞる形で周回を重ねるのがいいという結論に達しています。最終的に決めるのは当然あなたですけれどね」


 だがタマはそうしない方が良いという判断のようだ。

 そしてそれは現在のところ俺が最も信頼するといってもいい、能力管制担当(左手のグローブ)も同じ見解らしい。


「理由は聞かせてもらえるんだよな?」


「それはもちろん」


 (●・ω・))コクコク


 効率を上回る理由というのは、突き詰めれば結局それが一番効率がいいからだ。

 今の俺には見えていない要素があるからこそ、効率の捉え方が変わってくるのだ。


 レベル上げとスキルあげでは(以下略


 ますはそれを聞かせてもらってから判断する事にしよう。

次話 2周目【分析と方針】

11/12 23:00頃投稿予定です。



完結済短編「異世界娼館の支配人」も出来ましたらよろしくお願いします。

http://ncode.syosetu.com/n4448cy/

同じく完結済中篇「三位一体!?」も出来ましたらよろしくお願いします。

http://ncode.syosetu.com/n7110ck/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ