表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いずれ不敗の魔法遣い ~アカシックレコード・オーバーライト~  作者: Sin Guilty
第六章 世界上書編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/114

第36話 2周目 【本当のサラ】

 オルミーヌ砦からもっとも近い、魔物(モンスター)領域とでも言おうか。


 広域探知(エリア・サーチ)した結果、魔物(モンスター)の密度が高く人の手が全く入ってない地域であるケトル峡谷最奥部に、今俺は単身でいる。


 夜半にはまだはやいが、夜の帳は完全に降りている。


 向う(日本)でならはまだ宵の口と呼ばれる時間帯だろうけど、こっち(ラ・ヴァルカナン)では大国の王都(クラス)でもなければ、人里でも光は乏しい。

 だが幸いにして今宵は晴天、地上の光が無い分、全天の星の光は鮮やかだ。

 お約束通り、世闇に浮かぶ月は二つだしな。

 おかげで真っ暗闇という状況にはなっていない。


 もしそうであったとしても、俺の「義眼」であれば何の問題もないのだが。


 オルミーヌ砦に到着後、宴席をほぼ1周目と同じように済ませ、セシルさんが来るまでの時間を全力で己の強化に充てる為にここへ来ている。


 もっとも多重追跡(マルチ・ロックオン)系の「魔法」実質一撃で全ての雑魚を狩り尽くし、いま目の前でケトル峡谷の主――ゲーム的に言うのであればボスが沈んだので、もう終わりだ。


 ボス戦だけは能力管制担当(左手のグローブ)とタマカーチャンの一致したアドバイスに従い、慣れない近接魔法戦闘で倒したので、ちょっと疲れた。

 体力的なものというより、緊張から来る気疲れの類だが。


 ステータス・マスターによれば二百年の長きにわたり狩られていなかった主らしい。

 人の世に悪さをしている訳でもないのに、理不尽だとは思うが悪く思わないでくれ。

 

 俺には強くなる必要が……っていっても、一方的に虐殺しているだけで強くなって行くという、ゲーム的強化というのは違和感があるが。 


 Annihilate completion.(・ω・)ゝ


 能力管制担当(左手のグローブ)が、警戒半径に脅威対象が無いことを報告してくる。


 これでケトル峡谷という魔物(モンスター)領域は、人の視点で見れば解放完了だ。

 探知魔法によれば稀少鉱物含む多様な鉱物が産出可能みたいだから、サラに伝えればヴェイン王国の利益になるだろう。


 魔物(モンスター)がゲームのように湧出(ポップ)するかどうかの確認は必要だが。


 動物のように再び繁殖するのではなく、魔物(モンスター)湧出(ポップ)するようなら、魔物(モンスター)領域を解放するには湧出(ポップ)を止める何かをしないと不可能という事になるな。


 しかしアイテムボックスは想像以上の容量をもっていた。

 ケトル峡谷全域分の魔物(モンスター)を全て呑みこんでも全く問題ないようだ。

 「義眼」に表示されるリストがえらいことになってはいるが。

 まさか星ごと収納できたりするんじゃないだろうな。

 後なんか気になるけど、1周目の「アイテム」が残っている気がするんだが……


 大量の魔物(モンスター)を倒した結果、「義眼」に表示される己のステータスは何かの冗談みたいに各種数値を跳ね上げているが、基準が解らないので強くなっているんだかいないんだか。


 人の手には余るといわれる魔物(モンスター)を鎧袖一触なさしめ、今沈んだ10m級のいわばボス級すらも手こずることもなく撃破できる。

 世界でも有数の魔法遣いと見做されている「十三使徒」の第三席であったセトでも、1周目の時点で本気を出せば瞬殺可能だった。


 その俺が「姫巫女」には逆に瞬殺されているのだから、強くなっている実感を得られる対象が存在しないのだ。


 ちょっとバランスが極端すぎないか。

 適度な相手をくれ、適度な相手を。


「どう思う?」


 左肩のタマに声をかける。

 シルエットがどうみても猫だから猫だと認識しているが、俺の左肩にちょこんと乗れる程度なのでかなり小さい。

 尻尾も三本あるから、正しくは物の怪だな。


 しゃべるし。


 人前で話すときは結構気を使う。

 サラが1周目から気に入っているようだったから、うっかりサラやセシルさんの前でしゃべらせないように注意しないと。


「……あなたが、あんな幼女キラーだとは思いませんでしたよ」


 ……聞いているのはそっちじゃない。


 タマカーチャンは、サラと王様との会話のことを言っているのだ。


 サラに詳しく聞いたところによると、「神託夢」は定期的に見るものではないらしい。

 連続で見ることもあれば、数ヶ月開くこともある。

 俯瞰的に自分も含めた「未来の様子」が、かなり正確に見る事が出来、起きても鮮明に覚えているとのことだった。

 ただしそれは場面、場面が断片的で、夢を見た時点から先のいくつかの「重要な未来」を見る。


 俺に関してサラが見た「神託夢」は、「雷龍(トニトルス・ドラグ)」に襲われて全滅するしかなかった自分たちを俺があっさり助ける場面と、オルミーヌ砦での宴席、王城でセシルさんと一緒にお風呂に入っている部分だったそうだ。

 

 助けられるシーンでは俺が名乗るまで、宴席の部分はほぼすべてを「神託夢」として見ていた。

 風呂のシーンは俺について関係ないんじゃないかと思ったが、それを問うとサラは顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「ツ、ツカサ様の話を、セシルとしていたので……」


 あの流れでサラとセシルさんが風呂で何を話していたのかはだいたい予想がつく。

 これ以上突っ込むとセクハラになると判断したので、そこは流した。


 今回の外遊は、七名の近衛騎士はもとより、万一サラの「神託夢」が外れれば王様とサラの命もなくなるため、実行するかどうかかなりもめたらしい。


 それはそうだと思う。


 サラの「神託夢」は慶兆であれば確実に夢をなぞる事によって実現させ、凶兆であれば避けられることが最大の利点だ。

 それでも「外れたことが無い」と認識されているのは、なぞった時は細部まで確実にそれは再現され、避けた場合は示された凶事は確実に回避できたからだ。

 天候に関わるものであれば、それで事前に準備して被害を最小限に抑えたこともある。

 言いにくそうにしていたが、過去に二度あった大きな人同士の戦でも、大いに貢献していたらしい。


 そもそも今回の「神託夢」は、慶兆か凶兆かが判断付かない。


 三つに分かれた「神託夢」を見る限りにおいては敵対する兆しはないが、それが不変だという保証はどこにもない。

 王様とサラの命を懸けてまで強力な魔法遣いとの縁を結ぶことよりも、慎重派の意見が重視されるのも充分理解できる話だ。


 それを強硬と言ってもいいほど強引に「神託夢」をなぞる方を支持したのはサラだという。

 

 オルミーヌ砦の宴席の「神託夢」から、犠牲者は一人も出ないと予想されること。

王宮での「神託夢」から、なぜか「十三使徒」の第三席セトが出逢う魔法遣いの弟子になっていること。


 確かにそれらはサラの「神託夢」をなぞるべきだという意見を後押ししたが、決定的なのはサラの述べた理屈だったという。


 曰く、「神託夢」をなぞれば少なくとも「神託夢」で見られる範囲において、その魔法遣いはサラや王様、引いてはヴェイン王国に好意的であることが確かであること。

 そしてもし避けたとしても、その「強力な魔法遣い」の存在がなくなるわけではないという事。


 結局は「雷龍(トニトルス・ドラグ)」八体を一瞬で仕留める「魔法遣い」を、敵対国家に囲われてしまう可能性への言及が、慎重派の意見を覆すに至った。


 加えて遭遇点が国境付近であった事、サラたちの見解でも野生の雷龍(トニトルス・ドラグ)が偶然王家の一行に襲い掛かるとは考えられない事がより背中を押した。


 ヴェイン王国に対して明確な悪意――王族を暗殺するほどの――をもった勢力が存在することが明確な状況下で、万が一にも「圧倒的な魔法遣い」が敵性勢力に囲い込まれる訳にはいかないという判断が下されたのだ。


 1周目に俺が「異常に警戒されていない」と感じた本当のところは、みなサラの「神託夢」の通りに事が進んだことに「ほっとしていた」からだ。

 だからこそ「神託夢」と微妙にずれた今回は、あれだけの緊張が走っていたのだろう。


 まあサラの「お願い」や「結婚」話が、「神託夢」に従っているだけという無味乾燥なものでなくてよかった。


 もちろん「神託夢」で得た情報が大前提とはいえ、それでもサラ本人が「俺を味方にする為」に考えて行動していたんだと思うとまだ救われる。


 正直セトが言ってくれた言葉のおかげで、こういう考え方が出来ていると思う。

 頼りにしてるよ、今回はまだ見ぬ未来の弟子よ。


 それに素のサラは、小悪魔的なサラに負けないくらい魅力的でもあったしな。

 今は俺の方が「優位」にありすぎてこうなっているが、1周目のサラも、今のサラの中にちゃんといるはずだ。

 仲良くなって行けば顔を出し始めるだろう。


 ま、女の子というのはもともといろんな顔を持っているものだしな。


 ……すいません偉そう云いました、創作の受け売りです。

 そんなことをドヤ顔で言えるくらいの経験積んでおりません。


「いやそっちじゃなくて、俺の強化の方の意見をさ」


「不安に駆られる幼女の頭を撫でて落ち着かせる。……サラ王女はかなり聡いし計算高い所もあるとは思いますが、今回は素で懐かれてますね」


 話題を逸らしてくれる気はないらしい。


 確かに話を終えた後のサラの様子は、小さな女の子が、頼りになる相手にしがみ付く様子そのものだった。

 実際九歳なので、何の不思議もないとはいえるのだが。


「一度も外れたことのなかった自分の「神託夢」が根拠の不安ですからね。相当に怖かったのだと思いますよ。それを払拭してくれたのが自分の「神託夢」を上回ることを実証してみせた存在ですからね」


 それは懐きもするでしょう、とため息をつかれた。


 一通り自分の「神託夢」について説明してくれた後、堪えきれないという様子でサラは自分の不安を俺にぶつけてきたのだ。


 「神託夢」は本来、直近から数ヶ月先の内容をランダムに見るものだという事。

 にも拘らず、ここ半年くらいの「神託夢」は、俺と出会って以降の未来を一切見せないという事。


 まるでそこで世界が終わってしまうかのように。


 ある時点から先の未来を一切見せなくなった「神託夢」の事を、父親である王様にさえ言う事ができず、サラは一人で抱えてきた。

 だからこそサラは、その原因であるかもしれない俺には何としても接触したかったのだろう。


 お姉ちゃんであるクリスティナを「姫巫女」から解放する以外にも、サラには目的があったのだ。

 喫緊性で言えば、そちらの方が高かっただろう。


 そしてその原因に、俺は思い当たる節がある。

 というか俺が原因だ。


 俺が「死に戻る」からこそ、そこから先をサラの「神託夢」は指し示す事が出来ない。

 世界が終わるわけではないけれど、俺の意思次第で変化する未来を指し示すことなど不可能なのだ。


 あれ?


 そうであればこの世界の「神」とやらは、逆説的に自分の力が及ばない事態が発生しているのを掴めているんじゃないのか?


 寝ているのかな、神。




 サラは一度言い出した止まらなくなったのか、泣き出しながら言っていた。


(わたくし)は「神託夢」を見られても何も出来ません。姉さまみたいな災厄を直接解決してしまえるだけの力を持っていないのです。力を持った人たちに伝えて、後はお任せするだけ。どうしようもないことだったら、怯えて泣くだけ。「姫巫女」の妹なのに無力なのです。お姉さまが自分の全てを犠牲にして「姫巫女」として頑張っておられるのに私は……」


 正直、泣きじゃくる女の子にどう対処していいかなんてわからない。

 だけど何もしないわけにはいかない、という事だけは解った。


 なおも言いつのろうとするサラの小さな頭にそっと右手を乗せて、出来るだけ優しく頭を撫でた。

 びっくりしたようにサラの言葉が止まり、涙を浮かべた瞳が俺を見ていた。


「大丈夫だよ、サラ。サラの「神託夢」が俺と逢ってから先が見えなくなったのは、今はまだ詳しくは言えないけど俺の力のせいあって、サラのせいじゃない」


 嫌がって手を振り払われたらその場で死に戻ったかもしれないが、幸いそんなことはなかった。


 目を逸らすことなく、俺の言葉を聞いてくれていた。


「それに「神託夢」では見なかっただろうけど、俺は約束したんだよ、サラの味方になるってね」


 俺の言葉に、驚いたようにサラの瞳が揺れた。

 何を言っているかわからないだろうけど、言うべきだと思ったのだ。


 あのたわいない約束をした時点を、「神託夢」でサラは見ていない。

 あの心細そうな、俺がたわいない約束を守りたくなったサラは素のサラのはずだ。


 計算も打算もあっただろう。

 だけどそれだけじゃなかったと信じよう。

 いや、もしそうだとしても俺がそうしたいと思ったんだから、それでいい。


「俺はその約束を違えるつもりはないんだ。だからサラは無力じゃないよ。サラの「神託夢」をひっくり返せる「魔法遣い」が、サラの「力」だ」


 ここまで言って、さすがに照れくささに耐えられなくて、わりと乱暴にサラの頭をわしわしした。

 しばらくされるがままになっていたサラが、ふと笑った。


「いたい、いたいですツカサ様。女の子はもうちょっと優しく扱ってください」


「ご、ごめん」


 慌てた俺に、サラが涙に濡れたままの目でにっこり微笑んだ。


「不思議な方。ツカサ様は……ツカサ様はサラの味方でいてくださるのですね?」




 そこからサラは俺にべったりだった。

 「王女」としてではなく、「神託夢の巫女」としてでもなく、九歳のサラが俺になついてくれているんだと思う。


 王様の目がちょっと怖いくらいに。


「私は否定しませんと言いましたからね。仲間とするなら信頼されるのは良いことです。行きすぎるのは……まあそれもサラ王女がよければ、私がとやかくいう事ではありませんか」


 やめてください、カーチャン。

 1周目のサラならともかく、今のサラは庇護欲刺激されまくりで、とてもそういう対象には見れません。


 大丈夫です。


「どうですかね。それよりそろそろ戻りましょう。来る頃ですよ」


 サラと王様との話が終わった後、俺の外套(マント)の裾をつかんで離さないサラの泣き顔を見て、セシルさんはものすごいショックを受けた顔をしていた。

 オルミーヌ砦での宴席では、1周目の時よりも深く落ち込んでいた。


 1周目の様な「約束」はなかったけど、サラのために自分の身を捧げるくらいは平気でしそうだしなあ、セシルさん。


 まあ傷を治すのはやっておくべきだし、それはいいんだけど。

 二回目でも緊張するものはする。


 これでセシルさんが来なかったら……かなり恥ずかしいな。


 タマの記憶を抹消する必要が出てくる。

次話 2周目【姫巫女対策】

11/11 23:00頃投稿予定です。



完結済短編「異世界娼館の支配人」も出来ましたらよろしくお願いします。

http://ncode.syosetu.com/n4448cy/

同じく完結済中篇「三位一体!?」も出来ましたらよろしくお願いします。

http://ncode.syosetu.com/n7110ck/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ