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いずれ不敗の魔法遣い ~アカシックレコード・オーバーライト~  作者: Sin Guilty
第六章 世界上書編

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第33話 2周目 【カノン】

「とはいえ私がしゃべったところで、そんなに役には立たないと思いますよ?」


 なぜか尻尾が三本に増えているタマが、地上から俺を見上げて溜息をつく。

 俺が「死に戻る」度に尻尾増やすつもりか、この野郎。

 この後俺が何度も「死に戻る」と思っている訳だな、よーしいい度胸だ。


 まあ、言っていることは解る。

 確かに俺の「死に戻り」をよくわからないままに異世界放逐するくらいだ、イレギュラーな存在に対する対処能力は「創造主」から与えられていないのだろう。


 「創造主一派(ショ○カー)」も意外と頼りにならない。


 いや、そうではなく。


 ……よくある。


 よくあるパターンなのは間違いない。

 本来人語を解さない存在が人語を話すなんて言うのは、「魔法」が存在する世界ではお約束と言ってもいいだろう。

 俺だって数多の創作物で親しんでいるし、今更感があるといってもいいくらいだ。


 お前に良し、俺に良し、みんなに良し。

 みんな大好きしゃべる小動物系マスコットキャラ。

 そのはずなんだが――


 違和感半端ねえ!


 アニメや猫動画に声を当てているのとは全く違う、何と言ったらいいのだろう、すごく不気味だ。

 可愛らしい黒猫が、表情や仕草もしゃべっている台詞に合致したものを見せるというのが、ここまで違和感を与えてくるとは盲点だった。


 珠だと違和感なかったのに、不思議なものだ。


 まあ慣れるしかないか。


「そんな深い分析とか、正体探り当てる事には期待してないよ。タマは俺の行動に助言与えてくれるとありがたい。ご存じのように考えなしに、とりあえずやってみて後悔するバカ者なので、そのあたりに期待する」


「自覚していたとは驚きですね」


 この野郎。


 いや反論の余地はない。

 セトが「聖女」の特殊性や危険性を教えてくれていたにも拘らず、あまり何も考えずに「転移(テレポート)」で突撃して首ちょんぱされたのは俺だ。


 ああ、そういえばあの時何か言おうとしてたなセト。

 その言葉が何だったのか、もうわかることはないけれど。


 ――心配してくれていたのだろうか。


 同じ過ちを繰り返さない為にも、タマには厳しい役どころをやってもらわねば。

 周りが俺を全肯定する状況は拙い。

 「こいつなら何でもありだ」と思われている状況は心地良いが警戒感を眠らせ、考える事を止めさせる。


 俺はそれで調子にのらないほど、できた人間ではないのだ。


「ふふふ、本当に意外ですね」


 傍白を読むな。

 

「……で、この後どうするべきだと思う?」


「そうですね。ただあのイレギュラーをなんとかする事に特化するのであれば、情報収集と自身の強化に集中すべきでしょう。それだけで何とかなるとも思えませんけれど最低限そうしなければ、それこそ何ともなりません」


 やっぱりそうなるか。


 「姫巫女」――クリスティナ・アーヴ・ヴェイン(クラス)の存在といえば他の二聖女と、「勇者」。

 それにその組み合わせで挑むべき「大いなる厄災」が、判っているだけでも存在する。

 油断は禁物だが、第三席のセトの戦闘力から考えれば、「十三使徒」は「聖女」ほどの脅威ではないはずだ。

 だからこそ、「聖女」がそこまで特別扱いされているのだろう。

 

 いろんな意味で。


 極論そのいずれかの存在が俺を察知して、今この瞬間に俺をぶち転がしに来たらほぼ無限ループ確定になる。

 強化する余地が何処にもなければ、同じことの繰り返しだ。

 弱点を見つけるとか、今手持ちの力で何とかするとかは現実的ではないと思えるほど、力の差は厳然と存在した。


 まあそれは1()()()の経験からないとわかってはいるが、ほんの少しでも自身の強化に回せる猶予を確保するのは最優先だ。


 僅かずつでも強化できれば、どれだけかかろうがいずれは届く。


 それこそが「死に戻り」と「成長限界突破&経験累積」を組み合わせた、俺の最大の優位点なのだ。


 百万回負けても百万一回目で勝てば、俺以外の存在にとって俺は不敗。


 俺だけが自分の敗北を知っている。


 ……すでに一回負けているな。

 いや、トラックには38回も負けたんだ、まだまだいける。


 まあ百万回も繰り返せば、精神的に死に至りそうだけどな。


 だけど……


「だけど貴方は、やりなおす前に出来た関係を大事に思っている、と」


 その通り。

 無言で首肯する。


 というよりもその関係があるからこそ、サラとの約束があるからこそ、あの恐ろしい全裸忍者をなんとかしようという気になれているのだ。

 それが無ければ、君子危うきに近寄らずでも別にかまわない。

 「勇者様と三聖女」に世界の安寧は任せ、俺は冒険者ギルドで魔物(モンスター)を狩って暮らしたっていいのだ。

 

「であれば基本的な行動は同じようにして、空いた時間を全て強化につぎ込むしかないでしょうね。前回のデッドラインまではたかが二日です。あそこで「転移(テレポート)」で突撃さえしなければ、初遭遇ファースト・コンタクトのタイミングや在り方はいくらでもコントロールが利きます」


 俺が「死に戻っている」事を除けば、世界が()()と寸分たがわぬ状況になっていることはあっちの世界(地球)で38回も繰り返した経験からわかっている。

 という事は少なくとも俺が一度目に死んだ瞬間までは、俺とタマが危惧する状況は発生しないとみていいだろう。


 その時点で極僅かとはいえ、「己を強化する時間」は確保できている。

 人と関わる部分では極力前回と同じ行動を取りつつ、出来るだけその時間を広げるつもりではあるし。


 重ねるのが0ではどうしようもないが、必要な強化の0.00000001でもあれば繰り返せばやがて到達できる。


「寸分違わず同じ言動とれる自信がないけどな……」


 俺のちょっとした態度の違い、言葉の選び方。

 そんな事で、サラやみんなとの関係が変化してしまうのは正直怖い。


 向う(地球)ではそんなことに頓着する余裕もなく、何でもいいから何とか助ける方法はないかという事だけに集中していたからよかったのだが、人間関係の構築をなぞるとなればそうもいかない。


 人との関係が、ほんの些細なひと言や態度で大きく変わってしまう事があることを、俺は知っている。


「それは問題ないでしょう、最初の38回を思い出してみてください」


 だからその時は「(いわい)を助ける事」が最優先事項で、それこそ二度目以降は同じ行動を取ったことなどない。


 だけど呪いみたいに結果は同じに収束した。

 あの無力感は人を殺す。


 俺の尊敬するマッドサイエンティストはよくもあれを耐えきったものだと思う。

 あ、クリスティナ王女をクリスティーナと呼んでやろう。

 今決めた。


 それはいいとして、極力同じ言動を取らなきゃならないことは確かだよな。


「貴方は彼女を助けるためにありとあらゆる手段を講じ、毎回全く違った行動を取ったはずです。だけど彼女を助けようとする意志、その行動の根幹は全く変わっていなかった。だから彼女は毎回、同じ言葉を言ったでしょう」


 思い出させんなや。

 まあ今は助かっているのだからいいけどさ。


「だから今回も言動の根幹にあるものが変わらなければ、展開が多少変わっても大丈夫だと思いますよ? 言葉や仕草は枝葉です。その根っこが揺るがなければ大丈夫だと思います。特に命がかかっている場での事ですし、誤解や勘違いが介入する余地は限りなく少ない。……嫌々助けるわけではないんでしょう?」


 当然だ。


 なるほど、そういう理解でいいのなら気が楽だ。

 前回と同じにするために、近衛騎士の連中が「雷龍(トニトルス・ドラク)」のブレスに焼かれるまでほっておくというのは気分が悪い。


 知っているからこそ、痛い思いをする前に助けてやりたい。

 ザックやガウェインとは、友人とまではいかないものの知り合いと言っていいくらいは話したし、あいつらが生死の淵を彷徨うのは見たくない。


 命の恩人ゆえの遠慮や丁寧さ、なんてものは無くなった方がいいくらいだしな。


「彼らは戦う者としてはかなり優秀ですよ。己の命を救った云々よりも、自分達が守るべきものを、守れない時に救ってくれたことに何より感謝することは揺るがないでしょう」


 俺もそう思う。

 だがタマ、何度も言うが傍白を読むな。

 それともそれほどわかりやすいのか俺は。


 一周目が大人しかっただけに、口うるさいカーチャンが左肩にいるようだ。

 いやそれこそを望んだんだから、いいっちゃいいんだが。


 J( 'ー`)し ?


 止めなさい。

 俺はタケシじゃない。

 あとSS思い出して泣きそうになるから。


「むしろ何度も繰り返すうちに、その根幹が崩れることを注意したほうが良いですね」


 それもわかる。

 そういうのこそ、人には伝わるんだ。


 例えは悪いが、初めはドキドキしてクリアしていたイベントも、何度も繰り返せば作業に成り下がる。

 ゲームのN.P.Cノンプレイヤーキャラクター相手ならそれでもいいのかもしれないが、相手は生きた人間なのだ。

 それこそ「姫巫女」のような目で救われても、不気味さを感じるだろう。


「まああなたは39回諦めずに繰り返したような人ですから、心配は要らないのかもしれませんがね」


 やかましい。


 いや、その際は助かりました。

 タマが来てくれなきゃいまだに繰り返していた可能性が高い。

 ただの高校生に、吸い込まれるように(いわい)へ突っ込んでいくトラックをなんとかできたとは思えないしな。


 だけど何度も繰り返すのは願い下げだ。


 出来れば今回で何とかしたいものである。

 何度も死ぬのは避けたい、ってのも考えてみれば変な日本語だ。


 何度も「死に戻り」を繰り返すと、一番大事な部分が麻痺してしまうのが一番怖い。


 どうせ今回も死に戻るんだから、()()()連中はどうでもいい。

 いやもっと悪化すれば、どうせ死に戻るなら、今回の世界では何をしてもいい。


 そんな思考に陥らないとも限らない。

 物語だと定番だし、俺は自分にそんなに自信があるわけでもない。


 そこらへんも含めて、タマカーチャンにはフォローをお願いしたいところだ。


 いや今回で何とかすればいいだけの話しだけどな。


 さてそろそろ救出に向かわなければ、ザックやガウェインがまた焼かれる。


 今回はそんな目に逢わせる前になんとかしよう。

 向うは覚えちゃいないだろうけど、前回世話になったしな。


 二度目のはじめまして、だ。

次話 2周目【違和感】

11/8 23:00頃投稿予定です。


現在毎日投稿分の執筆と「異世界娼館の支配人 ~夜咄百花繚乱~」の書き溜めに必死で、感想返しが出来ておりません。

応援、叱咤、アドバイス、全てありがたく読ませていただいております。

どんな感想でも、書いてくださることは創作の励みです。

お返事できていない不義理をご容赦願います。


完結済短編「異世界娼館の支配人」も出来ましたらよろしくお願いします。

http://ncode.syosetu.com/n4448cy/

同じく完結済中篇「三位一体!?」も出来ましたらよろしくお願いします。

http://ncode.syosetu.com/n7110ck/


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