第32話 2周目 【世界再起動】
「死んだ、鬱だ」
見渡す限りに広がる大草原、穏やかな天候の下、丘陵の上。
やわらかな風が吹くこの場所で、俺は膝を抱えてうずくまっている。
ゆっくりと歩き出す事もできそうに無い。
この世界に転移してきた最初の場所だ。
何やら台詞も似たようなものになってしまった。
やはり俺がこの世界で「死に戻る」のはこの時点のようだ。
いまいち自分の「死に戻り」の異能を理解できていないが、俺がこの世界を認識できているのがこの時点以降なのだから、そうなるのはなんとなく納得がいく。
俺が認識できている条件下で初めて発動した時は、俺が生まれた直後まで戻った訳ではなく、コンビニへと出かける直前だった。
という事は俺の意識次第で「死に戻りの時点」を、これ以降に設定することも可能なのだろう。
現状でそれは悪手としか思えないが。
自分の「死」を自覚したのは初めてではないが、今回はひどく落ち込む。
トラックの時は痛みを感じる事はなかったけど、今回は痛かった。
あとグロい。
自分の頭が地面に落ちる音を聞くって、それどんなホラー?
あの「ぼとん」と音を忘れることはないだろうと思う。
そうではなく。
いやそれもあるけれど、間違いなく他にやりようもあったのに己の慢心と、そこから来る油断でこうなったことが明白だからだ。
あっちの世界で39回も「死に戻り」を繰り返していた時は、「死に戻り」の力以外全く普通の高校生だったので、どうしようもなかったと言える。
トラックにマジ轢きされても生き残れる高校生は、もはや普通の高校生ではない。
俺は古武術も使えないしなぜか殺す覚悟を持った現代人でもない、文字通り普通の高校生だったのだから仕方がない。
まあ普通じゃない高校生であっても、トラックに轢かれりゃ死ぬしかないとは思うが。
それで死なないなら、基本的な呼称が高校生どころか、人ではなくなるべきだ。
いやそうじゃない。
現実逃避をしている場合じゃない。
なんなのあれ、あの綺麗で怖いのなに?
「姫巫女」?
「三聖女」?
バカじゃないの、あんなの序盤に配置するってバランスどうなってんだ。
能力持ちの俺が鎧袖一触、一撃で首刎ねられたよ。
忍者か、忍者なのかクリスティーナ。
裸だったし、さぞやクリティカル率も高かろう。
いやゲームじゃない、ゲームじゃないぞ。
異世界なだけで、俺にとってはもはやこここそが現実だ。
何とかしなければ。
あのチートの権化のような超絶美人を攻略しなければ先に進めない。
I'm sorry that I wasn't helpful.
能力管制担当が、顔文字もなしに謝罪してくる。
そうか、「能力管制担当」と「義眼」は俺の「死に戻り」を認識している創造主一派作だから、1周目から記憶が続いているんだな。
……ちょっとだけ、いやかなりほっとした。
たった二日に満たない時間とはいえ、濃い二日間だった。
そこで出来上がった人間関係が、俺の思い上がりと力不足でリセットされたことに、少なからず落ち込んでいたのだ。
サラ、セシルさん、セト、王様やカイン近衛騎士団長、近衛の連中。
冒険者ギルドのクロエさんや白&三毛のコンビ、錬金術師のネモ爺様。
銀や白の獣と黒の獣。
オルミーヌ砦の守備隊長と兵士達や、カザン大司教他司教の連中。
俺を殺した張本人である「姫巫女」、クリスティナ・アーヴ・ヴェインさえも。
一期一会という言葉を薄っぺらいものにしてしまう気がして、出来るだけ「死に戻り」の力は使いたくなかったのだ。
俺が同じように振る舞えば、基本的に同じ関係を築くことは可能だろう。
いや俺に前回の記憶がある以上、より良い関係になることもそう難しいことではない。
だけど俺が覚えているからこそ、「死に戻り前」のみんなとの微妙な違いを感じてしまうのがどこか寂しい。
いや違うか。
俺以外が、繰り返す前の俺の事を誰も覚えていないことに、曰く言い難い寂しさを感じるんだな。
だからと言って死んでお終いを、よしとするわけにもいかない。
――死は誰しも避けえない不可逆的なもので、だからこそ命に価値があるんだよ。
よく聞く言い回しだ。
そうですか、でも俺は死ぬのはいやだ。
死んで大切な関係が全て無に帰すのはいやだ。
避けうる手段があるのであれば、それを行使することに躊躇いを覚えない。
自分が大切だと思える人間関係だからこそ、再びきちんと構築し、問題を解決しなければならない。
最初の繰り返しと違って、今回は能力による対策・対処が可能だ。
あんな無力感に苛まれることはないはずだ。
あの美しい死神に逢うまでに、もっときちんと調べて対策を練ればいい。
幸い俺には繰り返しながら強くなれる、「経験累積」という能力もある。
いろいろと調べた結果、どうしてもあの美しい全裸忍者との対峙が避け得ないものであるのなら、極論勝てるまで「死に戻り」を繰り返せばいいだけの話だ。
俺の感傷も、一期一会もその際は関係ない。
一度目の、何をどうやっても祝を救えなかった状況に比べれば、万倍もマシだ。
だから落ち込むな能力管制担当。
お前は頼りにしているし、一緒に対策練ってくれ。
(`・ω・´)シャキーン
そうだ、その調子の方が俺も助かる。
おそらくはサラが望むクリスティナの解放を叶えるためには、少なくとも俺がクリスティナを戦闘力で上回ることが最低限必要だろう。
美少女の望みを叶えるために、囚われの美女を開放しました。
美女は「聖女」――「姫巫女」の呪縛から解放され、幸せに暮らしました。
ところがとても強い魔物が現れてしまいました。
兵隊さんも、冒険者も、魔法遣いも、教会が誇る「十三使徒」でさえも歯が立ちません。
頼りの「勇者」様も、「三聖女」の一人が足りない為に負けてしまいました。
いいことをしたつもりのぽっとでの魔法遣いも、もちろん歯が立ちません。
解放した「姫巫女」にすら敵わなかった魔法遣いが、勝てるはずがなかったのです。
こうして世界は魔物に蹂躙される世界になってしまいました。
めでたくなし、めでたくなし、馬鹿な魔法遣い死ね。
そんな展開にするわけにもいかない。
セトが言うとおりであれば、「聖女」――「姫巫女」は降りるとその権能を失う。
この世界の神様も心が狭い事だ。
己に操を捧げ続けなければ、権能を奪うとはケツの穴が小さい。
「創造主」を見習え、異世界に引っ越すだけでいくつもの能力を気前よくくれたぞ。
初見では「姫巫女」に全く通用しなかったけどな。
ともかく「姫巫女」を、クリスティナ・アーヴ・ヴェインという一人の女の子、サラのお姉ちゃん、ヴェインの第一王女に戻すためには、「姫巫女」が担っていた役割を代替するのは最低限の義務だ。
「姫巫女」単体の戦闘力を越えるだけではなく、「勇者」と「三聖女」のシステムがケアする世界の保全を代替するだけの力を、俺が手に入れなければならない。
どうあれ世界を保っているシステムを否定し破綻させるからには、最低限それが無くても問題ない方法を提示できなければ、俺は本質魔物と変わらないことになる。
ノープランで己の望みを、理想だけを喚き散らすのは無責任を通り越して、多分きっと大多数の「敵」なのだ。
俺自身はもちろん、サラをそうする訳には行かない。
それにほとんど会話もなかったとはいえ、いやだからこそただ「姫巫女」から解放するといっても、そう簡単にはいかない気もする。
たとえ禁忌を犯した罪人が相手とはいえ、表情一つ変えることなく首を斬り飛ばす事が出来るというのは、もはや普通の状態ではない。
それこそ妹姫の望みだからとのこのこと出向いても、裸を見たからという理由とは違うだけで同じことになりかねない。
禁忌を犯したものには容赦しないという事であれば、男である俺がクリスティナに会う時点で神罰執行対象になってしまうんだろうしな。
なにこの難易度撃高の初期イベント。
クリアしたらそれなりの報酬用意されているんだろうな。
いくらこの世のものとは思えないほど綺麗とはいえ、表情一つ変えずに人の首切り飛ばす女が味方になります、ってんじゃ割に合わないぞ。
まあサラの味方になるといったからには、願いはかなえてやりたい。
死に戻り前の約束をサラが覚えていなくても、俺は俺がその約束をしたことを覚えている。
何度やりなおしても、その事実が俺の中から消えることはない。
無かった事にするつもりはない。
とはいえ現状ではテンプレイベントである、王女様の着替えもしくは裸体を見てしまったため決闘を申し込まれる、というところまですらたどり着けない。
決闘もへったくれも、一撃で首を刎ね飛ばされたのだ。
積極的に強くなる必要があるだろう。
今日の夜と、明日の風呂上りの時点で慌てて「転移」さえしなければ、明日の夜も丸ごと時間は使えるはずだ。
今日の夜は……一周目から大きく外れた行動を取るのは危険だな、うん。
因果律とか事象の収束とか世界線とか、そういうやんごとない事情があったはず。
うんしょうがない。
一周目を忠実に踏襲しよう、そうしよう。
明日の夜から翌日に延期された晩餐会まで時間をかければ、魔物相手の戦闘は相当量可能なはずだ。
それにネモ爺様やセトに対策を聞くこともできる。
サラやセシルさん、必要であれば王様やカイン近衛騎士団長の協力も得ることはできる。
なんとかなる。
なんとかする。
「だからお前も手伝えよ、タマ」
いや、にゃーんじゃなくて。
お前も「創造主一派」の一人って事は、記憶続いているんだろ。
ある意味一番頼りにしたい存在なんだよ。
頼むよ。
「――しょうがないですね。ではまずはそのタマという名前を撤回してください。そうですね、私としてはタナトス・マテリアと呼んで戴けたら協力するのに吝かではないですよ」
しれっと猫のまま喋りやがった。
やっぱり猫のふりしてただけか。
助けろよ、死んだじゃねえか。
「いや無理ですよあんなの。貴方と同じイレギュラーです」
頼りにならない。
まあいい、何の由来か知らないがその名を呼べば協力してくれるというならそうするまでだ。
「よろしくな、タ(ナトス)マ(テリア)!」
「……そう来ましたか」
O(≧∇≦)O
調子出てきたな、能力管制担当。
とにかく二周目開始だ。
まずはさくっとサラたちを助けよう。
次話 2周目【カノン】
11/7 23:00頃投稿予定です。
読んでくださっている皆様、評価してくださっている皆様のおかげで、日間1位を取ることができました。
ものすごくうれしいです、本当にありがとうございました。
少しでも楽しんでいただけるようがんばりますので、今後ともよろしくお願いします。
ありがとうございました。
完結済短編「異世界娼館の支配人」も出来ましたらよろしくお願いします。
http://ncode.syosetu.com/n4448cy/
同じく完結済中篇「三位一体!?」も出来ましたらよろしくお願いします。
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