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いずれ不敗の魔法遣い ~アカシックレコード・オーバーライト~  作者: Sin Guilty
第五章 教会編

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第29話 1周目 【勇者】

 世界(ラ・ヴァルカナン)の危機に降誕するという「三聖女」

 

 大いなる災厄に対峙する「勇者」を助け、導く存在。

 自身も強大な魔力を持ち、ジアス教会からのみならず、広く民衆からも崇め奉られているという。

 

 俺からすれば大変名誉というか、勝ち組に生まれている気がするのだが。


 何故自分の姉姫が、「聖女」――ヴェイン王国では「姫巫女」と呼ぶのだったか――であることで、サラがジアス教会に隔意を抱くことになるのかがいまいちピンとこない。

 

 いや正直、あれは隔意なんてもなんじゃないと思う。

 

 憎しみや嫌悪に限りなく近い……自分に理不尽を強いている相手に向ける感情のように思える。

 

「ほんと師匠は何にも知らないんだな。聖女と認定――列聖されるのは女の子に取っちゃある意味最悪なんだよ」


 風呂から上がり、こざっぱりとした部屋着に袖を通しながらセトが言う。


「何故?」


 俺は再び黒い衣装に身を包みながらセトに問い返す。


 風呂でもはずさなくて済む能力管制担当(左手のグローブ)によれば魔法で清潔に保たれているとのことだが、やっぱり俺もゆったりした服を着たいんだが。

 まあいちおう警戒しておくに越したことは無いだろう。

 この世界(ラ・ヴァルカナン)における神器級の装備なことだし、身に付けておくべきだろう。

 俺の左肩でのぼせてぐったりしているタマは頼りにならん。


 しかし「聖女」の称号なんて、女の子喜びそうなもんなのにな。

 大事にされるだろうし。

 まあ教育とか、戒律とかは厳しいんだろうというのは想像できるけど……最悪とまで言い切る理由はそれじゃあるまい。


「列聖されるのは生まれて一年以内。どういう基準で認定するのかは「十三使徒」の俺も知らないけど、まあ正しいんだと思う、教皇庁の聖女を見る限りでは。そこから「聖女」は徹底的に世俗、特に男とは完全に隔離されるんだ」


 世俗から隔離って、それ……


「……完全に?」


「まあほぼ。大きな式典なんかには出席するし、身内とは年に一回くらいは逢う事許されてるみたいだけどね。それでも会話するレベルであえるのは女性だけで、男は父親であろうと兄弟であろうと無理って聞いてる。物心付く前から厳選された修道女に囲まれて、厳しい教育を受けるわけさ。「教皇庁の聖女」は目が死んでたぜ。俺も跪いて遠くから見ただけだけだけど」


 それか。


 サラがジアス教会に、隔意というよりも憎しみの感情を向ける理由。

 サラは生まれた時から姉姫を、ジアス教会に奪われているようなものなのだ。


 ことさらジアス教会の教える「正しさ」の綻びを探すのも、姉姫を縛る教会の「正しさ」を破綻させたいからなのか。

 

「その事実を知ると、サラがジアス協会を嫌う理由は理解できるな」


「でしょ? 赤の他人の俺でも「教皇庁の聖女」の死んだような目をみた時は、ちょっと考えさせられたしね。年に一度だけ逢える実のお姉ちゃんがそんな様子なら、そりゃその原因を嫌いもするさ」


 ジアス教会に所属する、どころか「十三使途」の一人である自分は嫌われてもしょうがない、とセトはため息をつく。


 見た目とちがって大人だよな、セト。


 実年齢よりも自分の力で「十三使途」となり、責任を持って過ごした日々がそうさせるのか。

 真っ赤になって怒ってるときは歳相応の子供みたいなのに、こうやって話していると、年上の俺よりよっぽどしっかりとした考え方をしている。


「聖女って一生そうなのか?」


「神に操立てて、その強大な力を得てると考えられてるから、基本そうだね。「強大な力で民衆を救う」なんてのは嘘っぱちでさ。教会や国家の手に追えない魔物(モンスター)の始末係ってのが本当のところさ。まあそれだって民衆を救ってるとは言えるんだろうけどね」


 それほどの力を持っているという事か。

 そりゃ教会や国家が手放さない、そういう風に保護するのもわからないではない。

 だけど……


「ひどいな……」


「確かにね。でもこの世界(ラ・ヴァルカナン)には人の手に負えない魔物(モンスター)は確かに居て、数年から数十年に一度くらいで大量発生したり、デカブツが人里襲ったりするのも事実なんだよ師匠。俺達「十三使途」もそう言う時の為に居るといっていい。俺達でさえ手に負えない魔物(モンスター)に対する「切り札」たれる以上、「聖女」が半幽閉的に保護されるのも簡単に否定できない事なんだ」


 それも理解できる。


 ――かわいそうだ。

 ――非人道的だ。

 ――彼女らにだけ犠牲を強いるべきではない。


 立派な事を()()()()なら、誰でも言えるし簡単だ。


 だけど彼女らに人としての幸せを返し、その結果彼女らが「聖女」の力を失ったらどうなるか。

 数年から数十年に一度発生するある意味ありふれた災厄で、皆一緒に滅んでよしとできるのか。


 できるわけは無い。


 自分達が「聖女」に多大な犠牲を強いていることを理解しても、彼女らの幸せ、彼女らが人並みな生活を送ることと引き換えに、人の世が滅ぶ事を容認などできるわけが無いのだ。


 だからこそ教会も国家も民衆も「聖女」を讃え、崇め奉る。


 最大数の幸福のための、最小数の不幸。

 それが一人の人、女の子としてみた場合の「聖女」の立ち位置か。

 力があるが故に、普通の人間、普通の女の子として暮らすことを全て奪われる。


 セトがどこか不機嫌そうなのは、自分を含む「十三使途」では手に負えない魔物(モンスター)が確かに存在し、「聖女」たちに頼るしかないことを不甲斐なく思っているからだろう。


 「どうしても勝ちたいやつ」というのは、人とは限らないのかもな。


 サラの「根っこ」もわかった気がする。

 王族であったとしても、責任は重くとも女としての幸せを得ることは可能だ。


 俺には王様が、サラに甘く見えた。


 最初の娘を教会に、いや世界の為に奪われた反動で王という立場であっても、あるいは王という立場であるからこそサラには甘く接してしまうのだろう。


 そんな自分の立場が、姉姫の犠牲のうえに成り立っていることをサラはよく理解している。


 聡い娘だものな。


 だからこそ教会を、そういう仕組みの世界(ラ・ヴァルカナン)を許せないのだろう。


 だけど何も出来ない。


 ある視点から見て正しいことが、絶対的に正しいとは限らない。

 妹としてお姉ちゃんを解放したいという想いは正しいが、世界を魔物(モンスター)から救い得る切り札を手放すのは正しくない。

 瓢箪をどの角度で切るかによって、見える断面の形は一つではないのだ。


 ああ、だからサラは……


「サラ王女殿下は、師匠に期待してる。いや縋ってるといったほうが正しいかもしれねえ。突如現れた圧倒的な力を持った魔法遣いが、奇跡のように自分に好意を示してくれてる。気付いてるだろうけど師匠、サラ王女殿下の根っこは俺と変わらないぜ? 基本的な好意を持っちゃいるけど、それだけで王族の子女があの態度にはならない」


 無言で頷く。


 そこまで深く考えてはいなかったけど、サラ……だけじゃなく、セシルさんもセトも、王様もカイン近衛騎士団長も、冒険者ギルドのみんなやネモ爺さんにしてみたところで、彼らにとって「俺」とはつまるところ「力」だ。


 どのような形であれそれに期待するからこそ、好意的な態度で接してくれる。


 だからといって斜に構えたり、本当の自分に価値は無いのか? なんて拗らせた事を言うつもりは毛頭ないけどな。

 どんな形で得たものであれ、今もっている力もひっくるめて「本当の俺」だし、人間関係の根っこのひとつは力の大小に関わらずそういうもんだ。


 それだけでもないと信じたいけどな。


 だけどそういう理解も、しておくべきだとも思う。


「俺が「聖女」の担う「切り札」役をこなせれば、「聖女」の解放は叶うかもしれない。代案を示さずに自分の正義だけがなりたてる訳には行かない問題だもんな。なんと言ってもかかっているのは人の世界だ」


「ま、そゆこと。だからこそサラ王女は師匠のいう事を何でも聞くぜ。おそらくでも多分でもなく絶対だ。今晩一人で部屋に来いって言えば、躊躇い無く来るだろうさ。師匠からどうしても得たいものがあって、それがでかけりゃでかいほどそうなる。俺だってそうだからわかる」


「そんなことは言わないよ」


「そりゃわかってるってば師匠。ただ俺やサラ王女殿下の「好意」ってのはそういうもんだってこと。なんかセシルさんは違う感じだけどな」


 大前提として、知っておいて欲しいという事だろう。

 好意が無いわけではない。

 だけどそれだけじゃない。


 その上で()()仲良くしたいと思えば、期待には応えなきゃならんという事だ。


 というか本当に十二歳か、セト。


 それとセシルさんのことは言及するな、それは後ほどサラからたっぷりと問い詰められるんだから。


 利用されるとは思わない。

 頼りにされていると思おう。


 そういう方向で能力(チート)を行使するのは望むところだしな。


「まあ俺は、もっと単純にいけるかもと思ってるけどね」


「なんだそりゃ?」


 また意地悪そうなな笑顔をセトが浮かべる


「基本的には、って言っただろ師匠。「聖女」のままでも全ての柵や制限から解放される方法が一つだけあるんだよ。サラ王女殿下もそっちのほうに期待してるんじゃないの?」


 わからないかな? という顔で俺の顔を下から覗き込む。


 ちょっとやめて、近い近い。

 自分の見た目の破壊力と、今は湯上りでそれが強化されているという事を自覚して欲しい。

 ここまで綺麗だと、どきどきするのに男も女も無いな。


「『勇者』が現れたら、聖女は教会でも国家でもなく、その『勇者』にのみ従うんだよ。まあその『勇者』が最悪なやつだったら悪化だけど、どうやら悪くなさそうだし」


「なるほど。そういう候補が居るってことか」


「真面目に言ってるの? ……師匠じゃないの? 勇者。少なくとも伝承に言われている通りのずば抜けた力持って、突然現れた謎の魔法遣いなわけだしさ。カザンのおっちゃんが手のひら返したように師匠への態度変えただろ? あれもそう思ってるぜ、間違いなく」


 マジか。


 やめてくれよセト。


 教皇庁や各国へ今走っている情報は「強力な魔法遣い」がヴェインに所属しているというものだと思ってたけど、「勇者降臨の疑いあり」って言う情報なわけか?


「自覚しといてくれよな、師匠」


 勘弁してくれ。


 この手の展開では、勇者ってのはひどい目にあう役どころなんだよ。

 そんな事言われても知らないだろうけど。

帰宅が遅くなり、投稿が遅れてしまいました。

申し訳ありません。


次話 1周目【死に至る出逢い】


11/3 21:00頃投稿予定です。

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